ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~ 作:となりのせとろ
今年も何とぞよろしくお願いします。
一年なんて早いものですね。
改稿版へと書き直しを始めて二ヶ月
作品を間違えて消すは、誤字脱字は多いはで迷惑をかけてばかりでしたが今年もご贔屓にしてくださると嬉しいです。
カラスの鳴く声が遠くに聞こえ空が紅から奏の胴衣のような深淵を覗かせる藍色へと変わりつつある。
フィールドゾーンからアキバの街に帰ろうとする少なからず増えた〈冒険者〉を昼間の熱を地面から受けた風が迎える。
「疲れたぁ……」
「ほんとぉ疲れたやんねぇ……」
場所は〈三日月同盟〉のマリエちゃんの私室兼執務室
マリエちゃんは自分の机に、俺は大きな複数人がけの大きなソファに、ぐでぇーと体を預けて怠けきったポーズで横になっている。
「一番疲れているのはヘンリエッタ殿だろうがな。主に心労という意味で」
大きな横長なテーブルを挟んで置かれている1人がけのソファにちょこんと座って湯飲みを行儀よく両手を添えて持ち熱いお茶をズズズッとのんびりと飲みながら注釈を加えるクイン。
もう2度とあなたの交渉に同席はしたくありませんわ……本当にあなた21ですの?メンタルのパロメーターが振りきれてますわ……大胆不敵過ぎます、とヘンリエッタさんからはお小言を貰った。
なんで交渉を前倒しにして金貨もらい受けて目的の物まで購入してきたのに小言をもらわにゃならんのだ。
ちなみにヘンリエッタさんは今、胃がキリキリ痛みますので少し休ませて下さいまし、と自分の部屋に戻っている。
「あれ、お前いつからいた?」
「最初からだ。〈三日月同盟〉に来てみたら奏たちは出掛けているというからここで待っていてくれと通された。
帰ってきたと思ったらこちらなど見向きもせずにソファに倒れ込んだのは奏だろう」
俺の質問を意に介することもなく湯飲みをコトンとテーブルの上に置いて答えるクイン。
「因みに、お前が気づくまでに7分と32秒ほどかかった」
前言撤回。意に介しまくりだ。器の小さい名探偵さんだ。
今更こいつの俺に対する当たりのめんどくささは気にするでもないので言い返すこともせずに体を起こしてクインと向き合う。
「慣れない人間には奏のデリカシーのない交渉術は心臓に悪いんだろうな。マリエール殿もお疲れのようだ。眠ってしまってるぞ」
…………怒ってないよ?いつものことだからね。
ソファから立ち上がり腰の
ヘンリエッタさんが戻ってくるまでは寝かせておいていいだろう。
「で?何しに来たの。別に俺に毒を吐くために来た訳じゃないんだろ。さっさと出すもんだしてさっさと帰れ」
「いいだろう。いつもなら20分くらい売り言葉に買い言葉でつまらん喧嘩をするが堪えた忍耐を称えて本題に移ってやるよ
こら、ばらすんじゃねえよ。せっかくいい感じにイメージ操作してたのに。
ソファに座り直しクインと同じように
こちらをじっと見たクインは服の内側からバサッと書類の束を取り出して机に並べた。どれにもびっしりと女子っぽい丸さの抜けない文字が黒のインクで書き連ねられ所々に赤いインクで注釈が加えられている。
たまにある図は理解しやすいように可愛らしい猫のようなイラストも加えられている。
「お前キャラと違ってこういうところ普通の女の子みたいでかわいいよな」
「にゃっ!?かわいくなんかないっ!私は探偵だぞっ!?」
「女子のノートってこんな感じだよな~。学生時代から思ってたけどどうやったらこんな風に上手くまとめられるんだろうな。しかもイラスト付きで」
「言うなっ言うなっ言うな~私が可愛らしいそこら辺の女子高生と一緒とか言うな~!」
「何?昔誰かに言われたのか?お前は
「! あうぅぅ……」
顔を俯かせプルプルと肩を震わせるクイン。気の雰囲気が変わる。
どんよりと青い霧のような靄がいつもの強い張りのある赤に交じり混む。
……地雷だったか。そういえば高校の頃なんか一時うちに顔見せなくなった頃があったな。これは紛れもないトラウマの色。
「クイン、なーに唐突に落ち込んでんだ。お前らしくない。
いつもみたいに何か言い返せよ。昔お前が何言われたかは知らないけど、今のお前はかわいいしかっこいい名探偵だろうが。
たかが一人かそこらお前のことをかわいいだけのやつなんて思ってるくらいで落ち込んでんな。不敵な笑みが名探偵の代名詞だろ」
クインの柔らかな黒髪ををクシャリと撫でてやる。優しく撫でてやる。
トラウマを克服させれるほど有難い説法を聞かせてやることなんて俺にはできない。キリスト教徒でも仏教徒でもねえしな
そういうのは剥げたおっさんか綺麗な修道女さんがするもんだ。
俺に出来るのは友人として嫌々言いながらもずっと一緒にいてやるくらいだろう。
「もう大丈夫だ…。さっさと手をのけろ、ばかなで」
撫で続けてやっていた俺の手をペイッと叩いて落とし赤らめた顔をあげる。赤面探偵は復活だな。
「これで私のフラグがたったと思うなよ。私のフラグ建設難易度は最高難度なんだからなっ」
「そんなこと考えてて赤面してたのかよっ!!ガッカリだよ!」
恥ずかしさを誤魔化したいんだとしてももう少しうまい言い訳はなかったのか!
あるわけないか!だって恋愛耐性ゼロだもの!本気で言ってるかもしれないよ!
「だが、少しナイーブになってたのは事実だ…。ありがと…」
「おっおう。じゃあ本筋に戻ろうぜ。時間も有限だ」
上目遣いにモジモジと礼を告げるクイン。滅多に見ることのないクインの弱々しい姿に礼を受けて不覚にもドキリとしてしまったのはクインには秘密にしてもらいたい。
俺の名誉のために語るとすれば、昔からギャップ萌えというのはヤバいものだということをみんなに理解してほしいということだ。
閑話休題
「意外と知らないもんだな、ゾーンの設定って」
「まあ、そうだろう。個人ゾーンの購入などしたことないプレイヤーであればこれの半分も理解していなくても支障は出ないからな」
クインの調べてきた2つの資料に目を通しながら素直な本音が漏れる。
1つはギルド『ハーメルン』の構成員や1日のスケジュールなどが記された資料。こちらの方はアカツキちゃんの方でも別ルートとして調査をしているのでそこまで詳細には書かれていない。バックアップみたいなものだ。
本筋は2つめ。
ゾーンの詳細設定と関連事項のまとめ、これにある。今回の作戦でどうしても必要になる知識としてクインに調べてもらった。
ゾーンの土地範囲から管理者権限まで。すみからすみまで、基礎からどうでもいいことまで。時間の許すギリギリまで調べてくれと頼んだ。
ゾーンの境界線上の攻撃通過実験とか戦闘禁止区域でのダメージの与え方とか建築物の破壊実験とか何の意味があるんだよ。
「思いつく限りのことはやったぞ。全部うちのメンバーの興味本意で試されてるから重要度とかは気にするな」
「マッド過ぎるな」
「今さらだろう」
お陰でうちのギルドホールはボロボロだ、とため息をつきながら愚痴をこぼす。
クインの愚痴に苦笑いをしながら報告書の束を机に置いて湯飲みの中の申し訳程度に残ったお茶を飲み干す。
取り敢えずざっと目には通した。あとは夕飯でも食ったあとにゆっくり読むとしよう。
「因みに会議まであとどのくらいかかるんだ?今回の交渉でもうほとんど手札は揃い終わったんじゃないか?」
「んー、一週間はかからないと思うぜ。あとは根回しして場を整えるのと細かいところの調整ぐらいじゃないか?
シロエに聞いてみないとわからないけど」
「そんな適当で大丈夫なのか?
アキバの街を支配すると啖呵を切っていた人間とは思えんな」
「割りと適当でいいんだよ。だって…「わかってる」」
「『ついノリで言っちゃった』だろ?よくあることさ。私もついつい2日に一回くらいでやってしまう」
「盛大に違う」
「冗談だ。『ムラっときてやった。今は反省している』だろ?名台詞だな。なに奏も男なのだそういうこともある。あれだろ?彼女にフラれてついどうでもよくなっちゃったんだろ」
「欲求不満で俺は街を支配しようとする変態じゃねーよ俺は。自暴自棄で独裁だぜヒャッハー!!とかどんな世紀末だよ」
「完全復活だな。この名探偵やろうが」
「くくくっ。『確信も保証もできなくてもついていける。それが仲間だ』だったか?私も奏のツッコミセンスには確信も保証もなくついていけそうだ」
「なんとも反応に困る返答をありがとう」
(どないしよ~完璧に起きるタイミング失ってしもた…)
(あらあら、これは中に入るような野暮なことは出来ませんわね。退散させていただきますわ~)
部屋の中と部屋の外2つの場所で奏とクインの会話を聞いていた二人
一人はそのまま狸寝入りを一時間も続けるはめになり
一人はのんびりと夕食をとって次の日のために早めに体を休めた。
((二人ともホント仲よすぎ))
◇◆◇◆
奏が三大生産系ギルドから金貨をもらい受けてから4日の月日が経過した。
〈軽食販売クレセントムーン〉はこの間も大人気で販売店舗を4店舗から5店舗に増やすも夜間を除きどの店舗でも行列が途切れることはなかったという。
そして今日も〈クレセントムーン〉はいつも通り店をあける。
否、普段と違う点が一つ。何人かの年長のメンバーが店には欠けていた。
いつも笑顔を絶やさない巨乳のお姉さんや長い髪を纏めたニヨニヨとした青年などそれぞれの店に通いつめている常連は、あれ?今日はあの人いないんだ。と少し気にかけるが手に入ったクレセントバーガーを前にしてそんな少しの気がかりもあっさりと忘却の彼方へと消えていくのだった。
そして場所は変わってアキバの中心にあるギルド会館。 ここに今日、続々と人が集まっていた。
それなりに名が通っている中小ギルドに始まり大手の戦闘系ギルドや三大生産系ギルドのギルドマスターとその従者たちが集まってきている。
その異様な光景に何人もの住人が首を傾げ根拠のない噂を膨らませていた。
アキバの街の最上階は大きな会議室になっている。
巨大な六つの姫の石像が中心にある一つの円卓を囲む広い部屋だ。
エレベーターもないこの世界では使われることのないはずだった円卓。それを13の人が囲んで席についていた。
アキバの街最大の戦闘系ギルド〈D.D.D〉を率いる〈狂戦士〉クラスティ。
エリート至上主義の廃人ギルド〈黒剣騎士団〉総団長〈黒剣〉のアイザック。
勢い重視の即断即決ギルド〈シルバーソード〉の若きリーダー〈ミスリル・アイズ〉ウィリアム=マサチューセッツ。
平等共有化主義〈ホネスティ〉ギルドマスター、アインス。
超ハーレム系戦闘ギルド〈西風の旅団〉のギルドマスター、男の敵にして〈剣聖〉ソウジロウ。
アキバの街ナンバーワンの生産系ギルド〈海洋機構〉の総支配人〈豪腕〉のミチタカ。
幻想級製作可能アイテムレシピ所有率ナンバーワンの学問系ギルド〈ロデリック商会〉ギルドマスター、ロデリック。
新進気鋭の生産系ギルドの新勢力〈第8商店街〉ギルドマスター〈若旦那〉カラシン。
アキバの街の話題の中心〈クレセントムーン〉の総本山〈三日月同盟〉ギルドマスター〈アキバのひまわり〉ことマリエール。
瞬間市場利益率一位〈グランデール〉ギルドマスター〈キャノンボール〉ウッドストック。
アキバの街の長寿ギルド〈RADIOマーケット〉を率いる〈御隠居〉茜屋=一文字の介。
ヤマトサーバートップのクレイジー情報屋ギルド〈モルグ街の安楽椅子〉代表取締役代理
円卓に座った13名の多くは、背後に数名の側近を立たせているので、この巨大な空間に30名弱のプレイヤーが存在することになる。
集まった面々の表情は様々だった。
不安げなもの、いぶかしげなもの、無表情なもの、楽しみで仕方ないとうずうずとしているもの。いずれも昨晩届けられた招待状によってこのはるか最上階の会議室に呼び集められたのだ。
招待状のタイトルは「アキバの街について」
差出人は〈記録の地平線〉シロエと〈三日月同盟〉マリエールの連盟だった。
席についたメンバー同士がお互いを観察し会う中、〈三日月同盟〉のセララが現れて、よく冷やされた果実茶を給仕して回る。〈クレセントムーン〉でも販売されていないもののために、一部のメンバーが少しだけ驚く。ほんの少しではあるがピリッとした空気は和らぐがいまだに空気はシンと沈み帰り沈黙は続く。
そして参加者以上に値踏みする視線が円卓より少し離れたところに2つ並んで立つ。
クインと奏。奏の左隣にはにゃん太が立っていた。
三人とも会議室の空気に合わせて一言たりとも言葉を発することもないでいる。
そんな中でシロエがその均衡を突き崩す。
「お忙しい中集まっていただき──ありがとうございます。僕は〈記録の地平線〉のシロエといいます。……今日は皆さんにご相談とお願いがあってお招きしました」
いざ、開戦。