ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第九話 動き出す腹黒と高笑いと 遊び心を忘れずに

「でだよシロエ君。お前さんの作戦には恐れ入ったけど、なして俺じゃ無理と言い切れるんだよ?そこんとこ解説プリーズ」

 

 シロエの交渉も終わり、今、この会議室にはシロエと俺のふたりしかいない。

 マリエちゃんたちは〈三日月同盟〉の他のメンバーにシロエに力を貸すことを説明するために会議室を出ていった。

 

「うん?そんなの簡単だよ。奏の作戦じゃ〈D.D.D〉に力が片寄りすぎるんだよ。多分奏が思い描くような議会制にはならないんじゃないかな?

強制力がないんだよ。独裁をするためには」

 

「いや、別に俺は独裁をしたいわけじゃ…」

 

「支配するとか言ってたじゃん」

 

「言葉のあやだよワトソン君」

 

「ほんとかなー?」

 

 何か知ったような顔をして顔をニヤけさせるシロエ。コイツなにをよからぬ妄想をしてやがる。

 別に自治組織のトップに立ってるのカッコいいとか短絡的なこと考えてないぞ俺は。

 

「奏、〈記録の地平線〉(ログホライズン)に入らない?」

「〈D.D.D〉に入る必要もなくなったんだしさ。僕は君とも一緒のギルドでいたい。僕と一緒に来てくれないかな?」

 

「おっおう…。お前よくそんな恥ずかしい台詞を面と向かって言えるな。そういうのは女の子に、アカツキちゃんとかに言ってやれよ」

 

 コイツ妙なところで図太いよ。

 この前みたい悩み続けて身動きがとれなくなってた顔はどこへやらスッキリと付き物が落ちたように顔で眼をじっと見つめるシロエに俺は若干引いてしまう。

 本人は真面目に言ってるんだろうけどなんかすごくむず痒い。プロポーズの台詞みたいじゃん。

 

「なっ!?僕だってそんな深い意味で言ってるわけじゃないよっ。ていうかっなんでアカツキのことが出てくるのさっ!」

 

「そりゃあ、あんな純粋で綺麗な色をもってる娘が主君って慕ってくれてるんだよ?どんなことしたかは知らないけど、フラグ、立ってると思います」

 

 決め顔でビシリと指を指して声をあげる。

 

「そんなわけないって。アカツキはほら、ゲームの頃からロールプレイしてるからさ、僕を主なんて呼ぶのもロールプレイの一貫だよ。そんな僕のことが好きだなんてないない」

 

 そんなことあり得ないといった顔をしてシロエは真っ向から否定する。

 どうだかなー?惚れてるうんぬんは置いておいてもアカツキちゃんがシロエのことをよく思ってるのは確かだと思うけどな~。

 

「それより、ほら、返事を聞かせてよ」

 

「あんなプロポーズみたいな台詞言われちゃったからな~」

 

「あ~っもう掘り返さないでっ」

 

「うん。入らないよ♡

ごめんなさい。シロエ君とは、その~お友達のままでいたほうが…いいと思うの…なんていうかシロエ君とはそういう関係でいたくないっていうか

あっ!別にシロエ君のことが嫌いってわけじゃないんだよ。でも…その、ね?」

 

「変な断り方しないでよっ!!なんか僕が結婚を前提でもいけるとか勘違いして告白してフラれたうえにものすごい気まずい空気になってそれ以降の関係がなくなっちゃう憐れなやつみたいじゃないか!」

 

「妙に例えが具体的だな」

 

「えっ?奏、君前回のループじゃ普通に入ってくれてたじゃないか。僕が誘う前に委細承知なんてカッコいいこといって入ってくれたじゃないか」

 

「こら。前回のループとか言うな。メタいだろうが。

いやさ、実を言うと俺先にマリエちゃんに誘われてるんだよね。〈三日月同盟〉には散々お世話になってるし、千菜もいるし。家族ができるだけ一緒にいようとするのは普通だろ?

だから、俺は〈三日月同盟〉に入りまーす」

 

 シロエの奏勧誘はあっさりとしかしきっぱりと交渉の余地なく失敗した。

 

 

           ◆

 

 

 シロエを俺がフったその後、とりあえず納得したシロエは気持ちを切り替えてこれから行われる一大作戦に向けて準備を始めた。俺もそれを手伝う。

 

  コン コン コン

 

 会議室の木のドアをノックする高い音が反響す

 

「兄さーん、お客さんだよ~」

 

 千菜がドアを少し開けて顔と肩だけを覗かせる。

 俺にお客?

 俺がアキバの街に帰ってきてるなんて知ってる奴あんまりいないけどな?三佐さんとかリーゼちゃんかな?

 

「誰?俺に会いに来る奴なんて今は全然いないだろ」

 

「んっふふふー。懐かしい顔だよ。兄さんも会ってみたらビックリすると思うな~」

 

 千菜は嬉しそうに髪をピコピコと揺らしそう言い張る。んー、誰だ?心当たりが見つからない。

 三佐さんたちだったらこの前会ったばっかりだもんな。まあ、行ってみればわかるだろう。

 

「悪いシロエちょっと席はずすぞ」

「オッケー。いってらっしゃい」

 

 席を立ち、千菜の背中を追って廊下を歩く。

 マリエちゃんとヘンリエッタさんに説明を受けたのであるう〈三日月同盟〉のメンバーたちはみんな廊下を忙しく走り回っている。

 俺とシロエ同様に準備に取りかかり始めているのだろう。はて?こんな慌ただしい中でも平然と俺を待ってられるほど図太い奴は俺の知り合いに……多すぎるな。大概が肝が座ってる野郎に女性にで一杯だ。特定出来ないわ。

 

 そんなことを考えながら廊下を歩けばすぐに客間の扉の前に行き着き、

 

「お待たせしました、ってなんだクインかよ」

 

 来客用のソファに座っていたのは真っ赤なスプリングコートにデニムのパンツ黒のニーソックスそして真っ赤なブーツと街で見れば視線をついつい引っ張られてしまうほど派手な衣装に身を包んでいる少女だった。

 しかしそれさえも追記としてしか役割を成さないほど少女は超がつくほどの美少女だった。

 艶のある短い黒髪、アイドルやモデルのように大きな銀色の眼、リンゴのように紅くそして潤った唇、ガラス細工のように細い手足、透き通る白い肌。

 身長は女性としては平均的は身長しかなさそうではあるが十分に十人中十人が美少女と答える整った容姿をした少女だった。

 

 〈エルダーテイル〉のアバターの容姿に現実世界の容姿が取り込まれるような形になっている今の世界ではあるが、もとの世界でもこの少女は超のつくほど美少女であることは疑うべくもないだろう。

 

 そんな、クインと呼ばれた少女は奏が入ってきたのを一瞥すると、

 

 

「ば奏!!お前っ!私に一昨日なんであのあと念話してこなかった!!お陰で私は寝不足だっ!!」

 

 大声で怒鳴り散らした

 

「えっ、なんでっておもいっきり念話ぶち切られたから怒ってるかなと思って」

 

「知らんわ!普通すぐに掛け直すだろうがっ!!私あのあと三時間も起きてたんだぞぅっ!奏がかけ直してくると思って!」

「次の日も、あぁやっぱり昨日はちょっとかけ直しづらかったよな、とか思ってずっと待ってたのに…こないじゃないかっ!!お陰でほぼニ徹夜だよっ!」

 

 クインは捲し立てるように叫ぶ。

 よく見ると確かに目の下に黒いクマができていた。

 

「クイン…お前いい奴だなぁ

ごめん、俺お前のこと先輩のこと呼び捨てにするちょっと生意気な痛い美少女かと思ってた」

 

「貶すか褒めるかどっちかにしろ!

というか今カミングアウトすることじゃないだろっ!」

 

 文句を言う調子のままにペースを落とさずに更に怒ったようにツッコミを入れるクイン。

 

「悪かった。悪かったって。謝るから許してくれ」

「謝って許されるんだったら衛兵はいらんよ!どうせ、私のことなど都合のいい…その…もにょもにょ…程度にしか…」

 

「恥ずかしいなら「自分に惚れてる都合のいい女と勘違いしてる」とか言おうとしてんじゃねえよ!わかってるわ!恋愛耐性マイナス女!」

 

「ちっ違う!!わっ私は「呼ばれればどこにでも来て言うことをきいちゃうことが嫌だけど嬉しく感じちゃってる奴隷みたいな女」と言おうとしたんだっ!!」

 

「なお悪いわ~~!!」

 

「ああっもう。 もういい逆に私が恥ずかしくなってきた」

 

「俺は一つも恥ずかしいことないけどな」

 

 この目の前に腕を組んでない胸を無駄に強調させている「何かいったか?」…美少女はクイン。

 一応、俺のあっちの世界での高校時代、後輩だった奴だ。

 見た目はいいんだがいかんせんこういう性格だ大概の人は見た目に騙されて近づくが性格を知ってドン引きする。自信過剰でナルシスト。でも根はいい奴なんだけどな。

 

「クイン、依頼がある」

「…ふむ。いいだろう。話を聞かせてくれ、奏殿」

 

 一時の空白の後にクインは銀縁の眼鏡を懐から取り出しかけると抑揚のない冷静な声色で先を促してきた。

さっきまでの赤面は嘘のようだ。…いや、まだちょっとだけ顔が赤い。

 

「お前にしてはやけに簡単に引き下がるな…なんか恐いんだけど」

 

「プライベートと仕事をわけることくらい弁えているさ。今は奏殿が依頼人で私は探偵だ

サブマスとしての沽券にも関わるしな」

 

 探偵(・ ・)

 こいつの所属しているギルド〈モルグ街の安楽椅子〉は情報屋ギルドだ。

 レイドの調査からアイテムの情報、クエスト情報、果ては個人のプレイヤーの情報までどんな情報でも依頼を受ければ調べあげるアキバ一の情報収集ギルド。

 それが目の前にいる不敵な笑みを浮かべる少女の居所だ。

 

「…ん?サブマス?今、

お前サブマスって言った?」

 

「そうだが?ギルマスが〈大災害〉の時にログインしてなくて繰り上げで私がサブギルドマスターになりましたが?どうだ!まいったか」

 

「まいるかよ。バカ。お前、完っ全にそれ自慢したかったから言っただろ。公私駄々混ぜじゃねぇか。」

 

「質問されたから質問の答えを返しただけだよ。奏」

「嘘だな。呼び方が奏殿じゃねーぞ」

 

 仕事の時は奏殿、プライベートは奏で呼び捨てだからなコイツ。俺、先輩なのに。別に気にしてないけど。

 

「そっか、シャーロックさんほログアウトしましたってことか」

 

「幸か不幸かな。いや、幸の方なんだろうな」

 

 クインは何気なしに語る。幸か不幸か……ね。

 人それぞれなんだろうな。そういうのは、特にこれから先は。

 

「お前はこっちにきて不幸だと思うのか?」

 

「うーん。不幸なんじゃないかな?

ご飯は美味しくないし、街を出れば得体のしれないモンスターの巣窟、仲間の人間は三万人程度、しかも東西南北分断されてるときた。帰る方法も解らない。街の治安も最悪。この世界に来たのは不幸だと思うよ」

 

 出るわ出るわ。不満の言葉。聞いてて嫌になる。

 でも……とクインは否定の言葉を紡ぐ。

 

「これから先まで不幸とは限らない」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて自信満々に何の根拠があるのかさも当たり前なように話す。

 俺はコイツのこういうところ嫌いで、そして好きでもある。

 

「さっさと依頼を話せ。奏殿。何かしでかすつもりなのだろう?ネタは上がっているぞ」

「ははっ。そうだな。本筋に話を戻そう。お前に依頼したいのは三つだ。

まず一つ目だが…」

 

 クインの正面のソファーに腰を下ろして依頼を語り始める。

 下準備はこれからだ。成功するかはわからない。それでも確実に一歩一歩進み大きな変革を起こして見せよう。

 

 


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