ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第二笑 騎士たちの高笑い
第七話 初夏の夜に溶ける笑み


 高笑いする神祇官こと奏がアキバの街に帰ってきてはや三日。奏は充実した日々を送っていた。

 ススキノからセララを連れ帰ってくる昔からの友人であるシロエ、直継、にゃん太といまだ会ったことのなくマリエールから伝え聞いただけのアカツキという暗殺者(アサシン)の少女を迎えるべく準備を着々と〈三日月同盟〉の面々とこなしていた。

 

 奏のみならず千菜も帰ってきてからの三日は上機嫌だった。

 それもそのはず、帰ってきてからは“味のある料理”を三食口にしていたからだ。

 朝は白い白米と味噌汁、魚の塩焼きに目玉焼きに始まり、昼は肉うどんとお握り、夜はハンバーグとシンプルなメニューではあるがあちらの世界と変わらないごくごく普通の料理を食していた。

 これはアキバの街で新しいレシピが発見されたというわけではなく、今ちょうどアキバの街に向かっている一行の一人にゃん太の発見だった。

 

 レベル相応の料理人が現実と同じようにメニューを開かず手順を踏んで調理すれば味のある料理ができますにゃ、となにもひけらかすことなくさらりと伝えたにゃん太の調理法を実際に〈三日月同盟〉の料理人が試したところ本当に味のある料理ができた。

 

 この一件でもともとにゃん太を師匠と慕っていた奏と千菜は、やっぱり師匠は最高だー!もう愛してる!師匠にだったら抱かれてもいい!とさらににゃん太に対する尊敬を高めていた。

 ついこの間、リア充爆発しろ、などとのたまっていたのに現金なものである。

 

 

 そして今日、そのススキノからの一行が到着する日である。

 街外れまでメンバー全員でシロエたち一行を迎えに行きシロエたちを大喜びで迎え入れるマリエールたち。

 件の悲劇のヒロインとなっていた少女セララは〈三日月同盟〉の面々にもみくちゃにされて迎えられたのを奏は少し離れた所から見ていた。

 千菜とマリエールの長身と巨乳に抱き締められていた時は苦しそうなセララを見て羨ま…姉妹みたいだなと奏は独白するのだった。

 そんな主役を少し離れたところで奏と同じように見ている集団に気付き奏は近づき、

 

「久しぶりシロエ、直継。こっちで直接会うのは初めてだな。ススキノからアキバまでわざわざ往復ご苦労さん」

 

「おう!久しぶりだな奏。相変わらずの足大好き神祇官か?」

 

「直継、お前もおパンツ大好き守護戦士か?」

 

 それなりに身長もありその上高下駄を履くことで身長が上乗せされている奏よりもさらに大きな身体を鈍色の重厚な鎧で包み背にはその大柄の体格の半分にも至る盾を背負っているシンプルなデザインであるがその厚みある盾はどんな攻撃であろうが通さない威圧感を感じさせている。

 そんな格好とは裏腹に顔には人懐っこそうな笑みをはりつけ人のよさそくうなお気楽そうなそういう暖かな雰囲が滲み出ていた。

 奏の友人の一人おパン守護戦士こと直継である。

 

「「勿論そうに決まっている!」」

 

 奏と直継はガッチリと握手し声を揃えてお互いの趣味を称えるように叫ぶ。バカな図である。

 ここがアキバの街の外であったことが救いだろう。

 

「あっはは…相変わらずだね。全然元気そうでよかったよ奏」

 

「むむっ、お前は相変わらずのむっつりか?シロエ」

 

「なっ!?今はそれ全然関係ないよねっ?」

 

「主君、声が裏返ってるぞ」

 

 奏と直継の掛け合いを見て苦笑いを浮かべながら会話に入ってきたのは丸メガネを掛けた三白眼の青年。

 真っ白で汚れ一つないコートのような法衣を体をすっぽりと包み込むように着込み、特徴的な形状をした身の丈を越える杖を持っている。

 直継とは対称的な典型的な魔法使いの風貌だ。

 三白眼のせいもあってかとっつきにくそうな印象を受けてしまうが本当のとこらは単純に人付き合いが少し苦手なだけでいいやつであると少しでも関わり合いのある人間は知っている。

 直継と同じく奏の友人で〈茶会〉の参謀〈腹黒メガネ〉ことシロエである。

 

「ん?ああ君がアカツキちゃんか。はじめまして俺の名前は奏といいます。奏だけど〈吟遊詩人〉(バード)じゃなくて〈神祇官〉(カンナギ)をやってます。よろしくね」

 

 シロエにたいして若干のジト目を向けていた小柄な少女に奏は気付きにこにこと笑いながらステータスを見れば一発でわかることをペラペラと喋り、握手を求めて手を差し出す。

 人間関係には気を使っているくせに奏は全くと言っていいほど気安く初対面の相手に話し掛ける。

 これが奏が別れ際にいつもいなくなることがバレてしまう迂闊さにも繋がっているのだろう。

 

「あっあぁ、こちらこそよろしく。アカツキという。主君の忍として仕えている」

 

 奏の勢いに少しばかり気圧されながらも差し出された手を握り返すアカツキ

 

「ところで奏殿、あなたはバカ直継と同類の人間なのか…?」

 

「奏でいいよ。あまり堅苦しいのは好きじゃないから。あと俺はオープンではあってもスケベじゃない。謹み深い紳士を心がけている。イコール直継とは同類じゃないよ」

 

「そうか、それはよかった」

 

「奏!てめえー裏切りやがったな!お前のお御足に対する愛はそんなものか!!俺のおパぶぎゃぁっ!」

 

 おパンツの4文字が直継の口から発せられる前にアカツキの美しい飛び膝蹴りが黙らせる。

 

「主君、この変態を蹴ってもよいだろうか?」

 

 シロエの法衣の裾をつかんで報告を入れるアカツキに、蹴る前に聞け!と文句を言う直継。どうやらこれが通常運転なのだと理解する奏。

 

(よかった~変なこと口走んなくて、あんな予備動作なしの蹴りとか躱せる気がしねえ…)

 

「直継。俺のお御足に対する愛は俺の魂からあふれでるものだ。言葉にすればするほどそれは安っぽいものになってしまうんだよ」

 

「何をカッコつけて意味不明な戯言抜かしてんのよ。バカ兄貴が」

 

「クハッ!!」

 

 胸を張って高らかに言い放つ奏に千菜の腹パンが叩き込まれる。サブ職〈極者〉で強化された筋力値で殴られた(勿論加減はしているが)。奏はその場に踞る。

 

「千菜っ…お前の力で殴られたら…俺死ねるからっ…やめてぇ…」

 

 わりと切実な懇願だった。

 

 千菜は兄さんが悪いとぷいっと首を振って知らん顔。、

 そこへ…、

 

「にゃあにゃあ、いつも通りに仲良しさんでいいですにゃ~奏ち、センにゃち。でもセンにゃちはあまり力を奮うのはよくないですにゃ?」

 

「「師匠!」」

 

 二人は声を揃えて尊敬する人物を呼ぶが片方は実の妹に制裁という名の腹パンを受け地面に跪き腹を抱えて土下座のような態勢、もう片方は殴った方の手をぷらぷらとふりながらついさっきまで鬼も裸足で逃げ出すような眼で実の兄を見ていたのだからおかしな光景である。

 

 そんな二人に喜び勇んで迎えられたのは針金のように細い手足に細い身体を緑のコーデュロイジャケットに身を包み腰に年期の入ったベルトで二本の意匠のこなされた美しい刺突剣(レイピア)を吊るして紳士的な大人の雰囲気を醸し出す猫人族、にゃん太であった。

 奏、千菜の両方から師匠とまで言われるほどに慕われているのは〈茶会〉の時代から奏と千菜だけでなく〈茶会〉のメンバー全員を暖かく見守り手助けしていたことから起因する。 

 その証拠に〈茶会〉のメンバーは奏や千菜と同じように彼のことを、班長、ご隠居、などと信愛を込めて呼ぶ。

 

「お帰りなさい。にゃん太師匠!今からみんなでパーティーだよ」

「お帰り。師匠。長旅お疲れさま。いろいろご馳走準備してあるから一緒に食べようぜ」

 

「にゃあ~。それは楽しみですにゃー。僭越ながら我輩も腕を降るいましょうかにゃ~」

 

「「マジで!?やったー!」」

 

 イエーイ、とさっきまで殴った殴られたの関係はどこへやら両手でハイタッチする奏と千菜。

 仲がいいことはいいですにゃー、と微笑むにゃん太

 

 そういうわけでセララ救出に向かったシロエたちは無事に帰還したのだった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ギルドハウスに帰った奏たちは、マリエールの「今日はお祝いやから!飲んで食べて騒いでや!」という宣言を皮切りに飲めや歌えやのドンチャン騒ぎを始めるのだった。

 

 直継は小竜たちに囲まれ戦闘談義で盛り上がり、アカツキはヘンリエッタに捕まり〈三日月同盟〉の女性たちも混ざって愛でられそれぞれ思い思いに楽しんで(若干1名除くが…)いた。

 

 にゃん太は予想通りにしばらく料理を楽しんだ後に厨房へと席をたった。その後ろを慌ててついていくセララは微笑ましくあった。あとから聞いた話ではあったがにゃん太は〈三日月同盟〉の〈料理人〉と協力して激戦区の古参兵のように料理にいそしんでいたらしい。

 メニューからの製作ではなく実際に自らの手でなければ味のある料理をつくれない以上料理人本人のもつ腕と知識しか役にはたたない。

 そこでにゃん太と〈三日月同盟〉の〈料理人〉はお互いに知っている料理の知識を披露し合って、知っているレシピを分かち合い、より一層の彩りのご馳走を加えるのだった。

 

 そんな料理の大皿を持ってセララはあちこちの部屋を廻って給仕をし始めた。千菜は、「せっかく帰ってきてそれのお祝いでパーティーやってるんだからゆっくり楽しめばいいのにー」と言ったがどの部屋でも同じようなことを言われたらしく、はにかみながら「自分を助けてくれた皆さんへの恩返しですから」と返してまめまめしく給仕を続けるのだった。

 そんなセララをいじらしくおもい「あ~もうっかわいいな~」と千菜はこれでもかというくらいにセララを撫で回していた。

 その様子を見て奏は、ヘンリエッタさんのが移ったか…と誰に聞こえるわけでもなくため息混じりに呟くのだった。

 

 

           

 

 

 そして宴もたけなわとなり、楽しい時間は繰り返し述べられる感謝と祝いの言葉、乾杯とご馳走に対する賛辞の中に過ぎ去っていった。

 呆れるほどに食べ、呆れるほどに飲み、そして騒いだ。

すっかり月も沈んだことだろう。

 

 どこの部屋にも酒瓶が散乱し、彩りの料理を乗せていた大皿がテーブルの上に何枚も重ねられている。

 そして騒ぎ疲れたギルドのメンバーはソファだろうが机の下にだろうがお構いなしに横になっていた。

 

 直継は会議室で大の字になっていびきをかき、〈三日月同盟〉が誇る少女趣味のエース、ヘンリエッタに飾り付けられたアカツキは、疲れはてて大きなクッションに埋もれるようにして眠っている。

 奏と千菜の兄妹はお互いに寄りかかるようにして静かに寝息をたてていた。

 辺りには酒瓶が何本も散乱していて、恐らくどちらが先に酔い潰れるかでも競っていたのだろう。

 

「──っと」

 

 シロエはテーブルの縁でゆらりと揺れた酒瓶をキャッチすると、その他数本をまとめて魔法の鞄(マジックバック)に放り込む。

 そして仲良く寄り添うように寝息をたてる二人の兄妹の周囲にこれでもかというくらいに散らばった酒瓶をこれまた魔法の鞄(マジックバック)に放り込む。

 二人だけを見れば、仲の良い兄妹を写した一枚の絵画のような微笑ましい光景といってもいいのに辺りの酒瓶を見てしまっているシロエにはなんともいえない笑みを浮かべる他ない。

 

 みなが寝静まった会議室で目を覚ましているのは、シロエとマリエールのふたりきり。

 マリエールは会議室で雑魚寝する仲間たちに暖かなウールの毛布をかけて回り、全員にかけ終わるとシロエに声をかける。

 

「こんなもんでええがな?」

「あ、はい」

 

 どこからか小さく寝言のような声がする。

「兄さん…部屋…掃除しといてぇ…」

「うぅ…勘弁してくれ…下着はせめて…」

 千菜と奏だ。

 

 この兄妹は本当に仲がいいなーとマリエールはみんなを起こさないように笑いを噛み殺しながら言ったが、シロエは奏が完璧に千菜に下に据えられているなと別の意味で笑いを堪えていた。

 

「どする?シロ坊も寝る?」

「そんなに眠くはないですけど…」

「ほうかー」

 

 マリエールはシロエに近づくとするりと自然に表情をのぞき込む。

 

「んじゃ。お茶でも淹れよか。ここじゃなんやし、ギルマス部屋にいこ」

 

 マリエールはシロエを誘い会議室を出る。「ちょっとだけまってや」とシロエに囁いたマリエール。ひとつひとつの部屋をにこにこと笑いながら確認してゆきどの部屋でも満足そうに横になっているメンバーを見て回る。

 シロエを先に執務室という名のマリエールの私室に先に行かせて厨房から黒葉茶をもってくる。

 果実をブレンドしたさっぱりとした味わいのこのお茶は宴でふつふつと消えかかっていた熱を冷まして落ち着かせる。

 

 そこからはいろいろな話をした。

 マリエールの今回のお礼から始まり、宴のはなし、明日のはなし、料理のはなし、ススキノのはなし、そしてアキバの街のはなしも。

 

 アキバの街はいっときよりは落ち着きを見せた。それでも雰囲気が悪のには変わりない。

 なにかはっきりとしたものがあるわけではないのだけれどモヤモヤとなにかスッキリとしない、どうしようもできない小さな破損がいくつも積み重なってしまっているようなそんな気持ち悪さ。

 

 それは格付け(・ ・ ・)がすんだからなんだろうとマリエールははなした。

 

 今やアキバ一の最大手のギルドの〈D.D.D.〉や他の百人規模の大手ギルド。

 それと〈三日月同盟〉のような三~四十人にも満たないような中小ギルドややもっと少ない一桁程度の人数しかいない零細ギルド。

 

 人数の多い方がなにかと顔を効かせるのは当然のものだった。何事にも数の多さというのは単純な強さに繋がるものだ。

 明確なルールがあるわけではないがなしくずしにそうなってしまう。

 PKが減ったのもその副次的なものらしく、パワーバランスが明確になってしまったことで力の強いギルドが効率のいい狩り場を順にとっていき、狩り場での縄張りが分けられてしまったということらしい。

 

そして、それを加速させるように〈黒剣騎士団〉と〈シルバーソード〉がレベル91を目指そうとしているらしい。

 エリート主義の〈黒剣騎士団〉や〈シルバーソード〉は最大手の〈D.D.D.〉と比べると人数が圧倒的に少ない。もちろん〈三日月同盟〉のような中小とは比べるべくもないが〈D.D.D.〉の1500と言う数にはエリート主義でレベルでの入会制限があったりする彼らでは押されっぱなしにならざるを得ない。

 

「でも、どうやって──」シロエの疑問も当然だった。

 

 本来、経験値というのは最低でも自分よりレベルが5より下回ると入らなくなってしまうのだ。

 そんな中でリスキーな戦闘を繰り返すことがメリットに釣り合っているのか?

 動機も気持ちも戦略もわかる。しかし、達成する方法はあるのか?

 

「〈EXPポット〉を使って、や」

 

 マリエールは苦々しく眉間にシワを寄せてシロエの疑問に答える。

 マリエールのこんな顔は(こっちの世界になってからはそこまで経っているわけではないが)付き合いのそれなりになるシロエでもなかなか見ないものだった。

 

 

           ◆

 

 

 初夏の風がチェニックの裾をはためかせるほどに強く吹いている。

 地面の上を風に気ままに流される雲の影が黒く染め上げる。

 深夜であるにも関わらず今宵の影は余りにも明るく影ができるほどだった。シロエはその影と月明かりのコントラストを追うように真夜中のアキバの街を歩いていた。

 特に目的地を定めるでもなく、胸のなかにある得たいの知れない黒い気持ちをもて余しながら歩いていた。

 いつのまにやらシロエは廃墟とかしている廃ビルにいた。その二階から道路を見渡し何気なしにコンクリートの残骸に腰かける。

 

「よう、お兄さん一人で黄昏れちゃってかっこいいねー。惚れちゃうよ」

 

 突然後ろから軽薄そうな声がかけられる。

 チンピラかと思ったがそんなありきたりな展開はなく、酒瓶を片手に持った奏がいつものような笑みを浮かべながら立っていた。

 

「奏…、どうしたの?てっきりあのまま眠ったままだと思ってたんだけど」

 

「飲み足りなくてね。付き合えよ」

 

 奏はそういうとシロエの隣に座り込み腰の魔法の鞄(マジックバック)から大きな盃を取り出して酒瓶から酒を注ぐ。

 

「あれだけ飲んどいてまだ飲み足りないの!?」

 

 先程のドン引きな光景がよみがえり、いまだに酒を飲もうとする目の前の友人に突っ込みを入れるシロエ。

 

「酒は溺れない程に飲むのがちょうどいいんだよ~」

そんなことを言いながら大きな盃にではなくコンクリートの地面に酒をぶちまける奏

 

「もう充分酔っぱらってるじゃないか!

ていうかこの盃〈乙姫の盃〉だろ?秘宝級のアイテムなんだからもっと大切に使いなよ…」

 

「ばかやろ~これぐらいしか使い道が俺にはねぇんだよー」

 

 シロエの忠告を聞き流し酒を艶のいい盃に注ぎたそうとするがまったく見当違いにコンクリートにドハドバとぶちまけ結局酒瓶を空にすることしか奏にはできなかった。

 

 まったくなにしに来たんだよ…、シロエは肩を落として盃を魔法の鞄にしまう奏に悪態をつく。

 さっきまでごちゃごちゃと考えていた自分が馬鹿みたいだとさっきまでとは違った種類のため息が自然に漏れてしまう。

 

「マリエちゃんに今のアキバの街の話は聞いたんだろ?シロエぇ」

 

「うん…聞いたよ」

 

「〈ハーメルン〉なんてクソギルドの連中が新人プレイヤーを拉致監禁に等しい行為をして、そのうえ〈EXPポット〉なんて代物持ち出して大手に売り付けてやがる」

「大手もそれに気づいていてもなにもしない。見て見ぬふり」

「まったくアキバの街も落ちたもんだね。ダサくてしかたねぇ」

 

「そうかもね…」

 

 奏の言葉にシロエも同意を示さざるおえない。シロエ自身も同じことを考えていたのだから、黙って返事を返さないわけにはいかなかった。

 ただそれを口にしてなんになる?なんともできないことが積み重なって今の現状になってしまっているというのに、そういった言葉がシロエの口から出ようとしたとき、

 

「まったくもって笑えねえ」

 

 奏の一言が挟み込まれる。

 

「シロエ、アキバの街をちょっと支配しようと思うんだけど手伝わねぇか?」

 

 さっきまでとはうってかわって酔いを感じさせないはっきりとした口調で告げる奏の声。

 シロエがそのとき見た奏の顔には昔、現実の世界で見たことのある“彼女”と並び立った時に近い、何を考えているのか解らない悪ガキのような笑みが浮かべられていた。




〈EXPポーション〉
レベルが30以下のプレイヤーに毎日1本無償で配布されるお助けアイテム。
飲むと攻撃力や自己回復能力が僅かに上昇し戦闘で得られる経験値が2倍近くに上昇する。
また本来は5つ下までのモンスターを倒すことでしか得られない経験値が7つ下まで僅かではあるが得られるようになる。

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