ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第五話 二人は

 アサクサの町に来て居候としてお世話になっているおやっさんの悩みを聞いた俺たち兄妹はゴブリンがアサクサの周辺まで現れる原因を探るために探索に出た。

 

 そこで見つけたのはゴブリンの大規模な集落

 

 まるでどこかに仕掛けるような慌ただしさに包まれていた集落を見て俺と千菜はアサクサを襲うのではないかと危機感を覚えた。

 

 アサクサは大地人の町で、アキバの街のように衛兵システムもモンスターを阻む結界も備わっていない。

軍事力など無いに等しい。

 あの軍勢に攻め込まれてはいくらなんでも敵わないと思った俺たちはゴブリンの集落に侵入した。

 

 ゴブリンの集落の長を人質にとりあらかじめ仕掛けておいた罠の方に誘導して罠に嵌めて連中を一網打尽に仕留めた。

 

 現在は、その後始末の真っ最中である。

 

 

「燃~えろよ燃えろ~よ、炎よ燃えろ~」

「あっ懐かしい!昔キャンプファイヤーの時に姉弟でさーよく歌ったね」

 

 

 集落を囲っていた壁を全て倒し一ヶ所に集めて、千菜の薙刀と俺の魔法で燃やしていく。もともとそこまで堅牢な作りをしていたわけではなかったのですんなりと集めることができた。

 

「冬になったらキャンプファイヤーとはいわないまでも焚き火でもして焼きいも食いたいな」

「湿気た煎餅の味だけどね…」

「お前そこは水をさしちゃダメだろ…」

「焼きいも、食べたいね…?」

「そうだな…」

 

「「はぁー」」

 

 目の前でゴウゴウと音をたてて燃え上がる柱を見ながら二人で溜め息を吐く

 

「そういえばさ、妹よ」

「なんだい、兄よ」

 

「なんであんなにゴブリンたちは慌ただしかったんだろな?」

「知らない。ピクニックにでも行こうとしてたんじゃない?」

「こんな大所帯でピクニックになんか行かれたらいい迷惑だな」

 

 首を小さく傾げながらてきとうに答えを返す千菜。てきとうな答えにどうでもいいようにツッコミをいれる俺

 

 まるで、どこかの砦に他の集落の連中と集まって王様でも決めて、どこかの街に攻め込んだり、小さな町に略奪部隊を送り込んだりしそうな勢いだったが、何がしたかったんだろうなー。

 

 これから数ヵ月後に定期イベント『ゴブリン王の帰還』が発生し小さな町の防衛戦に参加することになる奏と千菜が、なぜあそこで気がつかなかったかー!、と盛大に地団駄を踏むことになるのだがそれは後のお話。

 

 

 

           ◆

 

 

 ゴブリンの集落を壊滅させて三日後

 アサクサの周辺にゴブリンが出てくることもなくなりおやっさんたちがゴブリンたちに森での狩りや採集を邪魔されることもなくなった。

 

 そんな中で、一つの朗報がアキバの街から届いた。

 シロエたちがススキノからセララの救出に成功したという知らせだった。

 サプライズとして、〈茶会〉(ティーパーティー)時代の前からお世話になっていた猫人族のスーパー紳士にゃん太師匠も一緒にアキバの街に来るらしい。

 なんでもススキノでセララを匿ってくれていたのがにゃん太師匠だったとか。

 本人は自分のことを年寄り呼ばわりしてるけど、やっぱり大人の男の包容力は違うね。セララがべた惚れだとかなんとか。

 

「まったく…リア充爆発しろ…」

 

「ん?兄さんなにか言った?」

「いや、なんでも」

 

よくもわるくもネットゲーマーなのは奏も変わらない

 

 

 さて、シロエたちがセララを連れて帰ってくるのをきっかけに一つ選択肢が生まれた。

 

「そろそろアキバの街に帰るかな」

「うん、活気はともかく治安はある程度落ち着いたらしいしね」

 

 いくら実際の距離の半分しかないからって、東京から北海道まで現実世界のような飛行機もましてや車もないこの世界だ。

 シロエたちがススキノからセララを連れて帰ってくるということはそれなりに時間が経ったということでもある。

 街に落ち着きが表れるには充分な時間だ。いい意味での落ち着きが生まれたわけではないのが釈然としないが…

 

 

           ◆

 

 

「というわけで明後日くらいにアキバの街に帰ろうと思います」

 

 リビングのテーブルを挟んで向かい合うようにイスに座り二人に経緯を話す。

 

「おいおい、えらく急だな」

「あらあら、せっかく仲良しさんになれたのに。町のみんなもきっと残念がるわ」

 

 おやっさんは無精髭を弄りながら、おばさんは片手を頬にあてながら俺の話に耳を傾ける。二人とも残念がるように眉を寄せうーんと唸る。

 

「本当は〈フウモクスイカの花〉とか採集しておきたかったんだけど、知り合いが帰ってくるまで時間がないから諦めるしかないのが心残りだけどね~」

 

〈陰陽師〉の作製アイテムのための材料だったんだけど別の機会に取りに来るとしよう。別にあったら便利ってだけだし。

 

「坊主にはもう言ったのか?」

「いいえ、言わずにアサクサを出るつもりです」

「まあまあなんで?きっと怒っちゃうと思うわよ?二人のこと大好きだから」

 

「あんまり別れの言葉って好きじゃないんですよ。ガキンチョには俺たちは星になったとでも伝えておいてください。その方がカッチョいいんで」

 

「〈冒険者〉は不死身だろうが」

「ぶちギレちゃうわね。きっと」

 

 呆れたように溜め息をつくおやっさんと、ニコニコ笑顔を崩さずバッサリと言い捨てるおばさん。

 おばさんはちょいちょい思ってたけどおっとりはしてるようで発言がオブラートに包まれていないことが多いような…

 

「まあいい、なんとかこっちで誤魔化しておいてやるよ。但し、世話になった町の連中にはあいさつしとけよ?」

 

「はい。何人かには挨拶してから行こうと思ってます。さすがに不義理が過ぎるのもどうかと思うので」

 

 本来はあまりこういった挨拶なんかはせずにフラりといなくなるように心がけているんだが、ちょっとここでは一方的に助けられっぱなしだったからそういうわけにもいかない。

 なんでそんな風に人を避けるようにするのかって?人間関係をあまり深くしないためにだよ。

 よく視えると親しくなった人と今生の別れの時に結構辛いからね…

 

 まあ、今回は今生の別れなんて大それたものじゃないんだけどね~

 

 このときドア一枚を挟んで向こう側に小さな気配があったのだが、挨拶にいく人を指を折りながら考えていた奏は愚かにも気づくことはなかった。

 平和ボケした日本人のゲーマーに無茶をいうなとフォローは一応いれておいてやろう。

 

 

           ◆

 

 

 アサクサの町出発の日

 一通りの挨拶を済ませひっそりと昼頃に出発しようと考えていた俺と千菜は最後におやっさんとおばさんと一緒に家で談笑していた。

 とりとめもなくどうでもいい話をしているだけだがこういうのはアキバの街で荒れていた住人を見てきた俺には充分すぎるほどに心を軽くしてくれた。

 ガキンチョは朝ご飯を食べてすぐにどこかに遊びに出掛けてしまったからあまり話せなかったのが少し寂しいがしょうがない。

 そろそろ行くかと席を立ったときだった。突然として扉がすごい勢いで開かれて顔を青白くさせた近所のガキンチョの友達が入ってきた。何度か遊んだこともあるから間違いない。

 

 

「大変だよっ!!広場でっ!広場でっ!恐い顔した〈冒険者〉、〈冒険者〉の人がっ…」

 

 

 言葉を最後まで聞く気もなく、千菜っ!!と叫び走り出す。千菜も遅れをとることなく並走する。

 

 何やらかしたんだあのバカガキはっ!走りながら毒づきつつ広場までいっきに駆け抜ける。あの子の顔色を見る限りただ事じゃなさそうだ。

 〈冒険者〉の身体能力を惜しげもなく使い一分とかからずに広場まで駆け抜けた。

 

 広場には手になにかを持ったガキンチョとそれを囲むようにして立ついかにも近接型ですよーといった風貌の三人組がいた。

 

「おいこら、テメーら子供相手になに囲んで凄んでんだよ?」

 

「あぁ?なんだテメーら?俺たちはこいつがいきなりぶつかってきて俺のレア装備に汚れをつけてきやがったから慰謝料貰おうってだけだよ。邪魔すんじゃねえ」

 

 俺の言葉にムカついたのか重そうな鎧を着込んだ男がこちらを睨み付けながらそんなことを言ってくる

 

「汚れなんて自己修復機能で破損でもしない限り勝手に治るでしょ、そんなことも知らないトーシロが子供にタカるとか恥ずかしくないのかしら?土下座して詫びなさいよ」

 

 既に姫様モードに入っちゃってるらしい千菜が蔑むような目で三人を見据える。

 

「ずいぶん舐めた口きくじゃねぇかよ。俺たちがどこのギルドに所属してるかわかんないらしいな。お前こそステータスの見方も知らないで偉そうに口挟んでんじゃねえよ。俺たちはサーバー一位のトップギルド〈D.D.D.〉のメンバーなんだぞ?お前らみたいな凡百とは違うんだよ」

 

 今度は軽装の〈暗殺者〉(アサシン)がニヤニヤと汚ならしい笑みを浮かべて口を挟む。

 

「お前らが〈D.D.D.〉のメンバー?」

 

 ステータス画面を確認するが本当に〈D.D.D.〉のギルドエンブレムをぶら下げている。嘘ではないようだけど…こんなやつらが〈D.D.D.〉?

 

「なんだよ?まだ食い下がるってのか?ぶっ潰して神殿送りにしてやろうか?あぁん?」

 最後はリーダー格のような〈武闘家〉(モンク)

 

 神殿送りにねぇ…、随分と大それた事を口にするじゃないか。覚悟もないくせに…。

 

「いいぜ。相手してやるよお前らが〈D.D.D.〉のメンバーってのはどうも信じられない」

 

「そっちのネェチャンは〈武士〉(サムライ)みたいだが鎧も来てねぇし、接近型の〈神祇官〉(カンナギ)なんかとじゃ俺たち三人とまともに戦えるわけがねえ

 そっちのネェチャンは口は悪いが見た目は上玉だからな、身ぐるみ剥いでたっぷり可愛がってやるよ」

 

 バチンッ、と切れてはいけないなにかが鳴ってはいけないような音で切れてしまった音が聞こえた

 

「かかってこいよ三下ども…お前らのその腐った根性、俺が愉快に快活に高らかに高笑ってやんよ」

 

 

 ─十分後─

 

 

「ありえない、ぶっちゃけありえない」

 

「残念だがそれは三人組でやってもまったく意味がない。やるなら二人組でやれ。

あと関連ネタができないから、冬薔薇の姫様が登場してからにしろ」

 

 簀巻きにされて木の枝からぶら下げられている三人組のうちの〈武闘家〉(モンク)にダメ出しする。

これだから素人は…ボケの詰めが甘い…

 

 戦闘?

 刀なんて抜かずに魔法の鞄(マジックバック)から杖を抜いて千菜が蹂躙するところを魔法や陰陽札で集中砲火してましたがなにか?

 誰も刀しか使わないなんて言ってませんけど?むしろもとはバリバリの後衛ですから。

 

「兄さん、焼き加減はどのくらいがいい?ミディアム?ウェルダン?」

 

 千菜は〈千紫万紅の大薙刀〉をクルクルと片手で回し炎を舞わせる。

 三人組を焼く気満々だ。

 

「ヴェリー・ウェルダンで」

 

「水分も残らないじゃないですか!?」

 

 今のはなかなかいいツッコミだったな。よしこれに免じて焼くのは勘弁してやろう。食えん肉を焼いても意味なんか、な…い?

 

「人間を調理しようとしたら、やっぱり暗黒物質(ダークマター)になるのかな?」

 

「「「ヒイィィィ」」」

 

「等身大の暗黒物質(ダークマター)とか処分に困るよ跡形も残さず消滅させなきゃいけないじゃん」

 

「「「ギャアァァァ」」」

 

「うるさい!念話中だボケ!!」

 

 みっともなく叫ぶ三人組を杖で殴り黙らせる。あっ繋がった。

 

『あっ、もしもし三佐さん。久しぶり。うん、うん。急で悪いんだけとさ、リーゼちゃんに確認とってもらいたいことがあるんだけど…。うん、実はさアサクサの町で〈D.D.D.〉のメンバーを名乗る三人組がさ大地人の子供相手にカツアゲじみたことしててさ、そんで止めに入ったら襲われちゃって…別に、返り討ちにした。うん、千菜も子供も怪我一つないよ。むしろ襲ってきた方がいまは人間としての危機にあるし。いや、なんでもない。あっそうなの?オッケーオッケー了解。急がしい中ありがとね。バイビー』

 

 〈D.D.D.〉の知り合いに念話をかけ真偽を問うてみたが本当にコイツらは〈D.D.D.〉のメンバーではあるらしい。だが…

 

「お前ら、脱走兵なんだってな」

「ギクッ!!」

 

「〈D.D.D.〉に入ったものの訓練がキツくてアサクサまで逃げ出して〈D.D.D.〉の名前だけを借りて恐喝か。クズだな~お前ら」

 

「まさに虎の威を借る狐ね。ダサっ」

「グサッ!!」

 

「お前らはアキバの街に連れ帰って〈D.D.D.〉に身柄を引き渡すから、そのつもりで。

 たっぷりとその腐った根性叩き直して二度とそんな愚かな真似が出来ないようにしてやるから覚悟しておきなさい、だってさ」

 

 

 顔が青ざめ、イヤーー!!助けてー!!命だけはー!!なんてベタな命乞いをしてくるけど知らん。自業自得だろ。

 

「さて、コイツらはグリフォンに吊るしてアキバまで運ぶとして、

 おい!ガキンチョ、どこも怪我とかしてねーか?」

 

 俺たちのやり取りを珍しくなにも反応することなく隅っこでただじっと見ているだけだったガキンチョに声をかける。

 何だかんだいってもまだ子供だから怖くてなにも言えなかったのかもしれない。

 

「奏兄、千菜姉、二人はアキバの街に帰っちゃうんだろ?」

 

「おろ?なんでバレてんの?」

「兄さん、またヘマやらかしたの~?バレないようにやりたいんだったらもっと上手くやりなよ…」

 

 うぐっ、なぜかはわかんないけど実はこの作戦あんまり成功率は高くない。いつのまにかバレてることがちょいちょいある。

 なんでバレちゃうんだろ?

 

 口をへの字に歪めて泣きそうな顔を堪えるようにしてガキンチョは言葉を続けようとする。

 

「奏兄も千菜姉もアサクサに来てくれてありがとう。二人のお陰で…俺たち凄く楽しかった。今度は兄ちゃんたちがいなくても俺が…ゴブリンも…こんなチンピラも…全部っやっつける、くらいに強くっなるから…だからっ…今度はっ俺たちがアキバの街に兄ちゃんたちに会いに行ってもいいかなっ?」

 

 しゃくりあげながらも涙を流さず言い切った。

 手に持っていた花束を差し出しながら、目に溜まりに溜まった涙がこぼれ落ちないように。

 堪えながら真っ直ぐに俺を見つめながら。

 

 差し出された花束は〈フウモンスイカの花〉の花束だった。

 

 なるほど…ね。あそこで盗み聞きされてたわけだ。そして今日は朝から花を集めにみんなで行ってたと。

 

「だから別れのあいさつは嫌いなんだよな…、んなもんいいに決まってんだろうがっ!!

 いつでも遊びにこい。今度は俺の仲間を紹介してやるよ。まぁ、ちょっといくらか待っていてほしいけどな」

 

 花束を受け取りガキンチョの頭を撫でてやる。

 千菜も姫様モードからいつものモードに変わってガキンチョを優しく抱き締めて撫でる。

 

「またな、ウィル」

 

 召喚笛に呼び出された希少な幻獣二匹に縛り上げた冒険者を乗せるのではなく吊るし奏が呼び出した巨大な火の鳥に乗り奏たちは飛び立った。

 見送るアサクサの町民たちは青い空に映える三つの翼とブラブラと振り子のように揺れる三つの塊を見て野太い三つの悲鳴と一つの愉快そうな高笑いを聞くのだった。

 

 見送る町民の中の一人

 まだ小さな少年はこの姿に憧れを抱き〈冒険者〉を夢見るようになる。

 


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