東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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遺骸王の交流


 

 魔界の改築工事を行う傍らで、神綺は生物創造の研究にも精を出していた。

 というより、私の方の設計作業に大分時間がかかってしまうので、神綺としたらむしろ、そちらの研究を主としてやっていたように思う。

 

 私の目から離れた場所でやっていたので、神綺の行っていた研究や実験などの内容は、私は関知していない。

 

「ゆっ、ゆゆっ」

「ゆっ! にんげんさんがもどってきたよ! しんきたちのゆっくりぷれいすからでていってね!」

 

 なので、いつの間にか彼女が生み出していたこの……なんだ。

 この……生首? ……生物についても、私は詳しく知らないのである。

 

 故に、質問があったら神綺に訊くように。私に訊かれても困るし、自分で調べたいとも……あまり思わない。

 

「あおいふくなんてせんすないわね!」

「ゆっくりあるいておかえり!」

 

 “ゆっくり神綺”が二体、いつものようにぎゃーぎゃーとわめき、スライムの如く飛び跳ね、サリエルの足下で暴れている。

 ゆっくり神綺達は初めて目にするサリエルに対して、何やら不満があるようだが……あれらの考えることは正直、私達まともな者からしてみれば常軌を逸しすぎているので、マトモに対応しないことが吉である。

 

 サリエルが魔界にやってきてから四日。

 来ると決めた時は意気揚々としていた彼女だったが、どうもこちらへ来てからというもの、あまり元気が無い。

 

 

 

「……サリエルは今日も、こもりきりですか?」

「うーん……まぁ彼女の私生活には、あまり干渉するべきではないんだろうけど……さすがにちょっと、気になってくるよなぁ」

 

 サリエルは魔界の森林の片隅で、座り込みながらじっとしている事が多い。

 最初に神綺と顔合わせをして挨拶した時にも、目線があっちこっちに行って心ここにあらずといった様子だった。

 神綺にとってサリエルは、初めて出会う外界人であり、かつ私以外で初の知的生物である。

 神綺はサリエルを大いに歓迎していたが、サリエルの様子がおかしかったので、どうも喜びが消化不良に終わってしまっている。

 

 せっかく住人が増えたのだから、盛大にお祝いをしたいのだ。それは、私も同じ。

 けど今のままだと、パーティをやっても中途半端な結果に終わることは間違いない。

 

 どうにかサリエルを、元気づけられればいいのだが……。

 

 

 

「どうしようか」

「どうしましょうねえ」

 

 私と神綺は根城に集まり、密かに作戦会議を行うことにした。

 

 サリエルはもはや魔界の住人である。ならば、私達は住人が快く住める環境を提供しなくてはなるまい。

 魔界は決して、生首や生足だけが住まうユートピアではないのだから。

 

「サリエルの事は、私もライオネルから色々な話を聞きましたが……本来は、無気力な人ではないんですよね?」

「うむ、もっと真面目で、キビキビ動くような印象が強かったんだけども」

「けど……」

「何であんなふうになってしまったのだかねえ」

 

 今のサリエルは、森林の中で何もせず座り込むだけで、ゆっくり神綺達に絡まれてばかりだ。

 幸い、大型の原始生物らに襲われてはいないようだし、彼女自身もかなり強いはずだから、心配はいらないだろうけど……。

 このまま何もせずに隠居生活に入られるのはちょっと嫌だなぁ。

 

 彼女もせっかく魔界へ来たのだ。何か話したり、共に活動したい。

 

「あの、ライオネル。もしかして、サリエルは……」

「ん、神綺、もしかして何かわかった事が?」

「はい。けど、あくまで想像なんですけど……」

「大丈夫大丈夫、何でもいいから、思いついたのを言ってみて」

 

 神綺は真面目な顔つきで咳払いし、二呼吸ほど置いた。

 

「……サリエルは、新しい環境にやってきて……故郷のことを想っているのではないでしょうか」

「故郷……ふむ」

 

 つまり、ホームシックということか。

 なるほど、確かに見知らぬ土地で一人……それはかなり寂しいものだ。私にも経験があるので、よくわかる。

 

 勢いづけてやってきたはいいものの、孤独に気付いて気落ちして……。

 

「確かに、神綺の言う通りかもしれない」

「ライオネルも、そう思いますか?」

「うん。来る直前には、私から天界の話を聞いていたし……」

「ああ、それではやっぱり……」

 

 サリエルがホームシックに罹っている可能性が微粒子レベルで存在している。

 

「……よし! 神綺、サリエルを元気づけるために、ちょっと協力してくれるかな?」

「ええ、喜んで。私も、あの人が落ち込んでいる様子を見るのはあまり好きじゃないですからね」

 

 こうして、私達はおせっかいのために動き出した。

 

 


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