東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 神綺と共に案を出し合いながら、魔界の新たな地形を作成する。

 テーマは浮島、立体、壮観、である。

 

 とにかく、パッと見て圧倒されるものでなければ意味が無い。テーマのうち、特に“壮観”は重要だ。

 第一印象で天界の景色を超えなければ、こうして頑張る意味もないのだから。なので、見た目重視の創造になるだろう。

 

 尚、これは建築に留まる作業ではなく、原初の力をフルに活用した地形の創造になるので、その点で言えば、私よりも神綺の方に活躍してもらうことになるだろう。

 神綺には新生物の創造もやってもらってるから、それと平行して、ということに……神様って過労死しないよね?

 もちろん私も原初の力による創造には加わるけど、神綺の疲れが心配だ。

 

 

 

「じゃあ神綺、そこの光線を埋めるように岩を頼むね」

「はーい」

 

 空間に張り巡らせた光線の下書きを頼りに、神綺が物質創造で岩石を生み出してゆく。

 設計図自体が空間に魔力の光として残せるので、紙の図面に起こす必要はない。ただ私が骨組みを書いて、神綺がその通りにやっていくだけだ。

 墓廟とは違い、これらは手彫りで時間を掛けて作るものではない。

 建造物ではなくほとんど地形のようなものなので、むしろ荒っぽく創られていた方が、雰囲気が出て良いのだ。さっさと作れるし風合いも加味され、一石二鳥というやつである。

 

「ライオネル、岩敷き詰めましたよー」

「ほいほい」

 

 岩石や土は、原初の力の中でも最も簡単に生成できる部類の物体だ。

 神綺は力の扱いに慣れていることもあって、仕事が早い。こちらの図面引きがすぐに追いつかれてしまう。

 

「じゃあ次は、こっちの骨組みを作ってもらおうかな。内部に仕込む一番大きな支柱だから、石材で丁寧に作ってもらえるとありがたい」

「はーい……って、本当に大きいですねぇ。大渓谷の根城を超えてますよ」

「ふっふっふ、この巨大な球状物体が魔界上空をゆっくりと旋回するのだよ」

「うーん……」

 

 浮遊機構は魔力的な補助で再現すると難しいが、魔界であれば原初の力によってある程度の融通が効く。

 とくると、今度は石材の内部に複雑な機構を埋め込みたくなってしまうのが私というものだ。

 

 内部にアマノにも搭載したものと同じ大車輪を組み込んで、回転させる。

 回転のエネルギーは魔力的な補助によって、微量ながら途切れること無く送り込まれる。魔界上空を移動する飛行制御としての動力にはもってこいだろう。

 

 同じようにして、魔界の昼夜によって上下をぐりんと半回転させて入れ替えるギミックも搭載。

 おかげで球状物体には容易に建築物などを建てられないが、そこはそれ、見るだけのオブジェということで。

 

 急に上下反転する球体……近くで見る人はびっくりするだろうなぁ。

 

「……ライオネル、これが壮観、というものなんですか?」

「うむうむ、その通り。これを見れば天界の驕った連中の美意識を粉々に打ち砕いてやれるはずだよ」

「なるほどー」

 

 おおまかに組み上がった上下反転浮遊球体を見て、神綺が気のない返事を漏らす。作っている最中に、感動もゆっくり磨り減ったのだろう。創る者の性というやつだ。

 球体は巨大だが、かなり上の方で浮かせているので、地上にぶつかることはない。

 大渓谷中央の私達の根城くらいの高さまで来られると少々危ないが、ルートは制御しているので大丈夫だ。

 私の計算では、球体は大渓谷や大森林の上空を楕円軌道でゆっくりと旋回し、およそ一ヶ月ほどで最初の軌道に戻ってくる。

 

「さあさ、次は巨大浮遊氷土を作ろうか。南極もびっくり、近くを通るだけで壮絶な冬を体験できる予定だよ」

「はあ……」

「ふっふっふ、見ていろ天界民め。浮島は魔界の十八番と知るが良い」

 

 大規模な創造計画はまだまだ続く。

 

 


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