東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 恐竜のかわりに発展する哺乳類。

 新たに湧いて出た原始魔獣。

 地球は今、大いなる進化の過渡期にある。

 

 哺乳類が台頭してくれば研究も忙しくなるだろうとは思っていたが、原始魔獣も現れたことによって、その忙しさは二倍である。

 ただでさえ、植物やその他様々な生物達の観察なども平行して行わなければならないというのに、メインテーマが二倍というのは、こちらの手にも余る量だ。

 

 神綺はいる。彼女も原始魔獣の調査に付き合ってくれているので助かるのだが、それでも研究は、なかなか追いつかない。

 

 原始魔獣の研究を初めて数万年経っても尚、未知な事は後から増え続ける一方なのだ。

 

 

 

 総評として謎だらけという結論ではあるが、わかったことはいくつかある。

 

 まず、原始魔獣は不定形であるということ。

 魚のような形、陸上生物のような形、姿は様々で、頓着しない。

 そして驚くべきことに、動物以外の形を取ることもある。つまり、岩や樹木などだ。そういった彼らの形態や、生息する地域を見比べるに、原始魔獣達は周囲のものを真似しているのだと思われる。

 

 器用なことに、魚であれば魚らしい泳ぎ方をするし、ゾウであればゾウらしい歩き方をする。

 ところが原始魔獣の物真似も完璧ではなく、中には名状しがたい形状の個体もいて、そういったものは全く未知の移動法を取ったりもする。そういう生態は、見ていてまったく飽きないものだ。

 偶然だろうが、大きなトカゲに鳥の翼が生えたような原始魔獣を見た時には、ちょっとだけ驚いてしまった。彼らは複数の生物からも姿を参照するので、たまに幻獣っぽい個体もいるから、なかなか紛らわしい。

 

 

 

 原始魔獣の生死についても、いくつか判明した。

 

 まず原始魔獣がどのように生まれているのか、といったことであるが……それはもう、“発生している”としか言いようがないだろう。

 事実、彼らは最初、何も無いような場所からポンと生まれるのだ。

 おそらく霊的、魔力的なものが溜った場所から発生するのだろうが、詳しいことはわかっていない。

 

 生まれた当初の原始魔獣は、まるでスライムのような形態を取り、そこから時間を掛けて己を変形させることにより、魔獣と呼ぶにふさわしい格好を取る。

 姿は完全にランダムで、一つとして同じ姿はない。翼を手足のようにして歩く鳥もいれば、しっかり翼で空を飛ぶ鳥もいる。ちなみに面倒なので鳥と言っているが、そこまで鳥に似ているわけでもない。

 

 

 

 原始魔獣は長命で頑丈であるが、死なないわけではない。身体を大きく破損すれば息絶えるし、彼らにも血肉のようなものもある。

 実際に何匹かの若い原始魔獣の一生を追い、観察し続けたことがあったが、その生涯は、実に動物らしい捕食と生存の毎日であった。

 

 彼らの身体は非常に魔力的な性質が強く、通常の肉体とは異なる。

 そのためか、彼らは生きるために一般的な生物の血肉を必要とせず、常に同類である原始魔獣の血肉を求めてさすらっていた。

 原始的な欲求の言葉を張り上げながら、彼らは己の牙や爪や身体を使い、相手を絶命させる。

 そして喰らい、相手の肉から骨に至るまで、余すこと無く己のものとしてしまう。

 

 捕食を終えた彼らは一回り大きくなったり、形状を変化させたりと、自身に変調が訪れる。

 基本的には変調によって、確固たる姿へと近づく者が多いだろう。つまりは、現在生息している生き物のような、動物らしい姿だ。

 

 大きく、姿もしっかりと動物らしくなった者達は、原始魔獣の覇者とも言える。

 魔界へ流れ着いた原始魔獣たちの正体は、そんな地球での猛者であった。これは予想通り。

 

 対して、食われた方は消滅するのであるが、原始魔獣の死は、捕食だけとは限らない。

 中には、地球を歩いている間に高所から滑落して息絶える者もいる。

 そういった間抜けな原始魔獣たちは、当然屍肉を同類に食われることもあるのだが、中には原始魔獣に見つけられることもなく、時の流れと共に消滅してしまうような珍しい個体もいた。

 

 私は二、三回だけ、そんな魔獣を見かけたことがある。

 食われること無く死んだ原始魔獣の身体は、次第に靄のように霞み、煙となって宙に霧散し、消えてしまうのだ。

 

 それは、原始魔獣が生まれる際の“発生”を逆回しで見ているような、不思議な光景であった。

 

 

 

 原始魔獣は生まれ、食らいあい、そして大きく育ったものが、魔界へと消えてゆく。

 

 しかしそれは、大きく見れば魔界への一方通行。原始魔獣は魔界へと転移するばかりで、彼らの源である不可思議な気配は目減りする一方だ。

 

 となると、彼らはいつか、地上から姿を消してしまうのではないだろうか。

 全ての力は魔界へ送られ、原始魔獣の住処は魔界となってしまうのではないか。

 

 その可能性は、高い。

 いつの日か、原始魔獣達は皆、地球から姿を消すだろう。

 

 そこに何か不都合があるわけでもないのだが、地球の中に溶け込んでいる彼らを見る私としては、少々寂しい気持ちにもなるのであった。

 

 

 

「きゃー! ライオネルー!」

 

 ああ、また神綺が生物創造に失敗したようだ。

 

 今度はどんな珍獣を創りだしてしまったというのか……やれやれ、忙しいったらありゃしない。

 

 


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