東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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遺骸王の収穫


 

「神綺さん神綺さん」

「はいはい、なんですかライオネルさん」

「私の記憶によればこの土地には臙脂学派の第六学舎があったはずなのですが、どうして更地になっているのでしょうか」

「それはですねぇライオネルさん。ちょっと前にこのへんにいた悪魔たちが一斉に拠点を地上に移したせいらしいんですよ」

「なんとまぁ」

「協力関係にある人間たちを使って無期限契約、からの地上進出ですねー。やるとこはやってるんですよー」

「最近多いなぁ、地上進出」

「人間にも物分りが良いタイプが増えて来たそうですからねぇ」

 

 今現在、私達の目の前には広大な更地が広がっている。

 別にどこかのおっかない連中が腕ずくの立ち退きをしたわけではない。

 今現在、魔都ではこういった地上進出が盛んなのである。

 

 まぁわからないでもないというか、よくわかるというか。

 確かに魔界は比較的安全だし魔力も豊富にあるんだけども、様々な環境が用意されているかというとそうでもないからね。

 フィールドワークなんかは絶対に地上の方が良い。

 

「しかしナハテラ学長まで消えるとは思わなかったよ」

「結構学閥内でも争ってたらしいですけどねー。なんか喧嘩しちゃったみたいで、今魔界に残っているのは地上進出慎重派ばかりみたいです」

「袂を分かったわけか。……ところで魔法のことなのに随分と詳しいね、神綺」

「あんまり興味ないだけで、たまには興味を持ったりしますよ?」

「もっと私と熱い議論をぶつけ合ってほしい……」

「そういうのは趣味じゃないんですよねー」

 

 相変わらず魔法に関してはつれない女神様である。

 

 

 

 さて、この数百年間は色々あって私としても非常に充実した日々を過ごすことができた。

 まず何より、魔法クイズ大会が定期開催され始めたことが一番のニュースであろう。

 開催時期は五十年毎と私にとってはやや短めのスパンではあるが、人によってはあまり短くもないということなので、結構厳かな競技として認識されている。

 私は初回から引き続き筆記試験の一部を監修しているが、その役目ももうちょっとすれば誰かに委ねることはできるかもしれない。私としてはできれば採点か、答案を見るだけの役目がもらえたら嬉しいのだが……赤肌曰くもう少し手伝ってくれとのことだ。手伝えと言われては仕方ないので喜んで手伝わせてもらっている。

 実技試験の方は毎回形式が大きく変わるので、観客にとっては相変わらずそちらのほうが人気らしい。私も気にならないといえば嘘になるが、実技はまぁ……そこまでというか……あまり興味はない。

 筆記と実技の総合優勝者はその時によって結構変わる。ナハテラ学長も一度目の優勝以降もう一度だけ最優秀賞をもぎ取ったが、他の参加者も開催ごとに熱を上げているので順位の変動が激しくなっているようだ。

 なお、ちょっとしたクレームのようなものがあったので優勝賞品から魔法の栞は削除されることになりました。私は良いと思ったのだが……。

 

 それと、アリスが魔界に仮拠点を作ったのもニュースと言えるだろうか。

 彼女は地上の散策や地上での研究が活発だったのだが、今では魔都と地上を行き来して研究や人形制作に熱中しているようだ。

 魔都の土地を得るのは結構大変だったらしいが、魔法を研究する施設が多いので近くに住むのが得だと見込んだのだろう。色々吹っかけられたようだが、無事小さなお屋敷を建てることができたそうなので何より。

 近頃はルイズと別行動することが多いようだ。彼女は彼女で、単独での地上旅行を楽しんでいるとか。……この時期は旅をするのもかなり大変なはずだけど、大丈夫なのだろうか。

 排他的な人間の文化圏で旅行……私はちょっと想像するのも億劫なくらいだけど、ルイズなら諸々含め楽しんでしまえそうな気もするから不思議である。

 

「ライオネル、次地上に行く予定はありますか?」

「うん、もちろんあるよ。あるけど、具体的には決めてないなぁ」

「お土産が美味しいところでお願いしますね」

「はいはい、わかりました」

 

 相変わらず食い気ですね神綺さん。

 まぁお土産も旅の楽しみだけどもさ。

 

 そうだ。あまり重要ではない話としては、紅が中国(今の名前は知らないけどそこらへん)を旅している間に名前を少しだけ変えたそうである。

 一時期は(コウ)だけだと不都合があったらしく、今では紅美鈴(ホンメイリン)と名乗っているとかなんとか。

 前に一度だけ魔界に立ち寄った際は“向こうの魔族は皆武術に優れているので勉強になりますね”とかなんとか、現地の装束に身を包み嬉しそうに語っていた。

 

 アリスはローマかぶれになったけど、どうやら紅、いや美鈴(メイリン)は中国かぶれになったようだ。

 ローマにも立ち寄る予定だったのがそのずっと手前を気に入ってしまったか。わりと適当な彼女らしいといえばらしいのだが。

 

「私はやっぱり、有名人がいる所か……この時代にしかない観光名所とかの方が良いなぁ」

「オダノブナガとかですか」

「そうそう、そういうやつ。ただ私も有名所しか知らないんだけどね。……戦国武将もなー、楽しむならもっと勉強しておけばよかったな……詳しい友達はいたのに、なぜあの頃の私は何にも興味を持てなかったのか……」

「まあまあ。ライオネルは魔法に詳しいから良いじゃないですか。そういうのでもいいと思いますよ」

「魔法の有名人か……」

 

 魔法に関する有名人。

 クイズ大会のアンケートじみた調査によれば、ある一人の魔法使いの名前が思い浮かぶ。

 

「魔法使いマーリン。ふーむ……」

 

 またの名を魔法使いメルラン。

 

 ……色々と穏やかではない噂も耳にするし、会うならば今のうちであろうか。

 

 


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