東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 三日目ともなれば、人によっては簡単な問題であれば全て先に終わらせている頃だろうか。

 しかし半日置きに挟まる時間問題が、彼らの集中力を奪ってゆく。

 100番刻みの問題は未だものによっては複数回答が残っており、答案に書き込む余地が残されている。嫌らしいのはその配点で、そこらへんの簡単な問題よりもずっと配点としては恵まれていた。

 当てれば高配点。たったそれだけで簡単な問題いくつかをペイできるほどだ。

 しかし多答問題は誤答によって減点が発生するので、適当な受け答えはできない。

 

 とはいえ、既に時間問題も回答者が煮詰まっている。数分後、数十分後程度は気にせずとも問題ない頃合いだ。

 だからこそ参加者の一部はじっくり答えについて話し合ったり、調べ物をしたりしているわけなのだが……。

 

「この程度の問題で頭を捻っている連中はまるで駄目ね」

 

 幽香が言うところによれば、そういうことらしい。

 

「何が駄目なんだい」

「こんなもの適当に答えておけば良いのよ。大量得点を狙いたければ、最初から終盤の問題について思索を巡らせるべきね」

「なるほど」

 

 かくいう幽香も900以降の問題に取り掛かっているようだ。

 机の上には何枚ものメモ書きが並べられ、彼女なりの計算が記されている。

 

「……しかし幽香の場合、誤答しすぎて積み重なった減点を取り戻すためにほぼ無茶して正解をもぎ取ってるようなスタイルのように見えるのだが……」

「ライオネル・ブラックモア。邪魔よ。向こうに行きなさい」

「はい」

 

 運営は参加者の邪魔をしてはいけない。

 そういうわけで、私は早々に幽香から離れたのであった。

 

 ちなみに幽香の得点は今の所……まぁ、そんなに……という感じだろうか。

 闘えば器用だし色々できるけど、魔法を知識として知っているかというと微妙なところ。彼女はそんな魔法使いのようだった。

 

 

 

「うっわ来た……」

 

 ふむ。近づいた瞬間になにやら凄い顔をされ凄いことを言われてしまった気がするな。

 しかし私の優秀な記憶野は“きっと気のせいさ”というポジティブさに逃してはくれない。エリスのその呟きは紛れもなく私に向けられたものであるようだった。

 

「これでも運営側のスタッフなのでね。やあエリス、久しぶり」

「……今忙しいので……」

「ちゃんと解き終わったのを見計らってから来たのだ。その手にしてるカップは、これから休憩に入るために用意したのだろう」

「チッ……」

 

 この見るからに反抗的な悪魔はエリスという、少し前からサリエルの部下としてこき使われている悪魔である。

 サリエルの部下となったきっかけとしては、どうにもバリバリの悪魔だったエリスがサリエルを色仕掛けだかなんだから堕落させようとしていたらしいのだが、まぁ明らかに選択ミスであったと言えるだろう。

 堅物かつ一途すぎて口から出る砂糖がサッカリンになりそうな堕天使が相手なのだ。詳細は知らないがそんな作戦がうまくいくはずもなく、こてんぱんにされて今に至るという。

 そんな間抜けそうな来歴を持つエリスだが、しかし魔法の実力は悪くない。むしろこの大会においてはかなり高水準であろう。

 夢月と幻月の二人が参加していれば悪魔部門の勝負はわからなかったかもしれないが、あの二人は小悪魔ちゃんを見た瞬間にバックレを決めたので不参加だ。

 なので私としてはかなり注目している参加者である。

 

「なんでここにいるのよ……」

「私かい」

「あなたもだけど、あの小悪魔よ。あのね、私はあの駄天使から“たまにはこういうものに出て羽を休めると良い”って言われてここに来たのよ。それがどうしてあのお方と一緒の会場にぶちこまれてるわけ? 神族風の嫌がらせなの? 悪魔なの?」

 

 おお、彼女と初めて顔を合わせてからろくに喋ったことはなかったんだけど、こんなにべらべらと会話してくれるもんなのか。

 思い切って声をかけてみてよかったよ。

 

「まあまあ、せっかくなのだから休憩にしたらどうかな。お茶は私が淹れてあげよう」

「砂糖とミルクたくさん!」

「はいはい」

 

 エリスは随分やけっぱちというか、荒れたご様子である。

 しかし無理もないことか。私はあまり考えずに誘ったのだが、なかなか小悪魔ちゃんの影響力は大きいみたいだしなぁ。

 悪魔たちにとっては雲の上の上司がいきなりやってきたようなものだろうか。

 コンビニの支店を見回りに来た本社の部長とかそんな感じか。

 

「甘くておいしい」

「それは良かった。……クイズとかは、お嫌いだったかな」

「え? いやー……嫌いってわけじゃないけど……あ、神綺様これ聞いてないよね」

「聞いてないんじゃないかな」

 

 多分。クイズ大会はあまり興味ないと思うし。

 

「そ、じゃあ変にかしこまることもないか。……クイズとか魔法とかは元々好きだったからいいのよ。けど、小悪魔とか幽香とかと一緒にいるのは嫌でしょ?」

「幽香もなのか」

「どう考えても嫌でしょあの人! 怖いもの! 噂によると双子姉妹をボコボコにして自分の別荘を建築させた挙げ句、マンドラゴラ農場で耳栓無しの収穫作業を畑二十面分やらせたっていうし!」

 

 変に具体的なところに信憑性があるな……幽香そんなことしてたのか。

 マンドラゴラを畑単位で収穫してたら強度のある悪魔でもかなり大変そうだぞ。

 双子もよく生きてたなぁ。

 

「ああ、来るまでは楽しみだったのに。さっさと終わらないかなぁ……ねえ帰っちゃ駄目?」

「だめです」

「ぁあああああ……!」

 

 いや本当は多分失格扱いで退場とかなら良いんだろうけど、帰ってほしくないので駄目です。

 是非とも最後まで頑張ってほしい。君ならばできる。

 

「あのーすいませんライオネルさん。この問について質問がー」

「ヒェッ」

「ああ小悪魔ちゃん。どれかな」

「これなんですけどねー……」

 

 色々な出会いだったり遭遇だったりが多い今大会。

 三日目に至ってもまだまだ順調である。

 

 

 


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