東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 私が作り上げた四十体の人造ドラゴンは、不老不死を得たまま長い時を過ごし、アマノと共にパンゲアで生き続けていた。

 残念ながら“慧智の書”による恩恵は得られていないが、長年の経験やアマノの神託によって、それなりの柔軟性を備えてはいる。

 

 翼と腕を持ち、他とは違った堅く鋭い鱗を持つ、不老のドラゴン。

 彼らは塔の守護者として、アマノの手足となり、様々な任務を遂行し続けてきた。

 

 魔界へ訪れたドラゴンも、任務の一環だったのだとか。

 

『驚かせちゃったなら謝るわ。どうしても試してみたくてね……』

「まぁ、驚きはしたけど……こうして私達が会う切っ掛けになったんだから、気にしてはいないよ」

 

 アマノは、自分を、つまり塔内部の機能を操作できる。

 それは、数多の生物の信仰を一身に受けているからこそ成せる、高度な力技だ。

 

 竜骨の塔はもはや、月や星々の運行によって魔力を供給する存在ではなくなった。

 アマノは常に莫大な魔力を行使することができ、その力は供給され続け、尽きることがない。

 魔力の使い方は現在勉強中であるとのことだが、魔界行きのゲートを起動できる域にまで至ったのだ。ほとんど最終機能に近いそれを使える時点で、アマノの魔力操作は完璧に近いと言えるだろう。

 

 

 

『へえ、それじゃあ魔界っていう所は、地球からはなかなかいけない場所なのね』

「そうそう」

 

 けど扉を開く能力的には、今最も魔界に近いのは間違いなくアマノだよ。

 

『何千万年も前の植物や虫がいる……なんだか、ワクワクしてくるわね』

「ああ、まあね……」

 

 とはいっても、いるのは可愛げのない虫ばかりだ。

 植物もほとんどシダばっかりだし。シダ、どういうわけか、やたらと高く成長するし。

 謎のアホ毛生物はたくましく生きてるし。

 

「そうだ。恐竜たちを住まわせるための森林区画を、この前作ってね」

『区画? 森林は元々作ってるんじゃないの?』

「うん、まああるんだけど。恐竜達だとほら、大きいだけの虫なんて、簡単に餌にしちゃうだろうから」

『ああ』

 

 古代の生物と、今現在の恐竜。戦ってどちらが勝つかといえば、考えるまでもないことだ。

 当然ながらそういった生物は、一緒の場所に放り込むわけにはいかない。恐竜が一人勝ちしてしまうよ。

 種の平等化を図るためには、しっかりと区画整備された場所で、別々に管理する必要がある。

 

「それでさ。できればこの大陸にいる恐竜たちを、いくらか魔界の方に分けてくれると嬉しいんだけど……」

 

 私は自信なさげに、アマノに訊ねた。

 アマノは恐竜たちに崇められ、恐竜たちを手助けし、神としてこの世に君臨している。

 恐竜の何体かを分けろというのはつまり、アマノの信者を拉致することでもあるのだ。

 

『私は構わないわよ』

「えっ、いいの」

『うん。だって沢山いるもの』

 

 そんなどんぶり勘定で良いんですか、神様。

 

『仮にライオネルが恐竜たちをバラバラにしたって、それは必要なことなんでしょ?』

「必要……うーん、まぁ、必要ではあるんだけど」

『なら、良いんじゃない。誰かに必要とされて、隅々まで使って貰えるなんて……この世界では、なかなかあることじゃないもの』

 

 アマノ、結構ドライである。

 いや、むしろ自然界の神様としては当然なのか。

 殺生はいけません、なんていうのは、むしろ人間が生み出すような倫理観なのだろう。

 

 アマノが許可を出すなら、何も気兼ねはない。

 既にドラゴンは完成と言える段階まで成長してしまったけど、恐竜たちにも魅力はある。彼らの一部には、是非とも魔界に移住してもらうとしよう。

 そして神綺を背に乗せて、ご機嫌を取ってもらうのだ。

 

 

 

 

 私が竜骨の塔の構内を歩いていると、よくドラゴン達とすれ違う。

 ドラゴンたちは二足歩行で歩き、体幹をわずかに左右に揺らしながら、しかし既存の恐竜とは違って両翼によってうまくバランスを取り持ち、なかなか上手に歩いている。

 

 実は、私が彼らとすれ違う度に、彼らはしばらく私をじっと眺めてくるのだ。

 しばらくじろじろ不躾に眺めると、フンと鼻息でも鳴らしそうな素振りでそっぽを向き、歩き去ってしまう。

 毎度のことではあるのだが、一応の生みの親であるだけに、これがまたショックなのだった。

 

「私、嫌われてるのかなぁ」

 

 心当たりはある。

 彼らにしたことといえば、身体に刃物を入れ、別の生物を無理矢理継ぎ足し、そして様々な魔術をかけたくらいのもの……。

 

 冷静に思い返せば、なかなかの極悪っぷりだ。嫌われていないほうがおかしかった。

 

『あら、そうかしら? むしろ彼らは、あなたに感謝してると思うけど』

「え?」

 

 アマノはどんよりと項垂れる私に、どこからともなく(内部だけど)励ましの声をかけてくれた。

 

『ドラゴン。翼と腕を持つ彼らは、私の近衛。彼らは他の恐竜とは違う自らの能力や生命力に、強い誇りを抱いているの』

「誇り……」

 

 ドラゴンに、誇り。どうしてかその二つは、私の先入観もあって、しっくりきた。

 

『さっきライオネルを見ていたのだって、偽物じゃないかって、入念に確認していただけよ。彼らは塔の守護者として、侵入者にはとても厳しいから』

「なんだか、格好いい役目だなぁ」

『言葉が通じるなら、言ってあげてほしいわ。彼ら、きっと喜ぶと思う』

 

 なるほど、私をよく見て確認していたのは、不審者かどうかの確認を取っていたわけか。

 任務に熱心な、忠実な塔の守護者。なるほど、その切っ掛けを作ったのが私だから、むしろ彼らドラゴンは私に感謝……ん?

 

「でもアマノ。彼らが私に感謝してるなら……別にジロジロ見るまでもなく、すぐに通してくれても良かったんじゃ……?」

『ああ……彼らも、頭がいいわけじゃないからねぇ。思い出せば感謝するだろうけど、ライオネルのことはもう忘れてるんじゃない?』

「……そっかー」

 

 アマノは結構、適当な神様だった。

 

 


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