東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 神綺はドラゴンを抱いて、ご満悦。

 ドラゴンの方も大人しく撫でられている。なんとなく寂しい気分になったけど、まぁ、あれはあれで良いだろう。

 

 そんなわけで、魔界にやってきたドラゴンの謎を調べるために、私は地球への扉を開くことにした。

 少しでも早く、この異常事態を把握しておかなければならない。

 地球で今、一体何が起こっているのか。

 

「じゃあ、神綺……」

「やーん鱗がザラザラしててかわいいー」

「……うん、いってきまーす」

 

 というわけで、調べに行こう。そうしよう。

 

 

 

 私は白い靄のゲートをくぐり抜け、地球へやってきた。

 

 場所は、骨の塔から少し離れた、別の場所である。

 ドラゴンが勝手に魔界にやってくるような異常事態だ。骨の塔に直接乗り込むような真似はできない。

 

「……ん!?」

 

 赤土の地面を踏みしめ、顔を上げる。

 地球の異常はすぐに、私の体全体が察知した。

 

「なんだ、これは」

 

 地球の姿は、少し変わっている。

 大きな絶滅もあったのだろう。生態系に大きな変化が生じたためか、植物が様変わりしているように思えた。私が留守の間に、進化したのかもしれない。

 

 だが真っ先に感じた異常は、視覚に飛び込むそれよりも遥かに大きかった。

 

「……ピリピリする」

 

 ここは地上だ。何の変哲も無い地面と、樹木。遠くには山も見える。至って普通の光景に違いなかった。

 しかしそれでは、痺れるような刺激を肌に与えてくるこの気配は、一体何だというのだろう。

 

 辺りの植物は正常なので、空気中に有害物質が充満しているようには思えない。

 特別私の身体に不調があるわけでもないし、地球の見た目がおかしいというわけでもない。

 じゃあこれは……。

 

 記憶を辿って、私は以前にも、この感覚を経験していることを思い出す。

 私の記憶は絶対だ。忘れるはずもない。

 

 確かあれは、私が生み出した女神を、私の手で殺め、解体している時に感じた……。

 ビリビリと痺れるような、仄かな刺激。

 

「まさかな」

 

 一抹の不安を抱き、私は“浮遊”によって浮き上がった。

 空中においても、尚も感じる圧迫感。まるで氷土の中に閉ざされた時のような息苦しさだ。

 

 肌を突く感覚は、主に背中から伝わってくる。謎の力の発生源は、背後ということだろう。

 身体を半回転させ、振り返る。

 

 そこには、骨の塔が高く聳え立っていた。

 

 高く……高く。そして、大きく。

 私が最後に増築した時よりも、遥かに高く、巨大に。

 

「……あれぇー」

 

 視界の向こうで、悠然と天を衝く巨大な骨の塔。

 あれは確かに骨の塔だ。私が建てたものであろう。朧気ながらも、面影はある。

 しかし、規模がおかしい。私はあそこまで高く建てたつもりはない。どう見積もっても、三千メートル以上の高さがあるのではないか。

 

 私は、骨の塔の建築に際して、かなり入念に計算を行い、強度の上限を探ったつもりだ。

 そりゃあ、私も完全ではない。計算に多少の誤差もあったかもしれない。それでも、あれほどまでに超大な建築がまかり通るほどの計算違いをした覚えは無かった。

 例えあの塔の中身がスカスカだったとしても、あの高さでは、底部から砕けて崩壊するのが目に見える。

 

 何故崩れない?

 いや、そもそも、あの塔は、何故成長している?

 

「……あ」

 

 よく見れば、塔の周囲では小さな影が躍っていた。

 私は最初、それを翼竜のものかと思ったが……おかしい。翼竜は滑空を主とする恐竜で、決して空中で何度もはばたくものではない。

 

「まさか、あれが全てドラゴン!?」

 

 魔界にやってきたくらいだ。塔の外に出ていたとしても、なんらおかしくはない。

 よく見れば、塔は既に“越冬計画”を解除し、優美な骨造りの姿でそこにある。なんとあの塔、勝手に成長しているばかりか、私の術まで勝手に解けているのだ。

 

 術を解く。それは、言うほど簡単なものではない。私の魔術は過保護とも言える魔力供給源の確保によって、半永久的に稼働し続けるはずなのだ。

 骨の塔が倒壊しないばかりか成長しているというのに、中に構築した“越冬計画”が解けるなど、有り得ないことだった。

 

「ありえない」

 

 私は“浮遊”による出力を高め、空を颯爽と飛びながら、塔へと近づいてゆく。

 

 超大陸パンゲア。地球上のほとんどの陸地は、今この場所に密集し、巨大な一つになっている。

 陸はここだけ。建てた塔を見間違うはずはない。

 だが、あれは……。

 

 力の波動を発し続ける、あの塔は、まるで……。

 

 

 

『――あら、戻ってきたのね』

 

 

 

 私はその時、世界中に響くかのような、凛とした女の“声”を聞いた。

 

 


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