東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 その後、私は弦楽器を作ったり、魔導書に書き足したり、マジックアイテムを作ったり、弦楽器を作ったり、植林に勤しんだり、弦楽器を作ったり、様々なことをした。

 熱中できるものがあるというのは、実に素晴らしい。それが未来に繋がるものであるならば、尚更だ。

 

 見てくれが怖く、声がおぞましく、威圧感を与えがちな私。

 神綺は最初から親身に接してくれたが、きっと私は、初めて会うような相手に、そう容易に受け入れられる姿をしていない。

 こちらとしてはフレンドリーに付き合っていきたくても、向こうの方から先に逃げ出されたのでは困る。

 

 芸は身を助ける。ならばほんの少しでも相手の警戒心を解けるようにと、私は弦楽器の練習を繰り返した。

 さすがに弦楽器は経験がなかったので製作の研究から入らなくてはならなかったが、管楽器は軒並みアウトだとわかっていたので、いっそすがすがしい気持ちで開発することができた。

 思いの外難しく、満足のいく道具を創るだけでも数百年ほどかかってしまったが、出来てしまえばこちらのもの。

 神綺と一緒に何年も演奏を重ねていくに連れ、奏法に関しては人間だった頃のフルートを遥かに凌ぐ腕前になってしまった。当然とはいえ、ちょっと悲しかった。

 演奏が上手くなるにつれて作曲という課題も逐次出てきてしまったが、それもそれで楽しい作業である。

 ……モーツァルトさんの曲をかなりパクってしまったけど、大丈夫だろうか。

 

 音楽に関しては、そんな感じ。これで魔界の住人の心を豊かにできる。地球での活動にも役立つかもしれないし、趣味なわりに、かなり有意義な時間の使い方であった。

 

 

 

 なんて、呑気に魔界でのひと時を過ごしていた私だったのだが。

 まさかそんなのんびりとした日々の中で、あんな大事件が起ころうとは。

 

 シダの梢に立ちバイオリンをギイギイと弾くその時の私には、知る由もなかった。

 

 

 

 

「ライオネル! 大変です!」

「うん?」

 

 いつものようにバイオリンの練習をしている私のところに、神綺が瞬間移動で現れた。

 珍しく慌てた彼女の様子に、サビ一歩手前のところでノリにノっていた私も、思わず手を止める。

 

「どうしたの。以前の十五メートル級のアホ毛生物を創りだしちゃった時みたいな慌てっぷりだけど……」

「それどころじゃありません!」

 

 何、五十メートル級でも創っちゃったのかい。

 

「ドラゴンです!」

「え」

「ドラゴンが、森に現れたんです!」

 

 そんな馬鹿な。

 思いつつ、私は神綺の手を握って、一緒に瞬間移動した。

 

 

 

 

 魔界の上空。大渓谷を囲む大森林を見下ろす形で、私達はそこに現れた。

 そして移動してから、すぐに神綺の訴えていた異常を理解する。

 “どうせアホ毛生物が空でも飛び始めたんだろう”なんて想いも、簡単に打ち砕かれた。

 

 私の眼下に映る赤い鱗のそいつは、紛れもなくドラゴンだったのだから。

 

「ええっ、なんでここに!?」

「あれ、ドラゴンですよね!?」

 

 私大慌て。神綺どこか嬉しそう。

 初めてみるドラゴンに喜ぶ気持ちはわかる。だって、あいつ翼をはためかせて、飛んでいるんだからね。そんな姿を見たら嬉しいに決っているとも。私だって嬉しいさ。

 

 でもその光景は、魔界で見られるべきものではないはず。

 ドラゴンがはばたく。大いに結構。

 

 けどそれは、私が地球に戻ってから見られるべきものではないのだろうか。

 

「ドラゴンは、全て地球にいるはずなのに……」

「どうやって魔界にやってきたんでしょうか……」

 

 神綺と一緒になって考えるが、答えは出てこない。

 骨の塔にいるはずのドラゴンが、魔界に迷い込んだ。はて、どういうことだろう。

 

 私がふーむと悩んでいると、眼下のドラゴンが首をこちらに向けてきた。

 

「えっ、嘘」

 

 ドラゴンがこっち向いてくれた。しかも翼をばさばさと動かして、こっちに近づいてくる。

 

 すごく嬉しい。嬉しいんだけど……ものすごく怖い!

 

「ら、ライオネル! あれって私達と遊びたいんじゃ……」

「ポジティブだね神綺! 良い事だけど、今はちょっと距離を取ろう!」

 

 今にもドラゴンに飛びつきそうな神綺を引っ張り、迫り来るドラゴンとは反対の方向に空を飛ぶ。

 

 ドラゴンの飛行能力は高く、本気を出して飛べばすぐに私達に追いつけそうなものだったが、向こうも警戒しているらしい。

 一定の距離を保ちながら、じりじりと距離を詰めている。

 

「……賢いな」

 

 ドラゴンの様子を見て、私は重く呟く。

 

 当然のように翼を動かして飛んでいることにも驚きだが、何より私は、ドラゴンがなにやら、思惑をもって飛んでいるという事が信じられなかった。

 

 翼をつけたのは私だ。だからそれを使って、長い年月をかけて空を飛ぶ術を得たとしても、別段おかしいことではない。

 しかし頭の良さまで備わっているらしいこの様子は、どうしてもおかしいのだ。

 

 私はまだ、恐竜を繋ぎあわせただけのドラゴンに高い知能を植え付けていない。

 植え付けようとしてはいたが、地球にいる時にはついぞ一度も成功しなかったのだ。

 

「ライオネル、なんだか……この子、大丈夫みたいですよ?」

「あ、こらちょっと、神綺!」

 

 神綺が私の手から離れ、ドラゴンのもとへと近づいてゆく。

 神綺は神。人造の竜にやられることはないだろうが、噛まれたりしっぽで吹き飛ばされる彼女を見たくはない。

 

 ところが私の焦りとは裏腹に、ドラゴンは接近する神綺を一瞬だけ警戒はしたものの、にこやかな彼女に害意がないと見るや、和やかにホバリングなどをし始める。

 神綺は動きを止めたドラゴンに好意でも感じたのか、長い首に抱きついたが、それでもなおドラゴンは動く様子がない。

 

 向こうにも、害意はない。温厚だ。

 そしてこちらの危険性を探り、測ることができる。

 

「……やっぱり頭がいいぞ、こいつ」

「当たり前ですよ。ねー?」

 

 ねー、じゃないよ。

 

「……一体、何が起こっているんだろうか」

 

 魔界に現れた一匹の竜。

 抱きつく神綺。されるがままのドラゴン。途方にくれる私。

 

 ……どうやら、早急に地球に戻る必要がありそうだ。

 

 


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