東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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遺骸王の軽躁


 

 ルイズとアリスは“恒久的な魔界との扉”により、魔界から外へと出た。

 それは私からのルイズへの給金でもあり、アリスの権利でもあったのだが、せっかく二人が外界を見て回るということなので、その際に私は二人へ頼み事を託しておいた。

 

 二人へ依頼したのは、“魔力が豊富かつ人が寄り付かないような場所”を探すこと。

 つまりは魔力の流れる龍脈が部分的に露出した場所であるとか、地形属性的に魔力が豊富な場所でいいところチョイスしてほしい、という注文である。

 

 が、言うは易しだ。

 魔力臨界で無理矢理こじ開けるよりかは楽ではあろうが、常に魔界と接続するゲートを保持できる魔力など、地上ではそうそう見られたものではない。

 なので私は、地道に探しても果たして見つからないだろう……と、内心期待はしていなかったのである。

 

 しかし二人は、百数十年のうちに見つけたのだという。

 魔力が豊富かつ、人気の少ないベストスポットを。

 

 ……まぁ、どうも聞いている限りでは、激しく訳アリそうなのだけども。

 

 

 

「ありがとう、ライオネル。私達、もう一度ローマに来てみたくてね」

「この程度なら構わないよ。魔界でゲートを作る際は、結構出口も自由だし」

 

 ということで、その訳アリとやらを確認するため、私はルイズとアリスと共にローマへとやってきた。

 しかし、目的地はローマというわけではない。ここから更に北西へ進んだところにある島、ブリテン島こそが目的地らしかった。

 要するに、イギリスである。

 

「でも、大丈夫なの? ここからはかなり距離があるんだけど……」

「うん。結構歩いたわよね、ルイズさん。……治安のこともあるし、確かにそれなりの時間がかかるかも……」

「ああ、寄り道がってこと? 別に良いんじゃないかな。私も色々見てみたいし」

 

 二人はここから現地までの距離が遠いことを気にしているらしいが、現地の魔力が減るわけでもないので別に私は気にしていない。

 そもそもここからちょっと歩いた程度で薄くなったり消えたりするような地形的魔力など無価値である。

 常に、末永くそこに存在し続ける魔場は、仮に二千年近くの寄り道をしたとしても問題は起こり得ないものだ。

 そして単純に、数百年ぶりのローマへの興味もある。

 旅行したいと二人が言うのなら、私としては数百年くらいは随伴しても構わないのだ。

 河勝は……まぁ彼自身はあと数百年生きても不思議ではないから、しばらくは会わなくても大丈夫だろう。

 

「……ライオネルさん」

「うん? なんだいアリス」

「今のローマは結構ピリピリしてるから、あまり変なことして怪しまれないようにしてね」

「こら、アリス」

 

 ルイズはアリスの物言いを失礼だと窘めているが、うむ。

 実のところ彼女の懸念は常に私について回ってきたから、その先見性はお見事という他ない。

 

 だが!

 最近の私の用意周到さをあまり舐めてもらっては困る。

 

「ふっふっふ。アリスよ、君は私のことをとても怪しい不審者か何かだと思っているようだが……」

「違うの?」

「いや違う。私はね、これでも以前ローマに来たことがあるのだ。そこで培った経験を活かせば、ローマの空気に溶け込むなど月へ旅行するより簡単だ」

「それ簡単……えっ、前にも来たことあるの?」

 

 アリスは怪訝そうにしているが、事実である。

 まあ、数カ月もいなかったので住んでいた、とは言えないのだが、言葉は覚えているし町中を歩くことも多かったので、体験済みと言って何らおかしくはないだろう。

 

「実はこのローマには、知り合いの魔法使いがいてね。エレン・ふわふわ頭・オーレウスというのだが」

「何?」

「エレン・ふわふわ頭・オーレウスというのだが」

「ごめん、もう一度」

「エレン・ふわふわ頭・オーレウスというのだが」

「……そう」

「気持ちはわかるが本当なんだ。アリス。ちょっと待とうか。先歩かないで。いやこれは本当でね? 作り話ではなく」

 

 いや! まあエレンの記憶を改善するために住み込みしてただけではあるけど!

 私は本当に一時期ローマで暮らしていたんだ!

 そんな露骨に市場見学を始めなくたって良いじゃないか!

 でもエレンの名前で嘘みたいだって思う気持ちだけはよくわかるよ!

 

「ふふっ……ライオネル、ローマの警らに捕まらないように気をつけてね?」

「ええ。ルイズまで……」

「アリスの言うことも、あながち間違いではないのよ。ローマは兵士も頻繁に巡回しているし、異国風の怪しい人を見つけると取り締まってくるかもしれないわ。私たちは見た目に危険がなさそうだから平気だけど、ライオネルは背が高いから、声をかけられるかもしれない」

「む……なるほど」

 

 確かに、背が高いのは悪目立ちするし、威圧感を与えるだろう。

 前回は肌を覆い隠して仮面をつけ、商人を装って歩いていたが、今日も同じ手が通用するとは限らない。

 ……うむ、ルイズの言う通り、なるべく大人しく旅行を楽しむとしようか。

 

「さ。アリスが先行っちゃったわ。追いつきましょう」

「うむ。あ、そうだ。この後少しだけ、寄りたい店があるんだけど大丈夫かな? 今もいれば、同じ場所に知り合いが開く魔法の店があるかもしれない」

 

 そういえば、今エレンはどうしているのだろうか。

 “研忘の加護”もあるし、私の事を覚えているかは微妙なところだが、せっかく近くに来たので会いたいものだ。

 

「あら、魔法店……それは素敵ね。もちろん良いわよ。前に地上を見て回った時はそういうお店ほとんど見なかったから、私も行ってみたい」

「ひょっとしたら無いかもしれないけどね」

「そのお店の人が、エレン……なんとかっていう人?」

「そうそう」

 

 エレン・ふわふわ頭・オーレウス。

 彼女はまだ、同じ場所で店を開いているのだろうか。

 

「……さっき言った名前、本当なの?」

「本当なんだなこれが」

「へええ……不思議な名前ねえ」

「本当にねえ」

 

 当初の予定はブリテンにある……のだが、どうやら現地につくまでには、もう少しだけ時間がかかるようである。

 

 


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