「ゴッ――」
「カハッ……」
ふらつく人間など、案山子も同じ。刃を突き立て、細切れにするなど造作もない事だ。
「
十六人。
連中の傍らを颯爽と通り過ぎる頃には、全ての敵が両の手足を失い、地に倒れていた。
多少、雑に腹や首を掻っ切った者もいるが、些細なことであろう。
これだけの人数がいれば、何人かは情報を漏らすはず。
……見たところ、連中のほとんどは蠢いてはいるが、先程までのように動く様子はない。さすがに手足を生やせるほどに、人間を辞めたわけではなかったか。
「さて、死んだわけではあるまい。私の問に、答えてもらうぞ」
私は叛徒の無力化を確信し、そのうちの“大信”と呼ばれていた者の胴をひっくり返した。
「……な」
私は狂気じみた人相を脳裏に浮かべていたが、しかし、その予想は裏切られた。
「ォオ……害虫が……害虫ゥ……!」
「……お前……」
覆いを取り払ったそこにあった顔。
それは、既に人のものではなかったのだ。
――化け物。
まるでひねりのない言い方ではあるが、その表現こそがしっくりくるのだろう。
顕になった大信の顔面は、焼けただれた組織が強引に撹拌され、塗料として塗られたかのような不気味さを漂わせていた。
目鼻や口も、本来あるべき場所にはない。歪につり上がった口の端や目尻、それとは逆側に捻れた鼻……。
「なんと醜い……」
「ォオオ……! 貴様が、貴様が……!」
なるほど。捨て置かれた手足を見れば、それらも似たような状態にあるらしい。
おそらくは全身が爛れたような、不気味な姿に変容しているのだろう。
……私が切断した切り口からは、粘度の高い体液が漏れている。
血液……らしき色は残されているが、あのどろりとした液が体内を駆け巡るとは思えない。
何故生きているかもわからない連中の姿だったが、これはこれで有りえぬことではない。
むしろ、私の行動が正しかったのだと証明された形であろう。
……常世の神。こいつらは、何が何でも、止めなければならぬ。
「さて、妖怪よ。胴元の居場所を吐いてもらうぞ」
「グッ!?」
私は薙刀に“力”を込めて、大信の脚の断面を突いた。
ふむ、化け物ではあっても、傷口を抉られれば呻き、しっかりと痛みは感じるらしい。これならば、話は早く終わるだろう。
「言え」
「誰……が……神は……」
「言え」
「ぐぁッ……!? こ、この身が、裂……」
「言え」
「ぁあああッ! やめ、やめ……! ぐぅォオオオ! 神よ! 常世の神よ! 何故!? 助けてッ……!」
「いくら貴様らが頑丈であれ、死ぬ時は死ぬぞ? 試してみるか。最初はお前だがな」
「あああああッ! 言う、言います! 何でも、ァアアッ!」
「……ふん」
……何が神だ。何が助けてだ。
貴様らの信仰は所詮、我欲によるものでしかない。
……だからそうして至極簡単に、自らが窮地に陥った時、神ですら売ってしまう。
穢らわしい連中だ。
話が早いのは、好都合だがね。
その後、情報の確度を高めるために多少の乱暴は働いたが、連中の漏らした情報は同じだった。
嘘をついている者はいない。誰もが自らを守るために、全力で神や教祖を売ったのだろう。
一人くらいは敬虔な者がいても良かろうに。情けない話である。
……連中は、常世の神に仕える
常世の神の教えを広め、祠を拡散させるための敬虔なる下僕であり、教祖の手先であるとのこと。
彼らは幼虫を崇める集団であるが、それにはやはり、胴元となる人物がいたらしい。
全ての元凶、その名は
あろうことか仮にも朝廷に仕える者の一人が、諸悪の根源であったのだ。
……拠点は駿河国。
不尽河の畔に、常世の神を祀る大祭壇があるとのこと。
彼ら覡の持つ禍々しい不死性は、この多から授けられたものであるそうだ。
財を投じ、強く祈り、求めた者にだけ与えられる、不老不死の力。
その力を得る代わりに、彼ら覡は常世の神の、多の手先として大和中を駆け巡っている、と……。
「愚かな」
愚かしいことだ。
そのような醜い姿に、醜い生き様を晒してまで、長く生きたいというのか。
……いや。これは、私が言えたことではなかったか。
しかし、これで必要な情報は聞き出せた。
連中の本拠地は駿河にあり、総大将は大生部 多である。
私を“害虫”として襲ったのは、全ての覡の長である多の指示である。……何故私なのかは、わからないらしい。
……ふむ。だが要は、駿河は不尽河へと赴き、多を討てば良いということだ。
よし。色々と駆け回ったが、ようやく最後の目的が見えてきたぞ。
多よ。
奇妙な呪術で人の寿命と財産を弄んだ罪は、決して軽くはない。
必ずやこの私が貴様を見つけ出し、その首を掻っ切ってくれよう。