東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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遺骸王の郷夢


 恐竜は強い。

 そりゃあ当然、一時代の名声を欲しいままにしていたのだ。強いに決まっている。

 大きな身体、大きな口。長いしっぽ。でかいイコール強いを地でゆく派手なビジュアルは、いつの時代も子供たちに大人気だ。

 実際、見た目だけでなく、細々とした部分で時代に有利だったというのもあるのだろう。

 世界最強というだけの理由は、もっと沢山あるはずだ。

 

 でもドラゴンはもっと強いからね!

 恐竜よりももっとでかいし! 飛べるし! 火吹けるし! 魔法効きにくいし! あと素材が色々使えて便利だし!

 

 そう、ドラゴンである。

 恐竜は私も好きだ。でもドラゴンはもっと好きです。

 当たり前だ。子供に聞いてみなさい。恐竜とドラゴンどっちが好き? って。絶対にみんなドラゴンって言うから。

 

 しかし、まことに残念ながらドラゴンは実在しない。人間が生み出した空想上の生き物である。

 見た目としては、いてもおかしくなさそうな感じではある。

 恐竜にもうちょっとエッジ効かせ、背中にプテラなんちゃらっぽい翼をつけて、口から炎のブレスが吐けるようになれば、それでもうドラゴンの完成なのだから。

 

 だが運命の悪戯か、地球はドラゴンという生物の存在を許さなかった。

 大きな胴体に飛行能力は不必要と翼はつかず、エッジの効いた格好良すぎるフォルムを持つ個体は他種の嫉妬と反感を買うために淘汰され、生物として生肉好きのために炎のブレスさえも封じられてしまった。

 

 地球は、もはやドラゴンを自然に生み出さない。

 ならば、私自身が作るしかないだろう。

 

 幸い、ドラゴンの近縁種であろう恐竜はたくさん存在する。

 彼らを観察、研究してゆけば、ドラゴンへと至る道が見えてくるかもしれない。

 現代的な感性からすれば多少、人道的でない方法も選択してゆかなければならないだろうが、この機を逃せば、恐竜は絶滅してしまう。

 恐竜が台頭する期間は長いとはいえど、悠長に構えてはいられない。恐竜がいなくなってしまっては、私はコモドさんやイグアナさんからドラゴンを作るしかなくなってしまう。そんなロマンの欠片もないドラゴンは嫌だ。

 

 と、いうわけで、当面の目標はこれだ。

 

 魔界の住人として、ドラゴンを作る。で、ある。

 

 

 

 

 魔界にある、神綺の大渓谷。

 豊かという言葉を勘違いしてしまったが故に生まれた、高低差と起伏の“豊か”な、広大な岩場である。

 周囲は大森林に囲まれ緑化されているのだが、大渓谷自体には植物は全く存在せず、過酷なままの岩肌がそのままだ。

 

 私も神綺も、基本的には魔界の大渓谷で活動している。変な虫が寄ってこないのは嬉しいが、やはり何の生物も居着かない風景は、若干の物悲しさがあるというもの。

 特に、空だ。魔界の薄暗く赤い空は、未だ何の生物の影もない。

 まだ鳥がいないのだからそれは当然とも言えるのだが、そんな景色の良さを知っている身としては、なんとか早めに、遠景に浮かぶ翼の影を拝みたいものだ。

 それが竜ならばなお良しというものである。

 荒々しい渓谷に、竜。この組み合わせほど雅なものはないだろう。

 

 なので、今回私がドラゴンを作る絶対の条件として、空を飛べる。これは絶対に外せない。

 当然滑空なんて軟弱な飛び方は認めぬ。羽ばたいて飛び立てるドラゴンこそ私の求めるものだ。

 

 そして、何よりも口から火を吐けること。これがなければ成体のドラゴンとは言い難いとも言える。

 とはいえ、さすがに私も生物が自然と炎を吐けるようになるとは思っていない。火を発生させる内臓なんてファンタジーやメルヘンみたいな便利器官を信じているわけでもない。

 なので、火吹きについては私の魔術でなんとかするしかないだろう。または、ドラゴン自体が魔術を使えるようになるとか。

 

 ……ファンタジーな世界においては、よくドラゴンは知能の高い生物として描かれることが多い。

 私もそれを狙って、ついでにドラゴンを賢くさせるのも良いだろう。

 

「……そうだ。なら、あれを使えば、もしかしたら」

 

 私は名案を思いつき、乾いた手のひらをポンと叩いた。

 

 “慧智の書”。あの本を使えば、もしかしたら――。

 

 

 

「ギャァ!?」

 

 考えてたら、またタックルされた。

 びっくりした。

 


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