東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 紙を作って幾星霜。

 

「じゃーん」

 

 はい、出来上がった物がこちらになります。

 

 紙部分のメイン素材はシダのみ。表紙などは他の生物による素材を拝借し、素材によって様々な色合いが思いのまま。

 紙一枚一枚が樹高十メートル以上にもなる木生シダの繊維によって丁寧に編み込まれ、まるで上質紙のような靭やかさと光沢を実現。

 全ページの紙繊維には魔導書職人ライオネルが数百年かけて編み込んだ属性魔術式、算術式、天体式が常時発動し、隕石の直撃にも耐えうる強度を確保。魔力源は近場に存在する生命からでさえ強引に吸収、運用が可能。

 

 うん? でも魔力源が無いと、劣化するんでしょうって?

 奥さん、心配ありません。

 

 今回紹介致しますこれは、魔力源の喪失による強度の劣化を防ぐため、書物内の魔力が低下すると同時に、なんと本が自動で転移魔術を発動。

 魔力環境の整った地域へと瞬間移動するので、魔力源が尽きることは一切ありません。

 仮に地球上から魔力が喪失したとしても、ご安心下さい。魔本は最終的に魔界の専用本棚へと転移するので、例え地球がぶっ壊れても大丈夫。

 

 本の装丁は全工程が魔界一の美女神、神綺によるオーダーメイド。人智を超えた美麗なデザインは、きっと西暦三千年までの皆様にご満足いただけることでしょう。

 

 「一生懸命頑張りました。これ、皮っていうんですね。最初は戸惑いましたけど、やってみると楽しかったです。今度はこっちでも色々作ってみたいです」 一億代 女性

 

 

 

 はい、まぁ、そういうことで。

 不滅の本が作れるようになったわけである。

 

「ちょっとやりすぎたかもしれんね」

 

 今現在で私が持てる知識と人脈(神綺)を総動員した結果、生まれたのがコレだ。

 試作としていくつも失敗作を量産してしまったけれど、とりあえず納得のいくものとしては、十三冊ほどが仕上がった。

 神綺も嬉々として手伝ってくれたので、表紙などの見た目は最高品質。検証と実験を重ね、本の耐久性も問題無しだ。

 本の内容は、以前から私が頭の中に溜め込んでいたものを放出した形になる。

 無尽蔵かつ正確無比な記憶力を持つ私にとっては、自らのための本というものはまったく不必要ではあるのだけど、これは私以外の他者へと向けた品だ。

 なので内容も、他人向きのものとなっている。

 

 ズバリ、出来上がったのは“魔導書”である。

 

 ここまで丹念に作っていくと、さすがに私も、物に対して情が湧く。

 貴重な本に脳内妄想ファンタジーなどという陳腐な代物を書き記すわけにもいかないので、内容を変更し、魔術の指南書としたわけだ。

 

 読んだ相手に“魔力の存在”を知覚させる術を掛けるなんて品も出来上がった。本そのものが術を持ち、発動させるという特性を利用したのである。

 

 私は魔術が好きだ。魔術が様々な人や生物に広まってくれるのであれば、それに勝る喜びはない。

 まだ、そもそも本を捲るだなんて高等生物は存在していないけれど、いつか共に魔法を探求し、切磋琢磨できる相手が現れたらいいなぁ、なんて思う。

 ……いつになるのやら。

 

 ちなみに、記した文字は私が独自に発明した、いうなれば魔界文字である。ローマ字も漢字も不完全だなーと以前から思っていたので、別のものを使うようになった。

 なので、この魔導書を読むためには、まずは解読から入る必要がある。それだけでも高度な知性が要求されるので、そんじょそこらのショボい霊長では魔術の魔の字に触れることも叶わないだろう。

 また、魔力環境の薄い場所で本を広げると読者からも魔力を供給しようとするので、結構な危険物でもある。本は明るく、魔力のある場所で読みましょう。

 

「……なんか、当初の予定と違うような?」

 

 というかこれ、本って呼べるのだろうか。

 

 


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