東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 マーカスとひとしきり話した後は、魔界に戻って土産話だ。

 魔都の魔石交換にオーレウスの子孫訪問と色々あったが、長い間留守にしていた時のことについてはきちんと話す必要がある。

 魔界の彼女らはほとんど永遠を生きているようなものなので、特に急ぐこともないのだが、あまり後回しにしすぎるというのも失礼だ。

 

「それでそっちの銀河は時々凄い魔力が吹いてくるからねー。棒状四十二系異界に突入して反対側に抜けるには絶好の機会なんだよー」

「さっぱりわからん」

「ライオネル、わからないです」

「ははは、どうしよう」

 

 しかし、土産話が全く通じないとはどうしたものか。

 宇宙の話って結局“星空がきれい”とか“星怖い”って話しかできないから難しいんだよなぁ。

 

「五百万年だぞ。それほど長い間宇宙にいて、辛くはなかったのか」

 

 サリエルはどこか怒ったような顔をしながら、私と神綺にお茶を淹れている。

 お茶は魔界特産の紅茶なので、原初の力で生み出した時のような安っぽい味はしない。

 

「宇宙といっても、やることがないわけじゃないぞ。魔法を作ったり、魔力の凝縮に時間をかけたり……」

「……そうは言うが、五百万年だぞ?」

「五百万年よ?」

「……長いだろう」

「まあ、結構長いなぁ」

 

 サリエルはどこか納得いかないようだったが、宇宙には魔力が全くないわけではなかったし、何も問題はない。

 かつては魔力の枯渇した地中深くで何もできないこともあったが、今ではそのようなヘマはしないし、宇宙の果てに飛ばされてもそれなりの早さで帰ってくる自信はある。

 

 私の身体は通常の生物のように、外部からの魔力を受けて漏出魔力を生成することができる。しかし、一般的な生物と同じように、魂から魔力を引き出すことはできない。

 “魔力の全解放”を扱う規模の魔力を超高圧状態にするほどの負荷を掛ければ、私の身体を犠牲に魔力を得ることは可能だが……下準備の段階で魔力が必要になるし、そもそもやりたくない。

 まぁ、宇宙は地中深くの何もない場所とは違って、魔力に乏しいという状況はあまり存在しないので、文字通り何もできなくなるということはないだろう。

 ちょっとした星の魔力さえ掴めれば、あとは適当に乗り継いで恒星を目指してやれば良い。その後は魔力を自分の周囲に貯めこんで、再出発だ。実際私も何度もやった。

 

 ……うーむ、確かに期間は長くはあるのだが、あまり辛いというものでもないというのが本音だな。

 むしろ私としては、魔法の集大成のような旅だったので、かなりやりがいを感じられた。

 

「けど、なんだか申し訳ないなぁ、あまり気の利いた話ができないみたいで」

「うーん……確かに、ライオネルの旅行の話、ちょっと難しすぎるかもしれません」

 

 サリエル以上に魔法に詳しくない神綺からしてみれば、もっと面白くないだろう。

 これでは私の趣味の話に付き合わせているみたいで、ちょっと嫌だな。

 

「じゃあ逆に、魔界の様子はどうだったかな。あまり問題ないとは聞いてるけど」

 

 宇宙の話はやめておこう。果てしない割にスカスカだ。

 それならば、留守中の魔界の話の方がずっと有意義な気がする。

 

「魔界は色々な事がありましたよ。クベーラもよく訪ねて来ますし(ライオネルがいないので追い返してますけど)、たまに侵略者も来てました」

「ああ、よくわからん神族共が攻め込んできたことがあったな。大した相手でもなかったから、私と神綺で適当に追い払ってやったが」

「ふむふむ……え、でもなんかそれ気になるなぁ。私の知り合いとかではない、のだろうか」

「多分違いますよー。なんだか馬鹿っぽい感じでしたし、偉そうにしてた割にすぐに帰っちゃいました」

「それは……知らないな。ふむふむ、そんなことが……」

 

 結局、私から話せる土産話はほとんどなく、かえって二人から聞く留守中の話の方が多かった。

 しかし、それでこそ私達が作り上げた魔界である。だだっ広く何もない宇宙よりも濃密なのは当然の事と言えよう。

 

 


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