東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 多くの悪魔を管理する魔都はどんどん拡大し、領地はもちろんのこと建造物の高さも成長を遂げていた。

 さすがに高層ビルほどまではいかなかったようだが、立派なお城くらいの造りの建造物は多い。そして自らの領土を持っている悪魔たちはどうも見えっ張りなようで、なかなか凝った外装に整えている。

 私が見たことのある他者の人工建築物の中では、最も立派かもしれない程だ。

 

 道を行き交う悪魔たちは、穏やかなんだか、腹に一物抱えてるのだか、なんだか怪しい雰囲気で歩いている。

 私は仮面もつけずにそのまま歩いているのだが、彼らは私の姿について特に何も思うことはないようで、時折ちらりと横目に見る者はいても、驚いたり泣いたりするような者はいなかった。

 私の外見は五百万年近く経った今でも、悪魔として居てもおかしくない程度のものなのだろう。

 

「ああ、また道が変わってる。中央部にも変化がなければ良いんだけど」

 

 さて、小悪魔ちゃんがいるのは魔都の中心にある紅魔館だ。

 名前そのまんまの立派なお屋敷だが、ある程度私の魔法によって“不滅”が施されている。よほどの不幸がない限りは、あの建物も現存しているはずだが……。

 

 

 

「むにゃむにゃ」

 

 何度か道に迷ってしまったが、未だに現存している青い火の街灯の場所を頼りに歩いていれば、目的のお屋敷は意外と簡単に見つかった。

 そして中に入って執務室へ行ってみれば、小悪魔ちゃんは机に突っ伏してぐーすかと爆睡中。

 時間が合わなかったとも考えられるが、神族や魔族の睡眠時間なんてものはかなり適当でざっくりとしているので、何百年もスヤスヤなんてことも十分にありえるし、このまま待っているというのはあまり得策ではない。

 

「“穏やかな覚醒”」

「むにゃ……」

「おっと」

 

 気付け用の魔法を掛けようと思ったが、そういえば彼女には防御系の呪いをかけていたのだった。

 このまま彼女に魔法を放っても、魔法は根本的な部分から解体され、魔力となって霧散、吸収されてしまう。

 

「“逃れ得ぬ穏やかな覚醒”」

 

 なので私は“穏やかな覚醒”に防御系、妨害系の術に引っかからない魔法を併用して、小悪魔ちゃんの頭に放射した。

 キラキラと煌く魔力の輝きが小悪魔ちゃんの額にぶつかり、煙となって消滅する。

 

「うーん……んぅ」

 

 “穏やかな覚醒”は眠りについている動物などを強制的に、しかしゆっくりと起こしてあげる魔法だ。

 過度に驚かせることはないし、起床後の意識もしっかりとするので、相手にストレスを溜め込むことがない。

 とはいえ、たったそれだけの魔法である。さすがの私もこれに“逃れ得ぬ”を併用して実践使用したのは初めてだった。

 

「んぁ……あ? ああっ、ライオネルさん! お見苦しいところを!」

「いやいや、大丈夫だよ。起こしてごめんね」

「いえ! ずっとお待ちしてました! ってうわ、今日は仮面無いんですか!?」

「あ、ごめん。忘れちゃった」

「いえ、まぁそういうのも慣れているので、大丈夫なんですけど。なんだか珍しくて」

 

 小悪魔ちゃんは怖がりなので、私はよく仮面を付けた状態で会っていた。

 しかし悪魔の管理業をやっていれば、嫌でも私以上にグロテスクな魔族はやってくるものだ。

 長年の経験もあるし、小悪魔ちゃんは少しびっくりしたものの、私を怖がらずに受け入れてくれた。ありがたいことである。

 

「ごめんなさい、ちょっと着替えてきます。少しだけ待っててください!」

「はーい」

 

 さて、小悪魔ちゃんの話とは何なのだろう。

 

 

 

「おお、こんなに魔力が集まったんだ」

「はい! そろそろ空っぽの石もなくなってしまいそうだったので、交換していただけたらなと」

「確かにその通りだ。供給先が無いと勿体無い。それにしても、随分と……まさか、ここまで貯まるとは」

 

 私が案内されたのは、紅魔館を出て少し歩いた場所にある時計塔……の、地下だ。

 この時計塔は私が建てたもので、魔都においておそらくは一番の耐久性を備えているであろう施設だ。

 専用の魔法的な鍵が無くては塔内に進入することができず、またこの施設に攻撃することも、“契約の呪い”の根幹部分で厳しく禁止されている。

 というのも、この時計塔そのものと地下に存在するとある施設が、この魔都及び“契約の呪い”を機能させている心臓部であるからだ。

 

 私と小悪魔ちゃんの目の前には、巨大な球状の宝石が浮かんでいた。

 この白っぽく輝いた石は魔力を内部に貯めこむことのできる、いわば魔石だ。

 直径10メートルのこの宝石一つで、かなり大規模な量の魔力を保管することができる、魔力の電池のようなものである。

 自然と放置していれば勝手に魔力は霧散してゆくので、そういった点でも電池そっくりと言えよう。もちろん、魔力を垂れ流しにするくらいなら利用した方が良いに決まっているので、魔都の各設備やここの維持などに使われているのだが。

 

 この巨大魔石への魔力供給源は、“契約の呪い”が及ぼす各効果である。

 悪魔を外部に召喚するために消費される魔力や、魔都で禁止行為を行った悪魔が幽閉される地下供給源、そして悪魔たちが各々“契約”することで発生する少量の魔力の一部も、魔法の式を通じてここへと集められている。

 

 元々黒かった魔石は、私が留守にしている間に真っ白になり、光を帯びていた。

 地下空間の奥の方に並んでいる魔石も同様で、薄暗かった地下貯蔵庫はすっかりと明るくなっている。

 黒っぽい未供給の魔石は、残りもうあと数十個ほどしかない。

 

「教えてくれてありがとう、小悪魔ちゃん。これは早急に、魔石の交換作業に移る必要がありそうだ。まぁ、あと百万年は保つだろうけども」

「いえいえ。作業のお手伝いは必要ですか?」

「いや、これは私一人でやるよ。万が一にでもミスがあると、大きな事故につながってしまうからね」

「どんな事故です?」

「魔界の99%以上が一瞬で滅ぶよ」

「わあ」

 

 貯蔵は十分にあるけれど、これから先に地上で悪魔の召喚が活発にならないとも限らない。

 私としては、魔法的な習慣は是非とも活発になってほしいだけに、早めに交換を行ったほうが良さそうである。

 現状だけでもかなり潤沢に魔力が集まっているとこを見るに、外界からも度々悪魔が召喚されているようで何よりだ。

 ひょっとしたら、地上では既に触媒魔法が発展し、独自の魔法が出来上がっているのかもしれないな。

 

 ……いや、何の根拠もなく期待するのはやめておこう。

 

 


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