私は小悪魔と呼ばれています。
その名の由来は、小さな悪魔だからだそうです。わかりやすくて良いと思います。
私は、魔族である
他の魔人は、神族という別の種族を元にして創られているそうなのですが、そちらの方はよくわかりません。魔族を元にして造られた魔人は、私一人だけなのだそうです。
私は神綺様によって創られた後、紅さんから様々な事を教えていただきました。
生まれて間もない時には何も知らなかった私ですが、紅さんは常に私の傍で魔界での生き方を教えてくれます。彼女はとても優しく、良い人です。
しかし紅さんは、時々よく難しい事を話しては、それが最も大切だと説くことがあります。私はそれについて、なるべく理解しようと努力はしたのですが、何十年たっても、あの方が一番伝えたかったであろうそれを理解することは、できませんでした。
けど、とりあえず覚えておくようにと言われたことだけは、どうにか数十年以内に覚えることができました。
それは、私が生まれた理由。
私がしなければいけない仕事であり、私が魔界に存在する意義でもあります。
私は紅さんからその仕事を教わり、晴れて一人前の小悪魔になれたのです。
私は現在、魔法使いのライオネルさんから仕事を与えられ、魔界の魔都という場所で働いています。
魔都というのは、外界からやってきた魔族達を悪魔として住まわせる場所のことです。
彼らに魔都での暮らし方や、悪魔としての決まり事をわかりやすく伝えるのが、私の主な役目になります。
魔都でのお仕事が決まり、魔都の中心地に大きな赤いお屋敷をいただいてからは、紅さんとも離れ離れになり一人で暮らすことになってしまいました。
しかし、寂しがってはいけないと常日頃から紅さんに言われていたので、泣くようなことはありません。
私が仕事をしている間も、紅さんは法界という場所で、何かを守るお仕事をされています。私だけ弱音を吐くわけにはいきません。頑張ります。
最初の魔族が魔都にやってきたのは、私が魔都のお仕事についてから数カ月後のことです。
大きな体の三十人近い魔族達は、どうしてこの魔都にいるのかがわからないと、不思議そうな顔をしていたり、怒ったりしていました。
攻め込むだとか、長が来ていないだとか、とにかくうるさい人達だなというのが最初の印象です。
私は彼らに近づいて、なんとかこの魔都の説明をしようと思ったのですが、彼らは私の話を聞いてませんでした。
それどころか魔族達は、突然攻撃を仕掛けてきたのです。
私は彼らによって何度も殴られました。
ですが、ライオネルさんから頂いたネックレスが結界で守ってくれたので、問題はありません。
できれば殴られる前に説明をしたかったですが、これは、ちょっとのろまな私の落ち度でもあります。次からはもっと、頑張って説明しなくてはなりません。
けど、規則は規則。私は三回以上殴りかかってきた魔族の五人に対し、ライオネルさんからいただいた厳重注意の刻印を刻んで、魔都の地下居住区に転送させました。
私が数体の魔族をそうやって地下へ転送すると、他の魔族達は静かになり、そこでやっと話を聞いてくれるようになりました。
とりあえず一番大事な仕事である説明だけはさせてもらえたので、良かったです。
でも一回や二回殴った人達に対しては、ちゃんと降格の刻印を使って、位階を下げさせてもらいました。
これも規則だったので、仕方ありません。
他者に暴力を振るう時には、契約による許可が必要です。
物事のやり取りを行う場合には、何でも契約を交わすことが推奨されます。
契約を破ることは、非常に重大な過失として、位階に大きく影響します。
位階の下がった人達は、魔都と魔界における行動範囲に制限がかけられます。
そして私は最後に、位階を上げるように頑張ってくださいと他の魔族に伝えてから、彼らを正式に悪魔として認め、その日の仕事を終えました。
二度目以降は、魔族が一人一人やってくる事が多かったです。
彼らもまた最初、何故この場所に来てしまったのかわからず、かなり混乱しているようでしたが、私が説明すると大体は納得してくれるので、結構スムーズに仕事が進んでいます。
魔都は広いので、悪魔でいっぱいになるということも、窮屈になるということもありません。できればもっともっと、多くの悪魔に、魔都に住んで欲しいなと思います。
けどもちろん、全ての魔族が説明を聞いてくれるわけではありません。中には説明を聞いた上で私に襲いかかるような人もいますし、魔都にいる悪魔に暴力を振るおうとする人もいます。
ですがそのような時には私がしっかりとその人に警告し、刻印によって位階を下げ、処罰としています。
あまりにも暴力的な人は最下層に転送されるのですが、最初のうちは何人も下層に送ってばかりだったので、とても大変でした。
説明をするというのも、なかなか上手くはいかないものです。
ある時、赤いお屋敷で悪魔達の名簿を整理していた私を、一人の悪魔が訪ねてきました。
その悪魔は処罰による位階の降格もなく、ごく普通の善良な悪魔です。
彼は恐る恐るといった風に、私に聞きたいことがあると言って、訊ねました。
曰く、最下層に送られた魔族はどうなるのか、と。
説明することが私の仕事です。私はちょっと得意になって、彼の問いに答えました。
「地下に送られた悪魔は動けなくなって、魔力を出すお仕事をすることになります」
同時に、お屋敷の外にある青い炎の街灯を指差して“魔都が明るいのは彼らのおかげなんですよ”と付け足すと、訊ねてきた悪魔はよくわかったという風に何度も頷いて、去っていきました。
それ以降、魔都で暮らす悪魔はとても静かになり、礼儀正しく、私の話をよりしっかり聞いてくれるようになったと思います。
それからは、順調そのものです。
大勢の魔族が一度に魔都へやってきた時も、私と同じ説明役を買って出てくれた悪魔の方々の協力もあり、お仕事がとてもやりやすくなりました。
手伝ってくださった悪魔の方々には、ちゃんと働きに応じた見返りが与えられることになっています。
働き続ければ位階を上げることにも繋がるので、魔都の中心地はとても親切な悪魔でいっぱいです。
位階が高くなった悪魔の中には、魔都での自分の領土が欲しいと訪ねてくる人もいます。
そういう人達に対しては、ちゃんと契約によって見返りを頂いてから、一定の区画を分割し、彼らの領土として認めることになっています。
一度彼らの領土になると、領主である悪魔がそこでの法を定めることで、暴力行為の解禁などが認められたりすることもあります。
無秩序な暴力的行為を好む人々はそういった固有の領土へ移り住むことも多いですが、基本的に私の暮らす魔都の中心部は中立の契約状態にあるので、平穏そのものです。
「な……ここはどこだ!?」
「魔界にきた……が、おかしいぞ……何か……何かの呪いをうけた……!」
「術師! 俺にかかったこれを解呪しろ!」
「ダメだ、魂に直接……!」
「おいミトラ様は!? ミトラ様はどこにいる!?」
さて、今日もまた外界から、大勢の魔族がやってきたようです。
さっそく悪魔としての過ごし方を説明して、魔都の住人になってもらうとしましょうか。
今日は何人の魔族が、ちゃんとした悪魔になってくれるのでしょうか。
楽しみです。