魔界にて、大規模な爆発が発生した。
爆発の規模は、地球半壊程度のエネルギーに相当する。
広大な魔界といえど、それによる被害は甚大だ。なにせ魔界の広大な岩石質の大地が、果てもない程に抉れてしまったのだから。
しかし、これは最初から想定済み。事故ではあるが、私が予想した上で発生したものであった。
故に、この事故が起こった爆心地は、魔界の僻地の僻地に存在する。魔界の自然や人工物への損害は、ゼロであると言っても良いだろう。
もちろん、大規模な爆発であることに間違いはない。
サリエルの目にはこの爆発が認識できたようで、私が現地へ駆けつける前に、彼女に報告されてしまったのだが……。
「ライオネル、この爆発は一体何だったんだ」
「私の魔法による影響だね」
爆心地の際にて、私はサリエルと共に大穴を眺めている。
美しい半球状の抉れは、底面が仄かに輝いているにも関わらず、暗黒に満たされており、視認することが叶わない。
私の横に立つサリエルは、その様子を深刻そうな目で見ているようだった。
「今更に、お前を疑いたくはない。だがこの被害の規模は……」
「地球を破壊しうるもの、か?」
「……そうだ」
「別に、地球を破壊したくてこの爆発が発生したわけではないとも」
サリエルは、地球に生まれた神族だ。当然、地球に対しては愛着がある。
細かく言えば天界に対して愛着を持っているのだが、私からしてみればそれは、地球に対する執着と大差は無い。
「この爆発は、私が組み上げた魔術の流れが引き起こした、奇跡的な魔力凝集の結果に過ぎない」
「……」
「無秩序な重力に振るわれる星々、溢れ散る魔力の飛沫。しかし、永遠にも見える時間の果てに、この無秩序な魔力は収束し……」
「すまない、ライオネル」
サリエルは目を閉じて、私から目を背けた。
「私には、まだお前の言葉を……理解することができない」
「……そうか。そうだね、ごめん」
「いや、私こそ……すまなかった」
うむ。
そうか。
確かに、そうだな。
「……この事故は、起こるべくして起こったものだ。だから、サリエルはこの事故に対して、警戒する必要はないよ」
「それは……本当なんだな」
「ああ、本当だとも」
「……わかった。承知したよ」
私は半球状の広大な荒野の中心に転移すると、底に浮かぶ魔光の文字列に目をやった。
そこには、私の見知った文字列が並んでおり……。
この時、私が長年抱いていた予想は的中し、一つの理論が私の中で証明された。
全ては、順調である。
何ら問題はなく、何もかもが私の理想のままに進んでいる。
私は正しかった。理論は間違っていなかった。素晴らしいことである。
だが……しかし、私は、それでは満足できない。
たとえ私の視界にある全てが理解できたとして、それでは私は、一体何を未知として心躍らせれば良いのだろうか。
今更に、半導体の生み出す単調な奇跡を眺め、見知ったような結論の反復に時間を擦り潰したくもない。
科学が副次的に引き起こす魔力は、純粋な魔力の力に対して顕著に作用する。
それらは低次元においては良い方に誘導することも不可能ではなかったが、高次元にまで引き上げるには不確実で、そして効率の悪いものであった。
科学と魔法が交わらないとは言わぬ。しかし、両者は明らかに別々のものであり、住み分けられるべき存在であった。
その結論は魔法主義者の私にとってとても都合の良いものではあったのだが、同時に寂しいものでもある。
やはり、それはそうなるのか、と。
「ライオネル、これは一体?」
私が等間隔で林立するゴーレムの群れを眺めていると、すぐ傍に転移した神綺がおもむろに訊ねてきた。
「これは、地上に魔界の存在を周知させるためのゴーレムだよ」
「地上に、魔界を……それは、魔都と関係が?」
「もちろん。これは地上の魔族に対する勧誘であり、神族に対する啓蒙でもある」
「……うーん、私には、よくわからないんですが……」
「ごめんごめん。わかりやすく説明しよう」
「お願いします」
私は吐息のない咳払いの後に、わざとらしく人差し指を軽く掲げ、言う。
「彼らは、地上の魔族を魔界へ叩き込むと同時に、神族たちに悪魔召喚の方法を教えてくれるゴーレムなのだ」
身長およそ十メートル。
魔界特産の、チタンにも似た不壊金属製。
首無しの鎧のような体をもった、巨大な銀色のゴーレム。
彼らの地上進出によって、魔都及び悪魔の派遣サービスは、本格的に始動することだろう。
そして……。
「神綺。私は近々、しばらく……ちょっと長い間、魔界を離れようと思うんだ」