東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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「それではライオネル様、彼女を使ってあげてください。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

 

 紅が教育を進めてきた小悪魔ちゃんが、ついに私の実験に協力してくれることになった。

 身体的な見た目はほとんど変わっていないが、服は魔人達から取り寄せたのだろう。彼らが使うような簡素なローブを着用している。

 

「うむ、よろしく。実験中に少々の霊魂的な負荷がかかるとは思うけど、理論上は君の自我を破壊することはないはずだ。肩の力を抜いて挑んでほしい」

「は、はいぃ……」

 

 あれ、ダメだ。仮面をつけてるはずなのに、なんだか怯えられてしまっている。

 上がり症なのだろうか。

 

「……ライオネル様。私はこの数十年間、彼女に様々な事を教えてきました。魔族としての心の穢れは、非常に希薄で、清浄です」

「ほほう、それは凄いね。わざわざごめんよ」

「いえ。元は私から生まれた存在……言うなれば私の眷属です。であれば、私が生き方を指南するのは当然のこと」

 

 どうやら教育係を紅に任せたのは正解だったようだ。

 これほど真面目な人に育てられた子供が、悪いはずもない。悪魔だけど。

 

「では、早速私の魔法を掛けたり、負荷を与えたりしていくから……よろしく頼むよ」

「わ、わかりました」

 

 そういうわけで、私と小悪魔ちゃんによる、“契約の呪い”の実験が開始された。

 

 

 

 “契約の呪い”は、魔族を悪魔へと変容させる、大規模な呪いだ。

 個人に対して影響を及ぼす呪いの中では、かなり特殊な部類に入るだろう。

 

「どうだろう?」

「……ううん、よくわかりません」

「それなら成功だ」

「……?」

 

 普通の場合では、この“契約の呪い”は魔界へ飛び込んできた穢れの強い魔族に対して付与されるが、今は実験なので、私が直接小悪魔ちゃんに貼り付ける。

 霊魂に対する侵食行為を行っているが、痛みを感じないのであれば問題はない。

 

 呪いの安全性は高い。

 あとは、呪いによる様々な付与の効果が有効になっているかどうかを実験してみよう。

 

 召喚者による、魔界に存在する悪魔の喚び出し。とにかくこれが出来ないことには話にならない。

 

 私は小悪魔ちゃんを魔都に置き去りにし、自分はそこから10kmほど離れた原野に移動した。

 これから行うのは非常にシンプル。私が魔法を使い、魔都に居る悪魔……小悪魔を召喚するというものだ。

 

「“悪魔召喚”」

 

 本来ならば様々な手順を踏んで道具を用いなければ発動しない魔術だが、少々魔法の式をいじってしまえば完全な再現は可能である。私はその場で魔法を発動し、目の前の草地に魔法陣を出現させた。

 

「は、はい! お、わ、私にお手伝いできることがあれば!」

 

 数秒の後、そこから小悪魔ちゃんが現れる。

 よしよし、転移は成功のようだ。召喚時に式の中に付け加えた召喚者側の要求、“ひとつだけ手伝ってほしい”という言葉も伝わっている。

 

「うむ、ちょっと……そうだなぁ」

 

 私は草地に落ちていた細い枯れ枝のひとつを手に取る。

 そして枝の先に手を翳し、魔法を唱えた。

 

「“恒久的な青い種火”」

 

 すると、枝の先に小さな青い炎が灯り、簡易的なトーチに早変わりする。

 

「……このトーチを、あの向こう側の丘の上に登って、立ててくれないか」

「了解しました!」

 

 私が小悪魔ちゃんに頼み込むと、彼女はそれを快諾。

 あっという間に丘の上にトーチを突き立てて、こちらに手を振った。

 

 同時に、小悪魔ちゃんの体が輝きに包まれ、丘の上から消失する。

 

「ふむふむ、ちゃんと役目を果たせば魔都に送還される……と」

 

 呪いの方は、ほとんど問題がないだろう。あとは様々な細かい部分を検証して、穢れの多寡による転移の基準を調整しなくては。

 

「面白くなってきた」

 

 悪魔の住む都、魔都。

 地上の魔族達を招き、叩き込んでやる日も近い。

 

 

 


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