東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 私は、魔族と呼ばれている生物だ。

 名は、まだ無い。必要としていない。

 

 私は地上で、旅を続けてきた。

 いつから始まり、どれほどの時が流れたのかは、私自身にもわからない。

 歩いては闘い、闘っては傷つき、傷ついてはそれを癒やすために、長い時間を必要としたのである。

 

「ゆっ! ゆっ!」

 

 しかし、地上の旅において、必ずしも身体を休める場所が存在するとは限らない。

 そのため、私は異音や気配にまで敏感になっていた。

 

「ゆゆっ! おねえさん、髪の毛まっかでとてもすてきねっ!」

 

 目を覚まし、視線を横に向けると、そこには生首のような生き物が飛び跳ねていた。

 

 

 

 ここは、魔界と呼ばれる場所である。

 とある高位の神族が魔界へ移り住みたい魔族を探しているという噂を聞いて、私はここにやってきたのだ。

 その当時、癒やし難い深手を負っていた私にとって、その噂は都合の良いものであった。

 氣の力で傷を癒やすには、莫大な時間を消費する。幸い、魔界という場所は天敵の存在しない空間であるとは聞いていたので、私は喜んで、神族の誘いに乗り、従ったのである。

 

「ゆっ! だけどここはしんきのゆっくりプレイスだよ! よそものはでなおしてきな!」

 

 傷は、まだ治りきっていない。

 それでも目が覚めてしまったのは、先程から騒いでいる不可思議な生物のせいだろう。

 

 銀色の髪に、赤い髪留め。

 どこかひらべったい、顔だけの魔物。

 

「ぷくーっ!」

 

 ……この生き物に害は無さそうだが、このままでは心を落ち着けて休息できない。

 

 幸い、傷はある程度まで回復した。

 命も、削れてはいない。

 地上ではこれほどの休息を得られなかったであろうことを考えれば、充分な復帰と言える。

 

「……だいたい、千年ほど経ったのかしら」

 

 傷の治り具合からそのような当たりをつけて、私は地に置いた袋を肩に提げ、旅を再開した。

 

 旅の終着点は、私にもわからない。

 だが、足が動き、傷が浅いのであれば、歩いてゆこう。

 

 私には目的があるのだ。

 

 とても大切な目的が。

 とても、とても尊い……至上の目的が。

 

 

 

 

 魔界は広大だ。歩いても歩いても、平坦な地面がどこまでも続いている。

 魔界は、神綺という強大な魔神によって作られた世界なのだという。聞いた時には本当かと疑ったものであるが、実際に不気味なほど平坦なこの世界を眺めてみると、確かに神綺の力にも納得できる。

 実際、私は魔界を訪れた当初に、彼女の力を目の当たりにした。

 複数体の魔族たちを一撃で吹き飛ばしたあの威嚇は、見事なものであったと思う。

 私などでは、到底敵う気がしない。

 まぁ、そもそも魔神などと拳を交えるつもりはないけれど。

 

「……凄いな」

 

 傷を治しながらゆっくり歩き続けていると、石を積み上げた塔のような建造物群と遭遇した。

 ただ直方体の巨大な石を積み重ねただけの建造物であるが、一体どうやってこれほどのサイズの石を集めたのだろう。

 

 そして……見る限り、これは住居ではない。

 かといって、何か目的があるような建物でもないし、象徴とするにはあまりに密集しすぎている。あの内部に、何があるとも思えない。

 

 誰が、何のために、いつ頃建てた物なのだろうか。

 

「……塔、か」

 

 無意識のうちにこの建築群の下まで歩いてきてしまったが、ここに特別な用は無い。

 ここもまた、私の目的地ではなかったようだ。

 

「魔界も、見るべき場所が多そうだ」

 

 当初は、ただ傷を癒やすためだけにやってきたのだが、こうも様々なものがあるとなると、見て回らないわけにはいかないだろう。

 きっとそうしているうちに、地上へ戻る許しも降りるはずだ。

 

「……行こう」

 

 だがそれまでは、探索を続けよう。

 あれだけ地上を探しても見つからなかったのだ。この魔界に目的の場所があるとしても不思議ではないはず。

 

 私は再び、長い道のりを歩き始めた。

 

 


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