東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 騎士ゴーレムの群れが一斉に動き出し、方々へと散ってゆく。

 ロードエメスの腰や手足は細く、背丈の割にかなりの痩身だが、多層ハニカム状に形成された内部はどのような衝撃にも強く、同じ太さの鉄塊との衝突にも耐えられる造りになっている。

 

 数多の軍勢は、それぞれが私から発せられる魔力を中継し、エネルギーの伝導役として機能する。

 故に、私がこのロードエメスの櫓の上で“魔力の全解放”を発動し続ける限り、彼らの侵略は止まらない。

 

「な、何だこいつらは!」

「怯むな、全員やっちまえ!」

「うわぁー!」

 

 怒声、悲鳴。地獄の住人の叫び声が、巨大な地下空洞に木霊する。

 こうして悠々と眺めていると、暗がりとはいえ、地獄の住人達の姿もよく見えてきた。

 

 彼らは、鬼だ。

 いや、実際に鬼なのかどうかは知らない。おそらく神族なのだろうが、頭から生える巨大な角の見た目は、まんま鬼である。

 それぞれ顔が巨大だったり、腕が何本もあったり、目玉が多かったりとバラエティに富んでおり、見ていてなかなか飽きないフォルムだ。

 あんな、魔族とほとんど変わらないような見た目でも知性があるのだから、神族の進化というのはわからないものである。

 

 巨大で、力強い鬼の神族達。

 だが、ロードエメスの動力も十分だ。数の暴力というものだってある。

 地獄の彼らの前線は、ゴーレムの波によって一気に後方へと押しやられていった。

 

 だが。

 

「ウオォオオオラァッ!」

 

 一体のロードエメスが、六本腕の鬼のラリアットによって、粉々に打ち砕かれた。

 下半身と上半身が別れたロードエメスは魔力結合が解け、空中でバラバラに分解され、消えてゆく。

 

「ほう」

 

 ロードエメスの群れは、地獄の鬼たちを一時的に押し出した。

 だが、彼らもすぐに盛り返している。一体一体、群がってやってくるロードエメスの暴力に対して、更に上の暴力でもって跳ね返してくる。

 

 なんという腕力か。

 ポテンシャルで言えば、地上に生きる魔族たちを遥かに凌駕していると言って良い。

 強大な力と知性。両方を備えた神族……珍しくはなかったが、こうまでわかりやすい“力”を発揮する神族というのは、初めてだ。

 

「死体風情が、小癪な術を使いおって!」

「囲め囲めぇ!」

「ぶっ殺せえッ!」

 

 ああ、ああ。見る間にロードエメスの前線が崩れてゆく。

 なんて力だ。まるで彼らの装甲が紙のように裂かれてゆくではないか。

 

「どうしたそれだけかぁ!」

「あと少しだ! お前ら一気にいけぇ!」

 

 やっぱり、これが限界か……。

 

 

 

 まぁ、運搬作業用ゴーレムだしね。

 しゃーないしゃーない。

 

「“土像の凝塊”」

 

 ゴーレムに通した魔力に乗せて、新たな魔術を発動。

 彼らの内部に既に通っている魔力はすぐさま新たな術の発動を検知して、ゴーレムの稼働方法を転換させる。

 

 全体の急速変形。鬼たちと乱戦を繰り広げるロードエメスたちは、突如粘土のようにぐにゃりと形を変え、近くに存在する様々な“動体”を検知し、飛びついてゆく。

 

「うわっ、なんだこいつら……!」

「捕まった!?」

「ぐぬぅ、な、こいつ、さっきよりずっと硬ぇ……!」

 

 全てのゴーレムは“土像の凝塊”により、ゴーレムとしての機能を失って、ただ近くに存在する生物を捕獲、固定するための装置に変成された。

 ドロドロに解けたゴーレムは動くものに触手を伸ばして巻き付いて、そのまま本体内部を多層ハニカム、多層トラス、剛体ブレースを混合させた強固な構造体に組み替える。

 見た目は熔解して中途半端な所で冷え固まったゴーレムのような姿であるが、その役割は強力な“捕縛”だ。

 この術によって変成された構造体に捕まった動物は、ちょっとやそっとのことでは抜け出すことは叶わないだろう。

 

 そして、この魔術を発動させた時点で、ゴーレムへの魔力供給は不要となる。

 私は右手に持った黒曜石の杖を頭上に掲げ、今なお集め続ける周囲の魔力を凝集し、新たな術へと注ぎ込んだ。

 

 “虹色の書”初級火属性魔術。超広範囲解放系。

 

「“湖面の煙”」

 

 私は杖の先に生成された白く輝く球体を、そのまま櫓の下の地面へと落としてやる。

 

 ボールのようなそれはひゅーっと落ちて、当然のように地面に接触する。

 

「火に燃やされる苦しみを味わってみようか」

 

 そしてボールは弾け、巨大な“重い熱”の津波となって、四方八方に波紋を炸裂させた。

 熱の波紋は一気に瓦礫の上を駆け、身動きを封じられた鬼たちを飲み込みながら広がってゆく。

 

 辺りに悲鳴が響き渡る。

 だが身動きは取れない。多少の熱であれば、ロードエメスの捕縛体は破壊されずに耐えるからだ。

 故にこの赤く地面を駆ける熱波の温度は、さほどのものではない。元々広範囲に広がることを目的とした魔術だ。火力が強いはずもない。

 しかし、私はある程度の力を込めてやった。地獄の彼らは、さぞ苦しいことだろう。

 

「う、うおおお……!」

「落ち着けてめえら! ただの見かけ倒しだ!」

「お!? 本当だ!」

 

 って、あれ。悲鳴がどんどん止んでゆく。

 おかしいな、全然効いてないみたいだ。

 ここの鬼たちは、熱に対して強い耐性を持っているのか?

 

 うーん。焼かれる苦しみを与えてやろうと思ったのに、空振りだったか。

 

「んぐぐ……おらぁッ! 小細工ばかりか!」

「俺ァ怒ったぞぉー!」

 

 しかも、結構頑丈なロードエメスの捕縛体まで壊して抜け出してきたし。

 なんてしぶとい連中なんだ。私の火属性魔法が通じないだなんて……。

 

 あんまりそういうことされると、力の微調整が面倒になってくるじゃないか。

 

「……“平定の魔像”」

 

 もういいや、さっさと力の差を理解してもらおう。

 どうせみんなそこそこ頑丈なだけなんでしょ。

 


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