東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 旅の末、私は魔界へと戻ってきた。

 オーレウスに助言を乞うために始まった旅ではあったが、終わってみれば随分と予定が変わったものである。

 それでも情報としての収穫はあったし、地上に生きる数人の神族とも出会うことができた。

 成果は十分。さて、魔界の様子はどうだろう。

 

 

 

「む、ライオネルか」

「おや、サリエル。ただいま」

「ああ」

 

 ちゃっちゃと魔界への扉を開けて突入すると、すぐにサリエルが出迎えてくれた。

 大渓谷は今日もいつも通り、ドラゴンが空を飛んでいる。平和で何よりだ。

 

「突然だがライオネル、あまり良くない知らせがある」

 

 平和かと思ったらなんだ。いきなり雲行きが怪しくなってきたなぁ。

 

「どうしたんだい。魔力施設が故障でもしたとか?」

「それどころではない、侵入者だ」

「おお」

 

 侵入なんて大型原始魔獣だのクベーラだの、色々されてるじゃないか。

 魔力施設が故障するよりは、かなり小さな問題のように思えるけども。

 

「お前の表情は相変わらず読めないが、楽観しているのだろう」

 

 なんて考えていると、サリエルに言われてしまった。

 

「今回あった侵入は、今までのものとは違う。魔界を滅ぼす目的意識を持って、神族が乗り込んできたのだ」

「何だって」

 

 魔界を滅ぼす? 神族が?

 ……天界の神族達が魔界を嫌っているのは知っているけど、何故そんな……。

 別段、魔界が外の世界に対して迷惑行為を行ったことはないはずだが。

 

「侵入者は一人で、コンガラと名乗る剣士だった。私と神綺が迎撃に当たったが……なかなかの強者だったな」

「ほう、サリエルをして強い、と」

「当然、本気で戦っていれば私の方が上手だがね」

 

 サリエルは自慢げである。こういう時のサリエルはちょっと信用できない。

 ……が、それでもサリエルに強いと言わせる辺り、そのコンガラという侵入者は、なかなかのやり手のようである。

 

「コンガラを追い払ったのは、神綺だったな。ズタボロにして元いた場所へ送り返してやったようだ」

「おお、神綺が。戦いは初めてだと思うけど、大丈夫だったかな」

「大丈夫も何も、不安要素の欠片もなく圧倒していたがね」

 

 ああ、神綺は戦いなんて出来ないんじゃないかと思ってたけど、大丈夫なんだ。良かった良かった。

 まぁ魔界は彼女の庭だし、いざとなれば逃げられるから、心配はするだけ無駄か。

 

「ところで、そのコンガラっていう神族は、どこから来たんだろう。地上? それとも天界から?」

 

 天界の神族か地上に堕ちた神族かによって、話は大分変わってくる。

 天界からの神族だと、ちょっと厄介そうだが……。

 

「いや、そのどちらでもない」

 

 しかし、サリエルは小さく首を振った。

 

「コンガラは、地獄から来たのだと言っていた」

 

 

 

 戦闘が繰り広げられたという僻地へ赴いてみると、激しい戦いの傷跡が見て取れた。

 熔かされたであろう岩石。鋭利な刃物の傷。破砕痕。見る限り、かなり膠着状態が続いたようだ。そこらへんはきっと、サリエルとの戦いによって作られたものだろう。

 

 ……コンガラは炎を扱っていたと聞いていたが、本当に強い火力だったらしい。

 岩が溶解するなんて、神族の力にしたって尋常じゃないぞ。

 

「ライオネル、おかえりなさい」

「ただいま、神綺」

 

 私が現場を検証していると、捻れた空間の向こうから神綺が現れた。

 

「サリエルから話を聞いたよ。地獄から侵入者が来たんだってね」

「はい。私が追い返しておきましたけど……ライオネルは、地獄という場所をご存知ですか?」

「うーん……知ってるようで、知ってない」

 

 正直、サリエルから地獄という名を聞かされた時には“まさか”と思ったが、本当に存在するとは。

 天界があるくらいだし、地獄があっても不思議ではないんだけどね。

 

「あ、ライオネル……その、実はちょっと、コンガラを地獄へ追い返す時に、魔界の道具を使ってしまって……ごめんなさい、私、勝手に……」

「道具? いやいや、大丈夫だよ。物なんてここにはいくらでもあるし。魔界を守ってくれたんだから、そんなの全然……」

「はい……直列塔の……」

「大丈夫大丈……」

 

 私は硬直した。

 

「……直列塔?」

「はい……」

「直列呼び出し倉庫塔?」

「はい……」

「……何キロメートル級?」

「…………100」

 

 アカン。

 

「神綺、それを起動させて、地獄へ送ったと?」

「はい……」

 

 神綺はとても申し訳無さそうにしている。

 それは良い。別に私は怒っていない。彼女がやったことは防衛だ。正しいことである。

 

 でも神綺さんや、その報復はちょっと、不味いかもしれない……。

 

「……むーん」

 

 できるなら、今すぐにでも地獄へと急行したい。

 そこで、起動した魔導炸薬による惨状をどうにか収拾し、和平なり何なりを申し込まないと、後々非常に大変なことになりそうな気がする。

 

 が、まずは、情報を統合しなければならない。

 

「一旦、落ち着こうか」

「はい」

 

 焦ってはダメだ。こういう時こそ、慎重に動かないと。

 

「神綺。サリエルと一緒に、ちょっと細かい会議をしよう。まずは、私がいなかった期間の報告もしたいからね」

「わかりました」

 

 地獄の状況は気になるが、今はちょっとだけ後回し。

 先に、準備を盤石にしなければ。

 

 


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