石塔の平原。
かつてライオネルが魔界の大地から切り出した石材を組み、幾つもの塔を乱立させた過去がある場所だ。
塔といっても、意匠を凝らしたものではなく、ただの直方体の石を縦長に組んだだけの建造物である。
入り口もなければ、内部に何が安置されているわけでもない。
そんな無意味な塔が、いくつも並んでいるのだ。
コンガラは丁度、その領域の端まで吹き飛ばされたのだろう。
彼の周囲には、いくつかの懐かしい石塔が見られた。
「……来い」
瓦礫の上で、コンガラが剣を構える。
先ほどの殴打も、大してダメージはなかったようだ。
もう少し痛めつけてやらないと、不敵な態度も改まらないのかしらね。
「じゃあ遠慮無く」
「!?」
私はコンガラの目の前に瞬間移動し、彼の脳天に手を翳した。
来いと言われた後だ。準備をしていなかったほうが悪いに決まっている。
「えい」
掌から原初の力により、強大な力の塊を構築する。
凝集された力は、発現と同時に崩壊し、膨張する魔光の爆発となって、コンガラを呑み込んだ。
「あら、本当に頑丈。まだ死んでない」
しかし、コンガラは死んでいなかった。
莫大なエネルギーに飲み込まれてもなお、彼は内に宿す炎を弱めず、ボロボロになった外側の身体で踏ん張っている。
「わ」
そればかりか、剣まで突き出してきた。
未だ吹き荒れる破壊の炎と嵐の中で、彼はほとんど使い物になっていないような身体を酷使し、私に歯向かってくる。
鈍らない剣の動きは、私の打ち出す魔弾を弾きながら、攻撃に転じようという速度で振られている。
こちらも魔弾の配置や量を増さなければ、すぐさま剣の一撃を食らってしまいそうだ。
頑丈。それに、私を倒そうという強い意志が感じられる。
半分近く壊れた顔面からは、恐怖も躊躇いも無い、水のような冷静さが見て取れた。
正確かつ鈍らない動き。折れず揺らがない精神。
それは、まるで……。
「ゴーレムね」
「ぐあ」
両翼に込めた力を収束放射し、形成されたレーザーでコンガラの胴に赤熱の×印を刻む。
まともに直撃したレーザーは彼を切断しないまでも遠くへ吹き飛ばし、地べたに這いつくばらせることに成功した。
うつ伏せに倒れたコンガラは、意識が残っているようではあるが、動かない。
そろそろ戦意も削れてきたかしら。
「ねえ。地獄の人って、貴方を殺せばもうここに来ないのかしら」
コンガラのすぐ傍に瞬間移動し、私は訊ねた。
「それとも、貴方が“来るな”って、伝言を頼まれてくれるのかしら」
手の中に、石製の楔を生成する。
もしこのままだんまりを貫くというのであれば、これを一発ずつ打ち込んでやろうと思う。
私は、この男のために待ってやる必要など無いのだ。
「言っておいてほしいのよね。“魔界は魔界、そちらの世界の都合を押し付けるな”って……」
「……“焦熱”」
楔弾を手の中で弄んでいたその時、コンガラを中心に巨大な火炎が発生した。
炎はあっという間に辺りへ広がり、私までをも包み込む。
手中にあった石製の楔は一瞬のうちに融解し、消えて無くなった。
この……炎。普通のものでは……。
「そこまで拒むのあれば、致し方ない! 貴女も地獄の坩堝で熔かされるが良い!」
視界のすべてが炎に埋まる。
赤い熱の暴力だけが、五感を焼きつくす。
「地獄へ来なさい! 魂を洗いなさい! そうすれば、来世の貴女は……!」
「くどいわね」
「グッ!?」
いい加減に面倒な男だ。
私は炎に焦がされたまま、地べたに這いつくばるコンガラを思い切り蹴り上げた。
コンガラは、巨大な炎の尾を引きながら宙を飛び、鋭い放物線を描いて遠ざかってゆく。
発生源であるコンガラが付近から消えたためか、私に纏わるしつこい炎も消え去ったようである。
すると、飛んでゆくコンガラの姿がよく見えるようになった。
「無様ね。魔界に喧嘩を売るからそうなるのよ」
遠くで小さくなるコンガラに向けて、指を向け、意識を集中させる。
空間接続。
イ座標は七百三メートル向こう側の上空二十メートル。
ロ座標は直列呼び出し倉庫塔。
「潰れて死んじゃえ」
私はコンガラの飛んでいった遠方の上空に、塔のように巨大な鉛製の柱像を出現させ……。
そのまま、そろそろ地面に打ち付けられそうになっていたコンガラを、真上から押し潰してやった。