東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 謎の植物の研究は、日夜続けられた。

 とはいえ、最初は手探りである。まずこれがどういった目的で作られたのか、どういう働きをするのかを解明しなくてはどうにもならない。

 

 しかし、私達はこと手探りに関しては、絶大なる自信を持っている。

 一から探求するのは楽しいし、ある程度の勝手もわかっている。時間はかかるかもしれないが、迷宮入りのまま出られないということはないだろう。

 それが魔界の時間というものだ。

 

 

 

 さて、これは創られた植物だ。普通のものにはない機構が備わっていることは間違いない。

 だが、完璧に一から創られたものであるとは思えなかった。植物という形態をここまで再現している以上、きっと、何かしらのものをベースに作っているはずなのだ。

 そのベースとなった植物を特定すれば、何かヒントがあるかもしれない。

 

 という結論に至った私達は、ひとまずこの植物と類似している品種を探し出すことに決めた。

 

 

 

 ぱっと見たところ、それほど古い樹木ではない。古いというのは、古代という意味である。

 だが、近頃植物を調べきれていない私は、この植物に強い見覚えというのもない。

 神綺やサリエルも同様のようで、普段からさほど植物を気にしてもいないのだろう。心当たりを探る段階では、かすりもしなかった。

 

 ならば仕方ないと、手分けで探すことにした。

 サリエルと神綺は魔界、私は地上の植物の捜索である。

 

 

 

 さて、似た植物探しはそれから数年に及んでしまったものの、目当てのものはどうにか発見できた。

 その最中の私の苦労について語ることは多かったが、見つけたのは地球上を探していた私である。

 

 結論から言って、ヤゴコロの開発していた植物のベースとなっているものは、桃の木である可能性が非常に高い。ということとなった。

 木目、材質、性質、属性、様々なものが、桃と合致する。

 他にも様々な木材が各所から集められ、私達三人の前に並べられたのだが、誰もが最終的に指さしたのは、桃の木であったのだ。

 

 とりあえず、桃の木であることは判明した。

 ならば次は、桃の木が持つ魔術的性質の研究である。

 私一人で研究するのはもったいないので、期間中、サリエルには私の研究の手伝いを、神綺には桃の木を真似た生物創造を頼むことにした。

 

 

 

 桃の木の研究は更に時間がかかり、数十年にも及んだ。テーマを一つに絞ったにも関わらずこれである。

 全ては桃の成長を待っていたのがいけなかったのだが、それも含めた研究だったので致し方なしであろう。

 

 様々な木材とも比較して研究した結果、桃の木は他の植物と比べ、非常に強い対魔力を持っていることが明らかとなった。これには長年魔力研究を行っていた私も、ちょっとだけ驚いた。

 対魔力……というよりは、魔力に対する親和性だとか、反発力だとか……影響を与えやすいとでも言うべきだろうか。

 とにかく、マジックアイテムを作る際には非常に役立つということである。

 

 加工も容易で、マジックアイテムの材料として優秀……私の中で色々な構想が広がっていたが、今はその時ではない。ここからヤゴコロの意図を想像し、桃の木をどう役立てようとしたのかを探らなくては。

 

 

 

 桃の木は、魔力を扱う上で優秀だ。

 ヤゴコロの制作した枝も、桃の木をベースとした植物であり、その作用は中央の道管部分に顕著に現れている。

 とはいえ、これが杖のような魔道具であるとは思えない。実際に土に植えるなどした、設置物である可能性が高い。

 

 神綺も言っていたが、これは植物だ。植物のまま目的とする機能を持たせれば、それはオートで動くマジックアイテムにも等しい。

 ヤゴコロはこの植物をマジックアイテムとするべく品種改良しようとしたのである。

 ……と、仮定する。

 

 さて、この桃の木は魔力を通す。

 おそらくそれは、地中から吸い上げるようなルートだ。

 

 地中から魔力を吸い上げる。私の魔法知識で言えば、それは可能である。

 地面であれば微量の土属性の魔力を吸い込むことはできるからだ。

 

 しかし、それはおそらく微量となるだろう。

 “魔力の対流”、“魔力の収奪”などといった周囲から魔力の流れを操作できるならともかく、定点設置の状態から吸い上げるのは、かなり効率が悪いと言わざるをえない。

 それにそもそも魔力を吸うのであれば、月でもなんでも使うべきだ。

 

 なので、発想を変えた。

 この植物は根の部分から魔力を吸う。それはきっと間違いないが、主な目的はそこにはないのだと。

 

 高天原では今現在、穢れを嫌っているのだという。

 ヤゴコロはその穢れをどうにかするためにこの植物を研究していたであろうことは、きっと間違いない。

 まさかこの桃の木が、原始魔獣に直接ぶっさして体内魔力を根こそぎ奪うというような代物ではないだろう。

 だからこれは、穢れを退治するというよりは、穢れを浄化する役目を持っている……のでは、ないだろうか。

 

「ライオネル、分かる言葉で喋って下さい」

「ごめん」

 

 ……そろそろ神綺がついてこれなくなってきた。

 

 


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