天国には理想郷がありまして   作:空飛ぶ鶏゜

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帰宅

 しばらくすると、救助用の飛行船が横付けされ、ようやく地上に降りることができた。

 大立ち回りの結果、銀さんは片腕負傷、星海坊主さんは全身に火傷及び多数の打撲、神楽ちゃんは脇腹の裂傷、新八君は打撲等々、全員満身創痍である。

 唯一の無傷と言ってもいいのが、私とハタ皇子とじい。

 

 エイリアンの死骸が巻きつき、大きな穴が空いたターミナルを、コンクリートの壁にもたれ、ぼーっと眺める。特大の羽ばたきをしてしまった気がする。耐え切れず手を出してしまった……弱い自分が痛い。やっぱり来るんじゃなかったなぁ……。

 喉元を過ぎればなんとやら。銀さんと別れた時の心境なんて薄っすらとしか思い出せない。あの時はそーしても良いと思ってしまったんだけど今はもう、それが誤りだったとしか思えない。

 遠目に何かをしゃべっている銀さんと星海坊主さんを見る。星海坊主さんはしばらくした後、神楽ちゃんに背を向け歩いて行く。それを見ていた銀さんに、新八君が何かを語りながら通り過ぎていった。

 神楽ちゃんの手紙タイムと新八君の家族発言タイム。混じれないな……そう感じたけれど、不思議と寂しさとか、悲しみとかそいう物は胸に浮かばなかった。ただただ眩しい憧れ。触れてはいけない綺麗なモノ。夕焼けが眩しかった。

 

 神楽ちゃんと別れた星海坊主さんがこちらへ向かってくる。何か用だろうか? 明らかに私に向かってくるその人に首を傾ける。困ったなぁーこれ以上羽ばたきたくはないのに。

 

「何か用ですか?」

 

 壁から身を起こす。

 

「なに、世話になった礼にな。神楽から聞いた、友達なんだってな」

 

 そう言いながら胸を二度とんとんと叩いた星海坊主さんは、何を指して世話になったと言っているのか……。

 きっと両方なのだろう。ばれてないと思ったのに。

 

「スミマセン。それ内緒でお願いしますね」

「お前がそうしたいのならな」

 

 物分かりのいい大人で助かった。ふと閃く。

 

「星海坊主さん。お願いが……私を宇宙に連れて行ってくれませんか?」

 

 眉を潜め怪訝な表情を浮かべる星海坊主さんに、他人(ぎんさん)の台詞を丸パクリする。

 

「地球は私には狭すぎて……お願いします」

 

 深まる眉に失敗したかな? と少し焦る。けれど闘い方は人それぞれだと思ってくれたのだろう。

 

「神楽が寂しがるなぁ」

 

 それだけ言うと納得してくれた。物分りの良い大人で本当に助かった。

 

「ありがとうございます。後、私パスポートとかないんですけど何とかなります?」

「そうか……まあ大丈夫だ。えいりあんばすたー星海坊主の名前は伊達じゃないんだ」

「良かった」

「それにしてもターミナルがあの状態じゃな、しばらく時間がかかるぞ? 追って日にちは連絡するが……連絡先は?」

 

 考えてなかった……どうしよう。鳥を飛ばして常時見張るなんて事はしたくないし。

 

「万事屋に伝えてくれませんか?」

 

 郵便ポスト代わりに使うのは気が引けたが、それぐらいしか手は見つからなかった。

 

「わかった」

 

 そう言って別れたその人の背は少し寂しそうだった……。この人も海へ行くのだろうか。『信じる』きっとそれを知ったこの人は海になんて行かない。きっと星の海で待つのだろう。星海坊主だけに。全然まったく上手くないね。浮かんだ考えにセルフでツッコミを入れる。

 

「きーやあああん!!」

 

 ふと顔を上げると、神楽ちゃんが大きく手を振りこちらへ歩いて来た。

 手を上げ返すと笑いながら駆けてくる。『触れてはいけません』そんなフレーズを蹴飛ばすような勢いに苦笑する。

 

「パピーと何の会話してたアルか?」

「ん~……今は内緒。後でね。ちゃんと教えるから待っててね」

「わかったアル」

 

 神楽ちゃんの頭を思わず撫でてしまう。

 父親と別れる決心をしたばかりの神楽ちゃんに、星海坊主さんと宇宙に行きますと告げるのは少し難しかった。

 

「よし、帰るか」

「「はい」」

「キャウン」

 

 万事屋リーダーの掛け声でぞろぞろと歩きだす皆。

 その背を見つめ私は何処に帰ろうかと考える。


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