いつもの河川敷で竹刀を振る。
川のせせらぎをBGMに、型をなぞり、足捌きを加え、縦に横に。
剣道部とか憧れたよなぁーとベッドに縛り付けられた日々を思い出す。自主練とかかっこ良くない? 俺カッコいいとうぬぼれてみる。
最近筋肉が少しづつついて来たようで、筋肉痛になることも減った。手の平が少しザラついてタコらしきものも出来た。それを思うと少し気持ちが向上する。
そうやって気を散らしてしまった所為だろう。
「何かエロいことでも考えてんですかー、お嬢さん」
雑になってしまった態度を
手を止め、土手の上をちら見上げると、気だるげな態度で、片腕を着流しに掛けた銀さん。
もうこの河川敷使うの止めようか? 色々恥ずかしすぎる。
どうするか悩んでいつも通りの態度を探す。
「さっきから丈の短い子のパンツがチラチラ視界に入ってね、なかなかに」
「え、まじで? 見えんの? そこ穴場スポット?」
驚愕の新事実に銀さんは目を開き、「えっ、どうしようかなー。ちょっと降りてみる? いや、別にあれだよ? パンツが目当てって訳じゃないよ? ただ正しい竹刀の持ち方をだなぁ。あ、この竹刀って別に深い意味があるわけじゃないよ? って、何言い訳してんの俺?」なんてブツブツ呟きながら不審者っぽい動きで、くるくる回る。
本当、男って馬鹿だなぁー。
「嘘だよ」
「嘘かよ!」
侮蔑を込めて新事実の真実を突きつけると叫びを上げた。
「銀さんはまたパチンコ? 夢、買えた?」
手に持った紙袋を見てあたりをつける。
「おー、買えた買えた。珍しく大勝ち」
ザッザッザッとブーツ鳴らしながらそこそこ急な土手を駆け降りてくる。着流しの白い袖が後ろに流れ、改めてこの人の身体能力の高さを思い知る。
紙袋をゴソゴソ漁って投げられたそれはパックに入ったいちご牛乳。
「いーの?」
「まだあるからいーの」
土手に腰を下ろすと、拳三つ分の距離を開けて隣に銀さんが座る。
パックからストローをベリッと剥がし、差し込む。まだ冷たいそれは、ここから程無い所に出来た新装開店のパチンコ屋に寄ったことを意味している。
チュウッと吸うと乳白色のストローの中を、ピンクの液体がせり上がり、口内へなだれ込む。トロリと人工的な甘い味が口に広がる。上品とは言えないそれが結構好きだったりする。
銀さんは時々優しい。私にだけ特別なんて思うことは馬鹿げてるけれど、少なくとも新八君や、神楽ちゃんに対するよりは、分かりやすい甘やかしを私にくれる。
「甘ったるー」
「お前なぁ……貰っておいて不満かよ」
「ただ事実を述べたまでですよ」
「だったらもっと嬉しそうに言えよ」
「甘ったる!」
「テンションだけじゃなくて、言葉を変えろ!」
いちご牛乳の甘さに隠してその甘さに文句を付ける。
「銀さん、石をぴょんぴょんって水面跳ねさせるやつできる?」
この前通りがかった子供がやっていた遊びを思い出す。
どうやったらそうなるか不思議で、子供達がいなくなった後、こっそり真似てみたけれど全然できなくて、見ていたホームレスのおっさんに笑われる羽目になった。悔しくて、裏ワザを使って対岸まで飛ばしてやったら、驚いていてざまーみろと思った所でなにやってんだろと落ち込んだ。
「石をぴょんぴょんって水切りのことか?」
「水切りっていうんだアレ」
あの行為に名前がついていたことに驚く。
「水切り銀ちゃんの異名は伊達じゃねーぜ」
「初めて聞いたよ? 今つけたでしょ」
「うっせーなぁ、名前ってのは名乗ったモン勝ちなんだよ。元祖とか本家とか頭につけなきゃいけない意味、考えて見ろよ」
色々怒られそうな事を言いながら、銀さんはしゃがんで河原の石を幾つか拾う。
拾った内の二三個はポイポイと捨てて、吟味した後、横に構えてすっと投げる。
水の上を石がぴょんぴょんと10回以上跳ねてった。
「すごっ」
私のアレはノーカウントとして、子供たちがやってた時は精々6回が限度だった。
「どうだ恐れいったか」
得意顔の銀さんに素直に凄いと褒めると石をぽんと投げられた。
「やってみ」
「私は見てるだけでいーや」
無様な醜態を晒すことは目に見えていたので、それを投げ返す。
「いいからやってみろや」
それなのに土手に腰掛けていた私の腕をぐいっと引っ張るとその手に無理矢理石を握りこませる。
しぶしぶ貰った石を見よう見真似で投げるとやはりポチャンと音を立てて跳ねることなく沈んでった。
「笑え!」
そんなもんだよなーうんうんと一人で勝手に納得している銀さんにイラっとして、笑うことを強要する。
「まあ、初めてだとそんなもんだよなー」
「人を
無意味な反抗心。
「だって本当のことだろ? お前、こーいうの教えてくれそうな友達いなそーだもんなぁ」
そんな心なんてまるっとお見通しだとばかりに、弱い所をチクチク突かれる。
そりゃいなかったさ、一人寂しく引きこもる日々でしたよ。
ぐさりと心に突き刺さる言葉にむくれる。
「もうちっと手の平を寝かせて水をこう切るように投げんだよ」
そんな私を見た銀さんは「しかたねぇなー」という枕詞を置いて、握った石を私に見せ、ゆっくりともう一度投げる。石を探して私もそれを真似て投げると、ぴょんと僅か一回ではあるが跳ねた。
おー! できた!
「そんな感じだよ」
調子に乗って二個三個と石を投げていくと跳ねる回数はすぐさま増えていった。
「水切りきーやん名乗ってもよくね? これ」
一人はしゃいでると、その隣で大人げなく対岸に届こうかとばかりに水を切る銀さん。
「水切りの名を名乗るにはこんぐれーできねーとな」
にやっと笑う顔が凄いイラッとした。