夜風に吹かれて、メリーゴーランドが軋み声を上げる。久しぶりに聞いたキィキィという耳障りな音は、なんだか懐かしく思えた。
馬車の窓から見上げる空は真っ黒で、星がよく見える。
ジェットコースターも、観覧車も、サビつき朽ちた全部が全部、星達の淡い光によって、かつての姿を取り戻す。優しい星の魔法。
人は死んだら星になると皆が言う。けれど、私はそんな綺麗なお伽話を信じる事はできなくて、人は死んだらゼロになるんじゃないかと思っていた。
人体の構成成分は、水、三十五リットル。炭素、二十キログラム。アンモニア、四リットル。石灰、一.五キログラム。リン……何グラムだっけ? 後は忘れたけれど、とにかくまあ、人間というのはそれ等が起こすただの化学変化で、脳の動きでさえ、シナプスを通るただの電気信号でしかない。
だから私という存在すらも、その電気信号でしかなく、死というのは、それが途絶えるだけ。
偉大で絶対的な世界で唯一の真実も、実はアナログ的な電流で表現される、そんな陳腐な
私はそれを信じていた。
何の夢を見ていたかは思い出せない。だけど鉄臭い、でも鉄とは違う生臭さの混じった……血の匂い。そんな匂いが、まだしているような気がする。
目を閉じるとはっきりと思い出す。
桂さんが斬り殺した高杉の仲間達。
逆に斬り殺された桂さんの仲間達。
似蔵。
私のせいで救われなかった人。
私が……殺した人。
嫌いじゃなかった。
これを一つづつ拾って私は背負っていかなくちゃいけないと思うと、とても胸が重くて抱えきれないと思った。
『それまで仲間を皆を護ってあげてくださいね。約束……ですよ』
でも、それ以上の痛みを背負って微笑んでいる人がいる。
「死は……怖いね」
銀さんなら……なんと答えるだろう? 「そうだな」と慰めを口にしてくれるだろうか? それとも「それが分かるのは死んだ奴等だけだよ」と、誤魔化さず、いつもの様に正しい答えをくれるだろうか?
けれど私はそれを聞くことはないだろう。
背負ってくれるだろうから。背負ってしまうから。
私は死んだのか生きているのか、それは分からない。だから死が怖いのか、それの正しい答えを出すことができない。
一直線を示す心電図。それが死を意味するのであれば怖くない。だって……その先に温かいものがこんなにもあるのだから。
ねぇ、私、死んじゃった? ここは天国? それとも……ここは
答えの出ない問題の代わりに、空を見上げ綺麗なお伽話を考える。
人が星に向って呟いた言葉はどんどん空に昇って行って、何万光年も旅して……そしていつか遠い未来、星に届く。そしてその返事はまた何万光年も旅して瞬く光と共に返ってくる。
今降ってくる光はいつか誰かが星に聞いた答え。
遠い遠い昔の返事だから、言葉が変わっていて、私達にはもうはっきり聞き取れないけれど、星の光のように優しい言葉が沢山降ってきている。私達が星に呟く言葉は、未来の誰かの為の言葉。
そんな綺麗なお伽話。
今は、そんな陳腐な
コギト・エルゴ・スム。世界は私で出来ている。それは私が信じたい物を信じればいいという、魔法の言葉。
死は怖い……。だけど今は……。