戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ   作:ルシエド

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いやあ、ワクワクしますね!

金子彰史@シンフォギアGX ‏@akanekotwitte10 22 時間
と、いうわけで。
ワイルドアームズミーティングから帰還。

参加者は、俺となるけさんと、SCEの本村プロデューサーと
みんな大好き、プロモーションの西島さん。

「今年は、シリーズ20周年なんだぞ!」ということを力説する夜でございました。

外は寒いが、俺たちはきっと熱かった。


3

 切歌と調は今でも鮮明に思い出せる。もう何年も前の、あの日のことを。

 ゼファーにコンテナに押し込まれ、片腕を無くした彼と離れ離れになったあの時。

 ギアを纏って駆けつけたのに、ネフィリム相手に何もできず撤退せざるをえなかったあの時。

 戦いが終わり、友の死を知らされたあの時。

 

 二人の胸に、後悔が生まれた。

 

 ゼファーは"居なくなりはしなかった"が、あの日に二人を含む皆を守るために"死んだ"ことに変わりはなく。

 かの日にゼファーが人から聖剣に成り果てたことは、今日まで尾を引いている。

 そこに先日の顛末だ。

 二人は、心苦しいどころの話ではなかっただろう。

 

 だが、負の感情はそれ単体で見る限りは悪だが、それが好転に繋がることもある。

 人に尊厳を踏み躙られた響が、人と繋がれることを信じる気持ちを持ったように。

 奏の喪失をきっかけに、仲間を守る覚悟を強固にした翼のように。

 凄惨な戦場で生きた過去を、クリスが世界を平和にしたいという祈りに変えたように。

 

 守れなかった後悔は、守りたいという決意に変わる。

 かつてのゼファーが、そうだったように。

 

 暁切歌は、月読調は、過ぎ去りし日のゼファーに償うために。

 今ここに居る友を守るために。

 明日に彼が生きる未来を作るために。

 

 友情を胸に、刃を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十八話:おそらくきっと、世界でいちばん色気のない修羅場 3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調と切歌が目を合わせる。

 赤紫の透き通った瞳と、純な翡翠の瞳が、目と目だけで互いの意思を十二分に伝えた。

 調はリリティアに向かって跳び、切歌は彼女の背中をウェルから守る。

 シュルシャガナに触れ、調は魔剣の力を開放した。

 

「イグナイトモジュール、抜剣」

 

 シュルシャガナに魔剣ダインスレイフの力が加わり、調が手にしたヨーヨーが振るわれ、それをリリティアが氷の壁で受け止める。

 氷の壁に当たった直後にヨーヨーの糸は巻き取られ、ヨーヨーは彼女の手元に返り、また放たれる。パンチング・バッグと呼ばれる技に近い連打。

 調のヨーヨーはそうして壁を叩き、徐々に削り取っていく。

 

 調にはパワーが無いため、こうして手数で攻撃力を補うしかないのだ。

 だがリリティアはそうした弱い攻撃の積み重ねに付き合う気がないのか、氷壁にヨーヨーがぶつかった瞬間、氷を操作してヨーヨーを氷壁内に取り込んだ。

 氷に取り込まれたヨーヨーは調の手元に帰らず、彼女は武器を一つ失った……かに、見えた。

 

 だがなんとそこで、氷の壁に飲み込まれたヨーヨーが爆発する。

 この展開を読み切り、おそらくは初めからそういう仕込みがされていたのだろう。

 調のヨーヨーは氷壁を内部から爆破し、リリティアの防御をこじ開けてみせた。

 そしてすかさず、調は防壁の空いた隙間から小型の丸鋸を叩き込んだ。

 

 リリティアが人であったならば、調の駆け引きの強さに目を細めていたかもしれない。

 

(ねえ)

 

 調を一番傍で見ていた切歌ですら舌を巻く、丁寧で正確無比な攻撃により組み立てられた駆け引き主体の攻勢。

 それを成していたのは、調であって調でなかった。

 

『何かしら?』

 

 調が頭の中で問えば、頭の中で返答が返って来る。

 そう。今の彼女の体を動かしているのは、彼女の中の人なのだ。

 ただ、調の体の主導権を全て握られているわけではない。

 今回は何故か主導権が調側にあり、調はあえて言えば糸で吊られている人形のような状態で、調でない他人の意志に動かされていた。

 調が邪魔にならないようされるがまま動かされているからいいものの、調の体を操作している者と調の意志が食い違えば、即座にリリティアに八つ裂きにされかねない。

 

(……なんで、私の体を操りながら、主導権を握らないの?

 主導権を私に渡したままだと、私が体を動かそうとすれば齟齬が出る。

 前みたいに、あなたが主導権を握った上であなたが私の体を動かせばいいと思うんだけど)

 

 調の体が機敏に動く。

 常の調の身体能力に合わせて、常の調の体の動きを発展させる形で動いていく。

 調の胴体よりも太いリリティアの氷の刺を、調は筋力ではなく柔軟性を活かしたバク転で回避。

 続き拳大サイズの氷が雨あられと降って来るが、調は脚部ローラーにて、スケートで障害物競走でもしているかのように鋭角に・滑らかに・鮮やかに回避を成していった。

 

『あなた、覚えてないのね』

 

(……?)

 

『あの時、Dr.ウェルの魔剣ルシエドの干渉を跳ね除けた時。

 あなたは意志一つでリインカーネイションシステムを使ったはずよ。それも、私以上に』

 

 頭部多機能ユニットより、小型の丸鋸を斉射する調。

 丸鋸はリリティアの氷にいとも容易く弾かれるが、弾かれた丸鋸は人間技とは思えないレベルの制御を成され、空中で弧を描いて再度リリティアを強襲していく。

 調の頭の中では、調でない者が"複数の物事を同時に処理するための思考術"を使い、調の頭を最適な形で稼働させ、最高のパフォーマンスを発揮させていた。

 

『既にあなたは、私を超え始めている。才覚は十分よ。

 月読調に足りないものは、知識・経験・技。ならば、今日ここから学び、覚えなさい』

 

 調でない誰かが調の体を動かし、調に"動き方"を馴染ませる。

 体術。武器の応用。分割思考。あらゆる状況に対応する、あらゆる対処法までもだ。

 肉体の主導権を握っている調からすれば、肉体と思考に直接指導を叩き込まれているようなものだろう。調はまるで、自分より優れた人間の動きを、自らの意志でなぞっているかのような錯覚の中に居た。

 

 今もまた、調の体が新たな技をなぞっていく。

 氷の柱が飛んで来て、調がそれを足裏で蹴れば、足裏のローラーが高速回転。足の力とローラーの回転で氷柱はゆるやかに押し流され、調に当たらない軌道へと逸らされていた。

 

『あなたの武器の強みは回転。円だけでなく、回転の方向も意識しなさい』

 

 リリティアは空中に巨大な氷の剣を形成し、それを握りもせずに振り下ろす。

 調は頭部のユニットを変形させ、大丸鋸を構えた。

 ツインテールが、左右一対の武具となる。

 高速で右回転する右の丸鋸で、氷の巨剣を右に弾く。受け流すように、弾く。

 

『受けと同時に流すなら、右回転の丸鋸を右に当て、左回転の丸鋸を左に当てる』

 

 氷の巨剣は極めて機敏だ。

 生身の風鳴翼の剣閃と比べればこちらの巨剣の剣閃の方が速いだろう、と言えるほどに。

 ゆえに、切り返しも早く、第二撃がすぐさま横薙ぎに振り切られる。

 調はそれに対し、先程受け流した際に少し削った部分を正確に狙って、左回転する大丸鋸の右側を叩きつけた。

 

『受けと同時に傷つけるなら、左回転の右側、右回転の左側を当てる』

 

 結果、"摩擦熱"と"切削"の二つの要素を二連続で叩き込まれた氷の剣は、溶かされ削られ斬られることで、真っ二つに両断される。

 この一撃で諦めてくれればいいのだが、そうしないのがリリティアだ。

 リリティアは更に空間凍結攻撃を実行。

 調の中の誰かはそれを事前に察知し、調はそれを事前に察知する方法を学びながら、後方に跳躍して空間凍結を回避する。

 だが、それすらも囮であった。

 跳躍した直後の調に、人体の分子構造を崩壊させるほどの冷気が飛んで来る。

 

『あなたの頭部ユニットの丸鋸も、移動には使える』

 

 回避できない? そんなわけがない。

 調の体は巧みな技に操られ、ツインテールの延長で伸ばされた頭部の大型丸鋸を地面に叩き付ける。必然、回転する丸鋸は地面を弾き―――調の体を、反動で移動させる。

 冷気はあえなく、そんな手段で回避された。

 

『常に考えなさい。常に模索しなさい。

 諦めない気持ちだけでは何もできない。

 諦めない気持ちを抱えた上で、打開策を考え続ける思考こそが、奇跡を繋げるのよ』

 

(うん)

 

 調の耳には、彼女の背を守る切歌の刃鳴る音が届いている。

 調の脳裏には、彼女に指導を重ねる女性の声が響いている。

 調の視界の端には、少し離れた所のゼファーが見えている。

 負ける気がしなかった。

 一人じゃないと、そう確信できるものがあったから。

 

 ……だが、一つだけ、懸念事項があった。

 

 リリティアの手に"あんなもの"はあっただろうかと、調は思考する。

 なかったと、調の脳裏に返事が返って来る。

 リリティアの両手には、青色の篭手のようなものが取り付けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ディーンハイム』は、人知れず世界の裏側を旅する錬金術師の一座である。

 時にふらっとどこかに現れ、奇跡の劇場を開幕する。

 時に戦争勃発の危機に現れ、奇跡のように戦争を止めていく。

 時に異端技術を研究する場所に現れ、奇跡の技を交換し、去っていく。

 

 ジュードの両親は"渡り鳥"とも呼ばれる、絵物語の正義の味方のような仕事をしていた。

 その身に流れる血の影響もあるのだろうか。

 彼は仲間達と共に、旅の途中で人が困っていれば手を貸していた。

 惨劇が起きそうになっていれば、それを事前に止めていた。

 『錬金術』という名の、神ならぬ身で結実させた叡智を掲げて。

 

 そして、彼らの旅路とゼファーの物語は、今この場所で交差する。

 

「光殺し、グロリアスブレイカー。闇殺し、グルーミィブレイカー」

 

 ファラの手の中から、ビー玉ほどの大きさの光の玉、闇の玉が飛んで行く。

 飛んでいく目標は、光速攻撃と銀河生成という頭がおかしくなりそうな規模の攻勢を仕掛けてきている、ルシファアとセト。

 光の玉とはルシファアの攻撃に、闇の玉はセトの攻撃にぶつかり、同時に消滅していく。

 それどころか、光の玉はルシファアの光の羽にも干渉しその速度を下げ、闇の玉はセトのワームホールすら消し去っていく。

 玉の数には限りがあるだろうし、ルシファアとセトにものすごい数で減らされているが、まだまだ尽きる様子はない。

 

 ファラが振るうは『哲学兵装』。

 「○○であれば問答無用で殺す」という、理系の理屈ではなく文系の理屈で作り上げられた概念兵器である。

 当然ながら、一属性に偏った戦闘者にとっては絶対的な天敵だ。

 

「光、闇、盾。上位ゴーレムは属性がはっきりとしていてやりやすいですわね」

 

 哲学兵装は、"最近多い剣の兵装を壊したい"、"アースガルズの盾を壊したい"、といった要望から、一属性への対抗策を模索した先史文明期末期に生まれた技術体系。

 人が敵たる人の兵器を破壊するため、生み出されたものだ。

 その特性上適用範囲は異常に狭く、上位ゴーレム相手に通用するレベルの力となれば、それ相応のエネルギーが必要となってしまう。

 

 本来ならば必要なエネルギーが膨大すぎて、実用化なんて現実的でないアンチ・アイテム……なのだが、ファラは平然とそれを使っていた。

 

「ネフィリム・ディザスター。こんだけデカけりゃ、やりがいもありそうだゾ」

 

 ファラが上位ゴーレム二体の攻撃を一時的に食い止めている間に、ミカはレイア・シスターズと呼ばれた巨大ロボ達の救援に向かう。

 ネフィリムは強かった。

 巨大なだけではなく、大きさに相応以上に強かった。

 レイア・シスターズも既に鉄屑と成り果てている。

 

 自分と同サイズの錬金術師製巨大ロボ三体を相手にし、時間もかけずに全機撃破。この時点で途方も無い強敵であることに間違いはない。

 ミカは体内のパワーソースを後先考えずに一気に燃焼し、自ら燃え上がるほどの熱を発する。

 そして100mサイズのカーボンロッドを生成、赤熱するそれをネフィリムに叩きつけた。

 

 ネフィリムが両腕でそれを受け止める。

 ミカは米国が開発している運動エネルギー兵器・神の杖を凌駕するほどの力を込め、ネフィリムはそれを両の腕で受け止めた。どちらも、パワーの桁が尋常ではない。

 

「バーニングハート・メカニクス! 出し惜しみはナシで行くゾッ!」

 

 ごうっ、とミカの体が燃え上がる。

 『バーニングハート・メカニクス』。それは、"想い出"と呼ばれるミカのパワーソースを一気に焼却して爆発的な出力を得る、ミカの決戦機能である。

 エルフナインにより極端なチューニングが成されたそれは、ミカの内部エネルギーのみを使うのであれば、たった数秒で全てのエネルギーを使い切ってしまうほどのピーキーな機能であった。

 

 本来ならば必要とされるエネルギーが天文学的な域に達するため、実用化は現実的ではない戦闘力のブーストシステム……なのだが、ミカは平然と一分以上それを使っていた。

 

「遅れるなよ、エルフナイン」

 

「はいっ!」

 

 攻撃の手は緩まない。

 バルバトスは弾丸に限りがある代わりに、アフリカ大陸をも一撃で吹き飛ばす対大陸弾頭、マルドゥークゲイズを発射。リヴァイアサンは原子力魚雷、リアクタートピドーを発射。

 ディーンハイム一家の中心人物と見たジュードを狙い、ゴーレムは火力を集中させる。

 

 だが今は、入れ替わりに護衛についたキャロルとエルフナインが居る。

 天体を構成するという第五元素が二人の手元に集まり、黄金の紋章(クレスト)が信じられない量のエネルギーを吸い上げ、堅固な盾を形作る。

 核兵器を空に放とうと天体が壊れはしないように、その盾は硬く崩れない。

 

 人間の人生200年分の"想い出"を一瞬で消費するほどの盾。普通ならば使おうと考える事自体が愚か者の証明となる盾……なのだが、キャロルとエルフナインはまるで気にせず使用していた。

 

「悪くない。その調子でついて来れたなら褒めてやるぞ、エルフナイン」

 

「! キャロル……!」

 

 キャロルに褒められて嬉しいのか、エルフナインの張り切り度合いが大いに増した。

 そんなエルフナインを、ジュードは妹を見守る兄の目で見つめる。

 

「なんとまあ、強い……」

 

 ウェルはルシファア、セト、ネフィリム、バルバトス、リヴァイアサン、ネフィルという布陣で押してなお押し込めない、この状況に感心したような声を漏らす。

 錬金術師の一味にゴーレムやネフィリムが落とされる気配はないが、ゴーレム達が彼らを殺し切るにも時間がかかるだろう、というのがウェルの現状での見解だ。

 ウェルの予想をはるかに超えて、"ディーンハイム"は強かった。

 

 オートスコアラーは戦闘用の人形ではない。せいぜい"戦闘もできる人形"だ。

 製作者のキャロルとジュードが物騒なことを望んでいないのだから、それも当然か。

 なのに戦闘用のゴーレムとその戦闘力が拮抗している。何故か?

 

 それは、仲間達にジュードが無限に、無尽蔵に、無制限に、『想い出』を供給しているからだ。

 

 ウェル視点では情報が少ないため分からない。

 情報があったとしても、その結論に到れるかは怪しいところだろう。

 普通、分かるわけがない。"想い出を無限に捻出できる人間"が居るだなんて。

 

「おねんねしてなぁ!」

「派手にやらせてもらおう」

 

「ほう」

 

 考察を重ねるウェルに、どこからともなく現れたガリィとレイアが攻撃を仕掛ける。

 ガリィが水で光を屈折させ、二人の姿を隠していたのだ。

 レイアは手と手の間に作った土を圧縮し、重力崩壊を起こすまで圧縮し、極小サイズまで潰されたそれをウェルへと叩き付ける。

 ガリィはガリィで、手に氷の刃を作り、そこに無駄なく力を集約して突き出していた。

 

 ウェルはそれに身じろぎもせず、魔剣ルシエドのオートガードシステムにて防御する。

 ピンポイントで展開された障壁はガリィとレイアの上位ゴーレム級の攻撃を受け止めて、なお余裕を見せていた。

 二人は更に力を入れて押し込むが、魔剣ルシエドの守りは小揺るぎもしない。

 

(地味に硬い……!)

 

(これは相手するだけ無駄な奴ね。ああ、面倒臭い!)

 

「危ない危ない。蟻の牙を向けられた象の気分ですよ。ああ怖い」

 

 おどけながらウェルが剣を振るえば、二人のオートスコアラーは跳躍して回避。

 魔剣が通った部分の空間が根こそぎ消滅しているのを見て、ガリィは人知れず舌打ちした。

 

「うーん、あんまり長引かせてもあれですねえ。僕が少々困ってしまう」

 

 ジュードが一つの世界を創造し、そこにウェル達を引き込んでから二分か三分が経っていた。

 これ以上長引けば、この領域の外側に居るであろう装者達が、ゼファーと切歌と調が居る方に行きかねない。それはウェルの望むところではなかった。

 吹っ飛ばされるネフィルを見ながら、ウェルは"この相手には自分もリスクを背負わなければならない"と悟る。

 

「仕方ない。調整不足ですが、危険を承知で投入しましょう。ロンバルディアッ!」

 

「!」

 

 そして彼は『別の宇宙から来た』、言い換えるならば『世界から世界へと飛んで来た』逸話を持つ竜を召喚し、ジュード達へ向かって飛翔させる。

 ロンバルディアと呼ばれたドラゴンは、大きく口を開け、咆哮。

 "宇宙を崩壊させるほどの咆哮"が、ジュードの作った"宇宙より頑丈な世界"の中に響いていく。

 ウェルは、"ディーンハイム"を甘く見ていた。

 ジュードの特性を知らなかったために、脅威にはならないだろうと考えていた。

 強くもない者が命をかけてまで自分達の敵に回るメリットなど、無いと思っていた。

 むしろ昔に少しだけ交流があったことから、味方に引き込める可能性すら考慮していた。

 それら全ての思い違いを、ウェルはこの場で捨てる。

 

 そして、自らリスクを背負い、戦いの場に臨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリティアの手に"あんなもの"はあっただろうかと、調は思考する。

 なかったと、調の脳裏に返事が返って来る。

 リリティアの両手には、青色の篭手のようなものが取り付けられていた。

 

 そうして調は、大丸鋸を接近してリリティアへと全力で叩き付け―――ノコギリを粉砕された。

 

「ッ!?」

 

 魔剣ルシエドは先史文明期の科学技術のほぼ全てを搭載している。

 そして、欲しいと思った能力を獲得する能力も持っている。ゆえに――

 

「リリティアの手に付けてあるのは、哲学兵装剣殺し(ソードブレイカー)

 

 ――研究者たるウェルの手に渡れば、それを解析し参考にして、他のゴーレムに別の要素を付け足すことなど造作も無い。

 ブランクイーゼルという、ウェルに無い技術を補う手足だってあるのだから。

 

「紅刃シュルシャガナ。

 碧刃イガリマ。

 魔剣ダインスレイフ。

 聖剣アガートラーム。

 全て、剣! 相性は笑えるくらいに最悪だ、さあどうする!?」

 

 リリティアの篭手が輝きを放つと、その輝きは放たれる氷へも飛び移っていく。

 調が放った小さな丸鋸が、氷の壁に当たった瞬間一斉に砕けた。

 調が構えた大きな丸鋸が、盾の役目も果たせず氷の弾丸に粉砕された。

 攻防共に圧倒される要素が生まれ、調は思わず歯ぎしりする。

 

(そんなのありっ!?)

 

『落ち着きなさい。冷静に、的確に、無駄なく避けるのよ』

 

 頭の中に避け方が浮かび、それをなぞるように調は回避行動を取っていく。

 自分が自分であり、自分が他人であり、他人が自分であるという感覚の中、調は器用に自分の肉体を制御していた。

 

「調っ!」

 

 そんな中、切歌が回避に動く調のカバーに入る。

 

「きりちゃん!」

 

 切歌はウェルに対峙するのをやめ、ウェルの動きに注意しながら調をカバーする。

 とはいえ、彼女もまた"剣殺し"の対象内だ。

 全ての攻撃と防御を無効化するこの哲学兵装を前にしては、物理的に庇う事などできはしない。

 切歌は調を抱えてブースターにて飛ぶことで、リリティアの氷の雨を回避していた。

 

「ありがとう」

 

「いいってことデスよ!」

 

 時に剣だったり、時に槍だったり、時に弾丸だったりする氷の雨。

 それらを調と切歌は見事に回避していくが、受け流しなども含む防御の一切を封じられた上、運動エネルギーの略奪で動きが鈍っているこの状況で避けきれはしない。

 イグナイトの力があるからこそどうにかなっているが、そうでなければ瞬殺されていたはずだ。

 二人の少女の肌に、擦り傷や切り傷が少しづつ増えていく。

 

(負けられない……)

(負けられない……!)

 

 それでも、二人は粘る。

 粘りに粘る。

 負けたくないと、強敵を前にして食い下がり続ける。

 

(今度こそ)

(今度こそ!)

 

 調は滑るように、切歌は飛ぶように回避を続ける。

 時に上半身を振り、時に跳躍し、時に地面に転がり、時にギアのギミックを使って、彼女らは自分達よりも強い敵に挑み続ける。

 数年前に無力ゆえに抱いた後悔が、一ヶ月前に何かを間違えてしまったがために抱いた後悔が、彼女らを突き動かしている。

 諦めるなと。

 負けるなと。

 折れるなと。

 守るんだと。

 まだ遠くにまで逃がせていないゼファーを思い、二人は戦う。

 

(守るんだ)

(守らないと!)

 

 力の強さに宿るものではなく。

 自分よりも強い者に挑み続ける、諦めない者の心に宿るものがそこにある。

 それは力の強さでなく、心の強さに宿るもの。

 

(あの時みたいな思いは、したくない)

(あの時みたいな思いは、したくない!)

 

 切歌が鎌の刃を飛ばす。

 調が無数の刃を飛ばす。

 それら全てが、霧のように空中に漂う氷の粒子に粉砕される。

 触れれば剣殺しが発動する氷の霧。これが戦場に充満すれば敗北は必定。ゆえに、調と切歌は自分達の放った攻撃を空中でぶつけ合い、刃を爆裂させる。

 刃を構成していたエネルギーが解け、その爆風は殺傷力を持たずとも、氷の霧を吹き飛ばし希望を繋げる。

 

((もう、二度とッ―――!!))

 

 哲学的天敵を前にして、調と切歌は驚きの粘りを見せていた。

 攻撃は足止めにすらならず、防御は抵抗にもならない。天羽々斬のようなスピード、イチイバルのような剣殺しを抜ける攻撃手段、グラムザンバーのような規格外も彼女らにはない。

 それでも二人は、今あるもので食い下がり続ける。

 

「ほら、背中がお留守ですよ?」

 

「「 ! 」」

 

 そんな二人に何を思ったのか、ウェルはまたしても二人に攻撃を仕掛けていた。

 

「っ!?」

 

「きりちゃん!」

 

 ウェルの方を警戒はしていたからか、二人はクリーンヒットだけは避ける。

 特に調の回避は、ウェルの予想以上に巧みで滑らかであり、明確にダメージを与えられたのは切歌だけであった。

 切歌はふらっと膝をつくが、調がすかさず切歌を抱えてギアの車輪にて走り出し、切歌のダメージが抜けるまでの十数秒をカバーしていた。

 

 二人がかりでないとリリティアには押し切られる。

 しかしウェルも時々気まぐれのように攻撃を仕掛けて来る。

 ゆえに、ウェルを警戒しながら二人がかりでリリティアの猛攻を捌くしかない。

 それがたとえ、ウェルの気まぐれ次第で死に至るかもしれない戦い方であったとしても。

 逃走にさえ希望が見えない以上、それが彼女らの最善だった。

 

 剣殺し(ソードブレイカー)を得たリリティアを相手にするだけでも勝機がないというのに、そこに魔剣ルシエドの攻撃まで飛んで来るのであれば、生存の確率ですら0に近いだろう。

 

「まだまだぁッ!」

 

 だが、二人は折れずに戦い続ける。

 

「待ち人が戻って来るまでは!」

 

「あたし達が守ってみせるデス!」

 

 ブランクイーゼルによる通信障害はまだ続いていて、助けは呼べない。

 だが、戦闘が終われば響が戻って来てくれる可能性はある。

 調と切歌は九割以上そういう意図で言った。

 そして、ほんの少しだけ、ほんの僅かに……ゼファーに戻って来て欲しいという祈りを、彼女らは無意識の内にその言葉に込めていた。

 

 戻らないと分かっている。

 精神・肉体・魂の三要素を全て殺され、命もほぼ尽きたゼファーが復活する可能性なんて、想像もできない。

 それでも、感情は割りきれていない。彼女らはまだ、心のどこかでゼファーを待っているのだ。

 

 それを、ゼファーは木に寄りかかった体勢のまま、ぼうっと見ていた。

 

(この光景を、俺は何度も見たことがある)

 

 喪失に向かう戦闘の流れ。

 何かが失われてしまいそうな予感。

 人の生死がかかっている分水嶺。

 ゼファーは今見えている『それ』に既視感を覚えるも、精神の中に記憶という引き出しが無いために、それをどこで見たのか思い出せない。

 

(そうだ こうやって何度も、俺は失った)

 

 具体的な危機なんて知覚できていないはずなのに、透明な危機感だけが降り積もっていく。

 

(そうして、大切な人が手の平からこぼれ落ちる瞬間を、何度も―――)

 

 "変えなければいけない運命が近付く"感覚が、彼に警鐘を鳴らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウェルがリスク覚悟で調整不足のロンバルディアを出して来た瞬間、ジュードとキャロルは目を合わせる。言葉を使わず、言葉よりも早く、二人は目と目で意思疎通を図った。

 

(キャロル、やろう)

 

(……いいのか? あれは、勝負を決める時に使うべきだ。

 この状況で使ったとしても、そこまでの結果は得られないと思うが)

 

(このまま戦い続けても、状況が好転することはないと思う。

 ファラの光と闇の哲学兵装も、あと一分かそこらで尽きる。

 レイア・シスターズがここまで早く落とされたのも計算外だよ。

 頭数でも負けている以上、このままじゃおそらく撤退にすら持ち込めない)

 

(仕方無し、か。バルバトスかリヴァイアサンのどちらかは落としておきたいが)

 

(欲張りは身を滅ぼすよ)

 

(お前は無欲だから痛い目を見るんだ)

 

 戦いに向いていないジュードをキャロルが支える形で、彼は決断する。

 

「やるよ、皆!」

 

 了解、と二人の女性と四体の女性型人形が返答を返した。

 

限定解除(エクスドライブ)!」

 

 ジュードから人間に、人形に、莫大な"想い出"が注ぎ込まれる。

 注ぎ込まれた想い出は、光となってそれぞれの体から溢れ出し始めた。

 想い出はそれぞれの体内にて最適な形に変換され、各個人のスペックを飛躍的に上昇させる。

 

 シンフォギアの、エクスドライブのように。

 子供の体が、大人の体になるように。

 ミカがバーニングハート・メカニクスを発動させた時のように。

 ロウソクが燃え尽きる直前に、激しく燃える時のように。

 

 ウェルはそれを見て、ロンバルディアの参戦により逆転した形勢が、更に逆転したことを理解した。

 

「! まだ、スペックが上が―――」

 

 ウェルが言葉を言い切る前に、ガリィが抜き打ちで水を撃つ。

 今までとは比べ物にならないほどの密度、速度、破壊力で撃たれたそれは魔剣のオートガードシステムにより弾かれるが、ウェルの体をその衝撃で少し浮かせることに成功していた。

 

「本当によく喋る口よねぇ。あんたの声気に障るのよ、ゲロカス男」

 

「……人形風情が、言うじゃないか!」

 

 ゴーレムが、ドラゴンが、ネリィリムが、ネフィルが、一斉に襲いかかる。

 ウェルの指揮の下動くその怪物達は、まるで魔王に付き従う魔物の軍勢のようだ。

 キャロルが、エルフナインが、オートスコアラーズがそれを迎え撃つ。

 ジュードの趣味か、それを反映したキャロルとエルフナインの意向か、彼女らの技はどれもがどこか綺麗で美しい。劇場にて人を魅せる劇や奇術のように、それらは人の目を引くものだった。

 

 ジュードはとある理由から無限に想い出を生産できる、一種の永久機関だ。

 ……ならば、余剰分を貯蓄しようとするのは当然である。

 彼が無限に生産できるエネルギーは、ここ数年の間ずっとバッテリーのようなものに蓄積され、今、その全てが開放されている。

 

 その蓄積量、実に六年分。他のことに使用した分を差っ引いても六年分だ。

 彼が17年分の想い出を毎秒に生産していたと仮定して、六年間を秒数に換算すると189216000秒。すなわち、32億1667万2千年分の想い出にも匹敵するのである。

 毎秒生産よりもペースが早いなら、この数倍にまで跳ね上がる可能性もある。

 

 いかにオートスコアラーが戦闘専用にチューニングされていないとはいえ、ジュードがこれほどまでの想い出を注ぎ込み、燃焼したならば当然強い。

 ジュードはこれを10分とかけずに消費し切るペースで、キャロル・エルフナイン・ガリィ・ミカ・レイア・ファラを強化した。

 逆に言えば―――そうでもしなければ、この敵には勝てないと、そう推測したのである。

 

(10分……いや、この先のことを考えるなら5分で決着を付けないと……!)

 

 ロンバルディアが吼える。

 咆哮は衝撃波となりジュードに向かうが、二人の少女と四体の人形により受け止められる。

 衝撃。閃光。爆発。

 障壁と咆哮は相殺し、同時に消滅するが……キャロルは"10億年分の想い出"を注ぎ込んだ障壁が一瞬で相殺されてしまったことに、冷や汗を垂らしていた。

 

(不味いな。想い出の貯蓄は、その場しのぎで使っていい切り札じゃなかったんだが)

 

 ジュード達は強い。強さの桁が違う。

 それゆえに、だからこそ……"それと拮抗してしまう"戦力の強さが、引き立ってしまう。

 先程までジュード達は、"敵からの攻撃をなんとかしのいでいる"という状況にあった。

 そしてロンバルディアが来た瞬間、"なんとかしないとすぐ負ける"という状況に。

 最終的に"限り有るリソースを短時間につぎ込むことで拮抗"という状況に持って来た。

 つまり、この拮抗も永くは続かないということだ。

 

 何もかもが争い事に向いていないジュードをよそに、キャロルはこの戦いの理想的な落とし所を探し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いはやがて、終局に向かう。

 イグナイトの限界時間は999秒。出力を上げれば、戦える時間はさらに短くなってしまう。

 そしてタイムリミットが過ぎてしまうと、装者保護のためにイグナイトは強制解除されてしまうのだ。そのせいで、時間の経過は彼女らの心の中に焦りを生んでしまった。

 焦りは、隙となる。

 

「くっ、うっ……」

 

 切歌の焦りと、調の焦り。

 その二つが重なってしまった一瞬。たった一瞬で、決定打が入ってしまった。

 元より、剣に対しては必殺と言っていい剣殺し(ソードブレイカー)だ。

 一発良いのが入ってしまえば、防御もできないそれに耐えることは難しい。

 切歌と調は地に手足をつき、立ち上がろうとするも、すぐには立ち上がれない状態にあった。

 

「……ぐ、で、デェスっ……!」

 

「終わり終わり、と」

 

 ウェルは子供が遊び飽きた玩具を見るような目で二人を見ながら、リリティアに指示を出す。

 リリティアは切歌と調にトドメを刺す前に、二人にとっての致命的な弱点であるゼファーを確保し、その手に掴んだ。

 人の姿も保っていないゼファーの首をリリティアは右手で掴み、吊り上げる。

 

「く、うっ……!」

 

「……うーん、やっぱりこれじゃないって感じが……ダメだ、僕は今の君にはグッと来ません」

 

「っ?」

 

 吊り上げられながらも、ゼファーの胸の内は何故か熱く煮え滾っている。

 

 諦めない調と切歌を見るたびに。

 守るために戦う二人を見る一分一秒が過ぎるたびに。

 命そのもので歌っているかのような、少女の歌を聞くたびに。

 

 胸の奥に、何かが響く。

 胸の奥に、何かが届く。

 胸の奥に、覚えの有る熱が浮かび上がって来る。

 

 何かを忘れている、と。思い出さなければ、と。

 ゼファーの意識が、知らない想いに突き動かされていく。

 彼はその熱い気持ちをそのまま言葉に込めて、言葉にして吐き出した。

 

「なんで……なんで、アカツキさんとツクヨミさんに、こんなことを……!」

 

「なんで? そりゃあ、こうして君の前で一人づつ殺すためですよ」

 

「!」

 

「僕は思うわけです。君は仲間が死ぬたび、強くなっていると」

 

「や、やめ……!」

 

「大切な人が死んで、そこから這い上がる。

 そういう人生を送っていないゼファー君は、どうにも魅力が足りない」

 

 自分一人では歩けもしない今のゼファーに、リリティアの拘束を振りほどく力はない。

 ただ吊られ、切歌達が手にかけられるのを見ていることしかできないだろう。

 

「さて、僕の頭脳はここから君が巻き返すなんて不可能だと言っている。けれど……」

 

「やめ」

 

「……やれ」

 

 ウェルはゼファーに一度視線をやった後、リリティアに命じ、その足を振り下ろさせる。

 足が向かう先には、切歌が居た。

 

「―――!」

 

 ゼファーと調が、声にならない悲鳴を上げる。

 切歌は踏まれたトマトのようにあえなく潰れた……かに、見えた。

 

「ぐ、ぎ、ぎ……!」

 

「おやしぶとい」

 

 だが切歌は、イグナイトの耐久力とバリアフィールドの集中により、リリティアのスタンピングに何とか耐えていた。

 イグナイトモジュールは、上昇した出力を耐久力の向上に相当回している。

 それが功を奏したのだろう。

 切歌は踏まれたまま、踏み潰されそうな位置のまま、悔しさを滲ませて叫ぶ。

 

「誰かが死んで、悲しくて……もう嫌だって、そう思って!

 何度も何度もそう思いながら……死んでいく友達を見て!

 同じことを思って……同じことを繰り返して!

 そんな成長のないあたしだから……きっと友達を守れなくて……!」

 

 大切な人の死を無駄にせず、糧にして成長したいのにできないのだと、切歌は自分を嫌う。

 成長して変わりたかったのにと、切歌は自分を貶す。

 無力な自分が嫌だったのにと、切歌は自分を蔑む。

 罪悪感が、それらを助長していた。

 

「ゼファー、ごめん……ごめんなさい……!」

 

 ゼファーを殺してしまったことを、ゼファーを今ここで守れないことを、切歌は謝罪する。

 何かを言おうとするゼファー。

 だがそこで、彼の口は、彼の意志に反して勝手に動き始めた。

 

「……違う」

 

 幼きゼファーの精神は、勝手に動き始める自分の口に驚いている。

 今切歌に語りかけているのは、"幼いゼファーでなくてゼファーである"者。

 

「誰かの死が痛いのは、その人を大切に想っているから。

 それは恥ずかしいことでもなんでもないんだ、キリカ」

 

(口が、勝手に動く)

 

「誰かが死んでしまったなら、泣いていいんだ。すぐ立ち上がらなくていいんだ。

 思いっきり泣いて、すっきりするまで泣いていていいんだ。

 それは、誰にだってある権利で、いつ使ったっていい権利なんだから」

 

 覚えのあるような言葉を、記憶が無いまま、ゼファーは口にしていく。

 

「誰かを大切に想うキリカは、どこかで誰かに大切に想われてるキリカなんだ。

 誰かに大切に想われるキリカは、きっとどんな時でも一人じゃない。……誰かが、傍に居る」

 

 彼を最後に決定的に壊したのが切歌なら……彼を引き戻すのも、また切歌なのかもしれない。

 切歌の窮地が、彼を引き戻しかける。

 

「想うこと、想われること。

 その想いは死しても別たれはしない。

 俺も、きっと、死んでもキリカのことは想い続ける……」

 

 ゼファーの中で、何かが形になりそうになっている。

 だが、それは無為に霧散しそうになっていた。

 幼い頃を再現するゼファーの心。その中で、形を結びかけていた何かが消えていく。

 あと少し、あと少しで、何かが形になりそうなのに。

 

「俺はずっと、キリカのことを友達だと想ってる」

 

「―――」

 

 "ゼファー"はその言葉を遺言として、今度こそ完全に消えてしまいそうになっていた。

 

(こんな――)

『こんな――』

(――こんな、結末―――!!)

『――こんな、結末―――!!』

 

 それを見て、調が震える足で立ち上がり、叫ぶ。

 

「思い出しなさい、ゼファー・ウィンチェスターッ!」

 

 その言葉が最後のトリガーとなり、ガチリと歯車が噛み合う音がする。

 

「あなたの原点は……『死にたくない』と、『失いたくない』だったはずよ!」

 

 己の死の可能性を前にして。仲間の死の可能性を前にして。

 ゼファーは原点に立ち返る。

 始まりを思い出す。

 

 ずっと、声が聞こえていた。

 肉体も精神も魂も壊れたはずだったのに……この戦場でずっと、彼には声が聞こえていた。

 「諦めるか」と叫ぶ声が聞こえていた。

 響の声が、翼の声が、クリスの声が、奏の声が、セレナの声が、切歌の声が、調の声が。

 ずっと聞こえていた。

 眠っていた彼を起こすくらいに、大きな声だった。

 

 そうして、彼は―――世界の救いに繋がるステップを、また一つ登る。

 

 

 

 

 

 ゼファーは、星に語りかけた。

 

 

 

 

 

 もしも、星が命であるならば。

 その瞬間、星はゼファーの求めに応え、『返事』を返したのだろうか。

 星が命であると仮定しなければ、その瞬間に起きた事象を言葉にすることは難しい。

 

「なっ」

 

 感性の人である切歌は戸惑いながらも直感的に、"星が動いている"という事実を理解した。

 

「な、なんで……なんでこの星が、生き物みたいに脈動してるデスか!?」

 

 星の鼓動に合わせ、星の息吹に合わせ、ゼファーは星の贈り物を吸い上げる。

 

「オ」

 

 そして彼らしくもなく、獣のように咆哮した。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 そこから始まるは、余命を削り命を繋ごうとするゼファーの再生作業であった。

 星から命を吸い上げて、壊れた肉体・精神・魂を力技で補強する。

 自分の命と自分のものでない命が反発する。

 壊れた肉体は溢れる力で崩壊が加速する。

 精神は無理矢理に接ぎ合わされて悲鳴を上げ、魂が無理矢理に縫い合わされていく。

 

 延命とは程遠い『命の立て直し』。それが、彼の引き起こした奇跡的な事象であった。

 

「"グラブ・ル・ガブル"……!

 まさか、六年か七年か前に僕が君に一度しただけの話を、ここに持ってくるのか……!?」

 

 ウェルの驚愕の声。

 切歌と調の驚愕の視線。

 自分の首を掴むリリティアの腕。

 どれもこれも気にせぬままに、ゼファーは自らを再構築していく。

 

「これが星の息吹……! 本当に、信じられないことをするッ!」

 

 一秒毎にコイントスをして、裏が出れば死ぬような命に。

 裏を返せば、一秒毎にコイントスをして表が出続ければ生きられるような命に。

 己の命を、作り変える。

 それ以外にゼファーが生き残ることができる可能性はなく―――彼はそうして、命を掴んだ。

 

「―――」

 

 ウェルが全力で押し付けた、死の運命を覆して。

 

「アクセスッ!」

 

 銀光がゼファーを包み、一瞬で紅焔を纏う黒鎧が現れた。

 それはただ現れただけで衝撃波を生み、リリティアを吹っ飛ばす。

 

 英雄は、何度でも蘇る。

 

「ナイト、ブレイザー……!」

 

 ウェルはそれを見て、ヒーローショーにヒーローが現れた時に子供が漏らすような声を出した。

 

「Dr.ウェルッ!」

 

 ゼファーは両の手に二刀のナイトフェンサーを形成し、ウェルへと突っ込む。

 ウェルは魔剣ルシエドを振るい、ダウンロードした剣術にて応戦した。

 無尽蔵の連撃が無制限に振るわれ、無限にも思える無数の衝突音が鳴り響く。

 

 二刀のナイトフェンサー。それは、かつてオーバーナイトブレイザーが使っていたものだ。

 ゼファーが振るう二刀の高熱剣は、それに等しい次元にあった。

 熱量も、剣速も、破壊力も、ゼファーのそれはオーバーナイトブレイザーと同格の域にある。

 とうとう彼は、かの怪物に追いついたのだ。

 

「とうとう至ったのか、その域に! 今君は!

 オーバーナイトブレイザーと同じ強さの領域に居る!」

 

「強さなんて関係ない! いつだって俺の強さは、想いの後に付いて来た!」

 

 ナイトフェンサーと魔剣ルシエドが、幾度と無く交差する。

 千の剣閃をルシエドが放てば、ナイトフェンサーは千の剣閃で拮抗する。

 万の突きをナイトフェンサーが放てば、ルシエドは万の防御でそれを弾く。

 両者の間に億の攻防が繰り返されようと、それはほんの数秒の時間しか費やさない。

 

「たとえどんなに苦しくたって、辛くたって、悲しくたってッ!」

 

 ゼファーは、いつかどこかで、守ると誓った少女に引き出してもらった言葉をまた口にする。

 そして、錬金術師のような技術ではなく、ただの根性論で想い出を力へと変え、加速した。

 

「そこが誰かの生きる場所であるのなら!

 そこで誰かが生きることを諦めていないのなら!

 そこに俺の助けを待つ誰かが居るのなら! 俺はッ!」

 

 そうして不器用に、愚直に、真っ直ぐに、馬鹿みたいに、ゼファーは真正面からウェルを押し切った。

 速度で少しだけ上回り、力で少しだけ上回り、気持ちで少しだけ上回る。

 ただそれだけで、ゼファーはウェルを少しだけ上回る。

 彼は二刀の剣で魔剣の防御をこじ開けて、渾身の蹴りをウェルの腹部へと叩き込んだ。

 

「ぐ、あッ……!?」

 

「『ナイトブレイザー』だッ!」

 

 吹っ飛ぶウェルは大木に衝突し、大木をへし折りながら停止する。

 ゼファーはウェルの前に立ち、この期に及んで、彼に手を差し伸べる。

 殺すでもなく。倒すでもなく。彼を仲間に誘い、罪を償うことを求める。

 

「投降してください、ウェル博士。俺は、まだ……」

 

「……その甘さも、君の切り捨てるべき弱さだ」

 

 ウェルはゼファーが差し出した手を見て一瞬迷うものの、その迷いを一瞬で振り切り、いつもの他人を馬鹿にしきった笑みを浮かべる。

 

「僕と君の戦いは、まだ始まってすらいないということを覚えておくがいい……!」

 

 ゼファーはその瞬間、直感的に横に跳躍。

 気配もなく影もなく背後に忍び寄っていたリリティアの一撃を、未来予知に近い形で回避した。

 すかさずネガティブフレアとナイトフェンサーで反撃……したのだが、ネガティブフレアは制御を失いあらぬ方向へと飛んで行って、ナイトフェンサーはへし折れる。

 "アガートラームの制御"も、"アガートラームの力で作った剣"も、リリティアに搭載された哲学が陵辱し崩壊させてしまったのだ。

 

「相性差ぁ! 所詮君らは剣剣剣だ、どうしようもあるまいッ!」

 

 ゼファーは仮面の下で舌打ちし、頼れる仲間へと呼びかける。

 

「キリカッ! シラベッ!」

 

 時間経過でダメージが少しは抜けていた二人は、その声をきっかけに立ち上がる。

 心にも体にも、途方も無い力が漲っていた。

 

「うん!」

「デェス!」

 

 切歌がリリティアの上方より飛びかかる。

 リリティアはサイドステップでその攻撃をかわし、手に生やした氷の刃で切歌を突き刺そうとするが、切歌は反射的に肩の多機能ユニットから鎖鎌型ワイヤーアンカーを地面に射出する。

 結果、切歌は伸びるワイヤーアンカーに押し留められて空中に静止し、リリティアの攻撃は空振った。鎌を使っては哲学の餌食になるため、切歌は体を捻ってその位置からリリティアの顔面を蹴り飛ばした。

 

 それと同時に、調もまたリリティアへと突っ込む。

 調もまた刃を作れば一撃にて砕かれるため、足のローラーで加速し、肩からリリティアの膝裏へと体当りする。

 力押しをあまり好まず、技工と手数で攻める調らしくもない攻撃。

 だが、切歌の顔面攻撃と同時ならば効果はあったのか、リリティアは綺麗にすっ転んでいた。

 

(そうだ)

 

 ゼファーと、調と、切歌が共闘する。

 そう、そうなのだ。この二人の少女は、ゼファーを倒すために強くなったわけではない。

 友を助けるため、友を守るために強さを求めた。

 なればこそ、今日までずっと、この二人は望んだ形で力を使えていなかったとさえ言える。

 

 ゼファーと共に戦っているこの瞬間こそが、二人が幼き頃に夢見た、力を振るうカタチなのだ。

 

(この日のために、今日まで、ずっと、きっと―――!)

 

 友を思う二人の歌声は重なり、やがてその想いは、心情は、一つの歌へと昇華される。

 

《《          》》

《  Just Loving X-Edge  》

《《          》》

 

 ゼファーがナイトフェンサーを振るうが、リリティアは容易にそれを砕く。

 ウェルでさえも圧倒した高熱剣二刀さえも、哲学は凌駕していた。

 追撃でリリティアの剣殺しがゼファーという名の聖剣を砕こうとする、その瞬間。

 調の頭部ユニットが移動形態に変形し、調が切歌をそれに乗せたまま、ゼファーをリリティアの前からかっさらって行った。

 

 調のホイール型移動形態は、改造に改造を重ねられた結果二人の人間を乗せられる。

 ゼファーを乗せ、切歌を乗せ、デフォルトで早いくせに更に加速を重ねていった。

 

「ゼファー!」

 

「応! アクセラレイターッ!」

 

 調がホイールの回転速度を上げ、切歌が肩のブースターを吹かし、ゼファーは時間の流れる速度を10倍にまで加速させる。

 すると、リリティアのセンサーですら感知できぬ域にまで彼らは加速した。

 危険を感じたリリティアは自らを覆うように氷の壁を作ったが、焼け石に氷だ。

 焔の黒騎士と火の着いたイグナイトは止まらない。

 

「ぶっ飛べッ!」

 

 ゼファー達はなんと、小細工なしにそのまま体当りするという蛮行に出た。

 リリティアのセンサーに映らないほどの加速、調のホイールの切断力、三人分の重みがそのまま転換された破壊力……攻撃の威力は、99%が哲学兵装に破壊され、無効化される。

 だが1%は通る。

 リリティアはよろめき、ゼファー達は交通事故でバイクの運転手がふっ飛ばされる事例の数倍ド派手な形で、空へと投げ出されていた。

 

「合わせろよ、二人共!」

 

「了解!」

 

「任せるデス!」

 

 ゼファーは攻撃後に二人よりも早く状況を把握し、空を跳ねて二人をキャッチ。

 そして二人に声をかけてから、二人を放り投げた。

 リリティアの正面にゼファーが着地する。そしてリリティアの右後ろに調が、リリティアの左後ろに切歌が着地する。

 

「ラインオン!」

 

 起動するは、フィーネがシンフォギアに搭載した決戦機能。

 いつかの未来のために残していた可能性。

 

「ナイトブレイザー、イガリマ、シュルシャガナ!」

 

 三者の間に力のラインが形成され、三者の力が乗数計算で膨れ上がっていく。

 

「コンビネーション・アーツ!」

 

 ゼファーが二本のナイトフェンサーを二人に投げ、二人がそれを受け取り、刃の上に刃を折り重ねるように形成していく。

 切歌のナイトフェンサーは翠の刃へと変わり、調のナイトフェンサーは紅い刃へと変わる。

 それは……完全聖遺物だった頃のイガリマとシュルシャガナ、そのものの姿だった。

 

 ゼファーが全身を燃やし、リリティアの真正面から突っ込んで行く。

 紅刃シュルシャガナを振りかざす調が、リリティアの右後方から突っ込んで行く。

 翠刃イガリマを振りかざす切歌が、リリティアの左後方から突っ込んで行く。

 

 三方からの同時攻撃が、三本の線の軌跡を刻む。

 

「「「 エッジ・ワークスッ! 」」」

 

 上から見れば、『*』の字にも見える三本線の交差攻撃。

 それは、ネガティブフレアの力を得て"剣に定義されるものを殺す"という哲学兵装の守りをゴリ押しで粉砕し……リリティアを、一撃で機能停止にまで追い込んでいた。

 メインシステム停止。

 メインフレーム崩壊。

 リリティアは静かに、人で言うところの致命傷を食らって息絶える。

 

 停止する寸前、リリティアは調と切歌に向かって手を伸ばすが、その手は届かず。

 何を求めて伸ばされたのかも分からぬままに、その手は無残に砕け散る。

 氷の女王の戦いは、物語は、ここに終わりを告げた。

 

「お、終わったデスか……?」

 

「ああ、終わったみたいだ。

 ……ああクソ、ウェル博士が逃げるための時間稼ぎって分かってたのに、逃がしちまったか」

 

 ゼファーは周りを見ながら、近くにウェルが居ないことを確認して溜め息を吐く。

 リリティアが戦っている間に、ウェルはまんまと逃げおおせてしまったようだ。

 ゼファーとしては、ここでウェルの身柄を確保しておきたかったのだろう。

 

「ま、ゴーレム一機撃破の戦果だけで満足しておくべきか……

 ありがとう、シラベ、キリカ。二人のおかげで随分助かった」

 

「……ゼファー」

 

「その……」

 

 ゼファーの感謝の言葉に、二人は微妙な顔をする。

 そも、二人は今日までゼファーに謝りたくて謝りたくて仕方がなかった。

 なのに謝るべき"本当のゼファー"は居ない。殺してしまったことを謝ったところで、許してもらえるとも思っていない。そんな面倒臭い状況だった。

 ゆえに二人は今日まで、幼い頃を再現するゼファーを前に、右往左往していたのだ。

 

 そしていざ謝れる状況になっても、どう謝ればいいのか分からなくなってしまっていた。

 生半可な謝罪ではダメだ、という気持ちがあった。謝り倒さないと、という気持ちがあった。何よりも真摯に誠実に謝らないと、という気持ちがあった。

 頭の中で謝り方を厳選している二人を見て、ゼファーは苦笑して二人の肩を叩く。

 

「気にするな」

 

 そして、二人を父のように兄のように、仲間として友として、ギュッと抱きしめた。

 

「二人と、敵じゃなくて仲間としてこうして一緒に居られるのが、俺は嬉しい」

 

 恨む気持ちなどあるものか。二人と力を合わせ戦い勝ったというだけで、彼はこんなにも嬉しい気持ちになっているというのに。

 

「いいんだ。それだけで十分さ」

 

 ゼファーに抱きしめられ、彼の本音の言葉を聞かされ、二人は涙をこらえる。

 涙をこらえる。

 頑張って涙をこらえる。

 ……けれどもこらえきれず、泣き出してしまった。

 

「……うえええっ、ごめっ、ごめんなさ……!」

 

「えぐっ、ごめ、えぐっ、ごめん……!」

 

「いいって言ってんのに」

 

 涙と一緒に、ここ一ヶ月以上もの間二人が心に蓄積させていた嫌な気持ちが、片っ端から流れ出ていく。

 二人の心が救われていく。

 切歌と調の心に"ゼファーを殺した"なんて罪悪感を残したままでは、ゼファーも死ぬに死ねやしない。この二人が救われていないのであれば、ゼファーはおちおち死んでもいられなかった。

 

 彼の心残りは、これでまた一つ消えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、錬金術師達の戦場。

 こちらも決着が付いていた。

 戦いの決着は、錬金術師達の力を大きく見たウェルがこれ以上の戦力損耗を嫌い、撤退。

 ネフィルとレイア・シスターズという両方の戦力が削られるという決着に落ち着いた。

 

「しかし、参ったね」

 

 キャロルは上手いこと戦いの流れを調節し、さもジュードによる想い出ブーストが更に追加できるかのように見せかけていた。

 ジュードによる想い出の貯蓄が10年分あれば、今日ここでセトかルシファアは落とせていただろう。15年分あれば、勝利も可能だったはずだ。

 ウェルはそれを――キャロルが作った幻想の脅威を――警戒し、撤退したのだ。

 

 ジュードの想い出の貯蓄は6年分。

 こうでもしなければ、撤退に追い込むこともできなかったかもしれない。

 数百年を生きるキャロルの、老獪な頭脳を活かしたファインプレーであった。

 

「僕らの想い出の貯蓄も使い切ってカラッケツ、か。これじゃ、次来られたら……」

 

「言うなジュード。ここじゃロクな話し合いもできん……二課に行くぞ」

 

「うん」

 

 ジュードはキャロルに袖を引かれ、レイア・シスターズの躯体を回収してから、二課本部に一報を入れる。この後は、二課の装者達と一緒に本部に向かうことになるだろう。

 

(あの顔を見るに、すぐ来そうだ。ここで一体くらい、敵を削れていれば良かったんだけど)

 

 思案するジュードを見て、ガリィはあくびをして周りを見渡す。

 そこで、怪しげなものを見つけた。

 

「ん?」

 

 ガリィがそれに近寄ると、その人物はガリィに話しかけてくる。

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ、とガリィの電子脳がその顔を記録と照合した。

 

「オートスコアラーの、ガリィ……」

 

「あんた今更来たの?

 ま、大方戦場に出てないって評価も嫌で、戦うのも嫌で……

 んで出るか出ないかどっちつかずな心持ちのせいで、遅刻しながら来たってとこかしら。

 ぶっちゃけ、戦いたくないと思いながら、戦わなくていいタイミングで出て来たんでしょ?」

 

「っ」

 

「そういうの分かるのよねえ。どっちつかずでどっちも選べてない奴の行動ってのは」

 

 ガリィは素で煽るが、ここで争う気はさらさら無い。

 流石に想い出の貯蓄がない状態でグラムザンバーを相手にするのは自殺行為だ。

 ここは戦闘行動を起こさず、帰ってもらうが吉。……なのだが、ガリィは素で煽る。

 

「あんた、自分と向き合えないようじゃ先は見えてるわよ。

 そのまんまじゃずーっとぼっちのまま。言ってること分かる? 仲間ハズレ装者」

 

「―――っ」

 

「本当の仲間が欲しいんなら、自分の立ち位置はしっかり見定めなさいな」

 

 言うだけ言って、ガリィは去っていく。

 正論混じりに煽っているのが、なおさらタチが悪かった。

 マリアはビルの壁に拳の腹を叩き付け、俯き唸るように言葉を紡ぐ。

 

「そんなことは、分かっている……!」

 

 空気を読まず、そこでメールの着信音を鳴り響かせるマリアの携帯端末。

 マリアが端末を確認すると、送り主はウェルであった。

 彼女はメールを確認し、苦渋に満ちた顔に苦渋の上塗りをする。

 

 そこには、"明日もう一度襲撃する"という意図の文面と、"今度は必ず参加するように"という念押しの文が記されてた。

 

 

 




 

仲間ハズレ装者

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