久しぶりで文字数は少ないし、頭のプロット殆ど消えちゃったけど、夜中のテンションでなんとかしてみたよ。
それと、あの人は本当丁重に扱われてるから大丈夫だよ?
翌日の朝の事。俺は現在食卓にて目の前に座るアサシンに奇妙な目で見つめられていた。
まあ、これについては反論のしようもない為我慢してはいるが、やはりムカつく物はムカつく物で、俺は現在発散しようのないストレスをガンガン溜めている。
それもこれも、理由は俺の隣で食事を摂っている桜に集結していた。
「ほら桜、口を開けろ。あーんだ」
「……あーん」
「よしよし良い子だ。俺の料理は手抜きだから、桜の口に合うか心配だったんだよ」
「……美味しいです……よ」
「お世話でも嬉しい事を言ってくれるなぁ。ほら、もう一口どうだ?」
「あーん……」
この会話のように、俺は現在ベビーシッターよろしく桜の世話を焼いているのだ。手間ではあったが、漸く少し話してくれ出したので無駄ではなかったと言える。
ただアサシンの視線が物語っているように、現在の俺はかなり気味の悪い人間なのだろう。
普段の態度から180度別方向に向かっているからな。これからの為とは言え、羞恥プレイをしている気分だよ。
「ご馳走様……です」
「ああ、お粗末様だ。食器はキッチンに持って行けるか?」
「はい……」
「よし、良い子だ」
そうこうして朝食を桜に食べさせ終えた俺は、彼女の変色した髪をひと撫でしてキッチンの方向を指差す。
正直上手く桜を教育出来る自信は俺にはなかったが、今はその場凌ぎで十分だろう。
キッチンに食べ終わった食器を持って移動する桜を傍目に、俺は取り敢えず順調ではあると確信した。後は、ちょっとした“劇薬”を用意すれば良い。
そうしてこれからの予定を少しずつ形にして行く俺であったのだが、そろそろ我慢の限界だったのだろう。一人別空間へと追い出されていたアサシンが漸くチャンスを見付けたとばかりに話し掛けて来た。
「ど、どうしちゃったんですかマスター……」
「言いたい事は理解出来る。が、それ以上は石畳四枚からになるぞ。次点で貫通蝋燭からの四肢欠損だ」
「それは土方さんより酷くないですか!?」
「まだ優しい忠告の段階だよ。それ以上突っ込むなら容赦はしない」
俺に真顔でそう言われ此方の本気度が伝わったのか、アサシンは顔を青くして無言で頷き返して来た。
そうして少しばかり静かになってくれたお陰で、漸く俺も本題を話せそうである。
「まったく、人の心を抉るなんて最低の行為だぞアサシン。折角俺が釣りにでも行かないかって誘おうとしてたのに」
「マスターにだけは……って、釣りですか?」
「そう、釣りだよ」
キョトンとした表情で問い返して来たアサシンへ頷いた俺は、窓の外を指差しながら続きを口にし始めた。
何を隠そう、俺はこう見えて釣りが大の得意分野なのだ。
「ほら、昨日は色々予定が詰まってて一息も付けなかっただろ? こんな日は桜と親睦を深める意味も込めて、気分転換に行くのが良いと思ったのさ」
「マスター……」
アサシンは目を見開いて俺を見詰め、すぐ様目元を拭い笑顔で頷いた。
きっと、俺の心遣いに感謝でもしているのではないだろうか。
俺は口元を歪めて手のひらで顔を隠し、最後に改めて得意分野だと口にしたのだった。
「あぁ……本当に得意分野だ」
電話一本で大物を釣れる位にはな。
――――――――
今は懐かしき臭いが鼻を刺激して来るその場所は、俺が冬木市に始めて来た頃と何一つ変わってはいなかった。
初めの頃は慣れないこの臭いに不眠症寸前まで追い詰められたが、慣れれば色々と役に建つ事もある。
この説明から分かるように今の俺逹三人が空気の綺麗な湖に居る筈もなく、釣竿もないままアノ場所に来ていたのだった。
「いやぁ、懐かしいな下水道。最後に来たのは仕込みの時以来かな。なあ、アサシン」
「……マスターですもん。マスターなんですから……」
「元気がないな。折角釣に来たってのに、もう少し面白そうにしろよ。滑稽な様子を真上から見下ろす愉悦は堪らないぞ?」
しかし、そんな俺の言葉を受けても尚アサシンは何故だか落ち込んだ様子のままであった。
どうやらアサシンはこんなところで“魚釣り”をすると思っていたらしく、下水道に入った辺りから首を傾げていた。正直釣竿がない時点で首を傾げろと言いたかったが、まあ無理もない。
「アサシンだもんな。アサシンだから」
「ぅぅ……こふっ!?」
自分の言われて嫌な事は積極的に使って行こう。きっと相手にも大ダメージが入る。
とにかく、折角釣りに来たのだから何も釣らず帰る訳には行かない。ここは俺が、今の時代にはない未来の釣りを手本に見せてやるとするか。
そう考えた俺はポケットから携帯電話を取り出すと、ある一つの電話番号に向けてコールを始めた。
「良いか、この携帯電話は釣竿だ。そして、釣り餌は話だ。まあ、所詮餌は餌だからルアーにしておこう。
特に、桜はよく見て勉強しておくように」
「はい……」
そう言って素直に頷く桜の頭を再び撫で付け、俺は耳元のコールが止まると同時に目的の場所に繋がったのだと確信した。
『はい、藤村組本部』
「あ、すいません。アウトコースと言う者ですが、実はお嬢さんをお預かりしましてね。返して欲しくば、今日の午後4時冬木中央公園にいる男へ500万持って来やがれと言う訳さ」
『おいテメェふざけてるとドタマカチ割るぞゴラッ!』
「はいはい、それじゃあ取り敢えずお嬢さんの小指一本宅配で送りますね。なに、親切な忠告ですよ」
『このっ――』
「あーあー電波があー。はいプッツンと」
俺は相手の男が何か言う前に通話を切り上げると、一息も着いて頷いた。我ながら見事な手際だったと思う。
「よし……完璧」
「いや、『よし……完璧』じゃないですよ!? 一体いつ誘拐なんてしたんですか!?」
しかし、俺が余波に浸る間もなくアサシンがそんな突っ込み入れて来た為に、仕方なく思考を切り上げてその質問へと答える事にした。
「昨日夜龍之介に頼んどいたんだ。それで朝連絡が付いたからこうして電話した訳さ。まあ、手は出さないように言い含めてはいるよ。多分大丈夫」
「全然安心出来ませんよ!?」
おいおい、仲間なんだから信じてやろうぜ? 俺だって八割位信用してるのに。
しかしまあ、今回誘拐してもらった人物は少々特殊だからな。正直なところ全力で言い含めてはいる。
ヤクザと事を構えるつもりなど元々ない為に、藤村さんのお嬢さんは快適に過ごしてもらっている。龍之介からの電話によると、竹刀を与えれば勝手に素振りしだしたそうだ。
「まあ、今のは手本を兼ねた事前準備だ。本番はこれから桜にやってもらう事になる。出来るよな桜?」
「はい……」
実際の所は桜が電話をしなくても大丈夫なのだが、相手の混乱と動揺、そして希望と言う撒き餌を信じ込ませるにはそちらの方が都合が良い。
俺は聖杯戦争前必死で探した漫画喫茶っぽい所で手に入れた電話番号のメモ帳を取り出すと、手早くプシュして耳元でコール音を聞き始めた。
ワンコール、スリーコール、十回程コールしても出ない相手に少々不安になって来るが、二十回を過ぎた辺りで漸くコールの音が途切れたのであった。
『は……はい……』
妙に力のない声色で電話に出たその声を聞いた俺は、口元を歪めて笑いを必死で噛み殺す。
クツクツと込み上げる笑いが俺の喉を震わせる事で苦しくなってしまう。
しかし、やはりこの時ばかりは本当に釣りが楽しいと思ってしまうな。
「桜ちゃんは預かった。時限爆弾を外して返して欲しいなら、今から言われた場所に来い。
分かってるとは思うが、時限爆弾は手動でも発動するからな?」
『お、お前はだれだぁ!』
相手、“間桐雁夜”の息を呑む声を聞いた俺は、桜の耳へと携帯電話を押し付けて口を開いたのだった。
「なに、しがない“正義”の魔術師だよ」