カチコミ聖杯戦争   作:福神漬け

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13話 各陣営

 倉庫街での戦闘をスナイパー越しに見ていた衛宮切嗣は、倉庫街へと侵入して来たバーサーカーだと思われる新たなサーヴァントを捉えると同時、尋常ならざる様子のセイバーを見て即座に撤退の二文字を頭へと浮かべた。

 切嗣の想い人であるアイリスフィールとセイバーの近くには怒り狂ったアーチャーとランサー。そして、判断は付かないが何らかの思惑を持って近づいて来たライダーのサーヴァントがいる。考え得る限り最悪の状況と言って良かった。

 

「クソ……。何を吹き込まれたのか知らないが、こうも簡単に使えなくなるとはな……」

 

 切嗣の目に映る限りでは、セイバーは現在戦える状態ではない。目の焦点は合っておらず、手に握る不可視の剣は今にも手放しそうだ。これではアイリスフィールを護る事すら出来ないだろう。

 その上、切嗣の視界に映ったバーサーカーは何を考えているのか他のサーヴァントには目もくれず、一直線にセイバーへと向かって来ていた。絶望的と言う表現は、こう言う事を言うのだろう。

 

「……使うしかないのか?」

 

 切嗣は右手に浮かぶ十字架のような令呪を視界へと収め、目を閉じると数秒間思考の海へと潜った。今ここで令呪を使った場合に得られるメリットとデメリットを、即座に頭の中の天秤へと掛ける。

 そして、ドス黒く濁った目を開いた切嗣は判断を下す。

 

「――令呪を持って命ずる」

 

 天秤が傾いたのは、令呪を使うと言う判断。今の状態でセイバーを戦わせれば、間違いなく負傷すると考えたのだ。そして、それはそれだけでなくその近くにいる想い人も傷付いてしまう事を意味した。

 

「――セイバーよ、アイリを連れて即座に撤退しろ……」

 

 切嗣の右手の令呪が光り輝き、その一角を消失させた。

 その様子を見届けた切嗣が視線を再びセイバーへと戻せば、令呪の命令通りにアイリスフィールを抱えて即座に撤退の姿勢を見せている。だが、そのセイバーの表現は相変わらず焦点が定まらず、今にも立ち止まりそうな雰囲気を醸し出していた。

 しかし、その身体能力は人外の物。撤退だけを行動させれば、かなりの距離を置いているバーサーカーを撒くことは不可能ではないだろう。

 そう判断した切嗣は、珍しく表情を険しい物へと変え苛立たしげに首元のマイクへと声を発した。

 

「……舞弥、撤退するぞ」

 

『了解です』

 

 耳へと装着しているインカムから返って来た女性の声を聞き届け、切嗣は細心の注意を払いながら倉庫街を後にする。しかし、安全圏にまで退避した後も切嗣の表情は険しいままであった。

 今回の戦闘で得た物は、ライダーとランサーの真名とアーチャーの強力な力の一端。

 そして、ランサー陣営とアサシン陣営が同盟を組んでいるとかも知れないと言う可能性。

 特に、ケイネスがモールス信号を理解していると言う事は収穫であった。

 しかし、それを得た結果に失った物は大き過ぎる。

 

「セイバーの負傷と令呪一角の消費……。割に合わないどころじゃないな」

 

 切嗣は今後のプランが大きく変更になるだろうと想像し、もしもセイバーが使えなくなれば――即座に切り捨てる事も考えた。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 『ええい、何処へ行った雑種ッ! その身八つ裂きにしても罰としては軽すぎるぞ!』

 

 そんな怒りに満ちた怒声が、視覚と聴覚を同調させているアーチャーのマスターたる遠坂時臣へと届いた。

 時臣は自らの拠点である工房へと篭り、そんなアーチャーの怒りへと頭を抱える。この調子では宝具を全力で解放しかねない。

 

「……令呪を使い、王へと撤退を進言するしかないのか?」

 

 このままでは、アーチャーの宝具の性能を他陣営へと晒してしまう事となる。ここで手の内を明かす事は愚策としか言えない。

 そう判断した時臣は葛藤の末右手の令呪を目の前へと掲げると、祈るかのように念を込め始めた。

 

「……王よ、どうか怒りをお収めお戻り下さい」

 

 すると、時臣の右手へと浮かんでいた円形の令呪の内一角が消え去りなくなった。

 それを見届けた時臣は小さなため息を一つ吐き、こんな下らない事で令呪を使ってしまったと自己嫌悪する。

 今回のアーチャーの勝手な行動や、当初予定していたアサシンの召喚が出来なかった事。思い返せば、今回の聖杯戦争で自分が考えていた当初の計画はあらゆる所で綻び始めていた。

 

「まさか、アサシンが最初に召喚される等とは……」

 

 アーチャーの視界を通して見た、黒尽くめのマントを着用し骸骨の仮面をつけたサーヴァント。今回は逃げられてしまったが、戦闘に限って言えば負ける事はないと考える。しかし、それでも偵察の役割を任せられる駒は惜しかった。

 時臣はそこでまで考えると、既に終わってしまった事は仕方がないと思考を切り替える事とした。そう、そんな“当初の計画”に固着しても仕方がないと。

 

「それで、綺礼君。例のキャスターは説得出来そうかね?」

 

 そう言って時臣が背後へと振り返れば、黒い神父服を纏った二十代の男が視界へと映り込んだ。

 綺礼と呼ばれたその男は時臣の言葉を聞き一歩近付くと、その問いに対して首を振り返答する。

 

「いえ、今も頑な拒否しております。令呪で強制させる事も可能ではありますが、長期間に渡るとなれば効果は薄くなってしまうかと」

 

「そう……か。いやしかし、彼が協力さえしてくれれば最早聖杯等不要の賜物だ。綺礼君、何としても説得してくれ」

 

 その言葉を言い終わった時臣の表情は、何故か笑みに染まっていた。そう、既に時臣にとって現在の聖杯戦争は保険以外の意味をなくしていたのだ。

 その理由を知る者は、キャスターのマスターである綺礼と協力者である聖杯戦争の監督役しかいない。

 

「あぁ、私は本当についているよ……」

 

 もし神と言う存在がいるのならば、それが自分に『根源へと辿り着け』と言っているようにしか時臣には思えなかった。

 綺礼はそんな時臣へと頭を下げ、言葉を発する事なく工房を後にする。

 

「そのまま、争い続けていると良い。フフフフフ……」

 

 時臣は抑えきれない笑い声を口元から漏らし、自らの輝かしい未来を頭へと思い浮かべたのだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、撤退して行くセイバーを横目に見ながらそろそろ引き際かと考えた。

 先ず始めに倒すべきなのは衛宮切嗣であると考えるケイネスは、その手掛かりたるセイバーがいなくなった事でこの場に留まる意味を無くしたからだ。

 

「ランサーよ、引き際だ」

 

『畏まりました主よ』

 

 自らの居場所を悟られないように魔術で音を反響させ、ケイネスはランサーへと撤退の命令を下す。数週間前までのケイネスならば、このような小細工等せずにある程度姿の隠せる場所から声を張り上げていた事だろう。

 しかし、それも衛宮切嗣の犯行書により考える事となった。

 

「衛宮切嗣め、巫山戯た事をっ!」

 

 この数週間、ケイネスはあらゆる場所で人目を憚る事なく謎の煙を嗅がされていた。

 それについて気になり魔術で調べてみれば、その煙には癌を誘発させる有害物質が多量に含まれている事が判明。

 その事実を知ったケイネスは、魔術師ですらない一般人を巻き込もうとした衛宮切嗣へと怒りを覚えた。

 もしケイネスが魔術以外でその調査を行っていたならば、また結果は違ったのかも知れないが。

 

「主よ、すぐに戦線の離脱を」

 

 そんな時、背後から現れたランサーが怒り心頭なケイネスへとそう問い掛けた。

 その声により現実へと引き戻されたケイネスは、この怒りはいずれ衛宮切嗣本人へとぶつけようとランサーへと振り返る。

 

「分かった。お前も怒りを感じているだろうが、相手は一般人のいる場所でも躊躇なく毒ガスをばら撒く者の仲間だ。セイバーを深追いすれば、この街の者へと危害を加える事も厭わないだろう。今宵は撤退するぞ」

 

「クッ……なんと卑劣なッ!」

 

 ケイネスも衛宮切嗣への怒りは感じていたが、ランサーの怒りもそれに負けてはいなかった。元よりランサーは国と民の為に戦った戦士であり、戦士でない者を巻き込む衛宮切嗣のやり方に怒りを示していた。

 そんなランサーの感情を読み取ったからこそ、ケイネスは今婚約者が彼へと向けている視線にも耐えられる。

 同じ目的を持った者同士だから、ケイネスはランサーが婚約者に興味を持っていないと理解出来たのだ。

 

「では行くぞランサーよ。あの紙を送り付けて来た例のアサシンは恐らく衛宮切嗣のサーヴァント。お前の槍を、私の正義を示す為に使え」

 

「勿論ですマスター!」

 

 力強く頷き同意を示したランサーはケイネスを抱え、夜の闇へとその姿を溶けるように消した。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 ウェイバー・ベルベットは拠点となっている小さな一般人の家の部屋で、倉庫街での事を思い出していた。

 つい数時間前に起きたその出来事は急展開の連続で、その内の一つが自らのサーヴァントであるライダーが起こした物であるとなれば振り返らずにはいられなかったのだ。

 そしてその問題であるライダーが起こした事とは、サーヴァントとして弱点となり得る真名を堂々と明かし、挙げ句の果てには他サーヴァントを仲間へと引き込もうとする始末。

 ウェイバーはこれからの戦いをどうするべきかと、ライダーに荒らされてしまった汚い部屋で頭を抱えた。

 

「だけど、それにしてもあのアサシンは何がしたかったんだ?」

 

 そうしてウェイバーが次に思い出したのは、意外な事にアサシンのサーヴァントだった。

 本来なら、アサシンのクラスはキャスターのクラスと並んで弱いと言われている。ウェイバー自身が調べた聖杯戦争の文献を見てみても、アサシンはマスターの殺害を優先したタイプのサーヴァントと書かれていた筈だと思い出す。

 しかし、そうであると言うのに態々姿を晒した愚行。ウェイバーにはそれが良く理解出来なかったのだ。

 故に、ウェイバーは問い掛ける事にする。恐らく自分が考え続けるよりも、戦いのプロに聞いてみた方が早いのではないかと。

 

「なあライダー。お前はあのアサシン、どう思う?」

 

「あの暗殺者か? そうさのぉ……」

 

 そう言ったウェイバーの問い掛けに、珍しくライダーは真剣な表情で悩み始める。いつもならば、この目の前いるかの名高き“征服王イスカンダル”は悩む事なく即答する。だと言うのに適当に答えないのは、ライダーが本当の戦いを知っているからこそだとウェイバーは思った。

 そして数秒。ライダーは顎へと充てていた腕を降ろし、自らの考えを述べ始めた。

 

「恐らくじゃが、ありゃ最初から戦う気なんぞなかったな。坊主も見たじゃろ、あのアサシンが背負っておった道具を」

 

「あのリュックサックの事か? そう言えばよく見えなかったけど、アレからアサシンが何かを取り出した後にアーチャーが怒り出したんだった。……あれ? あの後リュックどこに行ったんだ?」

 

「気付いたか。空中に舞った紙は全て、実はアレから吹き出した物だ」

 

 そう言ったライダーの言葉を聞き、ウェイバーの中にあった不可解な理由が一つだけ解ける。態々姿を晒したのは、そのリュックから出た紙が理由なのではないかと。

 

「まさか、あの紙を全員に見せる為だけに出て来たって言うのか!? 一体なんの為に……」

 

 しかし、姿を晒した理由は分かってもそのメリットが理解出来ない。あの紙をばら撒くだけが目的であったのなら、最初現れた瞬間にリュックを置いて逃げれば良かった筈だ。

 あの紙が舞う直前、ウェイバーはどこからか確かに魔力を感じる事が出来た。恐らく、紙をばら撒いたのはリュックに仕込まれた魔術だと思われる。であるならば、アサシンは態々姿を晒してアーチャーを挑発する必要な等なかったのだから。

 そうして断片的な情報をブツブツと口に出していれば、自らの考えに引っ掛かりを覚えた。

 

「……なあライダー。確かお前達は、最初アサシンの存在に気付いてなかったよな?」

 

「まあ、そうだが?」

 

 アッサリと答えたライダーに自らが狙われた時の不安を覚えつつも、ウェイバーはその答えを聞いて発想を少しだけ変える事となった。

 アサシンが姿を晒したのは、晒したかったから。

 そしてあの紙は、メッセージを伝える為じゃなく伝えない為の物なのではないかと。

 

「あの紙がばら撒かれた途端、怒鳴り声が聞こえたんだ……」

 

 アレは間違いなく、時計塔にいた自分の教師の声。“衛宮切嗣”と叫んでいたのを確かに聞いた。

 

「もしも、その衛宮切嗣にしか分からないメッセージがあって、アイツにしか分からないメッセージがあったとしたら……」

 

「……どう言う事だ小僧?」

 

 ウェイバーの言葉を聞き、ライダーは首を傾げて問い返す。

 

「多分だけど、する必要のない姿の露見は何か勘違いさせたかったんじゃないか?」

 

「むぅ……では一体何を勘違いさせようと?」

 

 次々とパズルが合わさって行き、頭の中で少しずつ謎が解ける。そうして点と点が繋がって行き、ウェイバーある一つの可能性へと思い至った。

 即ち、アサシンのマスターがあの場にいなかった第三者だと言う可能性に。

 

「重要なのは、アサシンのサーヴァントがあの紙をばら撒いた事……。もし二人にしか分からないメッセージを送る事が出来たとしたのなら……勘違いを起こさせる事も不可能じゃない……!」

 

 お互いの疑心暗鬼と言う形を持って。

 

「あのメッセージの内容がもし相手が警戒する物だったら、アサシンが敵の協力者だとお互いに勘違いする。アサシンはそれを狙ったって事か!」

 

「おおっ! そう考えば辻褄が合うぞ小僧。少しはマスターらしい事が出来るんではないかっ! ガハハ!」

 

「――ウギュッ!?」

 

 豪快に笑いながら背中を叩いて来たライダー腕力に、ウェイバーは苦しげな声を上げて床へと崩れ落ちた。

 痛みと悔しさにウェイバーはプルプルと震えるがやり返す事も出来ず、心の中で『いつか見返してやる』と思ったのだった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

『では、次のニュースです。

 前日、高級住宅街にある間桐さんの家から火事が発生しました。ガス漏れによる爆発のようで、間桐さんの家は全焼。幸い、住人である鶴野さんは火事の前に外で倒れていたそうで、周りに家がなかった事もあり火は燃え移る事はありませんでした。

 鶴野は共に火事前後の記憶がないとの事ですが、命に別状はありません。

 ガス漏れの原因を警察が調べた所によると、間桐さん家の地下からは大量の異形の蟲の死骸が発見されており、警察はその蟲が何らかの原因を作った事故だと言う線で捜査を進めております。

 では、次のニュースです――』

 

「クハハ、全く不用心な奴もいたもんだぜ。余程地下を気にしてなかったんだな。その間桐さんって人は」

 

「焼け跡しか残ってないですね」

 

 簡素なリビングにある古いボロボロのテレビから流れて来たその声に、俺は隠しきれない笑みを浮かべながら朝食の準備を進めていた。そろそろニュースになっている頃だろうと考えていた為、全く驚きはなかった。

 因みに、ボロボロのテレビは粗大ゴミに出されていた使える物を龍之介にアンテナを繋げて貰った物である。俺の中で密かに龍之介万能説が有力になった瞬間でもあった。

 

「さてさて、これで奴も動かずにはいられんだろう。ボロボロの体に鞭打って、今頃は桜を探している筈だ」

 

「マスターって悪巧みをさせれば凄いですよね。今の所全て綺麗に進んでいますよ」

 

 アサシンの感心したような呆れたような声を聞きながら、俺は笑いを噛み殺し朝食の目玉焼きに胡椒を掛けた後フライパンに水を入れて蓋を閉じた。これで、後は熱せられたフライパンの熱で出来た水蒸気が目玉焼きの表面を薄皮一枚程度に蒸してくれる事だろう。

 後は適度に千切ったレタスにシーチキンとカットトマト、コーンを入れた簡単なサラダと炊き立ての白米に浅漬けを用意して朝食の準備は完了である。僅か三十分で作り上げた朝食であった。

 

「まあ、話は朝食を食ってからにしよう。寝てないせいで腹が減ってるんだ」

 

「じゃあ、最後に昨日の事で一つだけ聞いていいですか?」

 

「ん、何か問題でも見つかったか?」

 

 何か計画に問題でもあったのかとアサシンへと尋ね返せば、それは首を振って否定される。では何なのかと俺が首を捻れば、その答えは意外にも納得出来る話であった。

 

「結局、昨日の戦いは何が目的だったんですか? 変装して態と気配を漏らすと言う話でマスターが相手に私を何者かと勘違いさせようとした事は分かりましたが、あの紙とアーチャーとやらの挑発に何の意味があったのかと」

 

 その問い掛けを聞いた俺は確かに話していなかったと思い返し、その内容を目玉焼きが出来るまでに手短に話しておく事にした。

 

「まあ、変装させて気配を漏らさせた理由としてはお前の言った通りだ。俺はお前を『ハサン』と勘違いさせる為に態と姿を晒させた。そして、あの手紙をお前がばら撒く事である二人のマスターに『アサシンは他の陣営と協力しているだろう』と更に勘違いさせたんだ。勝手に向うで推測して、勝手に勘違いして完結する。本当の難易度を考慮せずに、自分で難易度を上げたり下げたりしてる事にも気付かずな。クソジジイと同じく手口だよ」

 

 恐らく、切継とケイネスはお互いに相手がアサシンと協力していると考えるだろう。相手にアサシンがいるとなれば、無闇やたらに街を歩く事は出来ない。アサシンと言うマスター殺害に特化したクラスは、それだけで相手への牽制となってくれるのだ。

 しかし、逆を言えばこの作戦は切継とケイネス以外には意味をなさない。あの手紙はモールス信号を知っている筈の切継と、過剰な程にスモークを投げ込んだケイネスだからこそ理解出来て勘違いするものなのだから。

 

「へぇ、そんな作戦だったんですか。では、あの場でアーチャーを挑発した理由の方は?」

 

 そう言った事を噛み砕いて説明してやれば、アサシンは感心した風に納得の声を上げもう一つの質問を問い掛けてきた。

 まあ、そちらの説明は簡潔に一言で済む。

 そうして、俺は丁度良い具合になっただろう目玉焼きへと向かいながら簡潔に告げた。

 

「そんなの、嫌がらせに決まってるだろ? 言わせんな恥ずかしい」

 

「……えっ?」

 

 アサシンの『何言ってんのコイツ?』とでも言いたげな顔に若干の不満を覚えつつも、俺は肩を竦めて更に答える。

 

「確かにアーチャーを挑発したのは重要な計画を進める事に不可欠だったが、あの煽り耐性ほぼゼロの慢心王だぞ? チャンスなんて急がなくても向うからやって来てすれる。それでも挑発したのは、折角のチャンスだからってのが二割で、嫌がらせが八割だ。それ以外に、何か理由が必要か?」

 

「あぁ……いえ……。そう言えば、マスターが意味もなく煽るのが好きな方だと言うのを忘れていただけです……はい」

 

 そう言って以降言葉を話さなくなったアサシンは、部屋の隅で虚空を見詰めている桜を連れて大人しくテーブルへと着く。

 俺もそんな今更なアサシンの言葉に肩を竦め、皿へと移した目玉焼きを持ってテーブルへと着いたのだった。




外道が無駄に予定を詰め込んだ時は要注意。その殆どの理由が嫌がらせ以外にないから。

雁夜叔父さん忘れてた……。
い、いや、次回は多分叔父さん回だから、ここで出さなくとも問題はない筈だ!

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