カチコミ聖杯戦争   作:福神漬け

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1話 旅に出る事になった

いつものように夕飯を食べ、いつものように風呂に入り、いつもの時間に布団へと入り込んだ。それは俺に取っては当然の生活リズムで、当然の如く変わった事はない日常。

だがしかし、俺は次に目覚めた時には、俺は既に記憶にあった俺ではなかった。

 

当然初めは困惑したさ。突然自分が若返っている上に、今世の親父が言ったのは前世の記憶にある型月作品の″魔術師″と言う言葉。

毎日のように″根源″への到達″根源″への到達と聞かされて、正気を保っていられるか? 俺には無理だね。

そう、だから俺は今日、親父へと告白する事にした。

 

「――と言う訳で前世の記憶があるんだけど、何か質問ある?」

 

「お前の妄言は聞き飽きたから、さっさと魔術の勉強をしろ」

 

恐らく今世最大の秘密を打ち明けたのに、親父はスパッと切り捨てた。

どこに信じられない要素があったのだろうか。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

俺は魔術の勉強を親父から習った後、部屋へと戻り高校一年の数学のノートを取りだし読み始める。

表紙には蒼倉空と書かれており、それが今世の俺の名前だ。どうやら今世の俺は数学がずば抜けて優秀であったらしく、歴史を除く他の教科は平均以下であった。

 

しかし、それも俺の家系の魔術系統を考えれば不思議ではなかった。

 

『カバラ数秘術』

 

それが俺の家系の魔術系統だ。

ルーン魔術等に比べれば知名度は低いのだが、その分汎用性は高く非常に扱い易い。どれ位扱い易いのかと言えば、カバラの術式を書いた紙を魔術回路が一本でもある一般人に渡し読み上げらせれば、それだけで神秘が扱える位には扱い易いのだ。まあ、実際には魔術回路を開いたりと少し面倒な工程が予め必要になるが、それさえ無ければこれ程扱い易い物はないだろう。

 

この家は魔術師の家系な為PC等と言う便利な物は同然存在しないが、記憶にある限りカバラ数秘術とはカバラから生まれた運命解読法であった筈だ。そして、かのピタゴラスが「万物の根源は数である」言ったように、俺達の家系は数で″根源″への到達を求めている。

つまり、俺の家は魔術と数学の学者の家系なのだ。この家で数学が出来ないのはおかしい。

 

勿論、俺は何の努力もなく今世のチート頭脳を受け継ぎましたが。

 

まあとにかく、カバラ数秘術をもっと噛み砕いてに簡単に説明すると、「全てが数列に出来るんだから、等価交換さえ成立させれば別に全て再現出来るんじゃね?」と言う事である。

最初それを聞いた時、勿論俺は喜び努力をし始めた。このチート頭脳のお陰で数学に関しては既に大学の教授レベルだし、極めればマジで根源到達出来るんじゃないかと思ってね。

 

「まあ、現状は甘くなくて、根源のコの字も見えない程手探りだったが。でも、別に俺根源とか興味ないし、別に良いかな」

 

結局はそれであった。

だが、俺は望む望まない関係なく第二の人生と力を手に入れた。コイツを使ってハーレムとか変な願望等考えていないが、俺には一つだけやりたい事が存在していた。

 

「やっぱり、異能バトルとかロマンですよね」

 

ただ、どうして異能バトルが一度だけして見たかったのだ。

SNの士郎のように投影でサーヴァントと戦うとかは真っ平御免ではあるが、それでも魔術師同士の戦いとかは心惹かれる物があったのだ。

切嗣や綺礼の戦い程までは行かなくとも、何となく雰囲気位は味わいたい。

 

「よし、明日は休みだし親父に相談して見るか」

 

そうして、ノートを仕舞った俺は今世での目的を胸に布団へと入り込んだのだった。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「寝惚けてるのか? 魔術師は基本工房に籠るから戦い何て滅多にない。それ位知ってるだろ」

 

「oh……。この世界には引き籠りしかいないのか……」

 

翌日、親父に「異能バトルしたいの!」と打ち明けた所、即効で無理だと告げられた。

それ所か、親父は「お前他所の家系に喧嘩売って家潰す気なの?」と無言の圧力が投げ掛けられる。

 

はい、家の家系実は弱者の魔術師の家系なのです。他所の家系に喧嘩を吹っ掛ければ、先ず間違いなく潰されるのは目に見えている。戦闘戦争云々は抜きにして、単純に財力で。

 

「お父さん、どうして働かないの?」

 

「私は魔術師だぞ?」

 

だからどうした、俺も魔術師だよ。何故魔術師だと働かないのだ。基本ふざけた思考をしている俺でも訳の分からない理屈だぞ。

えっ? 何? 最近は魔術師なら働かなくてもお金が入ってくるの?

ちょっと、昼間何故か母さんの姿がみえないんだが、母さんは昼間何処に出掛けてるんだ。

 

「何を言っている。母さんは昼間俺達の為にスーパーで働いているだろう」

 

「アンタ最低だな」

 

割と本気で親父を殴りたくなった。

 

つまりはだ、俺達の家系のスケジュールはこうだ。

母さんは先ず朝に起き家事をして、昼は仕事に出掛けてお金を稼ぎ、夜は再び家事をして漸く就寝する。

そして次に俺のスケジュールは、学校に行って帰ると魔術の勉強をし、寝る。

最後に親父は、朝から部屋に引き籠り、数学の問題を解いては何やら満足気にニヤニヤし、俺に魔術を教えて再びニヤニヤした後寝る。

 

「……おい、何だよこの状況は。母さんにしか負担掛けてないじゃないか。俺家出するぞ」

 

余りの状況の酷さに、ついついそんな事を口にする。先ずこの家の事全てを母さん一人に押し付けている事自体おかしいのだから。

しかし、そんな俺の言葉を聞いた親父は暫く無言の間を開けると、次には予想外の言葉を放ったのだった。

 

「……分かった」

 

「えっ?」

 

「魔術刻印は渡せないが、こんな日も来るだろうと思ってちょっとした魔術礼装を用意しておいたんだ」

 

「ちょっと待て、こんな日ってどんな日だ。こんな事もあろうかと見たいに言うな」

 

「その魔術礼装と言うのは、術者の魔力を銀行のように蓄え、利子を付けて返してくれると言った物だ。勿論、蓄えられる限界は存在するが」

 

「聞けよおい」

 

「母さんも、こんな日が来ると思って毎日働き貯金をしてくれていたんだ。全く、私の蓄えを渡すから大丈夫だと言ったのに」

 

「おい、おい? その言い方だとまるで……」

 

まるで、俺を追い出す事を数年前から計画してたって言う風に聞こえる。元々この為に母さんが働いていたのではないかとさえ。

そんな俺の疑問を感じ取ったのか、親父は漸く俺の言葉を拾ってキャッチボールのように投げ返して来る。その返球が、受け取れるかどうかは別として。

 

「可愛い子には旅をさせろ。私達は、お前に旅に出て貰う。漸くその答えに辿り着いてくれたな」

 

成長した息子を見詰める瞳で此方を見る親父。この様子ならば、恐らく母さんもこの親父の言葉を信じて俺の旅費を貯めていたのだろう。

だがちょっと待ってくれよ。この様子だと、さっきの家出云々が冗談だと言えないじゃないか。確かに自炊は可能だ。これでも前世の経験があるからな。しかし、何故今世の両親は息子が旅に出る=成長の証と思ったのだろう。魔術師の家系と言うのはどこも16歳の子供には本来旅をさせるのだろうか。

 

「そんな訳ないよな」

 

「さあ、きっと母さんも喜んでくれる! お前の成長を見せてやれ。この数年間の貯金が無駄ではなかったと!」

 

これ、断れないよな。何か数年前から可愛い子には旅をさせる物だと信じて疑わなかったらしいし、ここで断ったら母さんの数年間を無駄にしてしまうし、親父も曲がりなりにも魔術礼装なんて一品を用意してくれていたのだ。魔力が自動で増えて行くなんて、並大抵の術式や期間で出来る物ではないと分かる。一体どれだけ時間を掛けてこの″冗談″の瞬間を待っていたのか。

 

うん、これ断れないよね。

 

「ウン、ボク旅に出るヨ!」

 

「そうか、既に荷物は準備してある。旅先で何をしようとお前の自由だ。この家と、旅に出たお前は関係がないのだから」

 

コ、コイツ予防線を張りやがった! 旅先で俺が魔術師とかち合おうと、その言葉でやり過ごすつもりだな。例えば「家を出て行く時に関係は絶った。今の私達とは関係がない。出た後まで責任持てるか」見たいな感じで。

 

「やっぱりアンタ最低だわ」

 

それが俺の心からの声である事を、冗談を言っていると思いフハハハと笑っている親父は知らない。

だが、まあ良い。どうせ根源になんて、俺の代に辿り着く筈もないんだ。事実、俺の魔術回路の本数は19本。サブなんて物はないから、ギリギリ平均以下の数値。俺はこんな先天的な物に人生を縛られるつもりはない。

やっぱり、俺は異能バトルがしたいのだ。だとするならば、目指すべき場所は決まっている。

参加何て危ない事はしないから、雰囲気だけでも味わう為に。

 

目指すは冬木市。

現在は1992年1月。

俺が旅と言う追い出しを受けたのは、実に聖杯戦争の一年前の事であった。

 

 


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