画家が描く!   作:絹糸

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タイトル通りに番外編です。
ノウケン将軍とシュラくんの過去話。シュラくんが旅に出る数日前くらい。なんやかんやでノウケンはシュラくんのこと可愛がってます。


番外編その1

 

「世の中に美味いものは人と食物の二つあって、人にはさらに男と女の二種類がいるんだ。そのうちの片方だけしか喰えないなんてのは、世の味わいの三分の一を捨ててるのと同じだぜ。もったいねー。せっかく生まれたんだから世界と人生を楽しみゃいいのに」

「……つまり何が言いたいんだよ」

「異性だけじゃなく同性も食ってみたら、って話」

 

 

 まだ強姦という言葉の意味すら知らぬだろう幼い娘は、ノウケンが戯れに指を動かすたび、あン、と悩ましい吐息を洩らしては身悶えている。ちょっと前までは泣き喚いてお家に帰してとうるさかったのに、彼女がベッドに引きずり込んで弄くり回せばものの数分でコレだ。10に満たぬ幼女すらも快楽の虜にするテクニックは流石である。

 もっとも、時間がたてばこの幼女が味わうのは性の快楽ではなく死の苦痛になる。『犯したい』が『殺したい』に移り変わってまた『犯したい』がやって来るのがノウケンという女の性癖だ。彼女の欲望に果てはなく、見境もない。部屋の隅には奴隷商人から買ってきた顔の良い老若男女が拘束された状態で何人か転がっている。この中の何人が今日だけで天に召されることになるだろう。

 同じくシュラも好みの美女を何人か競り落として犯している最中だが、彼に陵辱される女性たちはノウケンの相手をさせられる面々に比べればかなりマシなほうだ。運が良ければ生きたまま逃がしてもらえる。仮に死ぬとしても首を絞められるとかその程度のもの。決してノウケンの犠牲者達のように性器に刃物を突っ込まれたりはしない。

 

 

「この世の全てを楽しむ気がねーなら、シュラは何のためにクソ野郎やってんだ?」

 

 

 血液と精液と愛液と胃液と汗と尿と涙の香りが充満したこの宿屋の一室。

 それなりの容姿をしたシュラでさえも相手が女という事実を拒絶したくなるほど男前なノウケンの顔面は、しかし不思議とこの凄惨な現場にマッチしている。造り自体はどこぞの国の王子様みたいに上品なのに、浮かべる笑顔が下品極まりないからだ。シュラの実父であるオネスト大臣に勝るとも劣らぬ悪役スマイル。この笑顔を向けられれば百戦錬磨の淫魔だろうと裸足で逃げ出しかねない。

 幼女を犯しながら日常会話をふっかけてくるノウケンに、シュラも美女へと腰を打ち付けながら考える素振り。肉と肉のぶつかりあう音。美女と幼女の嬌声。ゲスとゲスの雑談。一般人にはおぞましい光景も、二人にとっては平時のこと。酒池肉林ではないのだから、むしろ普段よりも慎ましいくらいだ。

 

 

「何のためにっつーか、気付いたらこうだったんだよ。そういうテメェはどうなんだ」

「俺ちゃん? そだねー、生まれつき! 赤ん坊の頃から乳母のおっぱい喰いちぎってキャッキャ笑ってたらしいし」

「乳より先に血の味を覚えたってことか。やっぱテメェは筋金入りだな」

「持って生まれたものは改善も改悪もできねー以上、俺ちゃんにはクズとして生きクズとして死ぬ以外ナッシング! ならクズとしての人生謳歌しねーと損っしょ!」

 

 

 ケラケラ笑いながら、かぐわしいとさえ言える菫色をした幼女の目玉に爪を立てる。つぷり。軽い音と共に裂けて中身が滲み出す眼球に、悲鳴を上げようとした幼女の喉は、しかしもう片方の手で気管ごと締め上げられそれも許されない。

 痛みと酸素不足で青白い顔をする幼女を幸せそうに視姦。隣のベッドでシュラに陵辱されていた美女がぐったり力尽きたのに気付いた彼女は、ここぞとばかりに自分の買った奴隷たちを指差しながら悪友に提案する。

 

 

「話戻すけど、やっぱ食わず嫌いしないで男もヤってみる気ねェ?」

「勃たねェよ」

 

 

 げんなりした表情でシュラは吐き捨てる。真性バイセクシャルで気に入った相手なら死蝋化していようと抱きにかかるノウケンと違い、シュラは美女と美少女にしか食指の働かない真っ当なゲスだ。男にムラッときたことは一度もない。

 

 

「初めから突っ込まなくったって、しゃぶらせるだけでも良いんだぜ。歯ァ全部抜いちまえば噛みちぎられる必要もねーしさ!」

 

 

 その言葉を聞いて、部屋の隅の奴隷たちの顔色がなおさら悪くなる。現在進行形で幼女の目玉に指を突っ込みながら首を締めている女の台詞だ。嘘や冗談ではないと嫌でも理解してしまう。猿轡を噛まされていなければ悲鳴もあったことだろう。

 奴隷商人に誘拐された時点で絶望ものだが、買った相手がよりにもよってこの女とは運のない連中だ。シュラは珍しく赤の他人に同情した。それは綺麗なものでなく嘲笑混じりの、どちらかというと侮蔑的な感情だったが。

 

 それにしても、とシュラは首をかしげる。

 ノウケンと雑談しながらこうして見目麗しい奴隷たちを甚振るのはいつものことだが、男も抱いてみたらどうかと提案されたのは初めてだ。一体どんな心境の変化だろう。

 シュラが疑問に感じていることを察したのか、ノウケンは幼女の眼窩に突き刺した指をぐちゃぐちゃと掻き回すように動かしながら答える。

 

 

「せっかく将来有望そうなクズ仲間と出会ったんだし、知らない楽しみを教えてあげようかなーなんてことを思っちゃったわけよ。死姦とか勧めるよか男のほうがハードル低いっしょ?」

 

 

 仲の良い後輩にオススメの飯屋を紹介する気さくな先輩みたいな雰囲気で、妙に照れくさそうにしながら男との性行為を推してくる。ここでちょっと恥ずかしがっている意味もわからないし、期待の眼差しをチラチラ向けてくる意味もわからない。

 彼女に人がヤっている姿を見て悦に浸る性癖は無かったはずだから、単純に自分がオススメしたものを体験した後輩からの感想を心待ちにしているだけだろう。やると言った覚えもないのに気の早い女だ。しかしここまで期待されてしまうと断り辛い。だからといって男に手を出す趣味もない。

 

 

「……気が向いたらやってやるよ」

 

 

 逡巡の末、そんな曖昧な返答でこの場を切り抜けることにした。女に気を遣うなんて人生で初めてのことだ。少し前まで男と勘違いしていた相手だから、ぶっちゃけ今でも女とは思えないのだが。

 「ええー!!」と不満を叫びながら、幼女の首に体重をかけてトドメをさすノウケン。骨の折れる致命的な音がした。白目を剥いて泡を吹いている幼女だが、ノウケンに喰われてこうもあっさり殺してもらえるならきっと神様に愛されている。いつもの彼女ならもっとねちっこい。それこそシュラが引き気味に冷や汗を垂らすほどに。

 

 

「シュラってば、変なところでお堅いんだもんなぁ。綺麗なら男でも女でも良いじゃん」

「自分と同じモンついてるやつに盛れるかよ」

「じゃあ去勢した美少年とか」

「本当に何でもアリだなテメェは」

 

 

 今さらなことを溜息と共に吐き出し、己の髪を乱暴に掻き乱す。よその国には亡くした妻に似ているからという理由で男の“アレ”を切り落として花嫁役にし結婚式まで挙げたとんでもない暴君もいるらしいが、仮にノウケンが王だったならそれ以上のことをやらかしそうだ。

 しかし、だからこそというべきか――あらゆる意味でぶっ飛んだこの女と、これから離れることになると思うと些か寂しい。己の周りにクズは多いが、ここまで潔く堂々としたクズは滅多にいないのだ。恋人の代わりなら旅先の娼婦にでもさせればいいが、悪友の代わりは務まる相手がいない。

 

 

(つぅか、俺が『寂しい』なんて似合わねェにも程があんな)

 

 

 自分で自分の感情に呆れつつベッドから立ち上がる。

 父の頼みで長旅に出ることになったと、この女にわざわざ言う義理もない。必要もない。外道としての可愛い後輩扱いはされているが、そもそもこの女は友情や愛情ではなく欲情によって生きる者なのだから、無言で立ち去っても三日たてばシュラの存在を忘れている可能性だってある。そんな相手に挨拶は不要。

 普段ならそう判断するのだが、残念ながらそう割り切れないほどにシュラはノウケンのことを慕っていた。尊敬し打倒すべき相手だと、系統こそ違えど、彼にとっては実父と同じくらい重要な人間として心の中に君臨している。

 そういう感情を持った人間に対し何の挨拶も残さず旅立つのは、やはり失礼なのではないかと、大臣の息子という彼の育ちの良さが妙なところで発揮されてしまっていた。

 

 

「どーしたシュラ。結構イケてるツラに皺が寄ってるぜ」

 

 

 血にまみれたベッドの上で足を組みながら、全裸だというのに秘部を隠す様子もなく両腕を後ろについているノウケン。ニヤつく表情はデフォルト。

 

 彼女の体は、端的に表すならば『機能美』だ。

 体脂肪率は一ケタだろう。無駄な脂肪もなければ無駄な筋肉もない、彫刻家が見れば一心不乱でその姿を石に留めようとするだろう引き締まった肢体。女のものでありながら力強く、男のものほどゴツくもない。うっすらと線の浮かんだ腹筋は、薄皮一枚の柔らかさの下にあるインナーマッスルの強靭さを物語っている。

 胸はさほどありはしないが、腰の位置も高く手足はすらりと長い。そしてシュラ以上の長身。これでいつものように胸に布を巻いて男物の軍服を着込めば、本当の性別を知っていてもなお嫉妬の眼差しを向けざるを得ない見事なハンサムの完成だ。

 肌は健康的に焼けていて、顔立ちも劇団で主役をはれそうな雄々しい美形。声までもが男性的な色香に満ちているとなれば、たとえ股ぐらにブツが生えていなかったところで女の裸を見ている気にはならない。だからといって男の裸を見ている気にもならないのだから、不思議なものだ。中性的な顔立ちならぬ中性的な肢体とでも表現すべきか。

 

 彼女の体は、華奢な少女を組み敷いても屈強な大男を組み敷いてもよく似合って見える。たぶん自分が押し倒されたところで傍目にはわりと絵になる光景として映るのだろう……と、自分で考えておきながらそのイメージに「うげっ」と顔を歪ませる。

 彼女が人に押し倒されている光景を見たことがないからこんなイメージになっただけだ。自分は犯す相手に組み敷かれる趣味はない。そもそもノウケンはそういう対象として見ていない。初対面でケツを揉んできた以上、向こうには未だ“そういう対象”として見られている可能性もあるのだが。

 

 

「……イケてるとか、テメェに言われても嫌味にしか聞こえねぇよ」

 

 

 本性を知らない女子の黄色い悲鳴が空耳で聞こえてきそうなその貴公子フェイスに向かって諦めを含んだ罵倒。

 なんというか、さっきまで挨拶するしないで悩んでいた自分がバカらしくなってきた。

 

 

(そもそもコイツの情報網なら、俺が旅に出ることなんざ下手すりゃ俺より早くに知ってるに決まってんだ。いちいち言う必要なんざ最初から無かった)

 

 

 そう結論づけて、シュラは女性を陵辱するために脱ぎ払っていた下着とズボンをひっつかんで淡々と履き直していく。脱がなくても良いのに全裸になるノウケンと違って、シュラは自分の裸身を晒す趣味があるわけではない。たとえ腹筋丸出しの怪しい服を着ていようともだ。

 自分が買った美女は抱き潰したし、ノウケンが満足するまで奴隷を犯して殺すのを待っていたら日が暮れてしまう。さっさと帰って旅の準備でもしよう。

 

 

「じゃあな、ノウケン。良い女がいたらたまには俺に回せよ」

「男じゃ駄目か?」

「そのネタいつまで引きずってんだよ」

「後輩にもっと世の楽しみを味わってほしいだけだって。まあ、お前が旅行ってる最中に何人か見繕っといてやっから。帰ってきたらいっぺん試してみ?」

 

 

 ――やっぱり知ってやがったのか、と口に出さずとも脳内で溜息。

 振り向くことなく部屋を立ち去って、ふと思い浮かんだことを小さく呟いてみる。

 

 

「男に手ェ出すくらいなら、その前にテメェを抱くっての」

 

 

 ……もちろん実際にそうすれば、美味しく頂かれてしまうのはシュラのほうなのだが。

 

 

 


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