小説をどこかに投稿するのはこれが初めてです。
緊張していますが、できるだけミスなどやらかさないよう執筆していきたいと思っております。
よろしくお願いいたします。
人生の分岐点は間違いなく半年前にあったと思う。
当時の僕は、帝都の中央部で期待の新人画家としてそれなりの名声を博する存在であり、描いた絵が貴族や太守のみならず王族の人間にまで購入されるような有様で、要するに売れっ子だった。
豪華絢爛というほどでもないが一人暮らしには充分すぎる広々とした家に住み、ひもじい思いをせずに毎日のびのびとキャンバスに向かえるだけの余裕ある生活。
大臣の悪政によって物憂げな表情をして歩く市民の多い中、毎日スケッチブックとペンを片手に鼻歌混じりで歩く僕の姿は、誰から見ても順風満帆な幸運たる青年だったに違いない。
……とある王族の男から肖像画の依頼が来た時も、まさかそれが己の未来を大きく左右するキッカケになろうとは思ってもいなかった。
こんな書き方をすれば王族の男がとんでもないクズか何かだったのかと勘繰られるかもしれない。実際のところは、ほとんど僕の自業自得みたいなものである。
大袈裟なまでの数がいる兵士に警備された王族のお屋敷に上機嫌で入り、何か良い被写体でもないかと気軽に視線を周囲に巡らせたその時。
――大広間の天井に煌々と光り輝くシャンデリアのその下。照らされた巨大なガラスケースの中に、全長2mはあろうかという壮麗な絵筆があったのだ。
はっきり言って運命の出会いだった。
僕の小指に赤い糸というものが確かに存在するならば、それはきっと、この絵筆の先に結ばれているに違いないと、冗談抜きでそう感じた程度に、僕は“ソレ”に一目惚れした。
冷静に考えてみたら、これだけのサイズの絵筆なんてただ使いにくいだけだし、オブジェとしてもセンスを疑われる。
なのに僕はそれが視界に入った瞬間から目を離すこともできず、それどころか呼吸さえも忘れる始末だった。心臓の激しく高鳴るあの衝動は、恋と称して差し支えないレベルだったかもしれない。
だから僕は言ってしまった。
「絵の報酬はいらないのでこの筆を下さい」と。
それが帝具であることも知らずに――その一言が自分の運命を変えてしまうことにも気付かずに。
その願いを「使って体が無事で済んだらくれてやろう」と半笑いで言った王族の男は、いま思えば、きっと僕に使いこなせるはずがないとタカをくくっていたのだろう。
でなければ、世の中に48個しかない貴重な帝具を、気に入りの画家とはいえただの市民でしかない若人に譲渡しようとは考えない。
迷うことなく条件を承諾した僕は、さっそくガラスケースから取り出されたその筆を使って相手の肖像画を描いた。
その肖像画が、なんとまあ、我ながら会心の出来で完成したと満足した途端にキャンバスから抜け出てきたものだから、僕も周りの警備兵たちも目ん玉かっぴらいて仰天したものだ。
自分とまったく同じ顔をした男が平面から実体化したわけだから、もちろん王族の男も驚いていた。
そして僕が絵筆の正体にやっとこさ察しをつけたのもこの瞬間だったのである。
大勢の人間の前でくれてやると約束した手前、それを反故にするなど尋常の神経をしている者ならばできようはずもなく。
王族の男は、絵筆――帝具『千紫万紅アーティスティック』を僕にくれた。
ここまでの流れで話が終わるなら万々歳。
が、そうは問屋が卸さなかった。
可愛らしい意趣返しか軽い腹いせのつもりだったのだろう。
僕が帝具持ちであるとその日のうちに男は大臣に告げ口をし、あれよあれよという間に、僕はただの画家から帝具持ちの戦士として帝都警備隊に入隊させられる事となったのである。
拒否権なんてものはゼロを通り越してグラフならマイナスの領域だった。
最初は絵を描く時間が無いし僕インドア派なのに、とふて腐れていた。
しかし幸いというべきか。大天才には足りないにせよ、天才と称するには充分な素質が、こと戦闘に関しては僕にも存在していたらしい。
オーガさんという名前の筋骨隆々とした警備隊隊長にビシビシしごかれ、たまに胃液や血液を吐いたりしながらも腕は順調に上がっていった。
なかなかに可愛らしくちょっと狂的なところがまた創作意欲をそそる、同僚のセリュー・ユビキタスという女とも親睦が深まり、ちょうど力量も同じくらいだったのでたまに手合わせをしてお互いクロスカウンターで同時に沈んだりしながら、それなりに血まみれた日々にも慣れてきた頃だった。
……第二の分岐点が襲来したのは。