不可能男との約束   作:悪役

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急げ急げ

前だけを見ろ

前にしか行くべき場所はないのだから

配点(鍔迫り合い)


戦場へ

 

光の部屋の中でホライゾンは周りが騒がしくなっている事に気付いた。

 

何でしょうか……騒がしい。

 

と言っても、ここから何かを言っても、それで騒がしさが無くなるわけでもないので言っても労力の無駄というモノだろうと判断する。

だけど、やはり周りの騒がしさを無視するという事は難しくて、さっきまで読んでいた本から視線を外して、周りを見回す。

すると、そこには

 

「武神……」

 

どういう事だと思考する。

まさか自分の処刑に武神を使うのだろうか? 一体、それは何時の時代の切腹だろうか? 介錯を武神にやらすとは斬新というよりは残酷過ぎませんかと普通に考える。というか、そもそも武神の剣で武神よりも小さい人間サイズの自動人形の、それも首だけを狙えるのだろうか?

どうやらK.P.A.Italiaの人達の性格はかなり良い性格をしているみたいですと結論を出しておいた。

すると、自分の世話をしてくれている女性との声が聞こえた。

 

『外が気になりますか』

 

「いえいえ。私はK.P.A.Italiaの人達が残酷ひゃっはーー! な性格でも目を細めるだけで、蔑んだりはしませんよ」

 

『は?』

 

「失礼、何でもありません」

 

思わず隠すべき本音が出てしまいましたと反省。

あんまり相手を刺激させて、更に過激にしては私が辛いだけなのでと思い、少し自重しないといけないと決める。

とりあえず、世話係の彼女の言葉に甘えて聞こうかと思ったが───止めた。

 

『……聞かないんですか?』

 

「率直に申しまして……聞いてもホライゾンには意味も、関係もないと判断したので。ですから、御安心下さい」

 

ここで自分は死ぬべきなのだと周りにも、自分にも納得させる言葉。

少し、相手はその言葉に罪悪感でも感じたのか、少し沈黙したが、それでも処刑前の自分に喋りかけてくれる。

 

『すいません……あ。出来ればその分解力場壁には触らないで頂きたいです。その……危険ですから』

 

「分解力場壁……?」

 

『Tes.簡単に申せば、触ればその壁に自分を解読され、自分の大罪を突き付けられます。大罪というのは、つまり自分の一番の後悔の記憶。それを否定できなかったら、単純に分解されます。そして今の所、この力場を否定できた者はいません───過去の罪を否定することは誰にもできませんから』

 

「それならば、ホライゾンが直接その壁に触った方が手っ取り早いのでは?」

 

『ホライゾン様は大罪武装の抽出とかもありまして……』

 

そこで世話役の少女は自分の失言に気付いたのか、慌てた様子で

 

『すいません、そのままでお願いします……』

 

「Jud.」

 

ここで何かを言えば彼女が委縮するだけだろうと思い、ホライゾンは読んでいた本の方に視線を向き直した。

そして真面目に考えてみれば、武神が出てくるという事は、これから戦闘が起きるという事である。

嫌な予感が当たるのならば───相手は

 

「……関係ありません」

 

誰にも聞こえないような小さな声で無関心という言葉を吐く。

そう。自分には関係ない。これから死ぬだけの自動人形には何も関係がない事だろう。

死人に口なし……というのは些か速いのかもしれないが、どうせ死が決定している身である。ならば、別に使ってもいいだろう。

だから、誰も自分に関わらないでいいのだとホライゾンはただ惰性に任せて本を読もうとして

 

「あ……図書券が挟んでありました」

 

ちょっと未練が残ってしまいそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……そろそろ宴の始まりってとこかな」

 

「くくく、眼鏡が何か格好つけた事を言っているけど、今日は機嫌が良いから特別に発言を許すわ! さぁ、眼鏡らしく知的に狂った発言をかますといいわ。そう知的。漢字変換すると痴的! んーー! もう!こんな所で痴的にならないでよ! 私的にはオッケーだけど!」

 

「ごめん。葵姉君がもう頭の狂気スピードメーターが振り切れているんだけど、どうすればいいと思う?」

 

『とりあえず、トーリ君と喜美のお母さんを呼べば治るんじゃないですかね?」

 

「あ、あんた……! 何て事を言うのよ! うちのお母さんはマジでリアル侍だから、こういう場面で冗談を言っていたとか言ったら私のお尻が刀でぺんぺんされるかもしれないわよ! 掛け声はは・い・と・く・て・き!! でお願いね!?」

 

『パス1でシュウ君へ』

 

『お化けでも見せればいいんじゃね? ……ああ、喜美。解った解った。お前の一瞬の反応で次のリアクションが解ったから何も言うんじゃねえ。だから、パス2でネシンバラに』

 

「……って結局僕の所に戻っているじゃないか!!」

 

役に立たない囮だとネシンバラは少し絶望して、結局無視することにした。

それに今考えるべきなのは近くにいる狂った踊り子ではなく、目の前の戦場の踊り相手の事だろう。

 

「まったく……現実は困難だというのは当たり前のことなんだけど……」

 

ここまで来たら逆に笑ってしまう。

数は勿論、経験、武器。そういった物でこっちは世界に負けているのである。術式だってあからさまな攻撃術式は抑えられている。

せめて、特務としての実力は互角だと思いたいけど。

笑えるくらい絶望的な戦闘。

だけど、それを笑い飛ばすことが出来るくらい余裕がある。

これくらい出来ないと武蔵の王の所で馬鹿をやる事は出来ない。何も出来ない馬鹿が、この状況を笑うことが出来ているのだ。なら、自分は笑い飛ばすくらいしないといけない。

支持を受けたのならば、それに答えるのが義理というものだろう。

ようやく彼はこっちの期待に応えてくれたのだ。なら、後は僕達の出番だ。

既に作戦の指示は各方面に出している。

空はナルゼ君にナイト君に頼み、地上はクロスユナイト君、ペルソナ君、バルフェッド君、ノリキ君、槍本多君。そしてヒロインお迎え役の今回の主人公の葵君。

そして熱田君は個人行動中。

作戦係としては、もうやる事はない。

だけど、言いたい事はある。

 

「皆、聞いてくれる? 作戦などは既に皆に伝わっていると思うし、もう僕がやるべき役割は終えたけど、ちょっと言いたいことがあるんだ」

 

表示枠を通して、皆にこの声が聞こえている事を確認しながら、続く言葉を吐く。

 

「誰も戦争は好きな人はいな……あ、うちの副長は例外にしてよ───あれは少し頭の血が溢れすぎているヤンキーだから」

 

『いきなり嫌味かよ! この眼鏡!! 後で覚えていろよ……!』

 

忘れる事にするので、いらない表示枠を断ち割った。

 

「だけど、美化するわけでもないけど、精一杯生きる。それだけならば戦場にも価値が生まれると思うし、参加したのならばせめて全力を出して価値を見つけに行こう。ほら? よく言うでしょ? 生きる事は戦いだって。なら、戦おう。何を相手に、何を目的にして戦うのかは君達の自由だ。」

 

誰も強制しない。

 

「姫を助ける事を目的に戦ってくれてもいいし、何だったら自分の力を試してみたいとかでもいい。何だっていいんだ。自分の人生だ。君たちの人生の戦いは君たちが決めてくれ───そして僕らの王の代弁をさせてもらうよ。絶対に死ぬなって」

 

彼ならばこう言うだろう。

 

「無理はしてもいいけど、無茶はしちゃ駄目だ。頑張る事と限界を超えるという事は一緒じゃないんだ。だから、勝手な意見だが言わせてもらう。死地を思わないでくれ。帰ってくるその歩みが生地を作っていくんだ」

 

だから

 

「どうだい皆。死亡フラグはちゃんと立てた? 伏線はしっかり張った? その回収の準備が出来ている? 危険な時に救ってくれる友はいる? 絶望した時に叫ぶ名前はある? いざその時に逆転する隠し玉は持っているかい? 俺がヒーローだと、安っぽいけど高らかな信仰は持っている? そして何より───帰るべき場所はあるかい登場人物達?」

 

「───Jud.!」

 

いい返事だ微笑し、なら、作戦係として言おう。

 

「ならば、僕は君達の選ぶ選択肢を伝えよう。僕の好みは山あり谷ありの盛り上がる物語が好きだからね。だから、僕が示すルートは───一直線だ」

 

ざわっと周りが騒ぎ出す。

まぁ、無理もないかと思い、少し耳を傾ける。

 

「おい……遂に、あの眼鏡。自分が生きたいだけで、俺達の命を差し出してくれって婉曲に言いやがったぞ……!」

 

「何時かはやると思ってたんだ……」

 

「……私、遺書の書き方なんて知らないんだけど……「眼鏡の無茶な要求に懐広く応じたらあえなく人生落馬」とか書いたらいいのかな?」

 

「どうせならヤラレル前に射的訓練を……!」

 

とりあえず、何人かは最前線に放置しようと決めた。

三征西班牙とK.P.A.Italiaの訓練された学生たちによってきっと生まれ変わって帰ってこれるだろうとネシンバラはどうでもいい事を考える。

それに、何を言われても変える気はない作戦だ。

 

「色々と言われているようだけど……三征西班牙とK.P.A.Italiaの英雄達や武神などに武蔵がこれら相手にホライゾン・アリアダストを奪還して、なおかつ大罪武装を取り返したとなれば、かなり世界に注目される事になるんだ」

 

今の武蔵が注目されるというのは、かなり利点になる。

それは政治系本多君も同意の上だ。

だからこそ、ある種無茶とも思われる作戦にGOサインが出たのである。じゃなければ、僕は前線メンバーに自爆術式を持たせてゴッドウインドウ作戦を出させて、葵君だけをアリアダスト君の所に出すという作戦を出すつもりだった。

きっと、皆、派手に爆発するだろうになぁと少し期待していたのだが、バルフェッド君から笑顔で×を出されてしまったので止めといた。

理想というのは中々実現できないものだとネシンバラは頭の中で何度も首を縦に振った。

出来なかったことをごちゃごちゃ言っても仕方がない。

もう、後は進むだけなのだから。

 

「さぁ、行ってくれるかい登場人物達。聖譜なんてつまらない歴史書よりも僕のネタ帳の充実のために行ってくれ。何、後はヒロインを救出してハッピーエンドを見るだけだ。迷わずこの話を終わらせて、続きの話に繋げよう。そして主人公───そろそろ何か言ったらどうだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公と呼ばれ、その主人公集団を囲っていた人物は全員唸っていた。

西側山岳回廊の出口に集まっている点蔵、かなりごつい機動殻を装着しているアデーレ、ノリキ、二代、ペルソナはとりあえずその先の関所の門の方を見た。

あの門を潜れば三征西班牙とK.P.A.Italiaの混成軍が見えるだろう。

その数およそ千。

 

「面倒すよねー。こっちは二百くらいで単純な戦力差なら五倍くらいありますし……」

 

「恐らく、こっちの集中突破の事も予想されているで御座ろうな」

 

「うむ、となるとかなりの激戦でなるで御座るな。しかし、それは上に行ったナルゼ殿やマルガ殿も、熱田殿も同じで御座る。なら、拙者達だけ楽できるわけかなろうで御座る」

 

「……第一特務? 既にキャラがかなり負けているような気が……」

 

「……アデーレ殿? 思っていても言わないのが優しさという概念で御座るよ? え、ええい! そんな目で見ないでほしいで御座る! じ、自分は負けと思ってないし、そもそも勝負とかそんなものにこだわるようでは忍びとして失格で御座るし、有体に言えば忍びの懐はこれしきで敗れない……!」

 

「もう、解ったから言わなくていい。それよりも、その主人公はどこに行った?」

 

主人公……と二代以外が俯いてしまうが、とりあえず探すが、あれ? という展開に。

確か、さっきまでそこにいたはずなのだが何故かいない。

流石に、帰ったとかはいないだろうと思い、全員でふと何となくで門の方に視線を向けた。

そこには

 

「おいおい、オマエら。遅えよ、何やってんだよ。向こうが待ってるんだから、俺達もとっとと行こうぜ?」

 

「ぬおおおおおおお!! ちょ! そこ! ば、馬鹿総長! 一体! 今! 何を! しようと! しているんですか!!」

 

「おいおいアデーレ。一々"!"で止めるなよー。俺は親友の言ったように行くなら早めに行った方がいいっていう言葉を有言実行しようとしているだけだぜ?」

 

『も、もう!? この馬鹿総長と副長はどうして私に仕事ばかり与えまくるのよ!? まだこっちはようやく浅間を登場させてズッドーーン!! させている所なのよ! 絡ませるのはもう少し後!』

 

『最後の台詞は一体何ですかーー!? というか、トーリ君! 話聞いていましたか!? そっから先は激戦区! シュウ君みたいに馬鹿みたいな防御力がないと突っ込んじゃいけない場所なんですよ! ギャグならともかく……あ、そっか。トーリ君はありとあらゆる場面をギャグに変えますから、ボケ術式で死にませんね。じゃ、いっか』

 

『待て待てーー! 浅間もナルゼも言いたいことは色々とあるが、とりあえず葵! 少し待てよ! いいか? 待てよ? 絶対に待てよ!?』

 

「おお、ちゃんと解ってるぜ、セージュン。俺はお前の期待に応える為に絶対に待たないぜ……!」

 

『振りじゃないんだよ!!』

 

『……セージュン。何か、もう凄く梅組に慣れたねー』

 

絶望するような事を言うな! というBGMを聞きながら、トーリは止まらなかった。

 

「よいっしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

重い関所の扉をトーリの両腕がぎぎぎっという音と共に開けていく。

その開いていく扉に皆がああ! と叫びながら諦めた。

開けた先にはこれからシリアスバトルが始まるでやんすと几帳面に待機していた三征西班牙とK.P.A.Italia軍団。

誰もが突如現れた馬鹿を前に時を止め、そして判断を各隊の隊長に任せて現実逃避。

それをされた隊長達はやはり混乱しており、最初の数秒は武蔵が引き攣った笑顔、三征西班牙とK.P.A.Italiaの混成軍がどうすればいいのか解らないという疑問顔。

そして最後は

 

「う、撃てーーーーーー!!」

 

銃撃の斉射音と空の航空間の砲撃で戦場が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだか、あの馬鹿は」

 

呆れた溜息を吐きながら熱田は森の中で苦笑する。

メインの戦場ではなく、ここにいる理由はちゃんとある。

ここから武蔵は丸見えである。

そんな所で例えば、大罪武装の攻撃でも喰らったら、武蔵は間違いなく落ちるという選択肢しかない。

そしてそんな都合のいい大罪武装を持っている存在が相手にいる。

立花宗茂。

西国無双と神速の二つ名を持ち、大罪武装悲嘆の怠惰を持つ男。

正直に言えば、彼を相手するのに一番相応しいのは二代である。お互い加速術式で速さで勝利を取る戦い方。

単純なスピードならば、恐らく宗茂の方が速いかもしれないが、チャンスは多い。

俺も遅いとは言わないが、それでも加速術式を使った人間に勝てるだなぞ自惚れてはいない。

 

「とは言っても、それもやり方次第だけどな」

 

そして因縁の部分でも二代がやりたかっただろう。

自分の父親と最後まで打ち合っていた人物だ。自分の父が。東国無双と呼ばれ、最強の一角であった人物が最後に勝ったのか負けたのか。それも知りたかったはずだ。

普通ならば譲るべき相手であった。

だが、今回、このタイミングでは、こっちも譲れない相手だったのである。

本気で悪い事をしたと思っている。自分はそういう意味では彼女に対して最低な事をしたと思っている。

だが、それでも譲れないものは譲れない。

なら、二代に対してしてやれる事は勝利を持ってくることだけだろう。

つーっと近くに置いてある布で巻かれた大剣に視線を向ける。

 

『ーーー♪』

 

その剣は歌っていた。

歌詞ではなく、ただの鼻歌である。

狙ってやっているのか、曲は通し道歌。と言っても、こいつがこの歌以外をうたっているところを聞いたことがないが?

そう───家では子守唄代わりに良く聞いていた。

だから、解らない。

この剣は一体、誰だろうか(・・・・・・ ・・・・・)

 

「……言っても意味がねーことだけどよ」

 

『───? ドウシタノ?』

 

「何でもねぇよ。何時でもヤレルぜって事だ」

 

『ガンバルノ』

 

再び苦笑して、剣から目を離す。

今、考えても意味もないし、答えも出ない。この十年間、ずっと考えたり、悩んだりした問題なのだ。いきなり答えが降って湧いたりするわけがない。

逆にいきなり閃いたら、今までの自分が馬鹿みたいに思えるだけだ。

ふぅ、と改めて溜息を吐く。

 

『暇そうですね、シュウ君』

 

「お前こそ、そっちは艦隊射撃をしないといけないんじゃないのか? 智」

 

『ええ……そうなんですけど……』

 

『浅間様。よろしくお願いします───以上』

 

『お? お? 来ましたね? 来ましたね!? じゃ、じゃあ、射ちますよ? う、射ちたいから射つんじゃないですよ? これは仕方なく、武蔵を守るために射つんですからね? シュウ君? よし!』

 

『拍手ーー』

 

『会いました!!』

 

声と共に武蔵から光が発射された。

そして実は三征西班牙艦隊から撃たれていた流体法の一撃を、その射撃で禊いだのだろう。それにより、流体砲の一撃は消滅した。

思わず、最初に来たのは恐ろしさだったのは間違いではないと思う。

 

「俺はあんなのをほぼ毎日股間で受け止めていたのか……」

 

『ち、違いますよ! 派手に見えるかもしれませんけど、あれは砲撃を禊いだだけです! シュウ君にやっているのは、単純な射撃です! だから、痛みという意味ではシュウ君が受けている方が強いですね』

 

『恐ろしい……今、この巫女はとてつもなく恐ろしい事をさらりと言っているで御座るよ……!』

 

『流石は武蔵最恐の射撃巫女の二つ名を得た色物巫女であるな……』

 

『怖い時はカレーですネー』

 

『元気を出すんだよ熱田君! 君はこんな所で負ける様な人間じゃないってことは僕らが一番知っているさ!』

 

『そうだとも! 貴様は吾輩が認める忍耐力を持つ素晴らしい男だとも!』

 

「インキュバスとスライムに慰められる俺って……」

 

正直へこんだが、気にしていても仕方がないので、表示枠に映っている光景を見る事にした。

 

「まったく……」

 

何してんだかと苦笑しながら、馬鹿の行動を見ておく。

だが、それと同時に内心ではそれでいいと肯定する。

何も出来ねえんだ。なら、馬鹿は馬鹿らしくすることで周りを支えるのが役目だと言葉にはせずに理解だけをする。

まだ、相対する相手は来ない。

なら、それまでは馬鹿の馬鹿なりの覚悟というモノを見させてもらおうかと決め、熱田は油断はせずに、けれど表示枠に集中することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬鹿が馬鹿をした瞬間。

二代は直ぐに加速術式"翔翼"で馬鹿を追い抜いた。

翔翼は足の先に出て、それを一つ一つ貫くことによって加速が累積される。速い話、一歩進めば進むほど速くなるという事である。

一歩だけでは遅いが、だが、加速は続く。

要は術式とはいえ走りと同じだ。

一歩を力強く踏みしめる事により、加速という力は強くなる。

そして結果は風を切った速さという結果。

馬鹿総長の隣を抜き、そこから構える。

 

「結べ───」

 

蜻蛉切り! と叫ぼうとした所で相手がいきなり煙を上げた。

 

「何……!?」

 

煙幕術式。

危険のあるようなものではない。目くらましには成るが、攻撃には使えないもの。

精々、一瞬の虚を突くようなものだ。

だが、今は

 

「蜻蛉切りで御座るか……」

 

蜻蛉切りの能力は刃に映すものの名を介して対象を割断する。

つまり、刃に映さなければ割断することが不可能という事である。

勿論、この程度の煙では蜻蛉切りを妨害する事は出来ないかもしれない。

しかし、自分はこの蜻蛉切りを手に入れたのは、今日である。試し切りはしたが。こんな悪条件で使った事はない。

それに対して、蜻蛉切りに確認を取ろうとしたところで相手も近接武術士が加速を使って、こちらに突っ込んできた。

 

……面白い……!

 

自分の思い通りにならない展開。

それでこそだと思う。戦場こそ人生の縮図だと拙者はそう思っている。

なればこそ、それを覆す事こそ戦いだとも。

 

「武装警護隊! 突撃ーー!!」

 

「Jud.!!」

 

自分の掛け声とともに武装警護隊が言葉通りに突撃する。

加速を使っての力任せの突撃。こちらのちゃんとした戦闘技能と経験を持っているのは、自分達だけだと思っている。

とはいえ、武蔵の特務クラスとかの実力を疑っているわけではないのだが。

さてと周りが騒がしくなったのを契機に自分も突撃する。

周りは既に戦場。

前も後ろも横も戦っている。

なら、どっちに行くべきかと言われたら前だろう。

何せ、前にしか我らが君主、ホライゾン様はいないのだから。

前に翔翼使って、突っ込む。

しかし、相手はこちらの動きを察知していたのか、何時の間に前は自分が突っ込もうとしたところが開けており、その奥には

 

「大砲で御座るか!?」

 

しかも、拙者一人に使う気である。

そこまで過大評価されていたとはと思考の片隅でどうでもいいことを考えていたが、そんな事を言っている場合ではない。

既に放たれる一秒前である。

回避は可能ではあるが余り得策ではない。

神道の加速術式は乱れたら暴発する。暴発するだけで、死ぬというわけではないのだが、戦場でそんな事をしたら危険極まりないし、周りの足を引っ張るだけになる。

そして、普通に避けれたとしても、今、避けたら確実に後続に当たる。

となれば、ただ一つ。

意志を回避にではなく、前進につぎ込んだ。

それと同時に大砲は発射された。

腹の奥底にまで響きそうな低い音共に術式砲弾が発射される。大きさは大体4、5メートルくらい。あの加速で当たったら間違いなく致命傷では済まない。

その事実に冷や汗が流れるが、気にしてはいられない。

当たるまでにこちらが走れるのは大体三歩といったところ。ならば、その三歩でタイミングを合致させなくてはいけない。

その難易度に思わず

 

「はっ……!」

 

笑いがこみあげてきてしまうが構いはしない。

ここで生きて帰らなければホライゾン様を御守りすることが出来ないし、まだやりたい事も決まっていないのである。なら、ここで死ぬわけにはいかない。

外すわけにはいかない。

身を鋭角に、体を左斜めにして、槍を突きの構えを取らせる。

一歩。

上々の歩幅。槍を持っている腕は既に限界まで後ろに捻っている。腕のタイミングも外してはいけないのである。

しかし、これならば生きる難易度よりははるかに下だ。

二歩。

既に術式砲弾はほんの十五メートル先である。

お互いの加速を考えると、もう目と鼻の先といっても同じ距離である。体全体に無駄な力が入りそうになるのを全力で止める。

力でやれば斬れてしまうだけ。斬っても、火薬に引火して爆発すれば意味が無くなる。

そして

 

「三!」

 

三歩目で体を地面に固定するかのように右足を地面に縫いとめ、砲弾と歩を合わせた。

理想的な距離だった。

砲弾は四メートルくらい前。

それならば、槍も届く。

 

「……!」

 

息を漏らす事すらもったいないくらいの死地。

しかし、そんな事は考えずに槍を突きだす。水平に突き出し、砲弾を乗せる。一瞬の擦れで火花が槍の先端で散る。

それと同時に衝撃が腕に疾るが、力づくで捻じ伏せる。だからといって無理矢理力を入れてはいけない。

そのまま逸らすように槍の角度を調整し、力の流れを変化させ

 

「……でやぁ!」

 

逸らした。

甲高い音と共に直線に走るはずだった術式砲弾は逸れた。

 

「───浅い!」

 

もう少し派手に逸らしたかったのだが、やはり土壇場ではこれが限界だったようだ。

あれならば、身長が高いものは反応できなかったら当たる。

舌打ち一つで何とかならないかと反転しようとするが間に合わない。

そして後ろから

 

「いったあーーーー!!」

 

余裕がありそうな悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アデーレ……殿……?

 

点蔵は砲弾がアデーレの機動殻にぶつかるところを見ていかんと思って、何とかしようとした人間の一人である。

正直に言えば、直ぐに助けに行けるような距離ではなかったし、頭の片隅では間に合わないと解っていたが、それで諦める様な賢い人間は武蔵にはいないので、自分も最後まで馬鹿みたいに諦めないで御座ると思っていたのだが、結果は

 

「いたたたた……」

 

何だか、膝擦りむいてしまいました程度のリアクションしかとらないアデーレ。

いや、確かに機動殻を装着しているのだから、普通の人間よりも堅いのは頷けるので御座るが、それでも今の時代の機動殻はスピード重視の物なので防御自体は術式砲弾を防げるようなものではなかったはずなので御座るが……?

どういう事だと敵味方全員で首を傾げる。

とりあえず、全員で落ち着けのジェスチャーをして、とりあえず三征西班牙はもう一度という結論に達したらしく、それをアイコンタクトで二代殿に伝えていた。

すると、彼女も真面目な顔で頷いて、道を開けた。

 

「え? ちょ、ちょっと! どうして道を開けるんですか二代さん!? え? 出力用の符を三枚追加……いや、四枚追加ってどういう事ですか!」

 

三征西班牙の人達は親指を立てる事によって返事として、再び大砲を発射した。

普通の機動殻ならば避けれる攻撃だったはずだが、アデーレ殿の機動殻は避けれず、努力だけはしたが叶わずに着弾。

ド派手な音が鳴り響くが、そこには

 

「アイタタタタタ……! び、びっくりしたー! ほ、ホント、マジにびっくりしましたからね!」

 

どういう事で御座るか……?

 

同じ疑問を思ったのだろう。

トーリ殿がネシンバラ殿に連絡を取って、どういう事なのかを尋ねている最中であった。

ネシンバラ殿の話によると時代を一周した機動殻という事で、高速型が主流の時代にいきなり重装甲の機動殻など使うとは思わないし、そこまで役に立つとは思えない。

何せ、堅いだけで速度は普通の人間が走るのよりも遅いのである。

とてもじゃないが、戦闘に参加できるとは思えないが

 

『盾にはなるね!』

 

『マルゴット……時々かっ飛ばすけど、そこも素敵よ───とりあえず盾ね』

 

『今、一瞬、初夏のような太陽光線を受けましたが───やはり盾ですね』

 

『と、智にナルゼっ。そ、そこまで断定していうのもどうかと思いますのっ───でも、やっぱり、盾にしかなれないのですが』

 

「な、何で擁護してきたと思った人まで敵に回るんですか!? そ、それに今はもう乱戦状態ですよ? ざ、残念ながら、自分の機動殻はスピードが遅いので盾にはもう慣れないんですよ。いや~、ざ、残念ですね~」

 

『大丈夫だよ、バルフェット君───君の為に僕が盛り上げよう』

 

「い、良い事言っている気かもしれませんが、しょ、書記は自分を死地に放り込むつもりですか!?」

 

アデーレ殿が表示枠に叫んでいる間にトーリ殿がペルソナ君殿に何かを言っているのを見つけた。

そのままペルソナ君殿は頷き、今まで持っていた釘バットをどこかに収納して、密かにアデーレ殿の白熱している背中に近づき、そして掴み、持ち上げた。

 

「え? あ、あの……ペルソナ君? い、一体どうして、自分を持ち上げて、そのまるで大きなものを投げる様な投擲体勢を取っているのでしょうか? え? すまないって何が? って、どうして皆さんカタパルト術式を表示するんですか!」

 

『ああ……だけど、これは君だからできるんだ……そう。これはバルフェット君にしか出来ない偉業なんだ……!』

 

「待って下さーーーーーーーーーーーーーーい!!!」

 

誰も待たなかった。

ペルソナ君殿は勢いよくアデーレ殿を一度、捻って後ろに回し、そして発射。

術式カタパルトに乗ったアデーレはそのまま加速し、狙いは術式大砲。

その事に術式大砲を扱っていた人達はうわぁーーーー!! と叫びながら離れていく。

そのまま勢いよくドッガーーン! という感じで術式大砲に思いっきり頭から突っ込むアデーレ殿大砲。派手な音が聞こえたので、これは生身で受けたら即死で御座ろうなぁと冷静に思ってみた。

そして何回かバウンドして、最後には動かなくなったアデーレ殿。

はて、どうなったやらと全員が疑問を、トーリ殿が代表して聞いてみた。

 

「おーーーい。アデーレ。大丈夫かーーー?」

 

「あいたたたたたたたーーーーーーー!! か、体がぐるんぐるんと回りましたよーーー!!?」

 

即答であったで御座る。

どうやらかなり頑丈らしいで御座る。周りの三征西班牙の者達がかなり嫌そうな顔でアデーレ殿を見ているのがよく解ったし、理解できた。

とりあえず、少しだけ流れをこっちに持ち込めたのは良い事で御座ると前向きに思考する。

後は空をナルゼ殿にナイト殿。

恐らく奇襲してくる相手を熱田殿。

そして、後はホライゾン殿をトーリ殿が連れて帰ってこれるか。

それにより、この戦いの勝敗が決まるで御座ると考え、点蔵は前に進む。

どちらにしろ楽は出来ぬで御座るなと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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