不可能男との約束   作:悪役

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選ぶのは貴方

決めるのは君

責任を負うのはお前だ

配点(決意)




選択の始まり

後悔通りの道のりの中。

三人の女が歩いていた。

一人は直政。右腕が義碗であり、役職は第六特務。機関部代表の人間であり、武蔵の戦闘系のパワー部門の一位、二位を争う存在である。

二人目はネイト・ミトツダイラ。こちらも武蔵パワー部門で、直政と競い合っている存在である。役職は第五特務であり、武蔵の騎士代表。六護式仏蘭西出身の半人狼で、そして水戸松平の襲名者でもあるというキャラとして立ち過ぎな存在である。

そして最後の三人目が武蔵生徒会副会長である自分、本多正純である。

 

……改めて考えると濃いなぁ。

 

今の状況を考えれば不謹慎だが、そう思ってしまうのは仕方がない。

ミトツダイラはクラスの中ではトップクラスの権力者だし、半人狼というある意味特殊な種族でもあり、襲名者でもある。

今更だが、私は結構権力者の傍にいるなぁとしみじみと思う。

直政は

 

大きいなぁ……。

 

背丈の事だ。

クラスで身長ならば浅間、葵姉、直政と三人が一番身長が高い。ともすれば周りの男子よりも高いのである。余りの大きさに凄いなと本気で感心する。

そこまで考えてみた、改めて今の自分は結構落ち着いているなと思う。

自分が今、何の為にこの三人と一緒にある場所に向かおうとしているのかははっきりと理解しているし、その場に置いての自分の役割も理解している。

もしかして、現実逃避をしているのだろうかと思うが、無意識でやっているかもしれない事を自分に問い詰めても答えは出ないだろうにと思い、考えるのを止めた。

代わりに考えるのはやはり、今の事。

 

臨時生徒会か……

 

それも自分の。

まぁ、自分を選ばれたのは今のアリアダスト教導院で唯一権限を持っているからという事なのだろうけど、抗うという意味ならば上手いなと素直に思う。

だけど、私の事は建前で本音は

 

……ホライゾンを助けたいからか。

 

その思いを笑うなどしない。

むしろ、正しいと思っているし、出来るなら自分でも助けたいと思っている。

だけど、そんな事をしたら聖連との戦争は避けれないし、それに聖連だけで済むとは思わない。

もしかしたら、世界を相手にすることかもしれない。

そんな重大なことを一人の少女を救うだけでしてもいいのかという考えがどうしても生まれる。

それが自分だけならまだいいなどとヒロイズム思考は流石に持ってはいないが、それでは武蔵の住人さえも巻き込んでしまうことになるのだ。

駄目だなと思う。

今の自分の思考は危険だ。これから暫定議会派。つまり、どちらかと言うと聖連側として級友を説き伏せなければいけないというのにこの思考では駄目だ。

私は今からクラスの皆からしたら悪という立ち位置に着かないといかないので、本当は助けたいんだけどみたいな態度で彼らと相対するのは失礼だ。

 

「さて……正純は結構考え込んでいるみたいだけど、大丈夫かい?」

 

「……あ、ああ。済まない。あんまり考え込まないようにしようとは思ってるんだが……性分かな」

 

直政の気遣いの言葉に苦笑で返事すると二人も苦笑する。

その反応に少し恥ずかしくなって頬を赤くしてしまった。

駄目だなとまた思い、そしてそういえばという思いを得る。

 

こういう風にクラス皆とちゃんと話したのは初めてじゃないか……。

 

ホライゾンが危機になってからというのはかなりの皮肉だがという前置きは忘れない。

他のメンバーは小学校からの付き合いらしく、自分だけが途中で転校してきたので、正直に言えば馴染めていないというのが本音だったが……馴染めなかったのは自分のせいだったみたいだなと思う。

本当にこれで政治家志望というのだから情けないと思ってしまうけど、あんまり沈黙ばかりしていたらまた気遣われてしまうと思うのは自惚れかもしれないが、とりあえず話を続ける。

 

「二人のここにいる理由だが……」

 

「ああ。正純の事だから何となく解っていると思うけど……あたしは機関部代表としてここにいるからね。難しいことを言うのは好きじゃないから単純に言うけどあの馬鹿共の力を見て来いってことさね」

 

「私の方も……まぁ、似たようなものですわ」

 

直政の方は本当だと思うが、ミトツダイラの方は少し違うだろうとは思っている。

一応、騎士としての考えも立場も理解しているつもりなのだから。

だから、ミトツダイラが何も言わなかったので正純も何も言わなかった。

 

「となると相対するのは……」

 

「セオリーなら、あたし達のような戦闘系とやるんだから、あっちもそれに対応する奴を出すだろうねぇ」

 

「ええ。それに───あっちには戦闘部門で最強クラスの役職の人物がいるんですのよ?」

 

「……熱田の事か」

 

生憎だが、自分は文系なので戦闘系の人間がどれだけ強いのかを見て感じるなどという事は出来ないのだが……ミトツダイラは熱田の事を評価しているようだ。

その事に思わず首を傾げてしまう。

政治系ではあるが、やはり体育などで多少はやらされるものであるのだが、その時は熱田は確か何も出来ずに吹っ飛ばされてるだけか、走っているだけだった。

あれだけ吹っ飛ばされているのに何で無傷なんだろうとは思ったが、そこは無視した。

だから、熱田がそこまで強い存在には思えない。それともやはり、理解できていないだけなのかなと思う。

それにしても

 

「……ミトツダイラ。何だか嬉しそうだな」

 

「え? そ、そんな事はないのですよっ」

 

「ああ。正純。ミトはこう見えなくても戦闘陶酔者(バトルジャンキー)破壊陶酔者(クラッシュジャンキー)でね。だから戦えて壊せるものなら嬉々として叫ぶ性質(タチ)があるんだよ。正純も気をつけた方がいいさね」

 

「マ。マサ! 何を平然と嘘をついているんですの! ま、正純もこわっていうような目で引かないでくれませんですの!?」

 

「い、いや、個人の趣味をどうこう言うつもりはないから……」

 

誤解ですのよーー!? という叫びに直政がまぁまぁと仲介する。

そしてその後に付け加えた。

 

「───色々と決着を着けたいことがあるんだろ?」

 

「───」

 

ハッとした顔でミトツダイラが直政の顔を見る。

その様子に少し眉を顰めるが、今の言い方から察すると詳しく話してくれそうだ。

ただ、答えとしてミトツダイラが苦笑で

 

「───Jud.」

 

と答えたくらいだろう。

 

「ここずっと溜まっていた鬱憤も含めて───決着を着けたい所ですの」

 

「……何の話だって聞くのは野暮なんだろうな」

 

すみませんと苦笑するミトツダイラに気にするなと答える。

 

……色々、あるんだな……。

 

当たり前のことだと思うが改めて思う。

何もない人間なんていないだろう。内容は人違えど、それでも色々とあるのは誰でも同じだ。

こういう事で自分は特別だと思うのは間違いだろうと思っていると、いつの間にか目の前には既に教導院の特徴的な階段があった。

見慣れた……というにはまだそこまで過ごしていないのだが、それでもこんな事情と感情を持って、この階段を上るとは思ってもいなかった。

ふぅと思い、上を見る。

それは階段の上から気配がするからだ。それも複数。誰だなんていう疑問は挟まない。

この場に自分達がいる理由がそれなのだから。

だからと思い、三人同時に上を見ると

巻物がいた。

 

「……」

 

三人が三人とも半目を持って沈黙した。

その巻物の周りにはベルトーニや熱田や浅間や葵姉などがいるのだが、その取り囲んでいる中央には何故か巻物がいる。

何時の間に異世界に紛れ込んだと思い、何となく目が合った葵姉とアイコンタクトを図る。

いきなり踏ん反り返って、胸を強調するポーズをとった。

意味不明だ。横でミトツダイラがくっと唸っているが、気持ちはわからんでもないと内心で同意する。

とりあえず、何か言わないと始まらないだろうと思い、嫌な役目だと思いつつ、正純が語りかける。

 

「───ベルトーニ。それは何だ?」

 

「ああ───食えない春巻だ」

 

「違ぇよ! 今の俺は巻き寿司だよ! わかんねぇかなぁ? この光沢! この巻き具合! そして活きがいい具材……何時でも私を食べてぇん!!」

 

気色悪い裏声が食えない巻き寿司から聞こえたので、巻き寿司を取り囲んでいる連中は無言で巻き寿司を蹴って、階段から回転して落とした。

当然、回転すると海苔として使われていたカーテンが剥がれて、中の具材が出てくるのだが。

中から出てきたのは全裸の馬鹿であった。

しかも、急所にはモザイクがあるという摩訶不思議。

正純は知らなかった。

これが所謂、ゴッドモザイクという術式であることを。

しかし、そんなどうでもいい事は気にせずに、全裸の馬鹿がこちらに能天気な顔でこちらに喋ってきた。

 

「あーー! おめぇら!! 最高の巻き具合が台無しになっちまったじゃねーーか!! ったく……しょうがねぇなぁ。おいセージュン、ネイト、直政。巻きなおしてくんね? 何なら俺を───た、食べてもいいんだかんね!!」

 

食えない巻き寿司が喋るというのは自然の摂理から外れているだろうと思い、ミトツダイラと直政と視線を合わせて同時に元の場所に戻すどころか、そのまま学校に突っ込めと言う感じに思いっきり蹴る。

あひぃん! と何故か喜んでいるようにも聞こえる声を発しながら、元の方向、つまり、梅組メンバーの所に吹っ飛ぶ。

それに対して全裸のクラスメイトは

 

「うわーー!!?」

 

本気で避けた。

清々しいくらい本気で一応級友の全裸を避けた。誰一人として全裸の馬鹿を受け止めようという奴がいない事でこれが当たり前なのか……と察してしまった。

そして馬鹿はそのまま慣性の法則で、そのまま吹っ飛び、地面を二回くらいバウンドし、そしてごろごろと転がって、大体十メートルくらいでようやく止まり、そして即座に立ち上がって、こちらを指さして叫んできた。

 

「お、お前ら! 少しはクラスメイトを助けようとか、危ない! とか言って可愛い行動をしてくれる奴はいないのかよ! 信じられないくらいのチームワークに俺も本気で脱帽だぜ! 俺もそん中にいれてくれよぉーー」

 

「Jud.そうね───まずは服を着る事ね」

 

「ガっちゃん。その前にまずは常識を知る事から始めた方がいいんじゃないかなぁとナイちゃん思うんだけど」

 

「いや、トーリ殿の事だから、どうせまた変な方向に走って暴走するだけで御座るから───率直に言えば諦めた方がいいで御座ろうな」

 

「て、てめぇら……! しかも、点蔵までズバズバと言いやがって……! お、俺がそれくらい出来ねぇと思ってんのか!?」

 

「じゃ、愚弟。試しに聞いてみるけど、そこに女風呂があります。はい。レッツアンサー」

 

「ああ? バッカだなぁ姉ちゃん。そんなの覗かなきゃ失礼だろ!? この前だって浅間が風呂でまた大きくなりました……って物凄い爆弾発言を俺は聞き逃さずに浅間の成長を喜んだんだぜ! 俺、メッチャ良い事したんじゃね!?」

 

「のわーーーーーーーーー!! ど、どうやって覗いたんですか!? シュ、シュウ君? な、何ですかそのまた新しい挑戦が出来るぜ……! みたいなぎらぎらした目は……って、さ、三要先生!? ど、どちらにーー!?」

 

何だかカオスにしかなっていないなというか、どうしてこいつらは共食いを起こすんだ。

横にいる二人に視線を向けるが、二人は顔を逸らした。

その事に、もしかしてこいつらも同類かなと思ってしまうが、いかんいかん。そんなに簡単に人を疑っては駄目だと一応思って、溜息をついて仕切り直しをしようと思った。

 

「先生」

 

「ん? 何かしら正純。今から私は青雷亭で買ってきた肉弁当を消化しようとしているんだけど?」

 

「……別にそのままでいいですけど。とりあえず、ここで臨時生徒会を開始するという事で宜しいんでしょうか?」

 

「ええ、そうよ。基本はまぁ、相対と同じよ。手段も方法も問わないわ。バトル良し、討論良し。なんならゲームでもいいし、じゃんけんでもいいわよ」

 

最後ら辺は冗句だろうと思い、笑うだけで留めた。

とりあえず、ようは自分の実力を出せる方法でお互いが納得するような相対をしろという事だろう。

となると、やはり直政とミトツダイラは戦闘で、自分は討論という形になるかなと思った。

 

「成程……こっちは解りました」

 

「Jud.トーリ達も解ったーー? あ。トーリが解らないのは何時もの事だから答えなくていいわよ」

 

「おいおいおい先生! そんな最初から決めつけるような物言いは良くないと思うぜ! 人間は成長する生き物なんだぜ!?」

 

「んーー。でも、あんたは下にしか成長できないでしょ? だから無理だと思ってね」

 

「し、下に成長…………!? せ、先生が下ネタを言ってくれたぜーー! この変態教師め!」

 

瞬間、馬鹿が吹っ飛んだがもう気にしないことにした。

 

「ほかに質問ある人いる?」

 

「あ、先生。俺俺。俺が質問じゃないが、少し言いたいことがあるぜ!」

 

「……呪歌を歌うつもりじゃないでしょうね?」

 

「……! それは期待って取っていいんだろうな!? 仕方ねぇ……そんなに期待されてるんなら歌うしかね───」

 

熱田は浅間に思いっきり射たれて吹っ飛んでいた。

その事についても、皆、気にしている様子がなかったから改めてここはおかしいなと思った。

だけど、意外にも二人が早く戻ってきたから驚いた。

まさかギャグなら死なないという体質を持っているのだろうかと疑いたくなるが気にしないことにした。

 

「で、何? つまらないことじゃなかったら言っていいわよ」

 

「おう。安心しろよ先生。一応、副長として発言するからな」

 

その言葉に目が細くなってしまうのが止められない。

副長の権限は無くなったとしても、一応は武蔵の武を示す立ち位置だ。そんな人物が、わざわざ副長としてなどと言うのだ。

自然と警戒度が高まる。

そしてオリオトライ先生はあら? と珍しいものを見るようなものを見るような態度で先を促す。

そして熱田はああと前置きを置いて告げる。

 

「武蔵アリアダスト教導院副長熱田・シュウとして、この場で俺の立ち位置を言わせてもらうぜ」

 

周りの疑問と警戒を無視して、ただ熱田は自分が言いたいことを言った。

 

「───俺は絶対にこの臨時生徒会に関わるつもりはない」

 

時間が停止した。

誰もが沈黙を選んだ。それはその光景を表示枠で見ていた武蔵住人や他の国の人も同様だ。

そこで、梅組皆が表示枠で見ている人たちの前でせーのとタイミングを合わせ

 

「ええーーーー!!」

 

驚いた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいシュウ君!」

 

代表として浅間が彼女の方に歩き寄って質問することで一端叫びを止める。

そうだ。落ち着け本田正純。ここで落ち着かなきゃ駄目だろうが。

 

「関わるつもりはないって……どうしてですか!?」

 

「どうしても何も……別に関わる気がないだけだぜ。それにだ。無能の副長が何もしなくても何も影響はないじゃねーか」

 

ケラケラと自分を落とすような台詞を笑いながら告げる。

その事に何を思えばいいのか解らずに、本当に思考を停止しかけるところだった。

だが、その笑いを許せない人物がいた。

 

「……ふざけているんですの!?」

 

ミトツダイラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……また何ですの……!?

 

火のような怒りに浸かりながら、ミトツダイラの心の中にあるのはそれだった。

だが、それは少し表現が違う。

自分はこの思いを何時も胸の内に秘めていた。

彼がまるで道化のように弱者を装い、それによりたくさんの人から誹謗中傷を受けている事。

それに関して、本人はまるで何とも思って無く、まるでそれが正しいと言わんばかりに笑う時、何時もこの考えは出てきた。

そんなわけがないというのは梅組のメンバーは当然知っているだろうけど、ミトツダイラは絶対に違うと断言できる。

いや、断言しないといけない。

そうしないといけない理由もあるし、根拠もあるのだ。

だからこそ、自分は今回の事に純粋ではないが歓喜したのだ。

自分は今回、一個人としてではなく騎士代表としてこの場に立っているのだ。そしてこの場にいる誰かと相対して───負ける為に。

武蔵の騎士達と話し合った結果、自分達だけではまず聖連に刃向う事などできないという単純な事実を理解し合った。

当たり前の結論である。

個としての力ならまだしも、集団としてならば絶対に勝てる筈がない。人員もそうだが、武器もこちらには満足にないのだ。

それでどうやって勝てと言うのかと騎士達全員が苦渋の顔を浮かべていた。

その表情から誰もがこのような状況を悔しんでいるというのがよく解った。

当たり前だろうとミトツダイラもそう思っている。騎士という名を背負った人間なら、この状況で悔しいと思わないとそれは騎士ではない。

民を守り、仲間を守り、そして主君を守る。

騎士として行う事が当たり前の三つを、どれ一つとして達成できないというのだからだ。これで、自分が本当にただの無能ならば、仕方ないと思えたかもしれない。

しかし、自分達には力があるのだ。自惚れでも、過信ではない。人を傷つける事も、守る事も出来る力があるという事を実感しているのである。

それなのに自分達はこの状況で何も出来ない。

不甲斐ないの言葉以外は思いつかないのである。

だけど、そこで問題が発生する。

騎士というのは人々を守る存在である。だから、今、ここで動こうとしている人々は騎士達の力も頼りにしているのではないのかと。

本来なら誇らしいと思う評価だが、この状況では最悪としか言いようがなかった。

自分達を頼ってくれるのは嬉しい。だけど、自分達では民を守りきることが出来ないのだ。信頼を仇にして返す事しかできないという最悪の連鎖。

だからこその今回の臨時生徒会で騎士代表として自分がわざと負けて自分達は上の立場から、民と同じ立場に降りる。

そうすることしか、武蔵を守れないと歯噛みしながら。

そして自分と相対するというならば、特務クラスの可能性があるのも確かだが、普通ならば勝てる可能性が高い副長が出てくると思っていたのだ。

そしてそこで自分が負ければ───今までの評価を全てとは言わなくとも、少しは覆すことが出来ると思っていたのだ。

それなのに

 

「どうして……!」

 

どうして

 

「貴方の強さを示すことが出来るのに……」

 

それなのに

 

「何故、貴方はそうやって何時もちゃんと相対してくれませんの……?」

 

悔しいですわ……と思う。

自分では彼の汚名を払拭することも出来ないと言われているみたいで。

だけど、それを知られるのが嫌で、ミトツダイラはきっと挑むかのような視線で、ただ彼を見た。

そんな彼はその顔を珍しく困ったという感じの表情を出し、何かを言うべきか、それとも何も言うまいかを悩み、口を無意識に動かそうとして、何かを言おうとしたが

 

「……」

 

沈黙した。

何も語る事はないと言わんばかりに。

 

……上等ですわ。

 

そういうつもりならこちらが手加減する理由などない。

今の自分は感情や理由はどうあれ、彼らの敵に回っているのである。なら、本気で戦っても別に問題ないだろう。

言う気がないなら、無理矢理言わせたようと思い、一歩前に踏み出した。

そのタイミングに

 

「あーー。ちょっと待ったネイト。ステイステイ」

 

馬鹿が割り込んできた。

 

「……何ですの? 今、私はそこのリアルヤンキーを思いっきり痛めつけて、あひんあひん言わせて、その後に言いたいことを言わせて屈服させる気なんですが……」

 

「……それ。俺がマゾだったらこの時点でかなり興奮してんじゃね?」

 

そうだったらどうしましょう?

痛めつけても喜ばれたら、逆に言わせたいことを言わせられないかもしれない。

困りましたわ。私、テクニックで拷問するのは苦手なんですけど……。

 

「……やべぇ……! さっきから際限なく嫌な予感が膨れ上がってくるぜ……! この不安を払拭するには智。お前の胸を揉ませ───」

 

もう一度吹っ飛んでいく副長を尻目にとりあえず一応、総長のいう事を聞こうかと思って返事をする。

 

「で、何ですの? ここで下らない事を言ったら流石の総長でも許しませんのよ?」

 

「Jud.Jud.ネイトには悪いんだけど……シュウについては許してやってくれね? あいつがああなのは俺のせいでもあるんだし」

 

「……はい?」

 

初耳にも程がある発言であった。

正直、そんな事があったという事を考えてなかったので、思考と体が停止してしまった。それは周りも同じらしく、え、マジで? といった感じで硬直しているメンバーであった。

どうでもいいですけど、付き合い良すぎじゃありませんの? と一部の思考がこの状況をツッコんでいる。

そうしていると、当の本人たちが会話をし出した。

 

「おい馬鹿。何、気色悪い事言ってんだ。ああん? 誰がてめぇのせいでこんな愉快な状況になるって言うんだ」

 

「おいおい親友。幾ら照れ屋さんだからって、そこまでツンデレになったら俺もときめいてちまうぜ。もーーーう! ツンツンしちゃって! このテ・レ・ヤ・サ・ン!!」

 

「ぶっ殺す」

 

落ち着け落ち着けと周りで彼を抑えにかかるのを見る。

気持ちは解るが今はこれを聞かないと話にならないので、結果放置する。

総長に先を促らせる。ナイトとかが録音を開始しているけど、そこは気にしないでおこう。自分には関係がない事だし。

 

「総長。続きを」

 

「───その前にギャグ、いらねえか?」

 

拳を握る。

 

「───総長。続きを」

 

「ひ、一つ仕草を変えただけで、言葉の雰囲気が変わりやがったぞ……!」

 

いいからいいからと半目で睨みながら先を喋らせる。

ああと前置きを置いて彼は先を続けた。

 

「ネイトがどうしてそこまで拘ってんのか知らねぇけどよ……この話し合いの結果で、あいつは動いてくれると思うぜ。」

 

「……それは……どうして……?」

 

「だって、それが俺とあいつが交わした約束なんだ」

 

約束。

その言葉では自分が思い出す思い出もある。それこそ、総長と交わした約束である。

だけど、それとは別に彼とも総長は約束を交わしたという事だろうか。

そう思い、彼の方を見る。

彼の性格だと、見当違いとかならば直ぐに否定するだろう。

だけど、彼の反応は沈黙して、だけど、何となくふんっといった感じに顔を背けている。

その態度を可愛いとか言って喜美が頭を撫でようとして彼がそれから嫌そうに逃げているが───否定はしていない。

つまり、この話し合いの結果で───彼は力を示してくれるという事だろうか。

 

「……」

 

何も言えなくなった。

そんな風に言われてしまったら、こちらから何も言えなくなるし、そして立場上、どうすればいいのか解らなくなってしまう。

本当ならばその結果を起こしてはいけない立場にいるのに、その結果を望んでしまう感情が生まれてしまった。

こんな調子では、自分に任せてくれた騎士の方たちに申し訳ないという感情が生まれてしまう。

そうして、困っている自分に今度こそ彼が喋りかけてくれた。

 

「……ネイト」

 

「……な、何ですの?」

 

彼との二人だけの会話というのなら、多分梅組の中で一番経験が少ないと思う。

十年前のあれ以降、自分は彼に喋りかけ辛くなってしまったし、彼もそんな自分を気遣ってか、自分と二人っきりになるとか、語り掛けるという事を避けるようにしていた。

集団でいる時ならば冗談を言い合えるのだが、今はこんな風に固くなってでしか話し合えない。

その事に自己嫌悪しながら、彼の台詞を聞く。

 

「……まぁ、俺のせいでお前もそうだが特務メンバーにも色々と悪口が言ってんのかもしれねぇが……まぁ、そこの馬鹿が言ったように───その馬鹿が剣(オレ)を振るうって決めたなら、俺は動くさ」

 

「───あ」

 

本音を言わせてほしい───嬉しかった。

今まで不動を自分に課していた剣神が、自分の持ち主である不可能の王が決めたのならば、振るわれようと言ってくれたのだ。

その言葉に自分はおろか、特務クラスのメンバーも息を吐いたり、帽子を少し下げたり、苦笑したりと反応した。

勿論、他のメンバーも似たような反応をしていたし、特に智は喜んで笑っていた。

つまりは、誰もが彼が周りから言われている批判に対して思う事があったという事だ。

良かったと本当に思った。

自分の立場からそんな事を言えるはずがないのに本気でそう思った。

だからこそ、これから自分はこの相対を本気で挑まなければいけないと思った。

方針は変わらない。

自分はやっぱり、騎士として動くから、目的は変わらない。でも、さっきまでのもやもやとしていた感情は消え失せてくれたのでまだ良しと出来る。

とは言っても、次はホライゾンに対しての罪悪感が生まれてしまうのだが、それは仕方がない事だろう。

だけど、一つの問題が消えたと相対になっていない相対で、そう判断できた。

 

「……話し合いは終わった? それなら熱田の宣言を受け入れる事にするけど?」

 

「……Jud.私からは特に何もありません」

 

答えは正純が返した。

もっとも、いいな? とアイコンタクトでこちらを見てからの返事でしたけど。

その事にもう異存はなかったので、マサと一緒にJud.と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……最初から一悶着があったが、収まったか……。

 

正直、びっくりしたが今回はどちらかと言うと梅組メンバーの問題だったから自分はそんなに関われなかったなと思う。

付き合いの長さが違うので仕方がないと思うが、それでもやや寂しいと思うのが、自分勝手だろうか。

はぁと一息を吐いて頭の中を切り替える。

どうあれ、普通に考えれば副長が今回の件に参加しないというのはこっちにプラスに働くのは間違いない。

自分は政治的な交渉で対処するため関係ないと言えば関係なかったが、少なくとも直政との相対が熱田とは別の奴と一戦をすることになっただろう。

ミトツダイラも同じだ。

とは言っても、直政はこっちにはいるが、機関部の方針は抗える力があるか示してほしいといったところなので、どっちかと言うとこっちではなくあちら側だし。

ミトツダイラは今の話を察すると本気で相対はするみたいだが、やはり心情はあっちの方に寄りかかっている。

 

……って心情だけで言うなら、誰だってホライゾンを助けたいと思うよな。

 

馬鹿だなぁと内心で苦笑しながら、これからの展開を考える。

既に直政が前に出て、交渉を開始しようとしている。

いきなり武神が出てきたのは本気でびっくりしたが、確かにここで武神を出すのは、試しとしては上出来だろうと思う。

戦闘系の話は全く知らないが、それでも武神の基本能力ぐらいは知っている。

一機一機がかなりの力を持つ戦闘機械。あれを倒すには英雄クラスの実力がいるらしい。

アリアダスト教導院で言うならばミトツダイラと───話から察すると熱田くらいだろう。

だからこそ、これにミトツダイラと熱田を除く誰かが勝てるのなら、それは十分に力を示す結果となるだろう。

どうなるかなんて知らない。戦闘は自分は専門外なのだ。

だから、疑問はこうだ。

どうなるかではなく───どうなる?

この相対が

この臨時生徒会が

ホライゾンが

そして───これからが。

 

「……どうなっていくんだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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