不可能男との約束   作:悪役

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刃を振りかざし

ひたすら前に走る

配点(振り返らず)


嵐の予兆

 

熱田・シュウは下で繰り広げられている戦争を見ていた。

 

 

 

「ヒューー、やっているねぇ」

 

 

六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)によって展開された武神隊に異属部隊、更には自動人形などは見ていて実に心躍る。

敵が素敵になれば成程、俺もテンションが上がるし、馬鹿共もテンションが上がる。

 

 

・未熟者:『うわあああああああああああ!! 何だこれはあああああああああ!!! くっそ、六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)め…………この僕に知識欲で攻撃してくるとは! 誰が武蔵で一番重大か分かっているね…………!?』

 

・●画 :『けっ』

 

・煙草女:『はン』

 

・眼鏡 :『君、馬鹿』

 

・未熟者:『意味不明な所からも混信して来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! くそ! 人気者の重責か……!』

 

 

身の程を知らないのも問題なので、後でぶった斬ろう。

周りの奴らに出遅れると俺が斬る分が無くなる可能性があるから早めに。

まぁ、ともかく、そんな愉快な戦争だというのに

 

 

 

「俺を後詰めになんかしやがってよーーーーー!!」

 

 

ぶんぶん、と八俣ノ鉞を振り回して叫ぶ。

鉞が『ヒャッホーーー』と楽し気に呟いているから、つまりペットの世話をしているな、と思う。

すると

 

 

「後詰めも立派な役割なんですから………余り我儘言ってはいけませんよ、シュウさん」

 

 

落ち着いた声で、こちらに落ち着くように促すのは留美だ。

熱田神社の巫女服に腰には刀を担った姿で立っているが、傍に立っているのは留美だけでは無い。

熱田神社のメンバーで出れる奴は全員ここに集まっている。

物好き且つ暇人な馬鹿共め、と思いつつ、鉞を振り回しながら

 

 

「だって見ろよ。ほら、あの武神連中。あいつら全員ぶった斬れたらぜってぇに爽快だと思わねぇか? ついでに奴らの貯蓄も切り崩せて最っ高な気分だ!」

 

「それはそうかもしれませんけど」

 

そうかもしれないのか…………、と留美の返事にツッコむ馬鹿共を天然にスルーしながら留美は頬に手を当てて

 

 

 

 

「少し前に、唐突に倒れたばっかりなんですから。今日はこれでいいんです……………と申したいですが、副長としての職務があるので私も今はとやかく言いません。ですから、どうかこの脇差も持って行ってください」

 

 

あ? と思いながら、渡された脇差を受け取る。

見た感じ、無名だがかなり手入れされて、それでいて中々綺麗な刀身だ。

更には流体強化も完璧だ。

これならば、今、そこで派手にやっている三銃士の砲弾も俺が使えば切れるだろうし、神格武装を相手にしても負ける事は無いだろう。

 

 

 

「うちにこんな脇差あったっけ?」

 

「Jud.──────私が心を込めて、手入れしていた物です。貴方の力に、そして守りになって頂ければと願って」

 

 

思わず汗を掻いて、渡して来た本人を見るが、本人はニコニコと綺麗な笑顔でこちらを見るだけ。

マジだ………とは思い、そして周りからジト目で見られるが、いや、これはマジで俺にどうしろって言うんだ。

一応、誠意でちゃんと謝ったんだぜ? 惚れている奴がいるって。それで縁切りされるか、最悪刺される事すら覚悟していたんだが、数日経ったら好きなままでいていいですか? なんてちょっとどう答えればいいのか全く分かんねえ切り替えし方をされて、マジでどう返せばいいのか分からなくて、それでズルズル引きずってこれである。

 

 

 

 

いや、俺、マジでどう答えれば良かったんだ………

 

 

 

駄目だ、とやはり、断ち切るべきだったのだろうか。

お前を見る事なんて出来ない、とはっきり伝えるべきだったのだろうか。

確かにそれは正しいようにも思える。

留美のこれからを考えれば、はっきりと否定するべきだったのかもしれない。

 

 

 

 

ただ────────今、この場において触れ合える家族は2人しかいないから。

 

 

 

幼少期からずっと一緒に育ってきたのはもうハクと留美しかいなくて。

つい甘えた結果になっちまったかなぁ、と思ってしまう事はある。

だから、正直、留美からの毎回の攻撃も耐えるしか無くなってしまったのだが………もしかしてこれも計算だったりするのだろうか? いや、まさか………そんな…………

 

 

 

「お?」

 

 

そう思っていたら、表示枠でネシンバラから至急来て欲しい、というメッセージが来た。

荷物を守る名義で関東の連中から手を借りていたが、それでも限界が来たらしい。

やっぱり、最後に全てを掻っ攫うは最強の役目だな! と思い、立ち上がる。

すると総員、即座に表情は変えないまま、しかし獲物をしっかりと握ったり、抜いたりするんだから、しっかり育ったなぁって感慨深くなる。

感慨深いが、だけど、俺はそれはあくまで日常の延長として捉えるから、次の言葉も酷く軽く放った。

 

 

 

 

「んじゃひと暴れしようぜ」

 

 

 

※ ※ ※

 

 

アンリは戦闘しながら、聴覚素子に届く音が聞こえた。

近場の戦闘音ではない。

自動人形の分割思考で、より注意深く聞けるよう、割り振った、武蔵の方から聞こえる様にしていたのだ。

今、武蔵は総力どころかそれ以上を出している。

自国の荷物を守るを言い分に、里見・義康に里見・義頼、北条・氏直に真田十勇士をかり出しているのだ。

無論、自国からも副長補佐に第一特務なども出しているが、このような乱戦の中でという意味ならば、今までの情報を吟味する限り、他の特務を除いてほぼ出している。

姫様の戦略が成功している証拠だ。

証拠だが─────未だこのような戦乱にこそ生きる副長を出していない。

こちらも未だ温存はしているが、だからと言って油断はしない。

何故なら姫様が言っていたのだ。

 

 

 

 

「ああいう手合いはまぁ、馬鹿に見えるし実際馬鹿なんだろうけどよ────あそこまで大っぴらに俺が最強だなんて言うのは馬鹿である以上に覚悟を決めてんだろうな。負けた瞬間に自分は失墜するって」

 

 

 

そこまでの馬鹿は怖いもんだ、と笑って言っていた姫様の言は自動人形の認識では中々難しいが、しかし理屈としては理解する。

人間は強気と該当する発言が達成されなかった場合、統計的には周りからの批難もそうだが、己の言を達成しなかった自分を責める傾向にあるのだ。

己の務めを果たせなかったから失敗してしまった、という事なのだろう。それならば、自動人形でも理解出来る。

故に、姫様の言葉に重きを置いて未だ出ない副長に注意していたのだが、ついにあちらは切り札を切りに来たのかと思い、自動人形の知覚でスローになった視界で武蔵を見て見ると

 

 

 

 

 

朱の武神に握られている武蔵副長がいた。

 

 

 

 

なんだアレは…………!?

 

いや、朱の武神が武蔵の第六特務が使用する地摺朱雀である事は理解している。

だが、味方であるはずの武蔵副長を何故握っているの。

武蔵は何やら共食い精神が激しく、正しく戦国に相応しい下克上が常に繰り広げられているというが、正しくそれの事なのだろうか?

見れば、何やら騒いでいるみたいだから、試しに聴覚素子を強化して聞いてみると

 

 

 

「こ、この野郎! 騙しやがったなネシンバラ!? 最強に相応しい最高の演出で登場させようだなんて言いやがって!! 人を砲弾にしようたぁ人道にもとると思わねえのか!?」

 

「何を言うか熱田君! こう見えても僕は真剣だ!! 君が過激に且つ斬新に登場してその上で速攻で戦場に出れるんだ! これ程、素敵な演出が他にあるかい!? だから僕の知的好奇心の為に空を羽ばたくがいい……………!!」

 

「や、野郎! 素直に言いやがって!! 見てろよネシンバラ! 絶対にテメェ、畳の上で死なせねえからな! ぜってーーだぞ!!」

 

「そもそも最強の単語にホイホイと釣られている時点でどっちもどっちさね」

 

 

 

「何を言っている……………!?」

 

自動人形の計算能力を持ってしても何を行っているのかさっぱりだ。

私が知っている極東語を使っているのに、何故か別世界の言語並みに理解出来なくなっている。

 

 

 

これが武蔵か……………!!?

 

 

さっきから、この単語をリピートしている事を"畏怖"と名付ける事にした。

あの従士といい副長といい、何故そこまで色々と突き抜けるのだ。

しかし、その後に地摺朱雀が取り出した物に関しては、畏怖している余裕は無かった。

 

 

 

 

「あれは…………パチンコか?」

 

 

賭け事に使用されるパチンコ台ではなく、子供達が遊んで、作る道具に小さな何かを挟んで飛ばす為の道具に似ている。

無論、武神用に大きく、そして木材ではなく明らかな鉄材で作られているが、見る限りはそういう事なのだろう、と思う。

 

 

 

「おい…………まさか…………」

 

 

 

あれは確かにお遊びに使うような物になってはいたが、実際は、挟んだものを飛ばす為の遠距離用の武具でも昔はあったのだ。

構造上、大きな物は飛べないが、武神用のパチンコならば大きな物は無理でも小さな物くらいなら飛ばせるだろう。

そして先程の戯言にしか思えない会話。

その中には、そう、武蔵副長の言葉に人を砲弾にするとは、という叫び声があったのを10回ほど記録を確認する。

確かに今は空は空いている。

砲弾は武蔵にはともかく、IZUMOに考慮してのものになっているから、イザックを除けばそう飛ばす事は出来ない。

だが、だからと言って武神クラスの力でパチンコで人体を飛ばせば、脳への衝撃もそうだが、そもそも投げた衝撃で肉体が砕ける、と計算出来るが

 

 

 

「それでも成すのか!!」

 

 

自動人形の視覚でなら、暴れ回っている副長の表情から、それを見て、拳を握っている武蔵書記に武神の肩に乗って飄々とした表情を浮かべている第六特務まで見える。

そして、自動人形の観測は完璧だ。

 

 

 

 

故に見て取れた─────三者三様の形ではあるが、その表情には硬さも無ければ、虚偽の反応も無い事を

 

 

 

ついでに、三人の傍に現れた表示枠を見て、作戦の指示かと思って、見てみるが

 

 

・〇べ屋:『ちなみにこれ、空を飛ぶお三方からしたらどうなの?』

 

・ウキー:『馬鹿の所業だな』

 

・●画 :『馬鹿の所業ね』

 

・金マル:『やる方も考える方も馬鹿だねえ』

 

・剣神 :『テ、テメェら! 他人事且つ種族的な有利で貶めていやがんな!?』

 

・貧従士:『これ、誰が正義で誰が悪ですかねえ』

 

・ホラ子:『勿論─────狼狽えている方が小物で泰然自若なこのホライゾンが大物です。では、トーリ様、ここ。跪いて。そう、後は少し頭を下げて、腰を上げて。そう、その位置が丁度良く股間を蹴れる角度!』

 

・俺  :『あひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!! ホライゾンに次々と性癖開発されちゃうぅぅぅぅぅぅぅ! あ、ダメダメダメ! 流石に悲嘆の怠惰を受け入れる器は…………!』

 

 

 

何て難読な暗号だ…………!

 

 

まるで何を言っているのかが分からん。

共通記憶でアルマンとイザックにも渡してみたが、結果はアルマンからは『サボっているのか?』でイザックからは『理解不能』だ。

アルマンは後で叩きのめす。

それはそれとして、第六特務の武神が遂に武蔵副長をパチンコに番え、構える。

数秒の間、どこに落とせば効果的なのかを探るような間が空き─────そして放たれた。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

熱田は上下左右が回る視界の中、あいつら…………! と思いながら、空中で胡坐をかいていた。

人間をこんな簡単に砲弾にして使うとは。

俺であるからこのとんでもないGの中でも胡坐をかいて、冷静でいられるが、だからと言ってそれを当てにして砲弾にする事を許していいだろうか。いや許せねえ。

英国で彼女が出来てハッピーになって余計にうざくなったが、まさかこうまで頭をハッピーにしてしまうとは。

後で絶対にぶった斬ろう。

うむうむ、と胡坐をかきながら頷き─────己を覆う影を見る。

 

 

 

「地殻の塊か」

 

 

直撃した。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

あ? と戦争をしている両国の感想が一つになった。

まるで大地を裂くような巨剣のような岩塊の正体は六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)

3銃士の一人のアルマンの重力制御で作られた即席の棍棒。

地殻から太さにして3m、長さで25m程の、正しく"大地"を武器とした物だ。

流体強化されているわけではないが、振り落とせば、衝撃で自らを砕くような武器だが、それをまともに受ければ武神どころか地竜ですら砕けるだろう。

人間なんて言わずもがな。

そんな得物をただ一人の、浮遊する少年に向けた結果

 

 

 

 

─────横に真っ二つに断ち切られ、上下の上に当たる箇所が吹き飛ぶ光景であった。

 

 

 

「…………おいおい」

 

振りかざしたアルマンが自動人形の計算速度で見た光景は中々愉快な現実だった。

少年がやった事は実に単純だ。

人間からしたら大地が飛来したのと全く変わらない質量に対して、ただ背中にある大剣を抜いて、振りぬいただけだ。

それで地殻は切り裂かれた。

正しく単純な事実で─────どうしようもない程の切れ味。

自動人形に感情は無いが─────相手の性能を見て、理解する事は出来る。

 

 

 

あの剣はやばいな…………

 

 

己の性能で出来る攻撃手段を持って、あの刃を封じられるかを考えたが、自動人形の知覚で3秒程、計算した結果、己の機能ではあの刃に打ち勝つのは不可能というのが出て、是非も無いか、と帽子を押さえる。

まぁ、斬撃がやばい、のは元々百も承知の事実だったからな、と考えながら。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

何かあった大地を切り裂きながら、とりあえずその大地に着地する。

着地地点として丁度良く─────即座に右手の振り切った大剣とは別に、左手で左腰に差していた脇差を抜くのに適していた。

逆手抜刀による振り抜く、というより振り上げるような抜刀によって正面から再び飛来した丸い物が、刃に当たる。

大きさとしては己の体よりも大きいから、3銃士のイザックの砲弾か、とどうでも良い感想を抱きながら、左右に分けて飛んでいく砲弾を見届ける。

同じ3銃士のアルマンによる巨大地殻による攻撃によってその巨大さと作る時に伴う破砕音でイザックの射撃音を隠蔽する。

同じ型式だからこそ出来る共通記憶による最適解による協力攻撃。

 

 

 

 

─────だからこそ、即座に右の大剣を手首の捻りで刺突の構えに、着地姿勢から足を開き、前に踏み出す姿勢を作る。

 

 

本来ならば砲弾によって遮られていたであろう前方の視界。

アルマンという攻撃には対処しても、次のイザックの攻撃には対処に多少の時間はかかっていただろう、と考えていたのだろう。

事実、脇差が無ければ、負けは絶対は無くても多少の時間は稼いでいただろう。

否、そうでなくても俺の思考は決して油断を作る事は無いだろう。

 

 

 

 

三銃士(・・・)

 

 

そう呼ばれている自動人形を相手に目の前の3人目を忘れる方が馬鹿げている。

肩の無い朱色の武神を背に付随させ、武神のサイズの大剣を4つ、纏めて己に振り下ろそうとしている女性型の自動人形の顔は、こちらの連携の打破を見ながら、是非もなし、という顔を形作っている。

感情の無い自動人形ですらそんな顔を作っている事に、喜ぶべきか、敵として面倒だ、と思う方が正しいのかを考え──────唇が三日月に歪む。

 

 

 

そんなの関係ない(・・・・・・・・)

 

 

相手が大国、六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)切っての三銃士だろうが、知った事ではない。

 

 

 

 

 

 

 

俺に勝っていいのはあ(・・・・・・・・・・)の馬鹿だけだ(・・・・・・)

 

 

 

 

誰からも狂念と呼ばれたそれを、しかし恥じず、消さないまま─────瞳を一瞬、赤く輝かせながら(・・・・・・・・)剣は閃いた。

 

 

 

 

 

 

武神と剣神の攻撃は一撃のみだった。

片方は4つの腕を持って、武神刀を持って人どころか、アルマンが作り上げた地殻すら断ち割ろうとする一撃。

縦から一つ、左右から一つずつ、最後の一つが真正面からの一撃。

それに対して、熱田が選んだのは正面衝突。

左右も縦も考えず、真正面に構えられた刃に自ら突撃。

サイズ、強度を考えれば、何を取っても自殺としか考えれない方法を、熱田は一切頓着しないまま─────つい、さっき会得した八艘跳びと共に疾走した。

己の軸に、全ての速度をつぎ込みながら、敵の三銃士、アンリの顔が驚きの表情を浮かべるのを見る。

まぁ、誰だって構えていた刃が唐突にガラス細工のように砕け散り、敵である俺が、自動人形の視覚を持っても、高速で目の前で現れたら驚くだろう。

だが、即座に敢えて武神との接続を一旦切り、己の重力制御を持って、刃を複数取り出し、自動人形ならではの差し違える覚悟を取るのは見事としか言いようがない。

次辺りは同じ事は通じねえな、と思いながらも、とりあえず勝鬨を上げる。

 

 

 

 

「いいか? テメェが負けたのはテメェが弱かったわけじゃねえ」

 

 

 

そう。テメェは致命的なミスをしたのだ。

それは

 

 

 

 

「テメェは巫女と巨乳に対応していなかったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

アンリは剣神の斬撃によって下に吹き飛ばされる自分を知覚し、重量制御で態勢と速度を整えながら、己の失敗を悟った。

 

 

 

「不覚…………!!」

 

 

アンリは空から落ちながら、己の背を見る。

そこには今は己の二律空間に折りたたまれようとする武神がある。

だが、その武神は胸から肩にかけて一つの跡を作っていた。

切り傷だ。

武蔵副長によって斬られた破損だ。

あの時、武蔵副長は相打ち覚悟で己に挑む事によって、私を絶対排除するよりも、確実に次に挑む為の万全な勝利を求めた。

その上で私を排除するために─────私ではなく、力である武神を狙った。

無論、あの唐突な高速移動の中、方向転換など無いと考えていたし、足場も無いと思っていた…………が、あそこには足場があったのだ。

 

 

 

 

砕かれ、ガラス細工のように散った我が剣が。

 

 

 

結果がこれだ。

簡易チェックだけで、既に左半身が上手く動かないのが判明している。

伝達経が斬られている。

これでは戦力としては期待する事は不可能だ。

 

 

 

 

「やってくれる…………!」

 

 

 

姫様の近衛としての職分を果たせない事は自動人形において存在意義の破壊と見做せる。

武蔵において、世界最強を誇る副長。

熱田・シュウ。

成程、確かにこの少年は間違いなく

 

 

 

 

姫様の敵になり得る…………!!

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

いい腕と心意気をしていたなぁ、アンリとかいう自動人形、と思いつつ、コキコキ首を鳴らしつつ、本当の大地に降り立つ。

見れば、敵味方と共に、余裕がある連中は降り立った俺を見て、注視しているが、よく慣れた目線なので苦笑一つ漏らすだけだ。

さて、とりあえず派手に色々はしてみたが…………中々向こうからしたらいいコストパフォーマンスの攻撃だぜ、と思った。

何せあれだけ派手にやって、失ったのは恐らく予定外であったアンリの武神の負傷だ。

それ以外は向こうは何一つ傷付いていないのだから、やってくれる。

アンリとて己自身は無傷なのだ。

武神がない故、派手な攻撃手段は失ったが、特務級の自動人形である以上、武神が失った程度で弱くなるような性能はしていないだろう。

 

 

 

それに何より─────未だ向こうは副長を出していないのだ。

 

 

「はん…………」

 

 

最強である俺の活躍を前に未だ動かさないとは全く以ていい度胸だ。ぶった斬ってやる。

こちらの出発時間もそうあるわけではないが、かと言って舐められっ放しな癪に障るし、後、後の評価に繋がりかねん。

己の足と最強具合ならば十分に間に合うのを考えると前進するか、と時たま飛んでくる砲弾をうるっせぇなぁ、と刃で切り裂き

 

 

 

「─────シュウさん危ないっ」

 

 

ん? と聞き慣れた声に反応して振り返るとそこには超高速スピードで走って来ていた大型機馬に乗った留美が背後にいた。

直撃した。

 

 

 

 

 

敵味方関係なく、大型機馬に轢かれて、空中でトリプルアクセルを超えた回転数を飛ぶ武蔵副長を見た。

ぐはぁっ、と苦痛の叫びを上げ、地面に激突する少年を全員が半目で見届ける中、機馬を止めて、とことこ駆け寄るポニーテールの美少女を見て、やはり敵味方関係なく舌打ちした。

 

 

「くそ…………選ばれるのはやっぱり大味な人間よりも突出した馬鹿なのか……………!!」

 

「真面目に生きているこそが損の証拠だと思われる時代だ……!!」

 

「もしかして最近のトレンドは馬鹿か全裸になる事がモテル道なのかなぁ…………」

 

うんうん、と頷きながら、武器を振り回す中、留美は気にせず、倒れた熱田の傍に駆け寄り

 

 

「シュウさん、シュウさん。大丈夫ですよね? うっかり途中でブレーキを踏んだんですけど、よく考えれば、シュウさんこの程度ならば無問題でしたね」

 

「る、留美………! お、お前という奴は俺を一体なんだと思ってんだ!!」

 

「? 機馬如きでシュウさんが傷を負う事は無いです」

 

「おぉ…………この完璧な信頼と確かな事実によるアバウトな生命管理………!」

 

即座に立ち上がる熱田だが、もう一人の幼馴染兼巫女兼家族のような人間に言われたら、膝を着くしかない。

 

「というか、それ。親父の機馬じゃねえか。結構寝ていた奴だと思っていたが、案外、問題ねえんだな」

 

「ええ。何時か使う時があるかと思って、ちゃんと私、整備していたので。あ、勿論、免許は持っているんで大丈夫ですよ? ─────でも久しぶりだったので、シュウさん以外の人も轢いちゃって」

 

「く、くそ………! 何かキャラ的に俺がやらなきゃいかない事を掠め取られ捲りなんだが! というかお前、巫女服でよく乗れたな!!」

 

「ええ。ちゃんとこういう時用にいざという時はスカートにスリットが─────」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! この戦場にいる奴らぁ!! 留美のお色気足を見た奴出て来い!! 全員ぶった斬るぞぅ!!」

 

「─────入りますが術式で風で捲れないようにしてるんで大丈夫ですよ?」

 

 

精神的ではなくリアルで膝を着く。

 

 

駄目だ…………ある意味、智以上に勝てねえ…………実はうちのフリーダム代表なんだから…………。

 

 

・賢姉様:『浅間浅間! あんた唯一の持ち味のズドンコミュニケーションを超えるパーフェクト夫婦漫才を向こうは繰り広げているわよ!? どうする!? オパイを使用する!?』

 

・あさま:『だ、誰がズドンコミュニケーションが持ち味ですか!? べ、別に留美さんはほら、シュウ君の身の回りの世話をしている人なんで、あれくらい仲が良いのは当たり前で良い事なんですっ』

 

・〇べ屋:『まぁた往生際の悪い…………そんなんじゃアサマチ負けるよぅ? ─────今、倍率では一応アサマチが勝っているんだからしっかりしてくれないと』

 

・あさま:『か、賭けていますね!? 全員ですか!!? ─────あ! 鈴さんとメアリ以外賭けている! しかも最近入った誾さんまで!!』

 

・立花嫁:『申し訳ありません。私達も生活をしなくてはいけなく』

 

・あさま:『せ、世知辛い理由で売られてます…………!!』

 

とりあえず、智のコメントだけは残して外道達の表示枠はぶっ壊しておくが、その間に複数の影がこちらに突撃して来るのを見た。

 

 

 

「我等が太陽と月に近付けさせんぞ…………!!」

 

 

歩兵………否、異族の歩兵だ。

小細工は通じないと思ったのだろう。

彼らは武器ではなく、己の身体を持って、力と速度でぶつけてくる姿勢を取っている。

しかも、全員が位置にタイミング、攻撃箇所をずらして突撃して来るのだから練度は高い。

だけど、熱田はそれを見て、よっこらせ、と立ち上がり─────それを無視して前進し、もう一人立ち上がった留美も立ち上がり、突撃して来る相手を見ながら、腰の刀に手をかける。

 

 

 

 

「神納・留美。この刀と術式、"荒疾風(すさはやて)"を持ってお相手仕ります」

 

 

言葉と共に表示枠が─────少女の刀の柄尻の前に現れる。

そして、抜刀の態勢になり、一秒、しっかりと己を刃に組み替え─────解き放った。

 

 

 

「え…………」

 

 

熱田は敵が驚きの声と共に飛びかかろうとした全員が血と共に崩れ落ちるのを見届ける事になった。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

浅間は敵の砲弾被害の処理をしながら、今の光景を表示枠で見届けた。

 

 

「今のは…………」

 

・立花夫:『抜刀姿勢と抜刀は確かに素晴らしかったですが…………一太刀で、距離と数が無効になっていましたね』

 

・●画 :『どーーいう仕掛け?』

 

ぬぅ………担当だから答えたい所だが、流石に今、弓を外すわけに………あ、また砲弾が

 

 

「会いましたぁ!」

 

 

会心の一射を放ちつつ、今の間に、速攻で打つ。

 

 

・あさま:『えっと、速攻で説明しますけど、多分、あれは二代のと同じ加速術です。ただ方式が違います』

 

・蜻蛉切:『どう違うので御座るか?』

 

・あさま:『はい。分かり易く言えば、二代のは身体を中心に己の進行方向に向かって進めば進むほど澄んでいく、ある種極東の累積加速術式においてのポピュラーな形式が翔翼です。ですが、留美さんのは刀の柄尻の前で出ていました。恐らくですが、留美さんのは言うなれば累積加速抜刀術式という所ですかね。刃を抜刀し、その過程で加速と不純物を禊ぎ、己の速度を上げながら、更に居合の純度を奉納する事で距離と更には数すら見合った物を具現化しています』

 

・立花嫁:『つまり、己の技と形が良ければいい程、効果は威力と数は上がると』

 

・あさま:『はい。多分、後の残心も含めての奉納になると思いますが、その分、二代の翔翼と違い、切らない限り、スサノオが許す所まで積もると思います。ただ、その分、立ち上がりは翔翼よりは遅いかもしれませんが』

 

成程、と戦闘系の皆さんが納得したから、即座に自分も直ぐに仕事に戻ろうとして

 

 

・賢姉様:『浅間』

 

と、こちらに限定したメッセージが届き

 

 

 

・賢姉様:『──────悔しい?』

 

 

思わず、少しだけ止まる。

その目に映るのは表示枠に映る少年と少女。

少年─────シュウ君は留美さんのその一斬に対して、まるで相変わらずだなぁ、という風に見届け、留美さんは刀を収め、残心に入っている。

それが終わった後を狙って、シュウ君は八俣の鉞で肩を数度叩きながら

 

 

 

『──────』

 

 

何かを留美さんに呟いた。

表示枠が上手い事、言葉を拾えなかっただけなのだろうが、しかし聞いた少女が少しだけ顔を赤らめ、微笑んだのを見ると聞こえなくて正解だったかもしれない。

 

 

 

「…………まったく」

 

 

喜美は何時も、余計な事ばかりを言うのだから。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

さぁて、と熱田は刃と最前線を背負いながら、前を見る。

 

 

「留美。お前は下がれ。どうせ馬鹿共も勝手に後ろで騒いでいるんだろ。そっち行っとけ」

 

「嫌です」

 

ぬぅ、と敢えて振り返らず、留美のすげない返答を聞くが、だからと言って受け入れるわけにもいかねえ。

 

 

「副長命令。こっから先は足手纏い」

 

「生きて帰る気概は持っています」

 

「残念─────お前は優しいからだぁめ」

 

振り返らずに先程斬られた奴らを指差す。

そこには異族特有の高速治療によって、未だ立ち上がるとまではいかないが、己で術式を使って更に治癒を速めている光景だった。

 

 

「剣を振るう事自体はともかくお前は人を傷つけるのは得意分野じゃねえよ」

 

「…………そんなのシュウさんもじゃありませんか」

 

「ばぁか。俺は副長で皆、大好きの剣神だぜ──────誰よりも先に疾走するのは俺の役目だぜ」

 

微笑で告げられる言葉に何も返事が帰って来ないので、それを機に前に一歩を踏み出す。

事実、ここで攻めねばなるまい。

補佐とはいえ技能としては副長クラスの二代が今や武神団にかかりっきり。

更には各国の総長やら何やらを放出して尚、敵は未だ総長や副長を温存しているのだ。

 

 

 

正しく、武蔵の弱味を露呈された状態だ。

 

 

事、相対戦や武蔵を利用した艦隊戦ならともかくそれら一切を利用しない戦闘においては武神複数とこちらの戦士団を足止めする銃士隊が居れば十分という結果が出てしまったのだから。

非武装の武蔵としてはある意味しゃあない結果なのかもしれないが、それだけで終わるのは癪だ。

まだまだ武神は出てきそうだが、それら全て突破して疾走するのは実に俺らしい。

何なら突破に拘らなくても、出てくる奴ら全員をぶった斬れば、多少は溜飲が下がるというもの。

全てぶった斬られて尚、余裕を持てるかどうかは見物だ。

そう思って、殺気立つ敵陣営に突撃しようとし

 

 

 

「…………ん?」

 

 

向こうの旗艦から何かが発射されるのを捉えた。

砲弾かと思ったが、何か違う。

 

 

 

何かやけに輝いていた。

 

 

一瞬、太陽かと見紛うような何か。

術式による砲弾かと思ったが、そういや向こうの総長の字は太陽王だったか、と思うと

 

 

 

…………まさか…………

 

 

そういや、ついさっきどこかの副長が似たような事をしていたなぁ、俺だ。最強だからな。

落下地点は丁度俺の眼前辺り。

何時の間にか奴さん達は引いて着弾地点を見守り、ながら

 

 

 

 

「─────Vive(栄光) La(あれ) XIV(太陽王)!!」

 

 

と首を垂れ、跪く光景と共に太陽が地上に降臨する。

即座に留美の正面に立つと目の前で光が破裂する。

 

 

 

「むっ」

 

 

半円状に広がる熱気と衝撃は予想内だが、意外にも熱量が凄まじい。

まず足場が持たないし、他はどうでもいいが留美の肌を焼くかもしれん。

引くのはぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんぜん好きじゃ無いが、足場が溶けてずり落ちるのも、留美を焼かせるのもいけねえな、と思って、しゃあ無しに、留美の手を取って背後に軽く30メートル程ジャンプする。

あっ、と留美が反応するが、敢えてそれは見ずに、50メートル程のクレーターとなった中心を見る事に専心する。

無論、この程度の規模位驚く事は無いのだが、下手人はどんな奴やら、と思っていると

 

 

 

 

 

 

「ふっ─────初めまして武蔵。空を行く極東の竜よ。朕こそがルイ・"太陽王(ロワ・ソレイユ)"・エクシヴだ」

 

 

 

金の長い髪と長身瘦躯を纏い、黄色の瞳で絞った筋肉を纏った──────全裸が現れた。

熱田は空を見上げて、思った。

 

 

 

 

 

成程…………一人全裸がいれば二人目がいるってわけか…………

 

 

 

 

 

 




ふぅ、また久しぶりですが、投稿です。


まぁ、今回語る事はとりあえず留美の術式の補足をしましょう。
中身を聞けば、それ翔翼より強くね? と思われそうですが、これは実は使用者の技能の完成度ありきの術式です。
要は居合における立ち振る舞いの完成度が無ければそもそも術式が成立しないのです。
翔翼は比較的武闘派ならば多くの者が使える術式ならば、荒疾風は完全な上級者向けの累積加速術式。

それ故の効能の高さであり、そして扱い辛さもある術式なのです。


同じ理由で三銃士達も、今回はかませ犬みたいな役目になってしまいましたが、これはある意味で今回だけの結果と思って貰いたいです。
熱田の性能的には、相性がいいのはイザックとアルマンです。
この二人相手ならば、勝ち目が高いのは事実ですが、アンリに関しては本当はむしろ愛称は悪くはないレベルを持っています。
それが今回、こうなったのは情報収集と同時に真正面から挑んだからです。

熱田は未だ対外的には自動人形と武神とは戦っていないですからね。
そうなった場合、どうなるかのデータを向こうは欲していたのです。
そして真正面から挑んだ理由はこれは原作でも述べられたように、今回は覇王の出陣です。
覇を唱える以上、後はともかく最初に少しでも後ろ向きな何かを残すわけにはいかないのです。
ただの意地かもしれませんが、されど意地です。


王者が始まりの一歩を自信もって踏み出さなければ、後の覇道にも曇りが出るというものなのです。


ちょっと長々とぺら回してしまいましたが、まぁ、そういう事なのです。


では、感想・評価などよろしくお願い致します。



白翼さんとかもう見てくれてないかなーーーー。

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