ぶった斬りのお時間ですよ?
配点(や、止めろよ!)
セグンドは余韻に浸っていた。
アルマダ海戦
長い間、
自分が開始した戦争はそう長くは続かなかった。
自分の言葉に篝火を付けて、参加してくれた戦友達が乗っていた戦艦の数は心許ない数にまで減らされ、残っている艦に無傷の状態の物は無かった。
無論、その分だけ武蔵にもダメージを与えた。
自分が敷いた車輪陣による攻撃により武蔵は中破と言ってもいいレベルにまで追い込めている。
しかし落ちていない。
所々から燃料が漏れ、火災の煙が上がり、戦争前の雄大さが陰ったが、それでも竜は空に浮いている。
落とせなかった理由は色々とあるのだろうけど、やはり最大の理由は
「……凄いもんだなぁ」
自分のようなおじさんからしたら子供である世代の子達が大人の嫌がらせに屈しなかったのだ。
英国の会議だけ見ただけで何やら無茶苦茶な個性ばかりが集まった子供達のようだが、でもその無茶苦茶さで会議を乗り越え、このアルマダ海戦を乗り越えた。
戦場を支えたのは総長連合や生徒会の子達なのだろうけど、戦場を支える子供達を支えたのが彼らの王なのだろう。
その少年が三河で言っていた言葉を思い出す。
……俺には何も出来ねぇ、か
映像に映った少年の表情には一切の陰りも澱みもない微笑があった、とセグンドは思っている。
きっと本人の言う通りなのだろう、と素直に思った。
聖連が付けた字名とか、武蔵の総長のしきたりとかそういう事ではなく、少年の言葉の口調からそうなのだ、と察したのだ。
きっとこの少年の能力では大事な人を助けに行く事も出来ないのだろう、と
だから、誰もがしょうがない、という感情を元に彼に付いて行った。
この足らない王様の道を自分達がつけよう、と。
凄いもんだなぁ、と再び思う。
才能がある人間が人を引き連れている光景は別に珍しくない。
才能とは良くも悪くも求心力となるものだからだ。
無論、才能の部分を経験に置き換えている場合も多々あるが、その二つともがあの少年には恐らく無い。
だから、その代わりに彼が出来るのは他人を支持する事だ。
俺には出来ねえ。でもお前らは出来る。出来ねえ俺が保証するよ
邪推する人間なら、ただいい言葉を使って人々を煽っているだけではないか、と言われるのかもしれない。
だが、少年は一人の友人を連れる以外は誰も誘うような事はしなかった。
そして一人戦場に連れられる友人の少年も特に何も言わなかった。
その後に見た光景は誰もが己の心のままに王に付いていくという光景であった。
特に人間に絶望しているわけでは無いが、それでもあの光景を見ていると根拠のない"大丈夫"という言葉を信じてしまいそうになるのが怖いものだ。
ああ、でも
「そうか……僕も"大丈夫"と思えるものがあったんだなぁ……」
自分の為に泣いてくれた女の子を思い出して、空を見上げる。
自分が座った艦上からはよく見える。
それも周りが火の海のような状態になっているのならば尚更に。
もう自分しかいないこの戦艦は浮き続けるどころか、何時まで存在出来るかの状態になっている。
何故かなど問うまでもない。
僕が沈めたからだ。
「おい、どういう事だ……?」
武蔵上からもはっきりと見えた敵の指揮官が乗っている戦艦の自沈による炎。
無論、こちら側から攻撃は入れたからダメージによる発火という可能性も無くはないが
「いや、見た所機関にまでダメージは入ってねえ。詳しく見たら違うのかもしれねえが、それにしても爆発のタイミングがおかしい」
「じゃあ、やっぱり……」
三征西班牙の総長による自沈に戦争の終結に向かっていた心と肉体は停止する。
その中で一人動くものがいた。
巫女服を着、武蔵の防衛に動いていた少女だ。
彼女は急いで、という様相を出さずに、しかし彼女が出せる速度で表示枠を出し、連絡を取っていた。
音声入力で声を向ける先は
『トーリ君。シュウ君?』
掛けた言葉に、しかし返答は無かった。
掛けられた当人の一人である少年は燃えている戦艦を座って見上げていた。
傍には銀髪の自動人形の姫がいたが、少女の座っている位置では見上げている少年の表情が見えなかった。
適当に座ったせいで、隣でも微妙に後ろ斜めにいた事による弊害だ。
銀髪の少女は前に出るべきか、多少、考えた、そこで見た。
無能の少年の手が力強く握られている事を。
そしてもう一人の少年は動こうとしていた。
己が握っている刃を持って、件の戦艦に乗り込もうとしていた。
地上ならともかく鉞を使用しての空中移動では専門の魔女や半竜などには速度で遥かに負けるが、最悪、自沈に巻き込まれても自分なら生き残れるという判断を脳内にて下している。
その行為が後々どういった事になるかなどとは
故にそのまま行くつもりだった。
力を手に込めて不動であった無能の少年の対極であると証明するかのように、刃の少年は行こうとする。
しかし、その行こうとする意思も止まった。
第三者が介入したわけでもなければ、臆病風に吹かれたわけでは無い。
何時か最強になろうとしている少年の感覚が気付いたのだ。
あの戦艦の傍に何かがある、と。
それに気付き、行こうとしていた姿勢を崩す。
そして思う。
それなら、いいんだ。
「動くんじゃねえオメェら! 動くとここにある弁当に股間を擦り付けるぞ………! それが嫌なら俺に弁当を最初に選択させんだな!」
「さ、最低ですよこの総長! 形振り構わない人間の恐ろしさ……!」
「おやトーリ様。ではこちらのホライゾン作の"もう寝させない……!"など如何でしょうか。店主様と一緒にテーマは一撃必殺で仕込んだのでしょうがお残しは許しません」
「あれぇーーー!? それ、寝させないんじゃなくてもう寝続けるんじゃね!? でもホライゾンのドS発言に俺の中の愛欲が疼いちゃう……! ああ! もうホライゾンに染められちゃう……!」
「誰か番屋ーーーーー!!」
「よーし、最強の俺、到着。あ? なんだ? 飯の取り合戦か? トーリが股間で弁当をガードしている? んな面倒なのは本人が望んでいる風にすればいいだろうが」
「あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 駄目駄目ぇぇぇぇぇぇ!! 股間にジュージューに温められてまるごとステーキ弁当を押し付けたら俺のチーンコが食べごろなお肉になっちゃううううううううう!! 駄目よシュウ! 俺のお肉をレアで食べちゃいたいだなんて……! で、でも……だ、誰にも見られてないなら……」
「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! マジ演技でホモを強要するのは止せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「自分で蒔いた種じゃないかなぁ?」
酒池肉林、否、弱肉強食?
とりあえず、混迷にお茶漬け海苔をかけたような休息タイムが武蔵の艦橋内で行われていたが、とりあえず周りは巻き込まれないように全身を逸らす事を前提としていた。
「くっそ……まぁいい。智ー何か飯無いーー 肉肉肉が欲しい。出来れば智の胸についているその貪り甲斐しかないその肉も含めてガッ!」
「ひ、人の身体的特徴を肉とか貪るとか言わないで下さい! 矢が勿体ないじゃないですか!?」
「撃った後に後悔するなよ!!」
全員のツッコみを浅間は耳を塞ぐ事によって躱す。
吹っ飛んだ本人は亡者のように体を引き摺ってこちらに来ようとしているので問題は無い。あっても知らん。
まぁ、その後はやはりと言うべきか。この後というより未だ近くにいる三征西班牙の艦隊の事だ。
武蔵は現状、中破状態。どう見繕ってもこのままだとやはり艦隊に追いつかれるという結果になるという事。
・賢姉様: 『ふふ、じゃあいっそいらない人間を囮にして突っ切るっていうのはどう!? これで本当に要らない子がいる子かが判明出来るのよ!? どう!? 誰が行く!? お前か!? それともお前らか!!?』
・あさま: 『こ、こら喜美! 御広敷君やウルキアガ君やシュウ君を入れるのはともかくそこにトーリ君まで入れるのは豪気ですけど、そんな事をしたら無視の一択で役立たずである事が判明するじゃないですか!? ただでさえ皆、害悪なんですからこれ以上酷い方向に行きそうなネタは止めてください!』
・約全員: 『考えて喋れよ!!』
・〇画 : 『その点、浅間は卑怯ね。浅間は恐らくほとんどの者が自主的に守ろうとするのだもの───私のネタの為に』
・〇べ屋: 『ああうんうん、ほんとほんと。私としてもアサマチは守って貰わないと───私達の商売の為に』
・あさま: 『さ、最低な言葉を聞きましたよ……!?』
ちなみに浅間関連で一番のお客は某神社の代理神をやっている者なのだが、本人は
「はぁ!? うちの守り神だよ守り神! エロ祈願のお守りだ! でも危ないから俺が全管理しないといけねえけどな! 何せ触れるとエロくなる加護が──」
などと戯けた事を言っていたのだが、一度本人に気付かれて守り神を守る為に脅威の20連射を己の体で受け止めた後に潰されたが、実にどうでもいい話である。
だが、梅組が、未だ集ってはいないとはいえ同じ方向に向いて語っているというのは何故か久しぶりな気を感じつつ、どうせ直ぐに後悔する羽目になるなと全員が思った。
だが、とりあえず逃げる事は不可能という結論。
ならやる事は
「叩っ斬る事だな!?」
『それを個性にしてんだけど無理に叩き斬るって表現すんのは主張し過ぎじゃないさね?』
『止めろ直政。それしか無い男の金にもならん足掻きだ』
剣神の手刀が即座に反応してくるいらんツッコみを叩き割っていく。
わざわざ音速超過で放って表示枠を叩き割っている剣神の動きをBGMに周りはやはり全身を逸らしながら、悟る。
武蔵が中破していてもこの馬鹿共は馬鹿のままであると。
こちらの勝利条件に敵武神団の攻撃の阻止、主力艦の砲撃の阻止、揚陸部隊の撃破、そして未だ見る事が出来ていないサンマルティンの撃沈などと要求として無茶なモノが多くても、あの馬鹿達は止まる気が無いのを悟り、全員が未来の苦労に苦笑を浮かべる。
やれやれ、と恐らくこの場にいる全員が──否、一人だけそれらを察せずに本当に何時も通りの口調で
「頼むわ」
という言葉を無遠慮にこちらの事情も知らずに頼み込んでくる。
はぁ、と梅組のメンバーも含んでの苦笑の合唱を行い、そして誰も返事をせずに動く。
己がすべき事をする為の場所に。
第二次アルマダ海戦と称してもいい戦争は正しく混迷を表現していた。
武蔵側が不利だ、とこの戦争を見ている者は口を揃えて同じ事を言うだろう。
無論、武蔵側とて無力ではない。
総長連合と生徒会のメンバーは未だ全員が全員、力を出し尽くしたのかは分からないが、それでも三河騒乱に英国での相対を乗り越えるだけの力があるという事は判明されている。
しかし、今は相対戦ではなく艦隊戦。
そうなると個人ではなく艦隊の運用と武装の差などが大きく出る。
そして極東は基本、非武装。
不利なのは最初から武蔵の方である。
だが、三征西班牙のメンバーは既に知っている。
非武装であっても武蔵は間違いなく強敵である事を。
でなければ第一次アルマダ海戦において己の総長の戦術に食らいつく事など出来ないからだ。
だが、だからといって
「俺達、日の沈まぬ国を舐めさせんなよ……!」
「Tes.! 日輪を背負う覚悟を日が出る国に叩き込んでやるとも……!」
弘中・隆包が率いる野球部と陸上部の揚陸部隊が武蔵に乗り込みながら意気を叫ぶ。
「敵が天晴れですげぇ───なんていうのは既に何度も経験してんだよ……!」
自分達が今までで乗り越えてきた敵は容易く勝てる相手であったか。
その疑問には全員が同じ感情と答えを持っているだろう。
故に三征西班牙は武蔵を恐れない。
「主人公が貴様らだけだとは思うなよ! こちとら借金大国を背負って戦ってんだ! 主人公属性は十分だ!」
「全くですよ! 俺、今回、リアルで"俺、この戦場を終えたら……"云々かましたんですよ!」
「格好つけたんならフラグは拾うなよ……!」
「Tes.! ───戦勝の土産話で盛り上げます!」
いい返事だ、と話していた者も聞いていた者も頷き、進む。
前に。
意気も意思もきっと同じだ、と全員が馬鹿げた感情を抱いている、と苦笑し、引き締め
「行くぞ! 意気を見せるには相応しい相手だ!」
全員がその言葉に契約の言葉を述べ、そして突貫の態勢に入ろうとする。
隆包はその光景に内心で苦笑を浮かべながら、皆の前に出ようとして
「後退ーーーー!!」
唐突の叫びに、しかし部員達全員の心より早く体が反応する。
全員が前に踏み出そうとしたものも、相手の攻撃に備えようとしていた者も含めて無理矢理背後に飛んだ。
攻撃の為に、武蔵に乗り込んだ直後だ。
人が重なり合うのをどうしても避けられない事を覚悟した跳躍は、しかし正しかった。
何故なら踏み出そうとしていた位置に落雷のように落ちていく刃を見たからだ。
それも一つではなく複数。
最低でも二桁を超える剣群が空から落ちてきたのだ。
「まさか空に向かって剣を投げれば増えて落ちてくるという必殺技か!?」
「何だと!? それは一度はつい誰かが見ていない場所でやってしまう痛い現実逃避じゃ無かったのか!?」
「流石、極東……! 世界を相手にしても一歩も引かぬ変態集団だな!」
「す、すいません! じ、自分……極東の文化の恩恵諸に受けています! 和服美少女のエロゲーとかもうサイコーーーーーー!!」
「戒律は破ってねえだろうな!? 破ってなかったら俺にリークしろよ……!」
「Tes.!」
男同士の熱い友情を女子連中は躊躇いなく軽蔑の半目で睨みながら、迎撃のボールや術式などを握って引いた自分らにも降りかかる刃に対応する。
「主将!」
野球部部員は一人の剣の雨の中に残った主将に声をかける。
その声に心配の色は一切無い。
何故なら落ちてくる刃を丁寧にカットしているスラッガーに対して期待する以外の感情は中々生まれないからだ。
隆包は落ちてくる刃に対してバットの全体を使って殺傷範囲にある刃を弾く。
野球部としては邪道だが柄頭も使って打ち払いだ。
わざわざバットを構え直さずに、振ったら次は柄を次に合わせて当てていく為の方法は無駄に力を入れない事だ。
力を籠めれば肉体は固まる。
それが武神の一斬とかならばまた別の話だが、これは本当に雨のように発射されただけだ。
角度とタイミングさえ合わせれば隆包からしたら楽な話だった。
「満塁時のプレッシャーに比べれば楽なもんよ……!」
剣の雨が落ち切った後に残るのは砕け切った鉄の残骸だ。
弘中・隆包
副長としては異例極まる防御型の副長。
俺がここで踏ん張っている間に誰かが点を入れりゃあいいのだよ、という姿勢を野球だけではなく戦闘にまで持ち込んだ男の在り方の成果を両軍は確かに見届けた。
武蔵の学生で特に目の良い学生が思わず呟いた。
「最低でも三桁は降り注いだぞ……」
流石に300とかには届いてはいないだろうが200くらいはいっていたかもしれない刃の豪雨だ。
恐ろしいのは勿論、技量もそうだが、それだけの数を前に一切怯まず、在り方を一切崩さない姿だ。
その言葉に
「成程……」
と、戦場には響かない小さい音が、しかし合図となった。
それに対応するのは口笛を吹くスラッガー。
「粋がいいじゃねえか」
軽い調子で、彼は片腕でバットを前に突き出した。
動き自体は軽いが、その速度は高速の所業故に突き出されたバットの先は二つの武器を同時に受け止めていた。
武器の形は薙刀と斬馬刀。
担い手は少年と少女。
人の列から一気に駆けて、副長に対して刃を振ったのだ。
薙刀の少女は逆袈裟から、斬馬刀の少年は袈裟切りを放った。
簡単に言えばどちからに対処すればどちらかに斬られる、シンプルな連携であった。
だが、二人からしたらこの程度で当てれるなどと毛ほども思っておらず、軽く躱されるか何らかの手段を行われると思っており、今の状況は確かに後者だが……
「なんつー精密さ……」
斬馬刀を握る少年が漏らした呟きに少女も同意する。
あの瞬間に弘中・隆包がしたのはまず突き出したバットを斬馬刀の方に当てるという事であった。
当てられた少年はその瞬間に武器を吹っ飛ばされるか、もしくはここから体術か術式でこちらを崩して少女の攻撃を妨害するか、と考え、身を何時でも動かせるようにして且つ万が一の場合は武器を離す心構えをしていた。
だが違った。
隆包が当てたバットは刃でも峰でも無く、平たい箇所にバットの先端の丸を押し当ててそのまま刃を少女の薙刀の方に誘導したのだ。
反抗されると思っていた少年は力の誘導に逆らえず、しかし抗おうとしたのだがまるで後ろから指導されて振らされているかのような感覚に負け、少女の薙刀にぶつけさせられ、今に至る。
だが、二人は状況に拘泥せずに即座に離脱を体に命じた。
隆包も己の力なら追い打ちは簡単だったが、それをする事無くバットを引き、油断なぞ無いという事を示す事にした。
何故なら少年少女の離脱した先には百花繚乱に彩られる鋼の華が咲いていたからだ。
その華の名を武蔵の学生の一人が思わずといった調子で呟く。
「熱田神社……」
スサノオを奉る極東の武装集団。
極東随一の英雄であり、無法であったスサノオの元に集うのはやはり似た者達であり──武蔵の副長が代理神となっている神社の者達であった。
「助けに来てくれたのか!?」
「馬鹿野郎。勝手に懐くなよ武蔵」
救いを求める声を、暴風に仕える者が一蹴する。
即座に返された否定に、敵も武蔵も一瞬、惑っている間に別の者が答える。
「貴方達が言ったでしょう? 私達はその姓の力よ。ま、流石に宿代は返すつもりだけど」
「駄賃は斬撃で両替してくれよ? 何せ俺らそれくらいしか能がないチンピラ集団でな」
違いない、と全員が苦笑し、刃を三征西班牙の方に向ける。
向けられた一人である隆包は、しかし意識を別に向けていた。
熱田神社が動いた。
それはいい。
熱田の姓が副長にいる以上、それくらいの乱入は想定内だ。
故にここで問題なのは想定内である熱田神社ではなく、想定外の被害を起こし得る事が可能な剣神だ。
ここで歩法を使われれば厄介だ。
歩法破りを知っても、破る為には使われている、というのを知っておかなければ乱すタイミングを取れないのだ。
故に奇襲を取られれば、歩法は完全に機能する。
そして同時に武蔵副長が動かないとは絶対に思わない。
何故なら少年は三河で告げたのだ。
俺は世界最強になる男だ、と。
伊達や酔狂で言っていないとするならば──否。
あの時、聞こえた熱量には間違いなく嘘など一片の欠片も含まれていなかった。
ならば動く。間違いなく動く。
艦隊戦であった第一次アルマダ海戦とは違い、今のように揚陸され、己の力が有用になったこの戦場で動かないのならば少年は自分の言葉を嘘にしてしまう。
そして彼は自分の言葉を嘘に出来る人物か。
否、そうやって自分を許せる人間が十年も誰からも蔑まれながら力を得ようとなどするか。
そうして隆包の鋭敏な感覚が捉えた。
俺達が揚陸した部分の直ぐ傍にある恐らく通常なら散歩コースの憩いの場であろう場所の手すりの上に座っている剣神がいた。
「───」
コンマ一秒以下の視線の交差。
たったそれだけでお互いが理解出来る事があった。
ああ、
無論、人である以上、何かは変わるのは分かっている。
立ち位置だったり性格だったり目的であったりと幾らでも変わるものがあるだろう。
だが、剣の振るい方、バットを振る理由、そういった
無論、共感を覚えたからといって刃先の向きが同じになる事は少なくとも現時点では無いのは確かだ。
どんなに感慨を抱いたとしても──敵だ。
敵だが
「──」
強打者は自然とヘルメットの先を掴んで、下に引っ張る。
剣神は刹那の間だけ目を瞑る。
その場にいる身内ですら気付かない敬意の表現をする。
本人同士でも通じ合うかどうかも分からないサインを、しかしお互いが敢えて互いを見ない形で表現し合い──即座に刃金の音が空間を破裂させた。
「は?」
敵味方問わずに漏れるのは疑問の声。
目に映る光景は隆包がバットを片手で打ち下ろし、刃を叩き落している光景だ。
その光景には何時の間にか、と思える箇所が二つあった。
まず一つが剣神が何時の間にか立ち上がり、手を、まるで物を投げた後のようにスナップしたような姿勢を保っている事。
二つ目が彼の刃が隆包によって叩き落され
『イタイノ』
と呟いている事。
しかし、これらは別に問題がある事ではない。
副長クラスの動きが視認出来ないくらいはまだいい。
だが
「あの刃、投げた瞬間に姿が消えたぞ……!?」
音速突破して視認する事が出来辛くなった程度の事ではない、武蔵も三征西班牙の学生も気付いている。
ならば、何を持ってかの答え合わせをしたのは弾くために使用したバットで肩を叩いている隆包であった。
「応用力の塊だなぁ、その歩法」
「一発芸には事欠かねえだろう? 何なら別に使ってもいいんだぜ?」
「Tes.って言いたい所だが止めとくわ──野球に使うと水を差しちまう」
「Jud.そりゃそうだ」
二人が同時に苦笑する。
持っている物が武器じゃなかったのならば、そのまま焼肉にでも行きそうな気安さのまま視線は互いの挙動を高速移動を捉える瞳で確認をしていた。
一切の隙無し。
隙を見たいのならばこじ開けろ。
作れないなら無いまま打ち倒せばいい。
結論が実に素敵で熱田は苦笑を危うく微笑に変えそうになり、面倒な世界だよなぁ、と思って立ち上がる。
「良し。挨拶は済んだ。じゃあぶった斬るけど幽霊だからって呪ってしがみつくなよ?」
「勝手に呪縛霊にすんじゃねえよ────それに、お前にしがみつく奴はもう一人心当たりがあるだろ?」
問い返す前に内心でやっぱりかーーと思い────右の視覚の死角から飛んできた砲弾を殴ろうと
「結べ──蜻蛉切り!!」
殴ろうとした砲弾が突然割断され、あらら? と空振り。
思わず、砲弾を撃ってきた相手より聴き慣れた語句を叫んだ方に視線を向けた。
「何だ二代。こっちに来たのかよ。しかも余計な手も出しやがって。やるならそこに屯っている無賃乗車共にくれてやれよ。股間辺り狙うと悲劇だよなぁ……」
「おお。以前、父上に男がどうしてそこまで股間狙いをされるのを恐れるのか知りたいので試そうとして逃げられた思い出があるので御座るが、今、ここで実地検証で御座るか!?」
「ああ。そこに赤白制服の馬鹿と黒白制服の馬鹿がいるだろ。赤を当てたら1点、黒に当てたら-1点だ。表向きにはな。俺に当てようとしたらオパーーイ揉み揉みされる刑だ。いいか? すり揉みだぞ」
「さ、最低だぞ!!」
敵味方関係なく発せられる叫びに俺と二代は普通に無視した。
「まぁ、そうしようにも」
「立花の姓が見逃さなかったで御座る」
そうして二人揃って撃ってきた方角に視線を向けると。
そこには赤の女性学生服を着こなし、特徴的な巨大義腕と十字砲火を宙に浮かせている女がいた。
立花・誾
向こうからしたら俺を狙うあらゆる理由も、あらゆる目的も、この自分の一撃には劣る理由だと俺に言いたい気分なのだろうとは思う。
ふむ、と熱田はとりあえず思った事を適当に二人に向けて言った。
「これは膠着状態ってやつか?」
それに対して答えたのは立花・誾であった。
結構、苛々した口調で告げられるのは
「白々しい。この程度で膠着などと全く思ってもいないのが分からないとでも」
ふむ、と俺は頷き
「なぁ、二代……何かあの人妻すっげぇキレてんだけど、これはアレか。最近、流行りのキレる若者って奴か。立花も流行には乗るんだな……」
「ふむ。しかしうちでは昨年のエロゲ流行語大賞の"みるみる出るわ! 脳が!"という流行に対して父上が"本当かよ! 開発陣にそんな経験があんのかちょっくら聞いてみるわ!"と言って結論からしたら開発陣が泣いてしまって鹿角様に父上追いかけられて、以来うちでは流行語大賞は毒と変わらぬと決められたので御座るが」
「嘘はイケねえなぁ嘘は……相手も自分も泣くからな……」
何やら人妻が憤って地面を蹴り飛ばしているが、二人で立花の流行なのだろう、と結論付けといた。
「じゃ、ま、簡単だな───2対2の不規則相対戦だな。断るか?」
「断ったらテメェ、ここで乱戦に持ち込むつもりだろ」
「俺達の方が有利だぜくらい言わねえのか?」
「お前の方は不利になるぜ、と言わんばかりの表情なんだが。熱田神社の手勢を抜けば」
「ああ、そいつらはアルマダ海戦勝ったらぶった斬りだな」
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! と背後から聞こえる悲鳴を録音して後で留美に本人を特定させとこう。
俺が有言実行タイプである事を世界は知る事になるだろう。
しかし、それに対してやはり不満のある声で少女の声が問いかけた。
「………武蔵副長。私の刃を無視すると?」
「テメェこそ、さっきからちまちまと。俺はお前の旦那に勝った勝利者だぜ? 傲慢を通さずにどうするってんだ」
「あくまで自分が上だと?」
「お前の旦那は下にいたか?」
すると不満そうな顔はそのままだが立花・誾は沈黙した。
やれやれ、人妻っていうのは強情だなとは思うが、逆に言えばあのさわやか無双、幸福過ぎるだろって思ってしまう。
ここまで頑固で強情な女を打ち崩したのならば、あの男もまぁ、相応の何かをしたのだろうから、その報酬は正当なモノなのだろうけどと苦笑しながら、しかし口はバットを握っているおっさんに向けた。
「随分と熱い職場だったっぽいな」
「羨ましいかよ」
「いや───どこも似たような教導院でこの手に関しては洒落が通じねえなって」
ちげぇねぇ、と男二人は苦笑し、女二人は一人は首を傾げ、一人は唇を噛む。
そうして少しだけ笑い合って───
「じゃあ───俺達の洒落が通じる遊びと行こうぜ」
全員の笑みの質と深みが変わる。
全員が互いの洒落が通じる遊びに興味津々だ、という顔に変貌する。
話が分かる人間しかいない事に内心で苦笑しながら
「じゃ───頑張れよ馬鹿共」
その場にいた武蔵の学生達と三征西班牙の学生は自分達の総長連合に所属する4人が一斉に姿を消すのを知覚した。
そして実際は姿が消えたのではなく、自分達の動体視力では捉えられない速度で高速移動した事を理解している。
その事に、どちらの陣営も呆れの溜息を隠す事は無い。
「ったく、うちの副長達が同い年であるかより同じ人間かどうかマジ疑う領域だけど普通に似た芸風が他にもいるっていうのを見ると世界は色物が多いよな」
「それに関しては同意する武蔵───色物度ならそちらの方が上だと思うが」
ああん? とそれに今度は熱田神社の人間も混ざってメンチを切っていく。
「んだとこら? そっちは幽霊夫妻に両腕義腕とさわやか無双の夫妻とデッドボール専門の兄弟とエロゲー製作のおっさんとエロイ委員長タイプの副会長じゃねえか! テメェらに人の事が言えんのか!!? ああん!!?」
「はああああああああああああああああああ!!? 全裸をトップに多種多様の変態がいる武蔵と一緒にすんじゃねえよ!! こっちはそっちよりもハッピー入っているのが多いんだよ! ───上だけ、な……」
「た、隊長! 傷を曝け出さずにしっかり! しっかり!!」
ふぬぅ、と意気込んでいた武蔵側+熱田神社の男衆が息を漏らす。
想定外の同意出来るダメージに武蔵側が思うのは自国の総長であった。
全裸で馬鹿でド畜生な癖に最近、彼女が出来て超調子乗っていて、つまりストレスの塊だ。
時たま無差別に彼女いねえんだろ攻撃をされると時たま意識を失ってしまう、気付いたら総長が血だるまになっている事が多々あるが、駆け付けた番屋も被害者を見ると黙って肩を叩いて飲みに行こうぜ、と言われると逆にハイダメージなのが辛い。
しかも、その後に100%の可能性で後々酷い事が起きてしまうのが武蔵の凶悪な環境である。
実家に品名エロゲ在中は勘弁してください。
どこも上のせいでダメージを負うのは同じらしい。
しかし、お互いが出すのは口では無く手や術式といった武器であった。
やれやれ、と再び武蔵生徒の誰かが今度は誰にも聞かせない程度の音量で
「世界平和も征服も遠いもんだ」
その直後にタイミングを読んだように響いたのは巨大な打撃音のようなモノ。
それが誰が何をもってどういう目的で生まれたモノかを問うまでもなく、そして
「───!!」
こちらも叫びを放って戦端を再び開くのであった。
はい大分端折った最新話で御座います。
早く3巻に行きたい今日この頃。だが、まだ最低でも2,3話は書かないと終わらないこの事実……! 己、2巻下……!
これだけ端折ってもまだ終わらないって原作の怖い所ですなこんちくしょう!!
ともあれ次回がバット男と両腕義腕娘とのバトルですな。原作には余り無い2対2の相対。頑張らなくては……! この手の事はどこぞのクロチン子の得意分野な気もするが頑張らなくては! 奴にチンコはいらねえ!!
と、言っても次回の更新はFateでその後はどうなるだろう。こっちかもしれないし外伝かもしれないのでお許しをーー。
では感想・評価などよろしくお願いします。