不可能男との約束   作:悪役

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力しか無い者達が力によって導かれた場所

故にこここそが力が望む場所

配点(ばかばっか)


力の寄る辺

 

フェリペ・セグンドは巨大なモノと相対する恐怖を相手にしていた。

目に見える恐怖は竜のような形と成していた。

それは知識など知らなかったのならば空に浮かぶ神殿のような荘厳にして巨大な竜と思えるもの。

事実、あれがそのまま落ちてきたりしたのならばどれ程の恐怖か。

考えたくもない。

準バハムート級と言うけどもう立派なバハムート級じゃないのかな? っと思わず思ってしまう。

竜の名前は武蔵。

暫定支配を受けた極東においての象徴とも言える場所であり、今や世界征服を謳う竜の名前だ。

 

……凄いもんだなぁ。

 

『ど、どういう事なんですか!? 超祝福艦隊を下げるなんて!?』

 

通神によって声と姿を届けられる。

相手は武蔵の特務や生徒会ではなくても、その中心にいるクラスの子であったとセグンドは記憶している。

確か従士でやたら硬い機動殻に乗っている少女だった。

小柄な自分でさえ小柄だなぁっと思う少女を見て、素直に凄いなぁ、と尊敬する心をセグンドは捨てれなかった。

だって、どの子も僕みたいな年寄りからしたら孫世代の子達だ。

それは中心にいる梅組だけではなく他の生徒も似たようなものなのだろう。

何せ武蔵は18になれば卒業である事が決められている。

若い子しかいないのだ。

そんな若い子が世界に対して抗っているのだ。

彼らと同じ年齢であった自分は間違いなくそんな大それた事に挑めるような人間ではなかったし、力もなかった。

そんな子が隆包君や房栄君やフアナ君に対しても頑張って挑んで戦えているのだから本当に凄い。

無論、それは自分を基準にしているからだ、という風に捉えられなくもないのだけど。

子供と相対した事が無いわけではないのだが、こればかりは余り慣れないもんだなぁ、と内心で苦笑しながら武蔵の従士の声に答える。

 

「い、いや、下げてないよ」

 

何故なら

 

「僕が今乗っているこの旧式艦と───これから集まる艦隊こそが僕の、否、三征西班牙(トレス・エスパニア)の超祝福艦隊だ」

 

ほら、見てごらんと指示してから自分に苦笑する。

見てごらん、だなんて相手からしたら敵に言われる調子ではない、と思われそうだ。

相手が子供だからといって年長者振ろうだなんて思っているんじゃないんだろうな、と自分に苦言を申しとく。

 

ああ、でも───僕を自慢するわけじゃないからいいかなぁ……?

 

自分を自慢するんじゃない。

今から僕が自慢するのは自分の部下だ。

なら少しくらい我儘は許して貰おう。

そして、ほら。

来たよ。

僕が昔、集めた篝火が。

 

 

僕にとって最後の火祭(ファリヤ)の炎が。

 

 

 

 

 

「う、わ……」

 

鈴は唐突に知覚に灯った篝火を感じた。

一つ一つは先程まで展開されていた戦艦などに比べたら小さいかもしれないが、鈴には大きさ以外での違いも明確に感じ取っていた。

それは熱気だ。

機械のではない。

人の熱気だ。

凄い数で浮かんでくる船の中にいる人の熱気こそが船を浮かせているのだと言わんばかりに鈴の知覚に熱さを押し付ける。

 

「す、すご、い……」

 

艦隊の数や装備が、ではない。

いや、勿論、旧型らしいからさっきまで向かい合っていた本来の超祝福艦隊より性能は落ちているとは思うけど、それでもこれだけの数が一杯いるのは凄い事ではあるとは理解している。

でもそれ以上に凄いのは先程感じた熱気という意気をどの艦からも感じられるからだ。

熱さの強弱はあっても無い艦は一切無い。

これは個人の意思だけで起きる熱さではない、と鈴は目が見えない代わりに感覚が人一倍鋭いからこそ思った。

自分だけの意思は確かに容易く起きるけど、その分、揺れ幅が大きいみたいな感じがする。

例えば勉強をするぞ、と思って行動する。

それに対して1,2時間ぐらいは多分、やる気は継続する。

でも、その後が難しい。

勉強に対して楽しさを見出していたのならばやる気は継続するのだろうけど、見出せていないのならば人は苦痛に対して続けようとする意思を保てない。

だから、浅間さんやミトツダイラさんやネシンバラ君や正純の皆は凄いなぁって思う。

それを言うと皆が「ネシンバラは見習わなくていい」とか「それは危険ですよ鈴さん……!」とか「いいか? 鈴。頭がいいのと性格がいいのは別なんだぜ……?」と懇切丁寧に説明されるけど、何か間違った事をしただろうか。

それは置いといて、そんな難しいやる気を継続する方法は幾つかあると思う。

私達の一番分かり易い例は

 

トー、リ君……

 

大丈夫。安心しろ。お前なら出来る。出来ねえ俺が保証するよ、と何時も支持してくれる彼がそれだ。

こちらの不可能を全て持っていく彼がいるからこそ皆、それぞれの態度でそれぞれの道を歩いて行っている。

私はそんな風に歩めているように思えないので何時も皆を凄いなぁ、と思っている。

そしてもう一つ、分かり易い例がある。

それは

 

・剣神 『おい、お前ら落ち着け───馬鹿に笑われたいか』

 

彼の一言で息を呑んでいた皆の雰囲気が変化する。

何故なら彼が示す彼が

 

・俺  『ちょーーーーーーーーーーーーこええええええええええええええええ!! うっわもう駄目か! 駄目なのか武蔵! 駄目なんでちゅね武蔵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! もうこのまま俺、ホライゾンのオパーイの中でちゅっぱちゅぱして沈んでいくんでちゅねーーーーーーー! どうした皆! 羨ましいか!? お前も! お前も! そんな事出来ねえもんな死ぬ時も人生勝ち組ヒャッホォォォォウ!! え? 何、ホライゾン? 早速か!?』

 

その後、暫くトーリ君のコメントが流れていない事を察し、全員が無視をする流れになったのを鈴は感じ取った。

何時もの流れを維持してくれたお陰で皆の肩の力が抜けたのを察知して、鈴は微笑して自分が先程まで思った事の先を許した。

シュウ君も分かり易い例の一つだ。

シュウ君のはどういったもの、と説明するのは難しい気がする。

自分の内にある熱を本当に周りとか関係なくずっと保っていたような気もすれば、周りがあるからこそ熱を保てたかのように思える。

こんな事を考えるのはちょっと自惚れているみたいであんまり良くない押し付けをして悪い事をしている気分になる。

でも、例え熱を保ち続けた理由が内ではなく外にあったとしても、一つだけ絶対というものがあった。

その熱を消さず、燃やし続ける不断の努力を行ったのは間違いなくシュウ君の強さだという事だ。

本人にこの事を伝えたらやりたい事があるだけだっただけだよ、と苦笑して努力を"出来て当然"の事柄にするのだろうけど、違うと断言出来る。

何せ、彼の努力の中身を知って皆が引くのを知覚したからだ。

ガっちゃんとか

 

「バトルジャンキーに漬ける薬は無いわね……」

 

と言って描くのを諦めたのだ(・・・・・・・・・)

もうその時点で一つの偉業である事を鈴は知っている。

正直、それを知った私は傷だらけの友達を見ていて、何故か自分が泣いて、自儘な事をシュウ君に頼んだが

 

「悪いなぁ……」

 

と言われて、逆に申しわけなさが出張してまた泣いてしまった。

そんな顔と声を出させてしまった自分がまるで彼を責めてしまったかのように思えてしまった。

 

そんなわけがないのに

 

彼はただ必死に夢を叶えようとしているだけなのだ。

誰よりもと言うと他の皆が努力をしていない風に捉われるので言わないけど、夢に本当に真摯にたどり着こうとしているのだ。

ただ生きていただけでは届かない、追いつけない。

 

だから彼は疾走するのだ。

 

誰よりも早く、何よりも早く疾走するのだ。

それが彼が何時も言っている

 

「さ、さいきょ、うの嗜み、なんだよね……?」

 

それで何時も傷だらけなのは困ったものだけど、流石にもう泣かない。

泣いたら彼は生き方を変える事が出来ない事実に謝る。

きっと彼の生き方を変えれるとしたら"彼"かもしくは……"あの人"くらいだと思う。

それを知っているからこそ、その事も含めて今の状況も含めて皆に言う。

 

・ベル 『み、みんな、が、頑張っ、て』

 

 

 

・剣神 『鈴からぶった切り応援されちまったぜ! 分かっているな鈴…! ああ……リクエストに応じて花火を打ち上げればいいんだな……!』

 

・あさま『違いますよシュウ君! 鈴さんは今、全力でコクリに言って振られる未来が持っている点蔵君に対してめげないで頑張ってくださいって言ってるんですよ! もっと頭を使って未来の事を考えましょうよ!』

 

・約全員『頭を使って忍者の未来を否定している巫女がいるぞ!』

 

・金マル『アサマチは相変わらず頭がおかしいよねー』

 

・あさま『あ、相変わらずって言われましたよ……!?』

 

 

何か変な結末を迎えているけど皆にちゃんと届いている、と思うとほっとする。

外からも

 

「鈴さんから頑張って応援を受けたぞーーーーー!!」

 

「ああ……! うちの学生では超SSRのピュアな前髪枠の応援だ……!」

 

「こらぁ! そこの男共ぉ! ピュアな少女の応援保存すんな! あんたら男には女の子の素敵シーンにのみ発揮される無駄録画装置が脳にあるんだから外付けは捨てな!」

 

「ああん!? ばっきゃろう! 美しい記憶を多角的に見ようとする当然の欲求を理解出来ねえのかこの差別脳筋女が……!」

 

何だか戦争始まる前から内部分裂が起きている気がする。

私いけない事をしただろうか?

 

「む、武蔵野、さん」

 

「Jud.如何いたしましたでしょうか───以上」

 

傍に一緒にいた武蔵野さんの返答に安堵を覚えたまま、不安をそのまま口に出す。

 

「わ、わた、し……悪い子、かな……?」

 

 

 

・武蔵野:『武蔵に乗艦していられる皆々様に自動人形から代表して言わせてもらいます───黙れ───以上』

 

・約全員:『は、はい……』

 

 

 

何だか凄い周りが静かになった気がする。というかなった。

自分の知覚の範囲だと誰もが息を止めている気がするのだけれど気のせいだよね?

 

・粘着王:『いかん! 御広敷が窒息しかけているぞ!』

 

・○べ屋:『あちゃー。ロリコンには無理があったかー』

 

・あずま:『余はあんまりロリコンについてよく知らないけど、ロリコンはそうなの?』

 

・いんぴ:『これはまた難しい問題だね!? 御広敷君に聞いてみるのがいいかもしれないね!』

 

・ばけつ:『……!』

 

・粘着王:『おお……! ペルソナ君が救助の為に釘バットを抜いたぞ……!』

 

意外と容赦のないインキュバスのクラスメイトの発言と何時も世話になっているペルソナ君の行動に汗が流れ出すが、そんな事は露知らずと言わんばかりに武蔵野さんはどこからかタオルを取り出して

 

「先程の質問ですが今までの統計から考えまして鈴様は悪いと言われるような行為、もしくは言動などはありませんでした───以上」

 

今、すっごく私"は"って強調したような。

汗の流れが止まらないからタオルを借りる。その顔を拭っている間に表示枠に乗っている皆の会話には「御広敷が息を吹き返したぞ!」、「流石、ペーやん! ハアクヅラットでもお世話になった釘バットによる回復法はリアルでも発揮だぜ……!」、「あれ、お前がよく考えずに全裸装備で突撃していたらホモ触手に色々開発されそうになったのを確か諸共にペルソナ君が始末したよなぁ」と意味が通じそうだが現実には通じない難しい事を言っている。

皆の余りに早い反応速度に鈴は付いていけなかった。

これが皆が実力者という証なのだろうか。

だが、そこで

 

「……え?」

 

鈴の鋭敏な知覚にも聞こえない何かを、しかし何故か鈴は捉える事が出来た、と理屈の無い確信を胸に得た。

音として捉える事の出来なかった感覚を、鈴は否定していなかった。

もしかしたら風の音などをそういう風に捉えたのかもしれないけど、鈴にはその音が

 

叫び、声……?

 

否、それでは足りない。

叫んだ事は確かである。

しかし、その叫びに色付ける感情がこちらの心を乱したのだ。

その色付けられた感情の名を鈴は知っている。

それは昔、自分が口や表情で吐き出したものだ。

それはかつて、私達の周りやそうではない人間が叫んだものだ。

それは

 

な、泣き声……?

 

武蔵の中からではない。

恐らく三征西班牙(トレス・エスパニア)の方だ。

何が起きたかまでは分からない。

でも、何かが起きたのは確かでそしてここから何かが起きるのは分かった。

始まるのだ。

アルマダ海戦が。

 

 

 

 

 

 

「おいおい、大丈夫だろうな武蔵は……」

 

第二階層の倫敦に辿り着いた私達は南西の空で生まれた光を見て、思わず、といった調子の正純の声を聴く。

ミトツダイラとしても確かに我が王やホライゾンへの心配が生まれはする。

生まれはするが

 

「正純。現場は今、懸命に武蔵を支えようとしているはずですわ。それを疑うのは貴方がつけた道を疑うのも同然ですのよ?」

 

「Jud.確かにその通りなんだが……喪失を考えると臆病になってしまうのは悪い癖だな」

 

あら、まぁ、とミトツダイラは内心で正純の言葉に微笑する。

随分とまぁ、うちの方針について深く考えていますのね、と思った。

ついこの間まで武蔵どころかクラスの間でも壁を作っていた喜美曰く堅物政治家であった正純の異様な対応力に苦笑しそうになる。

昨今、その対応力が外道方面にも発揮されているようで何よりだ。

発揮されていなかったら、今頃正純はもっと酷い目に合っていただろう。間違いなくそうだ。

確信出来る。

 

まぁ、でも元からおかしかったという可能性が残っているのですが……

 

「おい、ミトツダイラ。何だその目は」

 

「い、いえ。人の可能性は否定してはいけない事だと思いますの?」

 

はぁ? という言葉をとりあえず無視しておく。

まぁ、今は正純の外道才能に関しては置いとく。どうせ浅間辺りがそこら辺数値化していると思うから。

ここにいるメンバーにそれとなく視線を向けると全員が頷くのを見て、とりあえずの一体感を得ておく。

とりあえず、それは置いといて正純の不安を払拭する手段。何かあるだろうか、と考える。

真っ先に我が王とホライゾンを思い浮かべ、とりあえず心の中で謝って除外する。

我が王はともかくホライゾンに関しては後が怖い考え方だったが、二人とも不安が増大するメンバーだったので仕方がありませんの……というか鈴以外大なり小なり不安にさせる人間しかいないですの。

人々を不安がらせる事ならば間違いなくうちのクラスは世界最大の最悪集団ですの……

 

「おい。ミトツダイラ。どうした俯いて」

 

「正純。これはミトツダイラが無い胸を見て現実を見ようとしている努力だから気にしないでいいのよ? 大抵現実を直視した上で現実を許容しないけど」

 

「Jud.幾ら胸が大きくなっても姉にはなれんというのに……姉になるのは両親に掛け合うがいい……信心深いものならばミトツダイラを姉にする為に世界を賑やかにする行いが生まれるだろう……!」

 

「ウッキー殿! ウッキー殿! 旧派の教えを忘れたので御座るか……!?」

 

「というか君、半竜で旧派で拷問道具好きで姉好きってキャラが立ち過ぎて何を主流としているのか分からなくなってくるよ」

 

やかましい。

しかも、姉云々は洒落にならないから止めてくださいまし。

母ならやりかねない。否、やっているに違いない。

まぁ、それは置いといて、今、正純の不安を払拭する事が出来るかというのが主題だ。

正純は政治家であっても騎士でもなければ侍でもない。

ならば、戦争を前にした不安に対して適した言葉とはなんだろうか?

するとさっきまで母の事を考えていたせいか。

思いついたのは背中。

 

 

とっても小さかったけど、何よりも大きかった背中。

 

 

「大丈夫ですわ正純───向こうには誰よりも強い人がいますのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そうか……」

 

と、とりあえず了承した風に取って正純は一旦、ミトツダイラから密かにという感じで周りに声をかけてみる。

 

「なぁ……どうしてミトツダイラはあんなに熱田を持ち上げるんだ?」

 

「決まっているわ───犬は飼い主には尻尾を振るのよ」

 

「しませんのよーーーー?」

 

本人に聞こえてしまったので仕方がなく、ナルゼが表示枠をミトツダイラに見えないように自身の主翼の陰に隠して続きを語る。

 

『ま、実際は簡単よ。誰だって無様から救われた記憶は頭に刻まれるわ』

 

……無様?

 

ミトツダイラが無様をしようとしたのを熱田が救ったというのか? 逆ではないのか?

っていかん。これは武蔵思考だな。でも9割くらいこれが正しいのだが判定が難しい……

まぁ、でもそれなら義理堅いミトツダイラの事だから熱田に感謝とかそういうのを持つのは確かにおかしな事ではないか。

でも

 

「意外だな。熱田が人助けをするとは」

 

流石に浅間や葵に甘いのは私でも知っているが逆に言えばそれ以外にはスパルタ主義っぽいあの男が何時の話かは知らないが、ミトツダイラを助けるとは。

あーーでも、子供の時とかならば人格……いやこいつら子供の時からこうだろう、という意味不明な確信があるのだが、これは馬鹿は死ななきゃ治らないという暗示だろうか。

そう思って、適当に言ったつもりなのだが

 

「……は?」

 

全員にはもって何言ってんのこいつは? という表情と声をぶつけられた。

こっちこそ、は? と言い返したい所なのだが突然の私以外の反応の一致に戸惑っているとナルゼが先に反応した。

 

「ああ、ごめんごめん。そういえば正純、うちのクラスで一番副長と関わり薄かったわね。まぁ、どうせ後で酷い目に合うからそこはいいとして」

 

「おい、止めろ。その頷かなければいけないみたいな言い方……!」

 

普通に全員に無視された。

はいはい、ととりあえずナルゼはこちらに苦笑を向けながら

 

「まぁ、面倒だからばっさり言うけど───あの男は大きなお世話のツンデレホモ野郎だから」

 

「ナルゼ───二次元を超えるホモ、というのを忘れているぞ」

 

「いやいや。やる事成す事はデカい癖に肝心な部分ではヘタレというのもあるで御座ろう」

 

「君達は本人いないから無敵モードのつもりかい? お陰で僕が言えるのは巨乳巫女好きの変態馬鹿くらいしか残らなかったじゃないか……」

 

とりあえずこいつらの仲が良いのは良く分かった。

総括すると二次元を超えたホモの癖に巨乳巫女好きなヘタレお世話野郎という事になるのだが矛盾が成立してるぞ。人間じゃなければ出来ない現象だな……、と哲学めいた事を思っておく。

変態と馬鹿はもう言うのも疲れて来たしなぁ。

でも、そうか。そうだよな。

何せあの葵がミトツダイラのように騎士ではなく、刃として欲したというならば性能はともかく方向性は決まっているようなものか、と素直に思ってしまう辺り慣れてきた感があってどうしたものかなぁ、と思う。

 

……まぁ、そんな奴じゃないとこいつらも無意味に反抗しそうだしなぁ。

 

個性しかないような集団だ。

カリスマとか合理的とかそういうのじゃ絶対に纏まらない集団を纏めれたのは王様のしたい事が自分の望みに繋がる事だからだ。

私もその一人であるというのは流石に諦めがついた。

ああ、でもそうなると

 

……熱田の夢も繋がるのか?

 

最強になる事が夢だという。

最強になる方法なぞ、どうなるのかさっぱりであるというのが本音である。

それこそ我こそはという相手を全て片っ端から打倒していくのだろうか。

流石にそれは無理があるだろうから、そうなると分かり易いのだと全国の副長クラスを打倒するというのが妥協点かも、と思う。

だが、それだけが熱田の願いなのだろうか。

そもそもの話

 

「……お前にとって最強とはどういう意味だ……?」

 

 

 

 

 

 

「あー……超ぶった斬りてぇ……」

 

最強たる熱田はアデーレ指揮による武蔵と現超祝福艦隊の対峙を見守っていた。

歴史再現的にこの戦争は艦隊戦争だ。

無論、やろうと思えば武神などを使って空襲する事は可能だろうけど、向こうさんはそれをやるとするならば後ろに置いた本隊からエースナンバーの武神隊を使わないといけないだろう。

 

「使って来たら叩き落しに行くのによぅ」

 

現在、熱田神社への階段に座って足をぶらつかせている身としては己を利用するタイミングを欲しているのだが、流石に海戦で手前勝手に飛び出して混沌とさせる趣味はあるが、周りの馬鹿共に先手を打たれてネタを封じられた。

俺はただ八俣の鉞のブーストで空飛んで戦艦を叩き斬りに行こうとしただけなのに……

 

「……なぁ留美。人間、やりたい事を制限された場合のストレスはどういう風に付き合えばいいと思う……」

 

「Jud.シュウさんの場合は何かを斬ればいいと思います」

 

近くでひっそりとにこやかに笑っているうちの巫女の発言に実に俺の事を分かってらっしゃる、と周りから声が響く。

まぁ、そりゃあここに熱田神社に所属している馬鹿共が集まっているから響いているわけだが。

 

「そのぶった斬りを制限されているんだが、その場合はどうするんだ?」

 

「成程……でも敵を斬るのを制限されているだけで味方を斬る事は制限されていないんですよね?」

 

「おいおい留美。それじゃあまるで俺が敵味方関係ないぶった斬る快楽殺人鬼みたいな扱いじゃねえか。いいか? あの外道共は斬っとかないと間違いなく恥としか言えねえ何かをするからその前に斬っとこうと思ってるだけだ。ついでに斬ると良い事をしたって思えるな」

 

「否定出来てねえよ!」

 

周りのツッコみを無視して、よっこらせと揺れる足場を気にせずに立ち上がる。

そこでようやく俺は周りにいる馬鹿共を見る。

そこには老若男女問わずに境内の中で神社の敷地を小さく感じさせる人数が集っている。

人種も含め関連性が無さそうな連中に唯一関連があるのは持っている物───あらゆる武器のみが繋がりであった。

 

「全く。どいつもこいつも馬鹿らしい。こんな馬鹿騒ぎに乗る理由なんてお前ら無ぇだろうに。好奇心は寿命を縮める病気だぞ」

 

「ではどうして若は行かれるのですか?」

 

集団の中からうちの最古参のハクが苦笑してそんな事を聞いてくるから俺はそっちを見ずに答える。

 

「何だハク? テメェ、まさか俺が約束なんてモノにしがみついて付き合っていると思ってんのか? んな美談じゃねえから安心しろ。最強の証明の為だ」

 

「Jud.───想定通りの美談で何よりです」

 

けっ、とどいつもこいつも捻くれた対応しやがると心の中で愚痴る。

人の事を言えた義理ではないからこそ、お前らくらいは馬鹿な道に付き合う必要はないというのに。

 

「全く、まさか拾われたからとか、んな馬鹿げた考えで動いているんじゃないだろうな?」

 

「何を仰りますか? ───それは前提条件です」

 

半目でハクを睨んでいると素知らぬ顔で視線を逸らしやがる。

そうしていると周りの野郎、と女どもが口々に言葉を吐いてくる。

 

「我ら世界から爪弾きにされたならず者。武蔵の住民からも怖がられる嫌われもんでっせ?」

 

「そんな嫌われ者にモノ好きな若が居場所をくれたんだ───そりゃついていくってものよさ」

 

「ええ……ついていった先で予想外の事件にしか巻き込まれないと悟った時前向き思考って大切なんだなって気付きました……」

 

「おい、こらテメェら。話にオチをつけなきゃ駄目な病気なのかよ」

 

全員が視線を逸らすので後で全員斬り倒そうと誓っておく。

そこで留美が視線を逸らしていないのが可愛げがあるのか無いのか。

こうしている間も武蔵は揺れたり騒いだりの大騒ぎなのだが、俺が気にしていないので周りは揺れに対応したり、聞こえる騒音に視線を向けたりだけする。

 

「若は手伝わないので?」

 

「若言うな。ま、艦隊戦だかんな。別に暴れられないってわけじゃあねえが賢くはねえし、何よりちまちましてるしな───狙うなら小物よりかは大物だな」

 

俺の言葉を聞いて、それぞれが見るのは現在の超祝福艦隊ではなく、本来の超祝福艦隊。

現在、相対している艦隊が弱いというわけではないが、やはり性能、数、人、武神なども含めれば元の本隊がいた方が今よりも間違いなく戦況は厳しくなる事だけは誰もが読み取れる。

しかし

 

「……熱田センパイはあいつらが来ると思ってんですか?」

 

「いい質問だなコウ。答えは簡単だ───俺が知るか」

 

言われた後輩がそりゃねーよ! って叫んでいるが愛すべき後輩は無視して熱田は持っている鉞を適当に回しとく。

鉞は『カイソクブッタギリー』と楽しそうに回っているので、つまりペットの遊びだ。

そうやって遊びながら

 

「だが、あのフェリペのおっさん……本当に何も守れなかったのかね、とは思うわな」

 

それは先程、フェリペ・セグンドが自嘲して語った言葉であった。

 

僕は何も守れなかった、と。

 

力のない笑みで、しょうがないとしか言えない表情と声音であちらの総長は語っていた。

それらの苦悩と苦痛を苦笑で封じはしていたものの、その無念は隠しきれるものではなかった。

だが、確かにそれらの事実は彼の主観によるものではあるだろう。

人は案外己が為した事に鈍感である事が多々ある。

 

「でも、どうしてそう思うんですか若様」

 

「若様やめぃジン。ま、簡単だそれも───泣いてただろ?」

 

その意味を察せれるのは流石にこの場にいる熱田に近しいメンバーでも全員がとはいかなかった。

だが、最も近しい巫女と最も付き合いが長い少年は不動の在り方を貫くことを選択していた。

ただそれだけであった。

でも少年の苦い笑みで吐かれる言葉に不動は無かった。

 

「泣くほど大事な人が戦っているのを黙って見届けるのは男でも女でも難しいもんだ。涙ほど人を我儘にさせる演出は無いってな」

 

「……神様もそんな経験を?」

 

薙刀を構えている少女の問いかけに剣神は沈黙か、もしくは無視の態度を選んだと皆が思った。

問いかけた本人も踏み込みし過ぎたと後悔し始めた瞬間に返答は帰ってきた。

 

「剣神だからな───刃の感触しかなかったわ」

 

その言葉に不動を貫けなかった少女がいたが、熱田は今度こそ無視という態度で見て見ぬ振りをした。

熱田は座り込んでいた姿勢からよっ、という掛け声と共に立ち上がる。

肩に担ぐように刃を持ちながら、表情は何時もの戦意に溢れた笑みだ。

 

「ちと喋り過ぎたな───さて、そろそろ副長として動くかね」

 

熱田が見ている何時もの外道チャットでは俺のさぼりの発覚を見つけ、野郎酷い目に合わせてやる! という結論でテンションを挙げているのでこっちも酷い目に合わせてやる、と反撃の決意を心の中で燃え上がらせておく。

 

「お前らは適当に好きに動け。俺の為に動きたいだなんて臭い理由で動く奴はぶった斬るからな。俺は別にお前らに恩着せたかったわけじゃなくお前らの力に目を付けただけだからな」

 

今度こそその場にいる全員が全く同じ動きをした。

 

笑みに苦みを持たせた顔を全員が作ったのだ。

 

少年の偽悪趣味を知っている身からしたら、指摘しても絶対に素直に答えないと知っているので何も言わない。

だが、彼の表向きの言葉を素直に受け取った。

何故ならそれもきっと真実だからだ。

そしてその真実こそが何よりも自分たちが欲したもの。

力を手に入れ、成りたいモノ、守ろうとする為に得た力をしかし果たせなかった無力で居場所も失くした自分達をやるじゃねえか(・・・・・・・)、の一言で少年に欲せられた事がどれ程の奇跡であるかなど、この場にいる者ならば誰もが知っている。

その言葉を受けて涙を流して少年を困らせる者もいた程だったのだ。

故にここにいる者は命じられたからここにいるのではなく、ここにいるという意思があるからここにいる。例え、少年が無間地獄の主であったとしても。その先が無間地獄に連れられるのであったとしても力の先をつけてくれた神に信仰を捧げ続けるだろう。

 

故に熱田神社を離れる者はいない。

 

こここそが無間地獄。

我らは無間の刃の一欠けら。

最も愚かで正しく間違った神の、否、少年の離れぬ力である。

 

だから誰もその言葉に答える者もいない。

当然の事を一々自慢するような事をする程、面倒な人間はここにはいないという証明であった。

だから、代表して留美が少年に声をかける役を請け負った。

 

「シュウさんの考え通りなら……立花・誾を?」

 

「おお、それな。俺も順当に考えてそうしようかなぁって思ってたのよ。前回のバトル的にそんな感じだと俺も流されていたわけよ」

 

成程、と思いつつ留美は首を傾げる。

何故なら台詞的に、こちらの言う事に同意していない。

むしろ全く逆で

 

「宗茂が復活していないのが残念だなーーー。まぁ、思いっきりぶん殴ったからしゃあねぇよなぁー」

 

まるで子供のように笑う彼を見て───上空から降ってきた流れ弾が少年の頭上に落ち、彼を影で塗り、最終的には己で塗り潰そうとするのを知覚する。

当たれば、まぁ人間なら間違いなく死ぬ一撃だろうとは思う。

古いとはいえ戦艦の砲弾だ。

人など直撃すれば形が残れば御の字である。

だから、留美は特に気にせず頬に手で触れてあらあら、と全く困っていない調子で呟くだけ。

周りも上からの飛来物に一瞬、視線を向けて、しかし何も言わない。

 

少年に1秒で当たる所で砕け散っていく砲弾についてわざわざ何かを言う必要が無いからだ。

 

肩に担がれていた大剣は振り上げる姿勢に何時の間にかなっている少年に

 

『イツモドオリダネッ』

 

うむ、と少年は頷き、笑みの種類は変わらないまま

 

「さぁて、どんな嫌がらせをしてやろうかねぇ……」

 

剣神が遊びを望む。

そして此度の戦争は彼の王が夢を叶えに行くと決めた戦争。

つまり、彼のやる事成す事全てが肯定された戦争だ。

10年前から約束されていた物語の序幕だ。

そして自分の好みの始まりとなると

 

「へへっ……派手にやるとしますかね……!」

 

 

そう───狙っていい敵は別に一人ではないよなぁ?

 

 

 

 

 

 

 




はい皆さんお久しぶりです。悪役です。
本当ならどこぞのキチガイシリアス男が昨日更新出来るなどとのたまっていたのでその日に合わせて更新するかーと思っていたらヘタレかまして無しになったので自分だけ更新です。
あのヘタレ、ついに自分はヘタレの神になったぜ…! などと自慢してきた超うぜぇ邪神になったのだが、何を今更というものですな。

そして今回はまぁ、熱田神社の紹介というのがメインでした。
熱田神社は作中で言ったように熱田が興味を抱いて、且つ未来を見れなくなっていたチンピラ達を拾ったような場所です。犬猫かよ。
まぁ、だからこそ主神に対する信仰はかなり強いのですが。

次回はもう一気にかっ飛ばす気がします。具体的にはおじさんシーンまで。
何故ならここら辺は介入する隙間や必要性がマジで無いんですよねー。無論、悪役の筆力の無さという理由もありますが……え? 忍者は? 忍者の活躍とキスシーンなどむかつくだけだぞ!

ともあれ遅くなりましたが、感想・評価などばしばしくれたら、と。くれたら悪役のやる気が上がって嬉しいので御座います。



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