不可能男との約束   作:悪役

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始めて終わらせ進めて止める

でも、もう待つことはない───

配点(待ち時間)



祭の終幕と夢の開幕

 

神納・留美は恐らく英国の現場にいる者を除いたら、早くに英国の異変に気付いた方だろう。

恐らく、シェイクスピアによる舞台術式とも言える結界が英国に生まれ、そして役職者達が巻き込まれていると気付いた。

既に武蔵の役職者達は戦闘か何かに巻き込まれ、女王の盾符(トランプ)のメンバーと相対しているだろう。

───無論、それは武蔵副長でも例外はない。

だが

 

『~~~♪』

 

預けられた大剣。

名前は何時の間にか八俣ノ鉞という名前を付けたらしいが、その剣がただ通し道歌を歌うだけで何の反応もしていない。

だからこそ、留美はやるべき事を把握して手筈を整え、それを頼んだ。

だから、やるべき事をした自分は縁側でお茶とお菓子を持って碧ちゃんと一緒に楽しんでいる。

 

「碧ちゃんも甘いお菓子好きですから、一杯用意しました。幾らでも食べていいですから楽しみましょう」

 

「Ju,Jud.……でも、その……このミミズっぽく、しかも動いているこのお菓子は……」

 

「あ、それはこの前、鹿島さんから送られたミミゼリーですね。何でも再現度MAXの一押しだから是非シュウさんにっていう事だったんですけど、シュウさんの好みにマッチしなかったみたいなので折角だから貰っちゃいました」

 

何故か碧ちゃんが真面目な顔で"やるしかない"という顔になってたけどどうしてでしょうか。

とりあえず、お茶も用意して臨時のお茶会みたいな雰囲気……というよりは女子会みたいな感じになっているのと思い、内心で苦笑する。

 

「でも、碧ちゃんは良かったんですか? 英国に降りなくて?」

 

「いえ……それは今の状況をみると自分の選択肢が間違っていなかったという感じですが、降りてもまぁ一緒に歩けるメンバーがうちの馬鹿共だけですし……ペルソナ君様とコミュニケーションが取れなかったのが唯一の敗北で……」

 

あらあら、と思いながら落ち着かせるために食べましょうと促せる。

 

「……この饅頭みたいなものは?」

 

「ああ、それはシュウさんが日頃お世話になっている頭が幸の村製作所の代表の人が日頃の礼にという事で送られたキャッチフレーズが"誤爆"という饅頭で、何でも今回は一切ネタ抜きで作りましたとの事で」

 

「……留美さん。ちょっとだけ目を瞑っていてくれませんか」

 

頼まれたのでそうしたら数秒後に何か大きな音が聞こえ、その後に目を開けてもいいと許可を得ると息を荒げる碧ちゃんがいた。

あらあら? と思いタオルを持ってきて汗を拭いてあげ、今度こそお菓子を食べ始めた。

 

「その……それを言うなら留美さんも祭りに行かなくてもよかったんですか?」

 

「私も留美ちゃんと同じです。一緒に行く人はクラスの人達もいたけど、悪い癖がずっと続いているの」

 

「悪い癖?」

 

「Jud.───何時までも夢を見続けてしまっているから」

 

彼女がお菓子を食べる手を止めるのを理解するが気づいていない振りをしてお茶を飲む。

少しだけ沈黙と私のお茶を飲む音が響くが、碧ちゃんも直ぐにお菓子に再び手を付け

 

「聞くまでもないし、失礼な質問なのかもしれませんが……留美さんはうちの神様の事が好きなんですよね?」

 

「私がどう思っていても、シュウさんには関わりはない事ですよ?」

 

「Jud.───つまり告白はしたんですね?」

 

「見事に玉砕しちゃいましたけどね?」

 

苦笑でこちらが笑うのを見たからか。

少しだけお菓子を動かす手が何時も通りの動きになってくれているのを見て、自分も再び小さいお菓子に手を出す。

 

「どちらからで?」

 

「───どっちからでもあった気がするんですよね。シュウさんは察しが悪そうですが、こういった事には間違う人じゃないですし、私も隠す気がなかったですから」

 

「留美さんはそれでいいんですか?」

 

「あの人がそんな器用な生き方が出来ると思う?」

 

そういう人だから私も好きになった、と言ったらロマンがあるのかもしれないが、残念ながら私はこういった事に関しては論理とか理由付けとかではなく感覚で求めるタイプだったから上手く言葉には出来ない。

それに最初から負ける事が決まったような勝負でもあった。

だから振られた時もショックではなかったし、逆にもっと早くても良かったのにと思ったくらいであった。

 

「じゃあ、その……」

 

「───簡単ですよ。私が甘えたがりなだけですよ」

 

本当ならすっぱり諦めるべきなのだろうとは私も思っている。

いっその事、熱田神社の巫女も止め、それこそ新しい人生をスタートするべきであったのかもしれないし、それとも巫女だけして違う人を見るべきであったのかもしれない。

ただ、これは予想外に自分の器が小さかったというのか。

今までの人生で色んな人と出会ったし、格好いい人も偶には出会ったことがあるし、純粋にいい人だなと思った事もあった。

きっとこれからも色んな人と出会うことになって自分が変わるかもしれないという可能性がある事も理解しているのだ。

でも……とりあえず現時点で振られたというのに何故か一切捨てる気が起きないのだ。

 

自分の事なのに普通に驚きましたねー……

 

いや普通に不味いです、と思って諦めようと試行錯誤したものである。

すると不思議な事に最終的には結局、彼の事を考えているのだから。

ストーカー気質なのでしょうか? と思い、素振りで煩悩退散と頭の中で繰り返したが何も変わらなかった。

そして色々として、振られて一週間経った頃くらいだっただろうか。

そこまで行くと逆に清々しくなって、だから彼と一対一で話し合う場を整えてもらい

 

「これからもお慕いしてもいいですか?」

 

と笑顔で聞いた時の彼の表情は私の宝物であった。

本人としては殴られたり、三行半を叩きつけられる覚悟の面会だったらしいし、それが普通なのかもしれないがどうもそういった事は苦手らしい。

何とも諦めの悪い自分である。

 

「……うちの神様は一体留美さんに何をしたんですか……?」

 

「凄い事をしたりとか特別な事をされたりとかじゃないと思いますよ───単にシュウさんが私の好みに当て嵌まり過ぎたんだと思います」

 

碧ちゃんが凄い勢いで手で自分を仰いでいるが、暑いのだろうと思い団扇を持ってきてあげた。

 

「あ、言っておきますけど、私はこれだけアタックすれば彼も心変わりしてこっちも見てくれるとか思ってませんしね?」

 

「ないのが留美さんの凄い所ですしね」

 

解ってくれていてほっとした。

まぁ、自惚れ発言で思わず頬を赤くしてしまう発言だったのだが、きっとシュウさんが心変わりする事なんて那由多の彼方の確立以上にない事だと思いますけど。

自分に勝っていいのは一人だけと思っているのと同じくらい、彼は自分が愛するのはこの世で一人だけと思っている。

まぁ、だから普段の意地悪くらいは許してほしい。

惚れている私でもいい加減、告白しては? と伝えたいのに何時までも何もアクションをしないのだから普段の仕打ちくらいは許してほしい。

 

「……本当に無駄なくらいロマンチストなんですから……」

 

 

 

 

 

「智ーーーー! どこだーーー! 俺は今、お前の胸と尻と太腿と首筋、髪、顔、そしてお前自身に凄い会いたいぞー!! 俺はここだぁーーー! どこにいるんだ智よ! 俺の三次元ロマン……!」

 

 

 

 

きっと彼の事だから浅間さんを今も探しているのだろう。

守るのは苦手分野とか言いつつ大事な人にはそのルールを適応させない人ですし。

 

……今度はちゃんと自分の手で守りたいんですよね?

 

"自分では"、"自分には"という後悔を持ちながら、それでもすると決めた事を邪魔する程野暮ではない。

だから、それ以外の些事を手伝う……ではちょっと嫌味に聞こえるかもしれないから

 

「好き勝手させて貰いますね」

 

 

 

 

 

ウェストミンスター寺院から急いで逃げる本多・正純は首元をかばう仕草を続けながら必死に逃げていた。

既に自分がどういう揉め事に巻き込まれているかは理解している。

武蔵の総長連合、生徒会と女王の盾符による相対によるものなのだろう。

だから、私も狙われている。

ただ、まさか狙ってくる相手が

 

「待つのデーース! そこのエロ死刑囚ーーー!」

 

「保険の成績だけで勝手にエロキャラ扱いするな……!」

 

思わず叫んで、そのまま慌てて首元に衝撃が来ていないか確かめてしまう。

そこの首元にあるのはハードポイントであり、そこにはついこの間、契約したばかりの走狗であるアリクイがいる。

契約した場所は風呂場だが、風呂場で契約というとシチュエーションに反応してしまうのはクラスの毒の影響だろうか。おそろしい。

冗談を考える程度には冷静になれたようだが、余裕は一切ない。

何故なら負傷の度合いについては細かくは解らないが、アリクイが怪我をしているという事実があるからだ。

不詳の原因は簡単な事であった。

先に背後から来る変な骸骨……一体、どんな残念があって残ったかかなり疑問で遺憾だがとりあえず気にせずに考えて、一応女王の盾符のメンバーの一人であるクリストファー・ハットンの奇襲を男子用の上着を犠牲にする事で避け、そして逃げようとした所に投げ槍が飛んできた。

問題はそれに対してぎりぎりに避けたのがいけなかった。

それが原因でアリクイはこのような負傷を得ている。

 

「くそ……!」

 

すまないとしか言いようがない。

このアリクイが一体どれくらい幼いか解らないし、走狗に自分の知っている常識ルールが通じるのかも少し謎だが、それでも間違いなくまだ親に頼って生きていた子供であった事だけは間違いない。

外の事なぞまだ何も理解できないに等しい小ささなのだろう。

それに思わず嘗て、母に甘えていた自分を想起し

 

「六十二年三組ーーー! 全員起立ーーーーデス!!」

 

唐突に地面から競り上がった白骨の群れに対処出来なくなる未来を得てしまった。

 

……しまった……!

 

馬鹿か私は、と自分を詰りたくなるが詰った所でこの状況をどうにか出来るわけでもない。

切り返そうにも間に合う気もしなければ、背後にはハットンがいるので後方は当然無理。

横に跳ぼうにもそこまで激しい動きをすればハードポイントからアリクイが零れ落ちてしまうのではと考えてしまえば、動こうにも動けない。

だから、せめて首元を抱えてこれ以上、アリクイに恐怖を与えないようにすることだけであった。

未来に待ち受ける串刺しを思い、思わず思った事があった。

そういえば自分がこれ程、命というものに対して必死に抱え込もうとするのは初めてではないか、と思い、それと同時にショック体勢をになる自分に間違いなく衝撃が放たれた。

 

 

 

 

 

 

ハットンが見た光景は本多・正純が槍によって串刺しにされてグロ画像になる光景───ではなかった。

ハットンが見た光景は自分が召喚した白骨クラスがその骨を散らせて、断たれて、砕かれる光景であった。

 

───What!? ----デス!

 

いきなり何が起きたのか。

役職者で襲名者ではあるが、戦闘系ではない自分にはいきなり何が起きたか理解するのは難しかった。

しかし、唐突ではあったが何がどこから来たかは視覚が捉えた。

飛来してきたものは武器であった。

それも分類的に言えば剣とカテゴライズされるものであり、中には巨大な大剣やナイフのようなものも入り混じった剣の集合体であった。

そしてそれらは上から落ちて、否、攻撃されてきた。

落下軌道に明らかに人の意思が介在されていた事には流石にハットンでも気づく。

何故なら、剣の落下地点はどれもハットンによって召喚された白骨クラスにのみ命中しており、本多・正純には刃どころか破壊によって生まれた礫すら当たっていない。

つまり、これは

 

「敵襲ーーーデス!?」

 

「Jud.───背後からのサプライズプレゼントです」

 

声が聞こえる頃には既に首から下の骨格が全て粉砕される音を出していた。

 

 

 

 

 

 

骸骨の頭蓋骨が英国の空に吹っ飛ぶという謎の大シーンを背景にしながら、ハットンの背後に立っていた人物をようやく正純は視認する。

 

「───熱田神社のハクか!?」

 

「Jud.無事で何よりです」

 

ありのまま悠々とこちら側に散歩のような調子でくる彼に思わず、ほっと息を吐くのが止められなかった。

役職者じゃなくても、戦闘系の神社の者なだけに莫大な安堵を獲れるのを止めれなかった。

だが、そこでようやく疑問に辿り着く。

 

「ど、どうやってこの演劇空間に……?」

 

「うちの巫女が即座に対処してくれました。若や他の特務はともかく副会長は非戦闘系だから危険と判断し、自分が護衛に」

 

そして予測が事実になりそうな所を助けてもらっというわけか。

有り難い、と心底そう思い、立ち上がろうとするが

 

……あ。

 

膝に力が入らない。

今更、ここまで震えるとは情けない。

自分のような非戦闘系も、何かの拍子に戦闘に巻き込まれるかもしれないというのは予測はしていたが直面すると来るものがある。

そうやって考えると総長連合のメンバーの苦労が一端とはいえ理解できる。

自分から見てもハットンは戦闘系と見るには、少し普通レベルなのだろう。

現に戦闘系神社の人間とはいえ後ろを取られ、そのまま───って

 

「ハットンは!?」

 

「ええ───どうやら頭蓋骨噴出脱出によるもので逃げられました。今度からは骨タイプを見たら頭蓋を狙うという反省と教訓にしておこうかと」

 

ええ、から繋がる内容かそれ……!

 

見た目普通そうに見えるがやはり、彼も熱田系なのか。そうなのか。やはり、私の心のオアシスは向井と浅間くらいなのだろうか。いや、浅間も浅間で輸送艦とか軽く落とすからなぁ……つまり、一般人は御広敷とハッサンとネンジとイトケンとノリキとペルソナ君か!

……でも、それもロリコンとカレーインドとスライムとインキュバスとバケツ被ったマッチョだぞ!? ノリキはまともそうに見えるが、女王の盾符と限定的だけど相対出来る一般生徒だからなぁ……やはり向井だけか……。

葵姉? あれは論外だ。葵と熱田レベルに生物範疇外だ。

 

武蔵の一般人代表として向井は守らなければいけない……ああ、絶対だ……。

 

重い覚悟を作りながら、近づいてきたハクが警戒を続けながらこちらに近寄る。

 

「首にお怪我でも?」

 

「あ……い、いや……走狗が……!」

 

言葉少ない言い分で理解してくれたのだろう。

少しだけ表情を変え、膝立ちになってこちらの首元を見る。

 

「参りましたね……走狗関連なら留美の管轄で……───いや。丁度良かったみたいですね」

 

「は?」

 

何がだ、と答えを問う前に、視界が暗色に染まった。

何らかの攻撃か!? と思うが前に黒色に意識が同調してしまい、せめて首元に手を置く事だけは念頭にした。

 

 

 

 

 

───は!?

 

急速に目が明けて見たものは巨大な立体であった。

 

何だこの立体は……!?

 

何故か驚愕する自分に逆らえずに瞳孔が開いた気がする。

何故だ。

何故か、この立体は大きいと驚愕する存在な気がするのだ。

この謎のロジックで生まれる遺憾という感情はなんなのだろうか……そう思い、思わず両手を上げてそれを掴むと

 

「きゃっ」

 

立体から声が聞こえた。

違った。

厳密に言うとその立体は付属物だ。

自分の状態も頭だけが浮き上がっており、後頭部の下に何か温かいものを引いている感触。

膝枕であった。

そして掴んでいるのは巨乳であった。

そしてしてくれている人物は浅間であった。

 

……これは何のイリュージョンだ!?

 

 

 

 

「どこだ智……! これだけ呼んでも見つけられないとは! 足りないというのかこの偉大なスピリチュアルブラスターが……! く……いや、まだだ! 俺達の前にどんな壁や問題があっても俺がぶった斬れば何の問題もねえ……! そう! そして最後は俺と智の合体……! ってこれ街頭じゃねえか! 畜生……俺の巧みな妄想力によって補われた俺の脳内イリュージョンに騙された……!」

 

 

 

 

……今までの記憶はもしかして自分の都合のいい脳内妄想によって生み出されたイリュージョンではないで御座ろうか。

 

思わず、そう考えつつも倫敦塔を登るのは止めない。

ここまで来るのに傷有り殿とこの祭りを見回った。

と言っても、どちらかと言うと自分がエスコートされていたようで少々、面目ないというか。

忍者としても男としても微妙に情けない気がする。

 

……いやいや。これは倫敦塔に登るための作法。作法で御座るよ?

 

傷有り殿が語ってくれた作法だ。

うちの外道メンバーなら間違いなく、ここで"来る"所だが、彼女なら安心を通り越して癒される。

鈴殿と同レベルの清浄度である。

疑うなんて以ての外で御座る。

これで相手が喜美殿やナルゼ殿なら間違いなく裏しかない。

 

……いや、だが、逆に二人がまともになったら怖いで御座るな。

 

もしもあの二人に例えば「点蔵、大丈夫?」などと心配されたらストレスで崩れ落ちる未来しかない。

だが、そういった心配の間に思わず脳がと括弧で加えそうになってしまうのは慣れだろうか。

恐ろしい症状だ。武蔵病とも言える疾患だ。何とかしなければ。問題は治療する医者不足な事なのだが。

 

「どうかしました? 点蔵様?」

 

「え?」

 

いきなりの呼びかけだったので、声に呼ばれるままに視線を向けるとそこには尻があった。

おお、これはまっこと見事な立体。

流石は傷有り殿。精進を怠っていない素晴らしい立体をお持ちで。

 

って、これは明らかに変質者の思考で御座るよーーー!

 

いかんいかん。

自分、少し傷有り殿に対して甘え過ぎではないか。

彼女が器が広い事を利用して、このような下心で接するとは……トーリ菌はしっしっで御座るよ。

 

「い、いや……その……装いを見て、改めて見事かと」

 

「まぁ」

 

嬉しそうに微笑んでくれているのは、本気にされていないのか。もしくはお世辞と思われているのか。

まぁ、自分でも流石に無理があるし、キャラではないと自覚しているのでそんなものであろうと思う。

気を付けなくては。

尻を見て発情期になるような獣みたいになってはいけないのだ。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……流石、我が娘……! 他のどうでもいいケダモノ集団にわざわざ笑顔を振り撒くなんて……父さん許しませんよ! 娘の尻を見ても罪に問われないのは父の特権! あの餓鬼共は去勢を───はっ。ハルさん!? どうしてこの場所を!? これは授業参観ですよ!?」

 

 

 

 

 

 

ケダモノになるのはいけない。

大体、そういうのはミトツダイラ殿やシュウ殿がいるのでキャラ被りで御座るよ。

そう思っていたら

 

「こちらです。こちらに点蔵様にお見せしたいものがあります」

 

傷有り殿が示した先をそのまま見るとそこは明らかに

 

「部屋で御座るか?」

 

一見すると普通の部屋の扉にしか見えない。

それに傷有り殿はjud.と笑みと共に答え

 

「八畳くらいの書斎です」

 

誰ので? と問おうと思ったら、彼女は懐から鍵を取り出してそのまま扉を開けるために使用した。

流石に疑問を浮かべる事は禁じ得なかった。

鍵を使ったという事は、この部屋は一般に対して公開するものではない。つまり、隠しているものなのだ。

そんな部屋の鍵を傷有り殿が持っているという事は、彼女が英国に情報閲覧の公開の許可を得れる程度の力か繋がりを持っている事になる。

それに対して、何かを問うべきかと考え

 

「───」

 

選ばなかったのか、選べなかったのかを少し考え、部屋に入った。

 

 

 

 

 

 

点蔵が入った部屋は半円形の暗い部屋であり、それは今、傷有り殿がカーテンを引く事で対処しようとしている。

その間に点蔵は先程の傷有り殿の台詞を脳内で再び唱える。

 

妖精女王の父……万能王、ヘンリー八世の書斎とは……

 

聖譜によればテューダー朝第二代の王であり、有名な話と言えば六度の結婚とローマ・カトリック教会からのイングランド国教会の分離をした人物であり、自らが国教会の首長となった人物だ。

とりわけ、絶頂時代においては最も魅力的で教養があり老練な王とされていた王らしく、カリスマというものでは間違いなくうちの馬鹿の遥か上であったのだろう。

いや、そもそも全裸と比べるものではないかもしれないが。

ともかく、為政者としては凄い人だったのだろう。

だが、晩年は男の世継ぎを渇望した為、好色、利己的、無慈悲かつ不安定な王になったともされる王であった。

結果が全てという視点と結果だけが全てではないという視点の違いによって評価が変わる王ではあったのだろう。

とは言っても、それは聖譜のヘンリー八世であり、今の襲名者であったヘンリー八世とは別人なのだが。

現に過去の王族といえばというイメージと部屋に置いてある物の位置などが中々違うのが面白い。

 

中々、背が高くて、体格のいい方であったので御座るなぁ……

 

そういえば、あの教皇総長もかなり体格はいい方だったのを思い出すと意外とトーリ殿みたいなのは少数派なので御座るかな? と思ったりする。

まぁ、あの馬鹿は無能として選ばれたから他国の総長選択基準から些か外れてはいるのだから比べる方がおかしいし、失礼かと思う。

全裸と同列にしてはならん。

そんな益体もない思考をしていたら、傷有り殿から驚きとも言える事実も教えて貰った。

 

ヘンリー八世とカルロス一世が交友を……?

 

最近はそういった偉人の実はこんな事があったのだ、という話を聞くことが多いで御座るなぁ。

そもそも、よくよく考えれば武蔵の総長連合及び生徒会には襲名者が少ない。

あやかりなどは結構いるので御座るが、襲名しているのはミトツダイラ殿とホライゾン殿くらいである。

勿論、先輩や後輩には襲名者はいるし、確かトーリ殿と喜美殿の両親も元襲名者であったと記憶している。

だから、アリアダスト教導院の内部でも襲名者と関わる事は皆無では無かったのだが

 

……内輪の事だからそういった驚きとは無縁で御座ったなぁ。

 

やはり、こういった刺激は外部の事の方が衝撃的で御座るな。

傷有り殿が実は金髪巨乳美少女であったのが今まで一番の最大の驚きであったで御座るが。

うむ、あの記憶は今でもこの忍者にとって最大の驚きであったで御座るな。

まぁ、それは置いてだ。

まるでその言葉を証明するかのようにヘンリー八世がカルロス一世に言ったらしい。

 

"Long time my friend"

 

どう訳しても"久しぶりだ我が友よ"という意味を持っていた。

後でお茶を濁したらしいが、幾らなんでもわざととしか思えない。

あからさまな大仰な台詞を疑うなと言うのは無理がある。

そして傷有り殿は違う話題を続けた。

 

キャサリン王女が血塗れ(ブラッディ)メアリを生めなかった事に対して妖精に隠されたという言い訳を放ったと。

 

どう見ても苦しい言い訳。

うちの馬鹿共が覗きに行った時

 

「ああ!? これは覗きじゃないぞ!? 青春を分かち合う友情みたいなもんだよ! なぁ親友!」

 

「応とも! 俺達はエロ目的だけで覗いているだけじゃねぇ……! 裸の付き合いで心まで深く繋がり合おうという……! いよっし! ナイスなエロ言い訳だ! 相手が男ならこれで通らねえ訳がねえ!」

 

勿論、番屋で寝る事が決定した瞬間であった。

残念な事に言い訳を聞いている相手は女性であった。男性であっても職務に忠実ならアウトだろうが。

それよりはマシではあるが、それでも妖精に隠されて生めなかったというのは流石に無理がある。

しかし、その言い訳は通った。

そして無茶な言い訳が通るという時の理由というのは恐らく単純に

 

「……前例があったので御座るか?」

 

「Jud.仲の良かった男女3人が一度」

 

その3人が

 

「襲名前のヘンリー八世総長にキャサリン王妃……そしてアン・ブーリン」

 

それらの情報はほぼ抹消されており、それを知っている人も遠ざけられたり消えたりしていて明確ではないらしい。

ただ噂だと3人が消えたのは1年くらいの期間。

その間にカルロス1世に出会ったのではないかという事。

そして

 

「だからこそ誰も疑われなかったのです」

 

二度繰り返された言葉に同じ内容を語ったのではないと気付き、何をと問うよりも前に彼女は鎧戸を引いた。

少々暗い部屋だったので突然の光に少し目を細めるが、逆光で顔が見えないながらも彼女の視線が自分……いや自分の背後を指し示す力を見つけ、そしてそこに振り返り───見つける。

 

「二境紋……!」

 

「極東ではそう呼ぶらしいですね。または公主隠しとも……点蔵様。これが私が点蔵様にお見せしたかった事……英国の万能王ヘンリー八世は点蔵様達が探している謎によって消失していること───これは妖精の仕業なのでしょうか? それとも別の何かなのでしょうか?」

 

それに答えられる解答を自分は持ち合わせていない。

だから代わりに自分は傷有り殿ではなく二境紋と共に書かれていた一文を見ていた。

 

"Long time my friend"

 

それは一体、誰の言葉なのだろうか。

自分にはやはり解らなかった。

 

 

 

 

こうして色々聞かされた点蔵は傷有りと一緒に昼の光を浴びるかのように外に出て歩いている。

こうして色々な情報と出来事を経て膨らむ思いが一つある。

それは

 

……この御仁は一体誰なので御座ろう……

 

少なくともヘンリー8世の部屋の鍵を所持できるレベルの身分である事は間違いない。

まさかエリザベス女王……なんて事は流石にないだろうしメアリ殿……というのもおかしな話だ。

何故ならメアリ様は南西塔に収監されているし、その姿は民に目撃されている。

だからそれもおかしいと思われる。

なら、普通に考えると彼女達の傍付きの侍女とかの身分だろうか。

そこまで考えて気付いた。

 

……深入りしているで御座る

 

他国の人間に世界征服を宣言した武蔵の第一特務の忍者が。

無論、情を持つなというのは人間として割り切るのが難しいからそこはいいとする。

しかし自分は一介とはいえ忍者。

刃の下に心ありという言葉の成り立ちの戦種だ。

そんな自分が他国で、しかもヘンリー8世の部屋の鍵を所有出来るレベルの相手に深入りするのは忍者としてなっていない。

ただでさえ自分ら武蔵はこれからが大事な時期である。

無論、その大事の度合いは今日のトーリ殿とホライゾン殿とのデート結果で変化はするだろうけどうちの外道トップが揃って楽な道に行けるとは今まで積み上げてしまった悲しい経験が不可能と告げている。

お前らの不可能は俺の物と断言している馬鹿にこの不可能を叩き込んでやりたいものである。

だからまぁ、色々と内心で悶々としていると当の本人がいきなり

 

「点蔵様。───私と勝負をしませんか?」

 

「……? 勝負で御座るか?」

 

一瞬、色々と考えてしまったがここまでの彼女の人柄や口調に多少の幼さのようのものを感じたのを考慮して出来るだけ普通にどんな勝負で御座るか? と訪ねると彼女も笑みの成分を混じらせた口調で

 

「Jud.私が点蔵様の御顔をご覧に入れる事が出来れば私の勝ちというのはどうでしょう?」

 

あ、それは無理で御座る。

 

と、即答しようと思った。

忍者にとって顔を見せるという事は死ぬのと同義である。

それを彼女に伝えようとして

 

「……!?」

 

唐突に倫敦塔の北西塔が崩壊し、石組みと木板の礫が空から崩落した。

突然の事態だが点蔵は落ちてくる礫が濠に落ちていくものと判断を一瞬で下し

 

「───傷有り殿!」

 

そう一言告げ、自分は倫敦塔の破砕によって生じた爆音と事実に驚いている子供達の方に向かう。

一瞬だけ傷有り殿の事は考えるが彼女には術式がある。

これぐらいの事なら大丈夫であろうと思うし、先程の自分の叫びも理解してくれると思っている。

だから、今は自分は当たりはしていないが守られていない子供3人を一気に抱きかかえその瞬間に

 

「……っと」

 

背後からの落下音が背中に直撃するが当然当たりはしない。

大事がなくて何よりであると思い、抱えている子供達をとりあえず下し、出来る限り気楽に

 

「危のう御座るよ?」

 

そう告げて子供達がゆっくりだがじっくりと理解したという風に頷くのを見て自分も頷き、ゆっくり離れる。

既に子供達の背後から彼らの親と思わしき大人が駆け寄っているのを見ている。

なら目立たない事を主義とする忍者は離脱すべし、と思い離れ

 

「すっげーーよ母ちゃん! 何かすっげー忍者のお兄さんに助けて貰ったよ!? 何故か犬の臭いしたけど!」

 

子供とは素直なもので御座るな、と点蔵は内心に刺さる刃を引き抜きつつ場から離れる。

 

さて……傷有り殿は……

 

「点蔵様!」

 

どこにいるやら? と思う前に人の流れを挟んだ向こうの濠向かいのアーケードから金髪の少女がこちらに手を挙げながら走り寄ってくる。

それに自分も自然と近づこうとして

 

「……?」

 

何か小さな違和感を覚える。

些細な違和感ではあると思うのだが、それを偶然にも重ねて見つけたが故に見つけた偶然のような感じ。

だけど意味が分からない違和感であったので気にする事ではないと思い、怪我の有無だけを聞こうと思い彼女に小走りで近付き、彼女も迎えるようにこっちに走り

 

「御無事で何よりでした……!」

 

そのままぶつかるように自分の懐に潜り込んで引っ付き、細い両腕をこちらの背中に回した。

つまりは抱きついてきた。

 

 

 

ハッピーハッピー!! はっ、い、いやけしからハッピー!

 

本能に抗えておらんで御座るよ!? と自分にツッコミを入れて現実逃避をするがあわあわと体がガチガチに───ならずに何故か反射的に抱き着いてきた彼女をそのまま突き放した。

それも少々乱暴と言ってもいいレベルに押し出した。

こちらの態度に傷有り殿の表情は分かり易く悲しい、というよりショックというような表情を浮かべるが逆に表情を注視していた為に気付く。

 

───彼女の髪に白の水連がない事に。

 

視覚的な証拠を見つけた事により違和は確信へと至った。

膝を曲げ、腰に差している短刀に右の手を添え、何時でも抜けるようにする。

明らかな敵対行為に彼女の顔は何故? という悲哀に塗り潰されていくが騙されるつもりはない。

例え、白の水連が偶々落としただけだとしても彼女はおかしな位置にいた。

彼女の位置はまるで危険から逃げるような場所に避難していた。

無論、これが一般人なら正しい行為である。

しかし、自分は知っている。

彼女が術式使いとして強力な使い手であると共に

 

傷有り殿は理不尽な恐怖に立ち止まる者に手を差し伸べる人間で御座る!

 

輸送艦が落ちてくる中、巨大な質量に対して迷うことなく周りの震えている子供の為に力を振るうのに躊躇わない人だ。

なら、彼女はきっと己の視界に入らない場所で人を助けている。

その為に先程、発した言葉があり、その意味を捉えていない彼女は傷有り殿ではない。

 

「───何者で御座るか?」

 

こちらの変わらぬ態度に。

残念……とは全然思っていない。

むしろ愉快だと言わんばかりの肉食獣のような笑顔と共に

 

「───ばれたか」

 

 

 

 

熱田の感覚が遂に捉えた。

最早、面倒臭くなって爆走したり出店を恐喝してついでに商品を値切って買ったり、観客として固定されているはずの御婆さんが腰を痛めたので椅子に休めさせたり、巫女服を着た人間を見つけたと思ったら仮装した男と気付いて思いっきり殴ったりして探し回ったのだがそれでも見つからなかったのでもう全部ぶった斬ってやろうかと思った瞬間に遂に捉えた。

英国ぶった斬り事件の発生を阻止したのは剣神としての鋭敏な知覚能力と鍛え上げた勘と培ってきた一つの感情によるミラクル。

しかし、先程生まれた辻斬りも魅力的な提案だったので少し迷ってしまったがまぁ、いっかと思いそのまま脚力任せの大跳躍をかまして現場に急行した。

うむ。使い古されたヒーローみたいに飛ぶ俺様。

ここで何か建物が崩壊したりしたら絵になるのだが今度やってみよう。

点蔵やウルキアガ、御広敷の家なら何も問題はないだろう。

そうして大体、十数回程度の跳躍で目的地点に到達。

そして空中で最低限の身嗜みを整え、そのまま地面を粉砕……っていうのは美味しいが流石に周りの迷惑を考え、普通に高度からの着地を取り

 

「よし! 智! デートの続きを……」

 

しようぜ? と言おうとして周りの風景を知覚した。

とりあえず、予想通りに智はいた。

いたが周りは見覚えのある外道メンバー。

喜美やら正純やらハクとかいる。

そこにトーリとホライゾンがいるのを見てみるとどうやら話し合いは終わったのだろう。

中には気絶しているメンバーもいるので後で扱かなくてはと思う。

まぁ、そこまでは別にいい。

次に梅組と相対する体勢で女王の盾符(トランプ)がいるのもまぁいい。

何やら英国の制服を着た金髪ロング巨乳の女がやけにドーン、と効果音が付きそうなくらい偉そうに腕を組んで立って、しかも傷を除けばそっくりの少女がいたりしたがそれも些細である。

 

問題は二つの勢力の間に見覚えのある忍者が何やらぶった斬られて倒れている事である。

 

まぁ、致命傷ではないみたいだし、ピクピクしているから問題はないだろう。

他のメンバーが騒いでいないしOKとする。

問題は

 

「テメェ……点蔵……まさか俺と智とのデートを邪魔する為にぶった斬られたのか!?」

 

「おい親友! まさかお前……世界の中心に立っているつもりか!?」

 

「あー? 何言ってんだ阿呆トーリ。世界の中心なんて馬鹿げた事言うわけねえだろ───もうちょい範囲広げろ。宇宙が入ってないだろ? 後、智も混ぜとけ」

 

「そ、そんな中心に立つのは常識人の私として御免ですよ!? ……何ですかホライゾン? その無理はしないで下さいと言わんばかりに肩に置いてくるこの手は?」

 

「Jud.これは無理をして下さいと言わんばかりに置いている手です。ちなみに実際に置いています」

 

「え? ……うぉわぁ!?」

 

何時の間にか実は腕だけ置いてある事に気付いていなかった智の悲鳴を心地よく聞いてうむ、と頷く。

何やら点蔵のピクピク具合が増したがこれも些細な事である。

だが、まぁ状況確認は必要だなと思い

 

「で、そこの忍者がピクピクしている経緯について」

 

「ふふ、知りたいのね? 知りたいのね!? じゃあその疑問はこの賢姉が声高らかに叫んで教えてあげるわ! ───答えは全く知らないわ! だってこの賢姉も着いたばっかりで忍者のピックピクを観察している最中だったのだから! はい愚剣! 今、あんたの思っている心境を言葉ではっきり示してみなさい! 五文字よ!?」

 

「許さねぇ……!」

 

「───はい駄目! つまんないわ零点よ零点! 売れない芸人よりも価値がないあんたは罰としてファーストキスを愚弟に渡すのよ! でも唇はホライゾンの先約があるから尻よ尻! ファーストケツチューーー!!」

 

「貴様ーーーー!!」

 

「あれ? ガっちゃんも気絶しているのに指がピクピクしてるよ? あ、ペンを握っている風に丸まった。ガっちゃんナイスガッツ!」

 

有翼系の結論は無視する。

有害なのは何時の間にかトーリが全裸になっている事だろう。

さっきまで普通に服を着ていたくせに副長である自分ですら気付かせずに全裸になっているというのはどういう事だ。

これが芸人か。

違うな、趣味か。

そんな全裸がわざと尻をくねくねさせながら猫撫で声

 

「まさか俺のファーストケツチューが親友によって為されるとは……でも……親友になら……いいぜ?」

 

まさかの頬を赤らめた後の上目遣い+涙目という最悪のコンボに精神的なHPは赤いゲージになり現実的なダメージとしては嘔吐感がやばいレベルになってきた。

思わずえろえろ、と吐いてしまおうかと思ったがここで吐くと負けが確定する。

さぁ! と四つん這いに態勢を移行した馬鹿は無視してとりあえず智の乳を愛でようかと思ったのだが視線を感じてそちらに振り向くと女王の盾符共が口をへの字にしてこちらを見、その中心の金髪巨乳は

 

・約全員: 『受けてる……?』

 

・賢姉様: 『このレベルで笑うなんてまだまだ成ってないわねぇ。ほら、浅間。本場のボケとツッコミを見せてやりなさい! 丁度、あんたの相方ならぬ相棒が来たわ!』

 

・あさま: 『な、何でそこで相方じゃなくて相棒に言い直したんですか!?』

 

・賢姉様: 『あら? 私は単にこっちの方が適した言い方かしらと思って言い直しただけなんだけど浅間が憤るなんて……ちょっとこの理解が足りてない姉に語ってくれない?』

 

・あさま: 『く……!』

 

とりあえず内股にならないようにして周りを代表して告げてみる。

 

「───羨ましいのかよ?」

 

「ちげーーよ!!」

 

何故か観客も含めて大合唱された。

成程。

 

「よし、正純。後は任せた」

 

「ここに来て人身御供か!?」

 

愕然とした声を出されるが何を言う。

俺とお前の役割分担を考えれば間違っていないだろうに。

お前は喋って戦争を誘発……おっと欲望に素直過ぎた。

正純は喋って戦争を回避し、俺はぶった斬って戦争を終わらせる役割なので間違いなく正しい判断であるだろう、うん。

だから、とっとと智を連れてデートに逃避しようとしていたのだが

 

「───ほう?」

 

などと呟かれた瞬間に逃亡失敗は悟った。

面倒だなぁ、と心底思いながらとりあえず背後の呟きと共に体に纏わりつこうと指示された"モノ"を一睨みで抑える。

それに更に愉快気な微笑を響かせるのでしゃあなく背後に振り返る。

背後……女王の盾符が集まっている中でやはり笑っているのは中心に立っている金髪の女性。

そいつは名乗りもせずに勝手にこちらに話しかけてくる。

 

「やはりと言うべきか。大気の精がこちらの言う事を聞いてくれないではないか。流石は暴風神。風に関する事だけなら妖精女王の威厳も形無しだな」

 

「そいつはどうも。だが、この程度の事で一々賞賛してたら口が回らなくなるぜ? 何せ褒める所があり過ぎるからな」

 

「何でも斬れる所とか言うんじゃないだろうな?」

 

「はン……何でも斬れるが褒め言葉と思ってんならそりゃ学が足りてねぇな」

 

ほぅ? と再び愉快気に笑顔を浮かべてくる先を促してくるのでこちらも答えといてやる。

 

「最初から何でも斬れる……なんてものはただのつまんねぇヌルゲーだ。いいか? 至高の剣技っていうのはな───何でも斬れねえから始まるから格好いいんだよ」

 

成程な、と実に納得したように頷き

 

「自己否定か?」

 

「いんや? 剣神だからと言って何でも斬れるわけじゃねえからな。自画自賛。血とか選ばれたという言葉に居座るのが趣味かよ?」

 

そんな風に挑発してみると相手は今度こそ口を少し開けて笑い声を上げ

 

「成程。己に酔っているだけの小僧かと思っていたが中々に人間らしいではないか自称世界最強よ」

 

「酔ってはいるぜ? 自分に酔えないような面白味の無い生き方をしているわけじゃないからな。何せ何れ他称世界最強になる男だからな」

 

この(・・)妖精女王が相手でも?」

 

たかが(・・・)妖精女王が相手でもな」

 

ニヤリ、と互いに口を綻ばせる。

お互いに殺意は一切ない。

こちらもあちらも挨拶程度の物と弁えている故の挑発であり、一種の友愛表現である。

何せお互い同レベルの格だ。

その気がなくともつい口が軽くなる。

背後の副会長やら女王の盾符のメンバーは青くなったり、赤くなったりしているけど。

 

「不敬だな。武蔵副長。貴様の口先で英国と武蔵に亀裂を入れるほどの権限を持っているという傲慢か? 付き合わされる武蔵が可哀想だろうに」

 

「おいおい、お前こそ。ここをどういう場だと思ってんだ? ここは今、祭り。無礼講ルールだぜ? 子供も大人も一緒に楽しむ場所に政治を持ってくるのはそれこそ無粋じゃないのか? それとも妖精女王には冗談も遊びも通じないっていうのかよ?」

 

とりあえず最後まで周りのストレスを高めておいて俺はあっさりと妖精女王に背中を向ける。

相手もそれに関しては特に何も言わない。

ここは祭りの場だ。

英国と武蔵の態度を決める場ではない。

相対ロワイアルを持って武蔵は武力的に対等というのを恐らく示しただろう。

こんな風に総長連合と生徒会を含めるメンバーと女王の盾符と相対し合っている状況からもそれは間違いない。

 

ま、どうせこの後も面倒臭い状況になるだろうけど……

 

そこら辺は出来る奴に任せる。

具体的には負けてはいけないと今、奮起をしているヅカ副会長とかに。

何と勝負しているかは定かではないが。

まぁ、でもこの場所で男を見せる立ち位置にいるのはどうやらぶっ倒れている忍者みたいである。

最後まで向こうのメンバーで頑なにこちらを見なかった妖精女王と激似の少女。

歩幅や仕草からそれが点蔵と親しげに語りあっていた傷有りというのは理解している。

まぁ、それについて問うのが野暮である事くらいは理解できているので俺はだから違う相手に問う。

 

「おい、トーリ」

 

「何だよ親友。このタイミングで俺のケツチューを希望か……おいおいおい、まるで絵が変わるくらいに力強い拳で殴られたらか弱い俺は儚く死ぬと思うんだがそこんとこどうよ!?」

 

「どこに躊躇う理由があるかさっぱりなんだが?」

 

酷いと嘘泣きを始める馬鹿を無視して

 

「決めたか?」

 

「モチのロンよ」

 

そうかと俺は答え

そうだぜとあいつも答え

 

 

パァン、といい音を互いの手の平で生み出した。

 

 

阿吽の呼吸による最高の片手ハイタッチ。

色々と考えてたり、何やりしてた頭の中を全て吹っ飛ばすような爽快感。

酒とか薬とかでは到底及ばないハイテンション。

この世界全てを敵に回してもいいこのテンションを他の人類が経験した事がないんじゃね? と思うともうマジで笑っちまう。

目の前の馬鹿も笑っているのを見ると似たような心境なのかもしれねえと馬鹿みたいな事を思ってしまう。

 

実に馬鹿らしいし、阿呆らしい。

 

周りにいる喜美やら智も呆れたような表情で溜息を吐いているし、ナイトは映像取っているから間違いなく後で二人でネタにするに違いない。

他の面々も似たようなものだ。

唯一、新人の正純と二代が何だ何だ? という顔をしているくらい。

ホライゾンは何やら微妙に意味の分からない感心をしているが今ぐらい全て無視しようと思ってしまうくらいに馬鹿なハイテンション。

ああ、くそ何度テンションって言葉を使ってんだ俺はと思い

 

「……っく」

 

必死に口から吐き出しそうになる笑い声を抑える。

我慢し切れずに時々漏れてしまっているけどそれくらいいいだろう。

だって、ようやく俺の夢が。

俺達の夢の始まりが。

長い間待ち続けていた疾走を始められるのだから───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました……!

相対ロワイアル終了ーーーーーー!!!

点蔵による障害をようやく潜り抜けて一話だけですが投稿……!
いやここに来て長いあとがきが無粋!
待っててくれていたかは定かではないですが待っててくれた人には感謝の念を持って出します!
長い間放置していたのでもしかしたらクオリティ下がっているかもしれませんが出来れば皆さんのご期待に添えるストーリーになっている事を思って入稿ーーーー!!

感想よろしくお願いします!!!



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