……甘いですねぇ
配点 (ちょろい)
これは一体どういう試練で御座るか……!
と、忍者学生点蔵・クロスユナイトは脱衣場で悶えていた。
そう、脱衣場。英語弁で言えばDressing room。
敢えて付け加えるならば即席のと付けてもいいかもしれない。
その用途は?
当然、ここで服を脱ぐことである。
何故、服を脱ぐのか?
それは勿論
「風呂に入るからで御座る……!」
思わず拳を握って力説してしまったことにはっ、としてしまう。
いかん。ここで大きな声を出して叫ぶと
「あの……点蔵様? 如何しましたでしょうか?」
「い、いや! 何でも御座らんよ!? 傷有り殿!? そう! これは極東の忍者の基本の精神統一! 口に出すことで覚悟を決めるもので御座るよ!」
「まぁ。そうなんですか? 極東の忍者や侍はいざという時はHARAKIRIというものをして主君に覚悟を示すと聞きますが……まさかそれを?」
覚悟の難易度が一気に上がったで御座る……!?
まさか冗談を言ったら腹切りをしている事になるなどとはどんな人間が予想できようか。
思わず風呂場の方を見て───敷居に傷有り殿のシルエットが諸に映っており思わずふぬぅ……! と唸る結果になってしまった。
そこに映っているシルエットが明らかに男性ではなく女性らしい柔らかなもので胸部と思われる場所にはそれは見事な御手前なOPPAIがありまして
な、何とけしからん事を! 自分、忍者としてそう! 刃の下に心あり……心は心でも下心ではないで御座るよ!?
誰に言い訳をしているのかと内心のツッコミに身悶えしながら正気に戻るために精神的チンコをフルボッコして冷静になる。
というかうちの副長はリアルでこれの数倍の威力を受けているのか、と思うと凄い冷静になれた。
どうしてこうなった……! と少し回想する。
焼肉での副長吊るし上げ
↓
トーリ殿による風呂作ってくれたんだから一番風呂入ってこいよという有難い言葉。ただし、傷有り殿と一緒というハッピー
↓
今に至る。
OH,簡単だし微妙に何一つ繋がって御座らんよと嘆く。
だけど今回に限ったことだけを言えばトーリ殿は別に悪くないという不思議がある。
あの御仁のせいでなかったことは珍しい。
明日は血が降るで御座ろうなと思いながら、ふと思う。
……シュウ殿には気付かれているような感じで御座るがなぁ……。
磔にされながら風呂に行こうとしていた自分達を見て物凄い笑いを堪えている表情になっていたし。
鏡を見たほうが笑えるのではと言える状態ではなかったので言わなかったが。
そしてその事について彼は黙認した。
つまり、彼は傷有り殿が男性ではなく女性で嘘……と言えるものではないとしても周りから見たら騙している形になっている点蔵の独断を認めたということになるが、当然自分は気づかない振りをしたので無問題だろう。
でもこの状況は問題ありまくり……!
先程、女子共がこちらを確認しに来たし時間はない。
しかしそのまま女子を無視するのは外道メンバーだから有りかもしれない。ただしその後に生き残れるかが問題だが。
入るのか、入らないのか。
金髪巨乳の人と風呂? 自分は明日悶死するのだろうか。世界は何時からこんなに輝く星のような世界になってくれたのだろうか。
ビバ世界。こんな日陰者の忍者に光を与えてくれるとは……!
「って人として間違ったルートに入ってはならんで御座るよーーー!?」
いかんいかん。
恋仲でもない男女が同じ風呂に入るなどとは忍者どころか男の風上にも置けないではないか。
そう思うとどこぞの総長兼生徒会長と副長は男の風上にも置けない存在であると思ったが今更の事実だ。何も問題ない。
元々生物として埒外だからアレらは。
「あ、あの……点蔵様……?」
「……はっ。は、はいで御座る!? 何かおかしなものでもあり申したか!? どんなもので御座るか!? もしかして三流ヤンキー口調の馬鹿で御座るか!? それとも全裸股間モザイク馬鹿で御座るか!? 直ぐに滅菌するので傷有り殿はお下がりを……!」
「い、いえ……そんな特異な精霊は今のところ見えていないので大丈夫です」
まさかあの二人が精霊に昇華されるとは思ってもいなかったで御座る。
いやまぁ、精霊も精霊で全てがファンタジーみたいな性格をしているわけじゃないのだからいいのかもしれない。
あの二人も脳内ファンタジーだし。
そして自分の戯言で遮ってしまった傷有り殿の言葉に耳を傾けようと思い
「その……私は構わないのでどうぞ点蔵様もお入りください」
「───」
いいので御座るかと反応する前に思わず鼻から込みあがってくるものを堪えた。
これではナルゼ殿のキャラと被るではないかと必死に抑え首をトントンとし、はぁ~~と息を大量に吐き
まさかこのようなイベントが起こり得るとは……!
人生とは何という意外性に満ちたものだろうかってその言い方は傷有り殿に失礼だ。
というか流石にあちらがこちらを慮って言っているということくらいは理解できる。
「───別にこちらの事は気にしないでもいいで御座るよ。自分達のクラスメイトも器量が狭い人間では御座らん故に多少待たせても大丈夫で御座ろう」
「それならば尚の事早く御風呂に入った方がよろしいのでは? 女性ならばやはり待つ事に苦はなくとも汚れを落としたいとは思います」
女性視点の言葉には流石に否定できる言葉が無かった。
自分の勝手な女性像はそういうものではないか、と告げ、そして現に女性である人からもそう告げられると否と答えられない。
「───私なら大丈夫ですから」
二度目の促しに点臓は覚悟を決めるしかなかった。
点蔵はそうして風呂に入ろうと扉を開けると真っ先に顔面に当たるのはまず湯気であった。
温泉特有の熱いのではなく粘つくようでいてそのままするりと顔を抜けて温度だけを与える曇り。
ネシンバラ殿とかアデーレ殿ならば眼鏡が曇る……って風呂場まで眼鏡をかけているわけではないで御座ったなとどうでもいい事を考えながら進み、そして目の前の肌色を見てそんなどうでもいい思考は一瞬で弾けた。
「───」
その
女子の肌を見慣れていないからと言われたらその通りなのだろうが、クラスの女子と比較するのはどっちに対しても失礼だろうと思いつつ、この人がどんな生き方をしてきたのかを改めて実感した。
「? ……あの……?」
「むっ……あ、Ju,Jud.失礼したで御座るっ」
慌てて彼女からの視線を逸らし、先に体を洗う。
極東の風呂の入り方としてまずは体を洗ってからっ。そう、それが一番大事。
決して振り向いた彼女の体の前面が視界に入ったからではないで御座るっ。
ないったらないで御座る。
いそいそと間違いなく逃げるように体を拭きながら思う。
あの御仁らはちゃんと会議しているんで御座ろうな。
「はいいいいいいいいい! 早取り肉競争また俺の勝ちぃぃぃぃぃ! どうしたんだよネイトぉ? このままだと俺の十五連勝だぞぉ?」
「くっ……! まだですわ! 如何に副長の勘が人並み外れていても肉が焼けた臭いは私も覚えましたわ! 後は反応速度だけ……!」
「では拙僧は遠慮なくシュウに票を入れようか。どうやら暴食レベルは今のところシュウに軍配が上がるようだしな」
「へっ、ウルキアガ……てめぇの勘が間違ってない事を証明……あ、テメェ! こんのクソ商人! 俺に対してどうして金を向けている!? 妨害工作でこの賭けを乗り越える気だな!? おいネイト! 騎士としての誇りとやらで止めろよ!」
「ふふ……騎士として敗北の汚名を晴らせるのならば何の躊躇いがあるというですの……!」
「肉! これ肉だからな!?」
正純はとりあえず無視して草を食うのに専念する。
肉も別に嫌いというわけではないのだが、こってりしているのはそこまで得意ではないので焼肉でも野菜を多く頼んでしまう気質なのだ。
まぁ、その分はあそこに集まっている肉食獣共が食うから大丈夫だろう。
先生もいるし。
「やぁねぇ光紀。人間食べたいもの食って、飲みたいものを呑むのが一番なのよ? へ? 太るんじゃないですか? や、私あんまりそういう事ないし……あ! 光紀!? どこ行くの!?」
表示枠越しの会話が酷い、と思うが気にしたら巻き込まれる。
やれやれ……さっきまでの会議が嘘の様だなぁ。
周りの騒ぎに飲まれないように思わず現在ではなく過去に視界が逆走するが気にしない。
過去へと帰る起点は自分の内面ではなく人物だ。
そこにいるのは見慣れたとも言える巫女服を着た人物であり、同性の自分でも見惚れる顔と黒髪の美髪を持った少女であり葵姉が物凄くいい顔を向けている同級生であり、顔を物凄く真っ赤にしている少女。
浅間だ。
浅間の意識は今も過去に飛んでいる。
飛んだ行く先はほんの数分前……と自分では思っている時間帯。
もしかしたら実は数時間前とかになっているかもしれない。
隣で喜美が意味不明にクネクネしているがそれすらも自分の視界に入ってこないくらいに意識が過去でループしている。
その原因となった映像が頭の中で再び思い浮かぶ。
それはまず正純による対英会議はどうなるか、ここでならまだトーリ君の世界征服宣言を撤回すると事は出来るといったことであった。
その部分を聞いたときは思わずシュウ君の方を見てしまったのだが───真面目な話の中で躊躇わず私が作った五穀チャーハンを凄い勢いで食べているのを見て半目になるのを実感した。
・剣神 : 『智が作ったチャーハンは全て俺の物……! あ、気にすんな鈴。お前の分はちゃんと取っているからよぉ。ただしアデーレ。お前は駄目だ……!』
・貧従士: 『な、何て外道な! 差別か区別かは知りませんが平等という二文字を尊びましょうよ!』
・金マル: 『平等という文字を尊ぶには格差が世の中あるからねぇ……』
・●画 : 『ええそうね……特にアデーレには大きな差があるものね───身長っていう。さぁアデーレ。今あんたが思った世の不平等を遠慮なく叫びなさい。ちゃんと同人誌に反映してあげるから』
・貧従士: 『じ、自白させて自分のストレスを上げさせるつもりですか……!』
アデーレが可哀想な事になっているので仕方がないのでアデーレの傍に肉を置く事にした。
野菜とかも置こうとしたがもうこの場所にはほとんど無くなっているのでそこは我慢してもらうしかない。
基本、皆食べる人が多いですからねぇ……。
自分も別に小食というわけではないのだがナルゼやナイト。ミトといったメンバーには流石に負けるしかない。
いや、別に勝つ気もないのだが。
まぁ、そこら辺は種族差とかそういうのもあるから仕方がない。シュウ君は種族差を超越してちょっとミトの芸風を乗り越えようとしているが知らん。
そこはミトに任せよう。
「あ!? 浅間君! 浅間君! 何やらシュウ君、チャーハン喉に詰めて死にそうな形相になっているよぉ?」
『シュウの加護には喉詰まり予防などはなかったか……』
イトケン君とネンジ君の言葉にはいはい、と頷き水はどこだったですかねぇ、と思って探そうと視界を回そうとすると
「はい、シュウさん。ゆっくり飲んでくださいね?」
何時の間にか彼の傍に後ろで髪を括った小柄の少女───留美さんがいてにこやかな笑顔で水を渡していた、
……む。
思わず色々と思考してしまう自分なのだが……なのだが。
そもそもその色々と思考してしまった内容を外に吐き出すには自分には色々と足りていないことがあるというくらいは流石に頭を冷やして考え付いている。
そう思って何もなかったかのようにまた何か取ろうかと思っていると件の彼がこちらに来て
「智! 智! 食っちゃ寝してぇから膝! 膝貸してくれ!」
などと枕を要求して来るので思わず笑顔を浮かべてそのままこちらに寄せようとする後頭部を片手で掴み、そのまま網を突き破って焼けた炭に顔面を押し付けた。
ひぃぃぃ!? などと言って周りが怯えて逃げるが、加護があるからノーダメージでしょうに、と思う。
……あれ? そういえばシュウ君の加護は頑丈になるだけで痛覚はあるんでしたっけ?
思わず彼を見ると既に両手両足はまるで死体のように垂れ下がっており、顔面は焼けた炭に埋まっていて見えない。
数秒、周りが嫌な沈黙をするがまぁ、大丈夫でしょうと思いそのまま後頭部から手を放して水を飲む。大丈夫じゃなかったら知らん。
周りが修羅嫁とか剛殺な鬼嫁などと騒いでいるような気がするがそれも無視する。
そして馬鹿な事をしている最中でも当然話は続いており、途中まではシリアス話だったのだがいきなりトーリ君がホライゾンに対してデートを申し込む。
曰く、お前が感情に興味を持てるか試してみねぇか、と。
途中までにホライゾンが泣いたりしてハプニングがあったがそれでも最後は纏まってくれたので良かったです、と思ったのだが
「おいおいおい! テメェ、トーリ! オメェだけデートってぇのを俺が見逃すと思ってると思うのかよ!」
ガバッ、とさっきまで焼けた炭に顔面を埋めて死んでいたシュウ君が突然復活していきなりトーリ君に文句を言ってるのだ。
「ああ? 何だよシュウ! オメェ、相手がいないからって俺に嫉妬するなんて……オメェとのデートはまた今度な!?」
「誤解しか生まない言動をするんじゃねーーーー!!」
既にナルゼの指が動いている時点でその叫びは無意味だという事には最近学習してしまった。
理不尽っていうのは何時だってこんな場面で生まれてしまうのだ。
「じゃあオメェ、何が言いてぇんだよ?」
「はン、決まってんじゃねぇか───智!」
すると何故か急にポーズを決めてこっちにいい笑顔で振り返る剣神。
……む。
このパターンは知っている。
こういう時のパターンは大抵シュウ君が馬鹿な事を言う、もしくはすることによって外道タイムが発動する時間帯だ。
そして私をここまで指名するということは……胸を揉んでくるかもしれないということなのでとりあえず腕を組んでガードする。
すると自分の腕で胸を抑えることによって胸は当然膨らんだかのようになって周りがマジ顔になってこっちを見た。
・銀狼 : 『格差……! これが格差……! 世界が平等にならない原因がここに有りますわ……!』
・煙草女: 『憤ってもどうしようもない事を言ってどうすんのさ』
・貧従士: 『い、いえ! それはみ、認めてますよ! ええ……認めた上で広がるこの下剋上魂……! 争いってこういう感情で起きるんですね……』
・あずま: 『……この話題ってもしかして最終的には誰も救われないエンディングしか用意されていない?』
確かにそんな気がしまし、私に憤られてもと思うのはこれは相手にとっての理不尽なのだろうか。
でも鈴さんやナルゼは気にしていないし。
性格と言うか人格と言うか、とりあえずそういうものの差異によって生まれる憤りなのだろうと思うだけ思ってとりあえず無視して恐らく次に来るであろう馬鹿な台詞に対して完全ガード耐性発言を放つ。
「俺達もデートしようぜ!!」
「お断りします」
瞬間、何故か彼がいきなり攻撃を受けたかのように弾かれた。
あらあら、と喜美は笑いながら馬鹿がフィフスアクセルかまして焼肉の台にぶつかってその煽りを御広敷がぐわーと受けているのを見て思わず笑いながら、しかし視線は浅間に固定した。
何故なら本人が断った直後に浮かべた表情を見ている方が楽しいと思ったからだ。
そして浅間は今、自分は何を言われたんでしたっけ? という表情を諸に浮かべており、現実を全く直視出来ていない子供みたいな表情を浮かべており、一秒ずつ理解が彼女の頭に浸透して
「……へっ!? え!?」
一気に顔を赤くして頬などを抑えにかかったのが可愛い。
ここ最近ではあんまり見なかった悶えようだ。
いいわ、と思う。
存分に出しなさいよとも思う。
幸福を抑えて我慢するような面白くない女などではないでしょう? あんたはもう少し"高い"わ。ならその"高さ"を自慢しなさいよ、と。
まぁ、そう言って素直に振る舞わない生真面目な性格であることも知っているのでなら促進させる役割は当然原因の馬鹿なのだが、本人は吹っ飛んだ先で
「ば、馬鹿な! あのタイミングと状況でこうも手痛いカウンターを受けるとは……! な、何を間違っちまったんだよおい!」
「親友! 親友! よく考えてみようぜ!? 一番間違っているのはもしかしたら鏡に映っている存在っていうのが答えっていう単純な方程式があるかもしんねぇぜ!?」
「て、テメェ……! 勝ち組だからと言って偉そうに……! 大体! 俺のどこが間違ってるって言うんだよ!? 言ってみろよこの馬鹿! 俺は常にエロスと乳とぶった斬り欲旺盛なただの神様だぜ!?」
「そこが間違ってんだよ!」
周りの皆がツッコんでも神はめげない。
愚弟も一緒にヒートアップしている。
「もしかしたらシュウ。オメェの下心が浅間に読み取られたのかもしれねぇぜ! よし! シュウ! これ飲んでオメェに下心がないかを浅間に証明してみろよ!」
「ああ? 上等だぜテメェ。俺のピュアな心を聞いて逆に赤面すんじゃねえぞコラァ!」
全裸の懐から取り出した瓶を迷うことなく手に取って瓶の口を開けるのではなく握力だけで潰してそのまま飲む。
こういう時は加護とか剣神なのね、と思うが状況はこちらの思考よりも前に進む。
「よし! 智! 俺はお前の乳乳乳尻太腿首筋……いかん! 俺の思春期が!?」
「それはただの性欲だ!!」
くるりとトーリに振り向きながら商品を見る熱田。
「ってあ!? これ頭が幸の村製作所製品の自白剤『も、漏れちゃうぅーーー!!』 じゃねえか!? てめ、トーリ……謀ったな!?」
「謀ってねーーもぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!! オメェの欲望が勝手に漏れただけだもぉぉぉぉぉぉぉぉん! ざまぁみやがれ極東神話のエロ神め!」
「なろっ……! テメェこそこれを飲んでも毒舌娘相手に下心を漏らさないって言えんのかよ!? そのLOVEに不純物がないって言えんのか!? ああん!?」
「はーーーーーーーー!? オメェとは違うんですだよオメェとは!? んなの簡単にやってやんよ……!」
そして愚弟も熱田から残った中身を奪い取って飲み干して
「よしホライゾン! 俺は乳乳尻尻尻尻太腿太腿太腿首筋……! ───人間素直が一番だもんな!?」
「小生思ったのですが、これ企画から失敗しているのでは?」
「全くもって同意だが残念なことに金にならんからどうでもいいな」
「ネタにはなるから使うけどね。自白剤ネタ……でも薬で攻めると単調になりそうねぇ」
賑やかねぇ、と思うが何時もの事である。
愚弟がはしゃぐ気持ちも解らないでもないが、今は乙女の時間帯なんだから男が一度攻めたのならば焦らさず攻めなさいよと思う。
そういう時は焦らすのは女の特権よ、と。
仕方がないからぼーっとしている浅間の肩にわざとぶつかるように触れることによって目覚めさせた。
触れ合った肉の感触にはっ、と目覚めしかしやはり顔が赤いまま胸の前で指を絡めてもじもじしている。
可愛いわねぇ、と思うがこれ以上の行動は野暮だろう。
間女など趣味ではないのだ。
「え、ええと……シュウ、君?」
浅間は必死に今の自分を抑える。
喜美のお蔭で多少思考能力を取り戻したのでパニックにはならずに済んでいる。
だがやはり今の自分が上がっているというのは自覚している。
声が微妙に裏返っているし、顔も熱い。
視線を彼に合わせようとして微妙にずれていることも。
何故かホライゾンが両腕で"もっと! もっとテンション!"と指図をしている。どういうレベルのジェスチャーだろうか。
軽く摩訶不思議だが気にしている余裕はない。
「その……どうして私と?」
「ああ? 何を言ってんだ智」
何を変なことを言っているんだという調子でこちらを見るシュウ君に思わずぞくりする。
もしかして自分は自分の都合がいい風に解釈をして彼からしたら変な風に緊張をしているように見られたのかと。
でもそれは杞憂であった。
「俺がお前を選ぶのがそんなに不思議なことか?」
「……あ」
ごく普通に彼は私といるのは当たり前であると答えてくれた。
少し言葉としては物足りないというのが素直な気持ちではあったのだけど、正直にこれでいいやと思ってしまった。
自分で言うのもなんだけどちょろい自分である。
もう少しちゃんとした言葉を貰ってから喜ぶべきであると内心では理解しているのだが性格がこれで十分ですと納得している。
単純な性格ですと思いまだ顔が赤いとは思うが口は多分微笑の形になっているとは思う。
とりあえず慌てないようにコホンとわざとらしく咳をしてから息を整えてから
「楽しませてくれるなら、まぁいいですよ?」
「あ!? 俺がお前を楽しませれないようなデートコースを考えると思ったのかよ!? 残念だぜその信頼レベル! 俺はこんなにもお前を楽しませようとしているというのに……!」
「いや語られましても」
「いーーや語るね! いいか! 俺は──」
突然隣に現れたホライゾンがいきなり彼の鳩尾を貫く剛腕を振りぬいた。
かっ……とやばそうにせき込みをした後、その後バタリと崩れ落ちた。
思わず全員、無表情でその光景を見てしまうがホライゾンはふぅ、と一仕事を終えたと汗を拭きながら
「熱田様……そんなに叫んだら唾が焼肉に飛んでしまうではないですか」
「ホライゾン! ホライゾン! 愚問かとは思うのですが副長不要論ですの!?」
「不要だなんてそんな事は言ってません──ただ汚いと」
剛速球という言葉を魔法陣に書いてこちらに見せてくるナルゼがいるがこっちとしては突然の空気のカットに戸惑ってリアクションが取れないので何も言えない。
とりあえずこの調子だとさっきまでの雰囲気は終わりだろうと思い、ふぅ、と思わず息を吐いて力を抜いてしまう。
そこにいきなり背後から抱きついてくる柔らかさがあった。
喜美だ。
「良かったわねぇ浅間。もやもやした状態から進展があって。もっと喜んでもいいのよ?」
「何がですか。単純に遊びに行くだけです。デートっていっても幼馴染としてですよ」
「あんたと一緒にいたいと言われても?」
「一緒にいたいと言われただけです」
「ククク───いいわ浅間」
何がいいというんだこの狂人はと思うが何も言わなくても勝手に続きを語り始めた。
「いいわ浅間。ちゃんと自分の価値を解っている女は素敵よ。そうね、あんたはもっと言葉を貰える価値がある女だものね。下手糞な愚剣の拙い言葉だけで満足するには全く足りないわ。もっと本気の言葉じゃないとね?」
流石は狂人の理屈だ。
聞いていて意味不明なので後ろの狂人の腕は外して何かを食べようと箸を伸ばそうとして
「浅間? そこは空よ?」
「……」
「……」
「……」
碧とハクは先程までの光景を全て見届けた上で碧は恐る恐る視線を別のほうに向けた。
その視線の先には浅間神社の巫女とはまた違った巫女服を着た小柄な少女であり、髪を後ろに纏めて尻尾のように揺らしている
「その……留美さん?」
「Jud.何ですか?」
微笑でこちらを見てくる人に対して言える言葉を持っていない時点で私って語彙が足りていないなぁ、と思う。
まだ決定的な言葉を発してはいないがそれでもあの雰囲気を見て何も感じないほど女も捨てていなければ馬鹿でもない。
時間というか切っ掛けの問題という雰囲気の二人に自分の先輩格で尊敬していると言ってもいい人に何かを言うのは侮辱みたいなものだろうか。
そういった経験が全く足りていない私には何かを言うことが世間一般ではどういう風に捉われるか解らないので語りかけておいて考え込むという状況になる。
……うわぁ~。
何を言えばいいんだろう。
大丈夫ですよ? なんだその根拠のない言葉は。
しっかりして? 何様だ私。
いい人は他にもいますよ? 最低な言葉じゃないか私。
あうあ~~! と思わず内心で頭を抱えて悩みこんでしまう。
この周りにいる先輩とかを見習うべきなのだろうかと思うが、周りにいる先輩は先程の光景を録画して即座に通神帯に乗せたり、商品にしたり同人のネタにしたりしている。
駄目だ。レベルと次元と住む世界が違う。
というかうちの神様死ぬんじゃないだろうか。まぁいいや。馬鹿だから死なないだろう。
……じゃなくて!
都合よく現実逃避する頭を抱えてうがぅ~~と悩む。
駄目だ私……と軽く鬱になりそうな所をちょっとした笑みの声が耳に入った。
誰のかは解る。
「ふふ……碧ちゃんは真面目ですね。別に私の事にそこまで気を遣わなくてもいいんですよ?」
「いや……やっぱりそういう風にした方がいいのかとは思うのですが……」
どうも自分は気が回らない性分らしい。
空気を呼んで察するのは得意だと思っていたのだが、相手が留美さんだとちょっと難しい。
お姉さん属性で先輩みたいなのでつい何か手助けしたいと思ってしまう。本当は助けられる分際なのに本当に何様だと思う。
それを察してかハクさんが呆れたかのような溜息を吐きながら留美さんに喋りかける。
「……昔からのその性格はそういう時でも変わらないなお前は」
「都合のいいように振る舞うには少し生真面目っていう事なんだと思います。ハク君もそうですよね?」
二人の会話は長い付き合いからの言葉だからか少し羨ましい。
この二人は私達みたいに武蔵から合流した熱田神社組とは違い分社じゃない本社からの付き合いだ。
「……Jud.似た者同士だということにしておこう」
言い包めて負けたと言わない方が良いのだろうと後輩としてと思うが、無視したいのだが性格ゆえに無視できない事をハクさんに聞かなくてはいけない。
「あの……ハクさん。その手作りらしい椅子は一体……」
彼は何故か組み立て式のしかもオリジナルと思わしい椅子を手に持って移動しようとしている。
何だかその椅子は組み立てれば内部が空洞になりそうでしかも人が一人入れそうな感じがする。
こちらの疑問に無表情のまま頷きながら椅子を組み立てる。彼の視線は私からうちの馬鹿神に変わっておりそのまま一言。
「───次こそウケを狙ってくる」
とそこまで思い出した碧は結局どうなったのだろうと思い肉を食いながら視線を回して探してみた。
いた。
中身にハクさんがいるであろう椅子は確かに目論見通り座られる椅子になっていた。
ただし上に載っているのは剣神じゃなくてバケツを頭に被って上半身裸マッスルの人だったが
「……」
あれでは当分何もできないだろうなぁと思い見なかったことにした。
誰だって自分が大事なのだ、うん。
でもよく見たら凄いマッスルな人だ。
とてつもなくマッチョだ。
「やだ……! 素敵!?」
思わず焼肉そっちのけでそっちを見てしまう。
あの筋肉はたまらない。
筋肉フェチな私には実にたまらない。興奮ではぁはぁ息が乱れているが気にしない。
これは是非ともお近づきにならなくては……!
何か相手の人がびくっと怯えて立ち上がってその拍子にハクさんが擬態している椅子を薙ぎ払っていたがどうでもいい。
逃がしてなるものかと思い、接近し
「あ、碧ちゃん?」
「ひいっ!? な、何でしょうか?」
いきなりの声に思わず悲鳴に近い叫びを発して答えてしまう。
声をかけてきた人物───留美さんはこちらの悲鳴に驚いて考え込んだが直ぐに大丈夫だろうと思い笑顔に変えた。
その大人の対応にほっとする。
これが他のメンバーなら絶対に色々と攻撃してくる。それも陰湿的に。しかも恐らく筆頭はうちの神様だ。
神様最悪っと思うがよく考えれば極東神話の神様は結構酷かったりエロかったりだった。
うちの良心は留美さんだけだ。
「実はですね……この光景を鹿島さんに写真で送ろうかなと思ったんですけどどんな事を書いて送ればいいかと思いまして……」
「カシマ? ……ああ、鹿島・黒緒さんですか?」
一瞬、何のことだろうかと思うが直ぐに感じに脳内変換すれば答えが出た。
鹿島・黒緒。
鹿島神社の人で建御雷の代理神だ。
どんな人かというと普段は剣やら何やらを作っている剣工であり見た目はそういったイメージを強くする眼鏡を着けて白衣を着てて気の弱そうな親馬鹿の変態なのだが───強さだけで言うならチート過ぎる。
うちの神様も大概だけどあれはない。本当にない。酷いったらありゃしない。
雷関連の神様だからといってそんな
各国にいる副長クラスでもあの人に勝つのは難しいんじゃないかなぁと思う。
それこそうちの神様クラスの存在じゃなきゃ勝てないだろうと思う。
……まぁ今は代理神の方は隠居しているみたいな感じだけど。
「別に写真だけでもいいんじゃないんですか? タイトルくらい付けて。あんまり大層に書くよりはシンプルな方が伝わることもありますし」
「成程……わかりましたっ」
そうして直ぐに表示枠を立ち上げて速攻でスクショをして即座にタイトルを付けて送った。
速い……と思うが一瞬だったが見えたタイトル内容が『原初の光景』と書かれていた気がするが気のせいだろうか。きっと気のせいだろう……うん。
彼女はそんな人じゃないはずだ。きっと遊び心とかだ、うん。自分が映ってなければいいや。
そう思っていると一分くらいで返事が返ってきた。
留美さんがちょいちょいと手を振るので私もその表示枠を見れる位置に移動し中身を見ると
『いやぁ、そちらは原人達がうほうほ叫んで元気そうで何よりだね。まぁ、そっちの猿の息子はともかく最近娘が風呂に一緒に入ってくれなくて寂しいんだ……! む、昔はパパの愛人になるーーー! なんて幸せなことを言ってくれていたのに反抗期寂しい……! い、いや僕はまだ諦めないぞぉ? パーパは幸福の前にある壁なんかに負けませ───あちょっと待った待ったハルさんスパナで股間をねじ───』
音声入力で打ち込んだものらしいから断末魔まで入っていなくて良かったと思う。
きっとあっちも幸福なのだろう。
あーーあ、と思う。
どこもバカップルばかりねぇ、と。
そうして四日間の準備ち五日目の豪勢な打ち上げ。
そして第二層での開催式を持って一週間も続く長い祭りは始まった。
その中には二組の男女がおり
「ほらトーリ様。エスコートをどうぞ。ホライゾンも初デートの為に色々と勉強しました───男が前に出るのですね?」
「間違っちゃあいねえがそれは蹴って前に出すって意味じゃねえんだぜ!?」
男の方がくるくるとあーれぇ~声を出しながら異端の開幕デートをしてから何とか立ち上がるノーマルに持ち直して喧噪の中に入り込む。
そしてもう一人の男女は
「どれ智。デートらしく腕でも組んでみるか? 何だよその猜疑な目は? 別に俺は腕が組むことによってたゆんたゆんを感じ取れるなんて一言も言ってないし語ってもないないぞ? ───今から語るが」
「開き直ったら勝てるとか思っていませんかそれ」
呆れた表情と溜息を吐きながら少女の方はそれでもつかず離れずの距離。
一歩横に寄れば触れ合えるが一歩横に寄らなければ決して触れ合えない位置をキープしながらこちらも喧騒に紛れ込む。
───祭りはこれからである。
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