不可能男との約束   作:悪役

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問いとは

答えを聞くためだけの言葉なのだろうか

配点(知識欲)


妖精の国

浅間は走っていた。

走っている理由は何かと問われれば別にないのだが、何となく心情的に小走りしてしているのである。

ただまぁ、やっぱり長くと言えば大袈裟かもしれないが、離れていた友人と会いたいと思うのである。

今は輸送艦の甲板上におり折艦作業をしている最中である。

お互いの艦を結ぶのは太縄であったので、少し足場が不安定であったから多少恐怖があったが、元々武蔵自体が高所にあるのでそこまで不安はなかった。

途中、何人か落ちていたが多分大丈夫だろう。何せ落ちて行っているくせにポーズをとる余裕があったのだからきっと大丈夫だろう。頭は大丈夫ではないと思うが。

そしてきょろきょろと探している内に目当ての数人がいた。

 

「ミト! 正純! 無事で───」

 

したか、と続けようとした先に新たな人物がそこに降りてきた。

先程トーリ君を水中に叩き落とした馬鹿。

シュウ君である。

 

 

 

 

 

 

「……ぬ?」

 

感動の再開シーンになると思いきや、何故か智が俺を見た瞬間に動きも声も止めた。

はて、止める要素などあったかと思い、推理してみる。

1,俺がいきなり上から降りてきたから

別に武蔵では上からいきなりあらわれるのは珍しいことではない。どこぞの腐った魔女や姉好き半竜がクラスメイトにいるのだから智がそこまで驚く必要はない。

2,実はここで正純とネイトにだけ話しておきたい事柄があった。

皆無とまではいかないが、幾らなんでも再会していきなりそんな無粋なことを智は言い……そうではあるが副長である自分に隠すようなこととなるとプライベートの話だから女心を察する秘奥義を習得しなければ理解不能。

3,それ以外。

考えてみると意外にあるっぽいからどれだ、と思う。

そこまで考えていや待て、と思った。

 

……もしかして三番か!?

 

三番。つまりそれ以外。それに俺はこういう推論を入れる。

 

……俺に何らかのロマンスアクションをしようと思い悩んでいるんだな……!?

 

成程、再会の抱き合いなどというのはとてもいいシチュエーションである。

それを狙ってくるとは流石智である。

だが、智はかなりの恥ずかしがり屋なので今、躊躇っているのであろう。人目もあるし、ましてやクラスメイトの前でと思っているのだろう。

ならば、自分から抱きつきに行くか? いや、しかしそれは智の勇気を無視する行いになるだろう。

せっかく彼女が悩んでいるのに俺の好意でそれを無駄にするのはちと駄目であろう。

となると、どうすればいいと考える。

彼女の勇気を無駄にせず、かつ彼女の助けになるような行動。

一瞬だが、永遠を感じるような思考の中で、遂に答えを見つけ出した。これだ、と。そしてすぐさま実行に移した

膝を軽く曲げ、前方から来るであるちょっとした衝撃の耐ショック体勢。

そして両腕を翼のように左右に広げ歓迎の体勢。

そして決め手の笑顔と共に一言。

 

「さぁ」

 

さぁ

 

「智……俺の胸に───飛び込んでくるがいい!!」

 

神速の勢いで組み立てられた弓による矢が胸に飛び込んできた。

 

 

 

 

「ふぬぉう……!」

 

神速もかくやと思いたくなる轟音と共に発射された矢を今度こそ俺は躱そうとする。

 

甘ぇな智!

 

今までは確かに甘んじて受けていたが、離れて何となく思ったのだ。

つまり

 

受けに回っているだけでは智を甘やかすだけになっちまう……!

 

それでは駄目なのである。

そう、やはり甘やかすのはいけない。飴と鞭というのは言葉だけではなく実践してこその言葉なのである。

それ故に、心を鬼にして躱す。

躱す方法は簡単である。

横に一歩ずれればいいだけなのだから。

智は制裁の為と思い、俺の股間を狙い撃つ癖がある。無論、全部が全部というわけではないが統計的に股間を粉砕しようとする行為が多い。

そしてやはりこの射撃もそれである。

 

だがいけねえ……それじゃいけねえぜ……智!

 

股間は確かに男でも女でも急所ではある。

あんまり褒められる急所ではないが、確かに一撃必殺の効果的なクリティカルポイントである。されど股間など胴体と違って広くはないのだから射撃などでは躱されるのである。

しかも、矢は点の軌跡。そんなものは一歩ずれれば躱せれるのである。

故にそうした。

 

「───!」

 

何故か周りから物凄い驚きの声が響いたので、ちょっとだけ耳を澄ましてみると近くにいるネイトから

 

「そんな……副長が智のズドンを躱すだなんて……趣味だったから受けていたんじゃなかったんですの!?」

 

やかましい。

そういうのは全部トーリのキャラである。俺ではないのである俺では。俺のそう……強いて言うなら愛なのである。あいつはボケ。この違いは大きい。

そこまで考え、勝利を確信する。

 

ふっ、勝った! 勝ったぜ智! 何、心配するんじゃねえ……アフターケアはばっちしだ!

 

この後くるりと一回転して智の方に近づき惜しかったな、と言って頭を撫でれば完璧である。

自分のセンスに時々驚くが今日はそれの極みである。

 

これぞ最強の嗜み……!

 

誇っていたら横を通り過ぎるかと思っていた矢が何故かこっちに急カーブしてきた。

追尾術式付であった。

 

 

 

 

 

その場にいる全員が轟音を響かせた矢が直撃したのを見た。

何時も通りに、熱田の股間にメキリと何時も以上にめり込んでいるように見える矢が一瞬、体が耐えようとする動きと矢の突き進む動きが重なり零となり止まる。

だがそれも束の間。あっという間に矢の勢いに体が耐え切れずに吹っ飛ばされる。

かなりの勢いで吹っ飛ばされる熱田だが途中で欄干に引っ掛かる。そのお陰で本来ならば海に落ちるところを引っ掛かる形で止まった。

だが、衝撃は止まってもダメージが止まるわけではないので彼は暫くその体勢のまま突っ立ち、数十秒してようやくふらりと顔を傾け無理な笑顔を張り付けぷるぷるする右手の親指を上げ

 

「……グッ智!」

 

その言葉と同時に矢が爆発した。

 

 

 

 

股間が爆発する人体というのを正純は初めて見た。

恐らく矢の先に爆発術式でも付けていたのだろうけど、まさか幾ら酷いボケを熱田がかましたからとはいえ

 

そ、そこまでやるとは……!

 

身内にする攻撃ではないと思う。

現にミトツダイラも口を横に広げている。つまり、これはやはり、何時もよりも酷い事なのだろう。

そして熱田は爆発の勢いで、結局欄干を超えて海に落ちて行った。

ドボンという音が非常に虚しく聞こえる。

まぁ、あの馬鹿なら流石に死にはしないだろうけどとは思うが。

そして周りの皆もいきなりの爆音に一瞬驚いたようだが、それをやっているのが熱田と浅間と知るとあっという間に作業ムードになっていった。

こいつら慣れ過ぎだろと思うが気にしちゃ負けだ。

そして残心を解いた浅間が今までの事など無かったみたいな笑顔を見せて

 

「ミト! 正純! 無事でしたか!?」

 

あ……そこまで戻るのか……。

 

こういう時の作法をまだ余り知らない自分なので、正純はミトツダイラに視線で振った。

するとミトツダイラが信じられないものを見るような目付きでこちらを見ていたが仕方がないじゃんかよー、と思い目を逸らす。

その後、数秒くらいミトツダイラは葛藤したが、ようやく決意をしたのか一歩前に出て作り笑顔を作って浅間と相対していた。

 

「あ、あの……智?」

 

「はい?」

 

ここで躊躇いない笑顔を浮かべるのが凄い。

その笑顔に一瞬圧倒されたのか、ミトツダイラも少し躊躇ったが躊躇っても無意味と思ったのか諦めたかのような溜息を吐いて再び話し始める。

 

「その……怒ってます?」

 

「何でですか?」

 

こりゃあ、マジ切れだな……と思った。

だから、浅間には聞こえないように小声で

 

「ミトツダイラ……何か、心当たりはあるか?」

 

「一杯あるにはあるんですけど……でも、その程度なら何時も智は通常ズドンで禊いでいるので……私の知るところにはないかもしれません……」

 

溜まり過ぎて一気に発散したんじゃないか、それと思うが浅間はそんな簡単に怒る様な人間じゃないからちょっと違うかなーと思う。

 

……まぁ、結論はとりあえずあの馬鹿が悪いの一点だけだろ。

 

なら理由についてとやかく言わなくてもいいかと思い話を切り替える。

 

「浅間一人か?」

 

「ええ……トーリ君が暴走しましたが、結果として海の藻屑になっているでしょうからここは平和です」

 

「……今日の智はいい空気吸っていますわね?」

 

私もそう思わないでもないがツッコんでいたらキリがないので先に進める。

 

「まぁ、何はともあれ身内と会えるのは色々と安心するものだ。暫く輸送艦生活ではあるが安心感が数倍だ」

 

「そうですわね……その分、不安も上がるのですが……」

 

「……ミトはそこでどうして素直に喜ばないんですかっ」

 

失礼過ぎるかもしれないが、確かにと思ってしまう。

何せ自分以外は酷い変態と外道集団であるので不安が増す。今ここにきているの浅間も結構相当なので油断は全くできない。

 

「ともあれ……女の子向き用の道具は私が持ってきたので使ってください───随分と疲れた感じがしていますよ」

 

そうか? とミトツダイラと一緒に首を傾げるが二週間前の記憶が最後の浅間から見たらそう見えるのであろうと思う。

 

「Jud.使わせてもらうよ」

 

「ええ……助かりましたわ」

 

いえいえ、と謙虚な態度を取る浅間を見てミトツダイラと一緒に苦笑する。

そんな和やかな雰囲気が流れてきたな、と思った瞬間。

 

「きゃああああああああ!! そ、総長が! 全裸の馬鹿総長が突然海から海坊主みたいに! しかも、股間にワカメを装備して! 端的に言って意味が分かんな、きゃあああああ!!」

 

三人で一緒に数秒間、穏やかな雰囲気の終わりを惜しんでそして行動に移す。

狙いは最早語るまでもなかった。

 

 

 

 

 

「あの~~」

 

「はい?」

 

「ええと、シュウさん……熱田副長を御存じありませんか?」

 

「副長ですか? ……いえ、知りません」

 

そう答えると巫女服を着ている彼女はそうですか、と微笑しお邪魔しましたとお辞儀してまた違う場所に行った。

質問を受けた全員が誰だろう、と思い話し始める。

すると武蔵側にいた人間がああ、と事情を説明し始めた。

 

「あの子はどうやら熱田神社の巫女。つまり、浅間のところの子と同じ巫女って事だ。探してるんのも熱田神社の荒王の代理神だからまぁ、変じゃねえわな」

 

「……そうか……大きかったなぁ……」

 

「───胸のことしかないから身長を言い訳にはできんぞ?」

 

「い、言い訳なんてしねえよ!? も、ももももしかしたら尻の事かもしれねえだろ!」

 

「何? てめぇ……尻派か。けっ、どうやら俺とお前の袂は別れてしまったみてぇだな……おら。とっととお前のあさいてを渡してもらおうか……!」

 

「き、貴様……! まさか、それ狙いで、あ、待て! どうして、他の奴らも……!」

 

女子衆が遠慮なく蔑みの視線を男子衆に注ぎながら、話題は繋がっていく。

 

「でも、あの子……どう見ても表情が……アレよねぇ……年を取れば若い子が羨ましくなるってよくマンガ草紙に書いてあるけど、どっちかと言うと羨ましいっていうより微笑ましさを感じてしまうのはアタシがもう現役を引退しているからとかかしらねぇ……」

 

「いやいや、若くても思いますよ。青春っていうのは年じゃなくて状態と状況って事ですよ」

 

「……でも、確かうちの馬鹿副長の狙いは……」

 

全員でその事実に至って、結論はこう思った。

男連中は無言で、武器の整備をし始めた。流石にこれからの事も考えているのか武器は輸送艦側で作られた原始武器である。ちゃんと先は尖っているので真っ当な人間に当たれば凶器だが剣神は規格外なのでこの程度ではダメージを得ない。

だから、ちゃんと流体強化して凶器になるようにしてから彼らは行動した。

さっき副長が落ちて行った先に。

 

 

 

 

 

「ぬ……? えらい騒がしいで御座るな……」

 

輸送艦の所から物凄い騒がしい声が聞こえる。

それは、色々と荷物やら交流やらをしているので騒がしくなるのは仕方がないが何故かドボンドボンと海に投げ捨てるような音が聞こえる。

まるで原始時代の魚を狩るために槍を投げているような音が。

錯覚で御座ろうと思い、そのまま丘の上を歩く。

行先は決まっている。

行先は船の上から毎日見ていた場所で、そこは剣が大量に刺さっている場所であり戦場の跡……つまり墓所だろうと見当をつけた場所だ。

行く理由としては、地盤とかがおかしくなっているように見えたからである。だから気になった。

それだけである。

忍者の性……というよりは自分の性格で御座るなと思い、早く着かなくてはと思う。別に悪いことをしているわけではないのだが何となく武蔵の皆が作業しているのに自分だけという思考が生まれてしまう。

他人が働いているところを見ると、自分も何かをしなければいけないと思うのは忍者でなくてもつい思ってしまう事であろう。

どこぞの全裸や副長は無視するが。アレらは逆に作業を邪魔するか破壊するしかできないのでノーカウントだ。

 

人間、どう成長してどう歪んだらあんな先天的非協力キャラになるので御座ろうな……?

 

馬鹿の方は姉も狂っているので理由は解かり易いがシュウ殿は天性だろうか。

いや、親と言う可能性もあるかもしれないので結局は過程ではなく結果であろうと思い結論を出す。

やれやれという感じで首を振って、吹いてくる風を心地よいと思っていると

 

「ぬ……」

 

人の気配が前から来ている。

 

 

 

 

 

敵か、と思う思考は即座に捨てた。

気配の揺れみたいなものがこちらに気づいているような揺れをしていない。だから、普通に考えてここら辺の住人なのだろうと思う。

問題はないのだが一応、敵対状態である武蔵の特務である自分が出歩いていると怖がらせるかと思うがこの距離では隠れるのも難しい。

直前まで考えことをしていたのが、この状況を生み出したようである。

普段ならもう少し早く気付いていたが、別に害はないだろう。ここで特務とはいえただの忍者に対して何かをする価値もなければ、印象も最悪になるだろう。

だから、ただの住人だと思い直ぐに擦れ違ってしまおうと多少、足早に動きそして遂に前からの気配が肉眼に確認されたかと思うと

 

「───え?」

 

以前、助けた長衣の男であった。

 

 

 

 

 

アデーレは輸送艦上に渡り、暫くして久しぶりの顔を見てほっとした。

第一特務だけは別件でいないが、それ以外の人物がここに揃ってやっぱりほっとしたと思える。

まだ完璧とは言わないがとりあえず、連絡が取りあえるようになったのである。性格には問題が多々あるが能力は文句なしの一流が多いので最悪だ。

 

……あれ? 自分、内心ではそこまで喜んでいないですか?

 

才能で帳消しにしたい外道をどうやら帳消しに出来ていない様である。

やはり頼りにできるのは鈴さんくらいである。

 

「あれれ? 副長はどうしたんですかぁ? さっき留美さんが探していたんですけど……」

 

「シュウ君ですか? 今はお忙しい様子ですから、後の方がいいと思いますよ?」

 

そうして浅間さんが答えてくれるのだが、何故か副会長や第五特務が青褪めた顔になっている。

この話はやばい方向ですねと思い、話の方向性を変えなければいけないと考える。

そうしていると

 

「ちょっと待った───留美って誰だ?」

 

「え? ───あ、ああ、そうでした。副会長達はまだ知りませんでしたね」

 

すっかり全員知っていると思って話してしまっていた。

隣にいる第五特務もうんうん、と首を縦に振っているので自分、もう少し思慮深くならないといけないですねぇ……と思う。

すると自分と手を繋いでいる鈴さんがおずおずといった感じで声を作る。

 

「留、留美さん……シュウ君、の所の、巫女さん、なの……」

 

「……熱田神社の巫女というわけか……そういえば、あの馬鹿から神社についてそこまで聞いてなかったな……時々、熱田系の人間が葵の馬鹿を追い回している光景は多々見るのだが……」

 

「まぁ、一応あそこ戦闘系とはいえ神社ですから……あそこまでの汚れは許せないんでしょうね……最近はホライゾンがいるので我が王に対してのツッコミは隙無しになっていますが」

 

「ええ……さっきも見事でした……まさか寝てもトーリ君に対しての股間クラッシャーを忘れないとは……記憶を失っても魂がトーリ君へのツッコミを忘れられないのでしょうか……?」

 

「……浅間さん。最後の方、良いことを言っているように騙されそうになりましたが、それじゃあまるでホライゾン副王は総長へのツッコミが魂みたいになってしまいますよ……」

 

この人も大概ですねぇ、と思うが今更である。

というか、この人も副長に対しての股間破砕だけならば誰にも譲らないではないか。

つまりは類友なんですね、と内心で深く頷く。汚染されないように気を付けよう。

 

「待て───重要な事を一つ聞きたい」

 

「え? Jud.何のことですか?」

 

いきなりの副会長の真剣な声音に少し驚いたが、一体何のことだろうと思い考える。

考えるが、所詮一従士の考えでは答えは出ないのではないだろうかと考え直し即座に答えてくれそうなのでその一瞬を待つ。

そして副会長は息を吸い、一言。

 

「彼女も───ズドン巫女なのか?」

 

全員が一斉にしーんと痛い沈黙を得る。

ごくり、と第五特務が喉を鳴らし自分は汗を流し鈴さんはわたわたしている。非常に可愛い。

そんな中、浅間さんが笑顔を凍らせているが今は気にしてはいけない。気にしたら死ぬかもしれない。

今は盾の副長がいないのだから。

 

「……どうでしょうねぇ……一応、剣神の巫女ですから剣が専門じゃないんですかねぇ……?」

 

「アデーレ……でも、ええと……姓は言いませんが、とある神社の巫女も別に弓だけが専門っていうことじゃありませんのよ? ただ弓に関しての才能が異様レベルなだけですわ───ですわよね? 智?」

 

「名前だけルールは有りなんですか!? そして、私のズドンはそこまで恐れられる技術ですか!? 何度でも言いますけど、危険そうに見えますけど基本、巫女は人を射てないから危険度はそこまで高くないんですよ!?」

 

副会長が無言で自分と第五特務の肩を叩き一回、深く頷く。

それにはっ、と二人で同時に気付き重く頷く。決意は心の奥底に秘め表情は出来る限り明るくすることを務めて浅間さんを改めてみる。

 

「……えっと、そういえば我が王は何処にいったのでしょうか……?」

 

「……どうして私のキャラについて真面目に語ったら話題を変えられたんですか……?」

 

ここで気にしたら浅間さんが傷つくだろうと思い、無視する。

 

「えーと、普通に考えたらホライゾン副王の所にいるんじゃないんでしょうか?」

 

「いや、さっきホライゾンの所で馬鹿をやったところでそこから帰ってきた所だから可能性は低い。もしかしたら、また不祥事が見つかって番屋か熱田系に追われて逃げてるかもしれない」

 

「いえ、それならばトーリ君は愉快奇怪なボケを放ちながら逃げるでしょうから騒ぎになっているはずです。だから、セオリーでいけばホライゾンか、喜美か、シュウ君か、ここの四択だと思います。そして、シュウ君はきっと奈落の底に落ちているでしょうから二択です」

 

何か最後に殺意がブレンドしていたので思わず、浅間さんを除いてスクラムを作り、小声で話し合う。

 

「なぁ、アデーレ。今日の浅間はどうしてこんなに熱田に対して怒っているんだ。何時もよりも殺気が増している……対外的に副長が死ぬのは問題なんだが」

 

「対内的にはOKですのね……でも、確かにそうですわね。そっちで、智のストレスをマッハの勢いで貯めるような外道イベントでもやらかしたのですの?」

 

どうしてここでこちらが犯人説という疑惑を持ち出してきますかねーと思うが、周りにいる外道が外道だから仕方がない。

 

「ええと、そのですね───簡単に言えば副長が修羅場イベントを発生させたので浅間さんルートを選ぶための選択肢がリバースされて封殺状態になっているんですよ。これを何とかするには浅間さんへ通い妻の如く通い、好感度を上げなきゃいけないっていうところです」

 

『そっかぁ……武蔵を離れている内にそんな面白いことがあったんだぁ……ガっちゃん? そこら辺大丈夫? 同人誌に反映することが出来た?』

 

『フフフ、大丈夫よマルゴット……私、貴女がいない間余りの寂しさについネタ帳のネタを一割くらい使って、熱田君がおトーリなさるを大幅改変してしまったのよ……今、留美の清純フィールドで浅間様がズドンを躊躇っている名シーンよ。ここから先はマルゴットと一緒に考えようと思って取ってあるの。一緒に完成させましょう……!』

 

「ちょっと待った---!! ナルゼは今、非常におっそろしい事を平然と吐きましたね……!? というか、もう、それ! トーリ君が出ている意味があるんですかーーーー!!」

 

ああ……そっちに重点を置くんですね、と目が憐みの視線にならないように気を付けたら半目になったが仕方がない。

まぁ、ともあれ総長がいないというのは危険……というのは大袈裟かもしれないが念の為に探すべきですかね、と思っていたら

 

「おや?」

 

本人がこちらに来ていた。

見慣れた全裸が何時もの笑顔でこちらに向かってきている。

 

……見慣れて嬉しいものじゃないですけどねー。

 

全裸ネタは全員で何度も阻止しようと過去幾度もチャレンジしたのだが、何をどうしても止めない。

まさか、第二特務の拷問や副長の剣撃やハッサンさんのカレーやイトケンさんとネンジさんの友情レボリューションを受けても止めないとは思わなかった。

この全裸は全裸になる事に何か命を懸ける理由でもあるのだろうか。どうせ下らないだろうから聞こうとは思わないが。聞けば腐る。

 

「何していたんですか総長? 外に何かあったんですか?」

 

「おうおう、アデーレ。オメェ、知らねえのか? 今、下の海に世にも奇妙な武蔵産の雄型人魚が狩られそうになるっていう愉快アクションが行われているんだぞぉー? 爽快だぞぉー?」

 

「武蔵にそんな珍種がいましたっけ……?」

 

何時からそんな愉快動物園になったのやら。

非常に気になる前振りだったが、気にしたら武蔵内カーストが落ちてしまいそうになるので好奇心に蓋を閉めとく。

だから背後で二人が息を呑んだのに残り一人が何のリアクションも起こさなかった事に恐怖を感じているなどという事はない。

 

「それを見に行っていたんですか?」

 

「いや、点蔵の奴が何かディスコミュッてたからよぉ。ちょーとぉ、トーリ君が選択肢を押してやったんだよ───長衣の旦那ルートを」

 

「……葵。お前はクラスメイトを落とすところまで落とすつもりか……というか、英国とこれ以上問題を作んなよーー!」

 

どうやら被害者を作りに行っていたようだ。

そして被害者が出来たからといって油断はできない。時たま有り得ない角度から飛び火が来ることがあるのだ。これが戦闘ならばクラスカースト最下位は何回死んでいるだろうか……全員殺しても死ななさそうだから問題がないっぽいが。

 

「ところで……その長衣の旦那っていうのは?」

 

「あ? ああ、何か知らねえけど、点蔵とアッハ~~ンな関係な雰囲気が出ている旦那。面白そうだから、煽っといたぜ!!」

 

「葵。後でお前。クロスユナイトと一緒に反省会な」

 

そこで第一特務も説教に加えるのが厳しい……!

 

流石は副会長。

纏め上げる事に暴力を使うのを躊躇しない。つまり、総長連合及び生徒会の恐怖の象徴である。権限的に総長の方が上のはずなのに人間として下にいるせいで抗える人物がいない。ちなみに、副長は論外である。

 

「いやいや……ちょっと待ってください。微妙に話がずれ───」

 

既に総長が副会長に引き摺られて説教する流れになっていた。

後じゃなく今やる気になったらしい。

とりあえず無言でまだいるメンバーに話の続きを促すことにした。

 

「ええと……まぁ、簡単に言えば輸送艦墜落の時に点蔵が救った人なんですけど……」

 

「成程……でも珍しいですね? 第一特務が救った人と一緒にいるなんて」

 

どうして、どうやって、第一特務が人を救ったなんかは聞かないがそこは疑問に思った。

第一特務は忍者故か往年の性格故か人助けやパシリをしているのは知っている。

だから、救う理由についてなんて問い詰めるほど野暮じゃない。

そしてそれ故か第一特務は基本、助けた人に対して何も求めない。精々、助言と注意くらいだろう。

それが違う国の住人なら尚更自分の心に封じる人なのに。

それに関しては第五特務も同感なのか一度頷き、でも苦笑しながら

 

「でも偶にはいいんじゃないんですの? 忍者が主役になるのも今では珍しくありませんですし───まぁ、まさか点蔵が男方面に心の民族移動をするとは思いもよりませんでしたが」

 

 

 

 

 

 

 

 

シェイクスピアは荘厳と言ってもいいような教導院の廊下を歩いていた。

正直、ここまで豪奢なのは日常生活としてどうかと思うが小説の資料になるのは確かなので偶に観察をする。

下に敷いてあるレッドカーペットを豪奢と評するか悪趣味と評するのも個人の趣味だろうしそんな感想は在り来たりだ、とシェイクスピアは思う。

 

……早く自室に帰って執筆をしよう……

 

いいインスピレーションが湧いたから書こうと思ったら、紙とペンが残り少ないことに気づいて仕方がなく買いに行って帰る最中である。

別に表示枠に書き留めてもいいし、紙なども誰かに頼めばもって来てはくれるのだがやはり自分のことは自分ですることはあらゆる職業での礼儀だと思っているので、そういった事はしないようにしている。

仕事に熱中することは否定しないし望んではいるが、他が全て疎かと言うのは仕事をしている人間としてはいけない。

まぁ、最低限ではあるが。

だからいそいそと脳内メモ帳に書き留めてある話を速く実物として吐き出したい所に前の方から見知った顔が歩いてくる。

 

「何だ、シェイクスピアかい。我らが英国の代表作家が珍しく出歩いていたのか? 健康の事を考えれば重畳だな」

 

「それじゃあ僕が引籠りみたいに聞こえるから止めてくれないか? 世の小説家に対しての偏見だし、何よりも外を出歩くことは素晴らしいんだよ? ───人の営みという物語が見れるからね。そんなに偏見を持ち出したいなら、君こそ珍しいと言おうか? グレイス。海賊女王。英国のもう一人の女王はこんな見た目豪奢な教導院は目に毒なんじゃないかい?」

 

おお、言うねぇという笑いと共に僕は嘆息する。

周りを歩いている生徒がこちらの会話で時々動きを止める者がいるが構いやしない。

 

「それにしちゃあ買ってる物はペンと紙じゃねえか。あたしはアンタが外に行って買い物から帰って来たときに見るのはそれくらいしか見たことがない気がするがねぇ……」

 

「それは残念。ちゃんと生活に必要なものも買ったりしているよ。一応、簡単な自炊くらいはマスターしているよ」

 

「それは資料の為か?」

 

「Tes.残念ながらそれは否定できないけどね」

 

「はっ、作家ならではの職業病だな」

 

「じゃあ君の職業病は海賊らしく略奪かい?」

 

「違うな。英国の海賊女王としてはこう答えるんだよ───女王の言う事を気分で無視するって」

 

その台詞に思わず苦笑しようとしたところで更に追加される声がこちらの耳朶に響いた。

 

「───おいおい、グレイス。貴様のそういう所は私のツボを押さえているが、流石に女王のお膝元で言うのはどうだ」

 

周りの全員が慌てた動きで振り返り、そして膝を着くのを見て幻聴じゃない事をグレイスと一緒に嘆息し振り返る。

そこには豪奢と威厳の絶世の美女というのを体現した女性が立っていた。

襲名者であり、人と妖精のハーフ。名をエリザベス。総長連合でもない他国の人間ですら聞き覚えが有り過ぎる女王の名であろう。

そこまで自分の事を気にしていないシェイクスピアですら初めて会った時は目を見張ったものである───いいキャラしてると。

そんな感慨を抱いている間にグレイスが呆れの感情を前面に出して現れた人物と接した。

 

「なーにがどうだ、だ。ここまで近付くのにわざわざ精霊術使ってまで気配隠していた演出家が。女王が遊び好きなのは国が亡びる要因の一つっていうのが在りがちなネタだぞ。それがロマン溢れる妖精女王がやるのなら洒落になってないな」

 

「女なら一度くらい傾国の美女などと持て囃されるのも面白いだろう? それにそうならないように私の周りは面白いくらい優秀だからな」

 

「おかしなくらい変態が集まっているの方が正しいだろうよ」

 

グレイスの意見には大いに賛同できるな、と感想を思いつつ今度は女王はこちらを見る。

 

「シェイクスピアは……成程、買い物か。うむ、私も久々に買い物に行きたいものだ。最近は仕事仕事で肩が凝る。人生、娯楽がないと終わるな」

 

「へぇ……じゃあ、今、どうして妖精女王はここにこうしているのかな?」

 

「それは簡単だ───周りが優秀だからな」

 

「……じゃあ、その優秀さをどういう風に利用しているかは聞かないよ」

 

すると、妖精女王の笑いのツボに的中したのか、ははっ、と楽しそうに笑う。

いい笑顔だ、とシェイクスピアは思う。

とてもじゃないがこれから色んなごたごた(・・・・)がある人間が浮かべる笑顔とは思えない。

が、それについて問う立場でもなければそこまで礼儀知らずでもない。

 

「それよりもいいのかい。エリザベス女王。さっき色々慌ただしかった様だけど……向かったんでしょう、武蔵に」

 

「それを言うならばシェイクスピア。貴様も付いて行かなくて良かったのか? 貴様の会いたかった人がいるのだろう」

 

「なれなれしいのとくどくどしたのは嫌いでね。それにその言い方じゃあ誤解が生まれてしまうよ」

 

「生憎とロマンの女王でな。思考もついそっちに走ってしまう。許せ」

 

気負いのない笑顔で語りかけてくるとこちらも釣られて緩んでしまいそうになってしまう。

そういう意味でならば、この女王は一番付き合いやすい。

他の女王の盾符は変人だらけで女王コンプレックスが多いので話すのに骨が折れる。略してクイックス。微妙に語呂が悪いな。

 

「向かったのはハワードやウオルシンガムってとこか? ま、丁度いいところっていえば丁度いいタイミングか」

 

「ああ。後、ついでにジョンソンも一緒だ。Mate! 私に任せて情熱を綴ろうではないかね!? などと叫んでいたが、正直、向こうで出番があるように思わないがどう思う」

 

「盾くらいにはなるんじゃないか? もしくは囮。あのアスリート詩人に何をやってもポジティブリアクションしか返ってこない気がするが……後で上野に叩き込んどいたらどうだ」

 

「何をやってもポジティブアクションしか返さないといったのは貴様だろうが、グレイス。以前、マジ光翼でしばいたらどうなるだろうかとチャレンジしたのだが大量出血しながらLady! 君との友情は正しく光り輝くその翼の散る美麗の景色の如きファンタスィックだな! と叫んだぞ。数秒後に血が足りなくなって倒れたが。後でダッドリーが形式的に怒ってきたのも愉快な話だったな」

 

「……以前、ジョンソンが血だらけで運ばれていたのはそんな理由があったのかい。どうでもいいけど僕はそんな友情はいらないからね」

 

「失礼だな貴様。私とて力を振るう相手を選ぶ良識はあるぞ」

 

そうである事を祈っているよ、と気楽に返事をしとく。

そうじゃなきゃとりあえず近くにいてもらったら困る。

 

「しっかしまぁ、アイツらで大丈夫か? いざという時、女王。あんたと同格を相手にしなきゃいけないだろ。勝てないとはアイツら意地でも言わないだろうが」

 

「同格、とは?」

 

解かっているくせにと前置きを置き、グレイスは言葉を地に落とす。

 

「いるだろう? 荒の王の代理神。攻撃という一点のみならばあんたといい勝負しているかもしれない神が」

 

「奴と私では専門としているのが大幅に違うから比べるのはどうかと思うがな───それに私の方が当然上だ」

 

「……根拠は?」

 

「私は妖精女王。奴は剣神───どちらの方が受けが良さそうなのか一目瞭然じゃないか」

 

「妖精女王の脳は妄想のみか。というか、アンタの力は人気が全てかっ」

 

全部グレイスがツッコんでくれるから余計な事をしなくて済むな、と思う。

粗暴に見えて付き合いが良い海賊女王。いいキャラだ。

 

「で、今話題に出た剣神だが……シェイクスピア。お前の事だから調べているんじゃないのか?」

 

「僕が言わなくてももう既に調べているだろ?」

 

「他人の口からの報告が醍醐味なのだよ」

 

面倒な女王だと思い、でも今回は自分にとっても面白い要素がある話題であったから同意することにした。

ネタというのは自分一人で吟味するのもいいが、他者との会話で熟成されていくものでもあるのだから。

グレイスも拒否するような姿勢じゃなかったので二人まとめてで行こう。

 

「参考までに聞くけど、二人の知っている情報は?」

 

「何でもぶった斬りたくて、巨乳大好きな神様って話だね」

 

「うむ。何でも武蔵では毎回の如く風呂の覗きに行って、番屋相手に戦争を仕掛けているらしい。最後には浅間神社の巫女による射撃によって万事解決しているという……神は自由だな」

 

僕も確かに同じ情報は調べたら聞いたけど、ここでどうしてここのメンバーは頷きにくい事を言うのだろう。

無視するけど。

 

「それは剣神の情報じゃなくて、今代の情報だろ。僕が言っているのは剣神という一緒の種について聞いているんだよ」

 

「さぁ? 滅法強いくらいしか知らないな」

 

グレイスの簡潔な言葉に成程、と頷き次は女王の方に促しの視線を送る。

すると返ってきたのは微笑である事から溜息を吐き、口を開く。

 

「滅法強い。確かにそれが彼らを表す言葉ではあるだろうね。じゃなきゃ荒ぶる王の代理になれるはずがないからね。まぁ、それ以外の剣神、軍神も似たようなものだったのだけど。ちょっと昔の情報を調べたら出てくるのはよくある煽り文句だったよ」

 

「勝てるとは思えねぇ、化物だ、みたいな最強系の主人公みたいな感じって事か。まぁ、本多・忠勝みたいな純正の人間の癖に頭おかしいクラスがいるんだからおかしくはないな。現にこの女王も異常識だしな」

 

「……グレイス。確かに、半分は人間じゃないから半分は人間からしたら異常識と言われても否定はしないが、貴様も似たようなものだろう……だがまぁ、つまり初代の剣神はかなりの荒くれ者であったのか?」

 

「Tes.って答えるには過去は答えくれないから言わないね。それに、自分達の納得で勝手に作り上げる答えを何て言うか知っている? ───無粋って言うんだよ」

 

二人が降参と言うように両手を軽く上げて苦笑しながらTes.と答えるのを見て、軽く自分も笑い話に戻そうとする。

 

 

「だけど、その歴史を紐解くと謎が一つだけ浮かび上がる」

 

「……謎?」

 

グレイスは解からないという疑問を素直に出し、エリザベス女王は成程という表情を浮かべる。

こういう時に自分の口で言うのはそれこそ無粋であろうと思い、女王に促しの視線を送る。

すると、ああ、と前置きを置き

 

「謎は一つだ───何故過去の剣神、軍神になれるような存在は中途半端に人のままでいたかという事、だろう?」

 

「───Tes.」

 

それが最大の謎である。

 

「人は神になれる。それは過去の歴史が証明している。それに修練の結果、人が別の存在に変わるというのは別に珍しくない。生きぬいた結果、術式による影響、まぁ例を出すならば霊体とか一番いい例だよね。死んだ後に人ではない存在になる───まぁ、霊は人であると言われたら間違っている例かもしれないけど」

 

未練は魂を幽体に変え、修練は人の肉体を上位に成長させ、成果とは人という種族を転化させる。

人間は一生人間のままでいるという思考は、最早頭が固い人間の思考でしかない。

それに人間は偉業を達せればその瞬間、人の扱いを受ける存在ではなくなるのだから。

少し思考が脱線しているなと思い、話を戻そうと思う。

 

「神になる事で何か弊害、障害があるかと言えばYes.事実、幾つかの剣神と軍神はこの制約があるから中途半端に神になっているのかもしれない。けど熱田の剣神の場合は違う。彼は暴風神の神に認められたんだ───風は移ろい、流れる。束縛するなんて出来やしない。つまり熱田の剣神は神になっても別に何の制約もあるはずがなかったんだ」

 

「神になるのが気に入らなかったって言うのは?」

 

「グレイスらしい話だけど、確かに一番有力かもしれないね。人から神……いや、違う存在になる事の忌避感。当事者になってない僕が語るのもどうかと思うけど、可能性の一つとして拒否感が生まれるかもしれない」

 

人でないものに成る。

文で書けば、この程度なのだがこの文から発生する感情はやはり、人によって変わるだろう。

歓喜する者もいるだろう。

恐怖する者もいるだろう。

悲観する者もいるだろう。

嫌悪する者もいるだろう。

どれが正解であるなどと論じるのは作家の仕事ではないが、仕事ではない故に何も語らない。

だから結論を言おう、と。

 

「結局、人でもなければ神にもならないという中途半端な者に成る事を決めた。極東の最大にして最初期の英雄の神に認められた存在はその道を選んだ。そしてそれが一番愉快な事だね───分かるかい?」

 

この問いに二人は苦笑で先を進めるように促す。

作家の言葉が聞きたいと。

作家は言葉じゃなくて文字で語る職業なんだけどな、と内心で苦笑しながら

 

「この中途半端を───神は認めたんだよ。その生き方を良しと。その生き方は面白いって。ユーモラスを理解していたのか、それとも気紛れか」

 

その下りに妖精女王が口を微笑の形に歪めて口を開いた。

 

「お前はどっちだと思いたいんだ? シェイクスピア。英国の文化の象徴の一人よ───私が笑えるような答えをくれよ?」

 

「Tes. ───当然、僕が面白いと思える答えを選ぶに決まっているだろう。作家らしく面白いほうをね」

 

ははっ、と女王が笑ってくれたので客を笑かすことは出来ただろう。

ともあれ自分の感想はここまでだ。

作家の感想をどう捉えるかは、後は見てくれた人の自由だ。

 

 

 

 

 

 

「立ち話にしては長い話になってしまったね……僕はそろそろ部屋に戻るよ。書きたい事があるしね」

 

「Tea.引きとめて済まなかったな」

 

別に、の一言で去っていく作家の背中をグレイスを消えていくまで見て、そして改めて妖精女王の方に視線を向ける。

 

「アンタもそろそろやらなきゃいけない事があるんじゃないかい?」

 

「……Tes.私もそろそろ行くとしよう。有意義な休憩だった」

 

そう言い、離れようとする背中に挨拶代わりの台詞のつもりで今回の話し合いで思ったことを話す。

 

「それにしても女王。誤解かもしれないけど、剣神に対して興味を覚えているようだな───これか?」

 

「おいおい、グレイス。何故そこで中指を立てる。普通は、そういう下りの場合は小指を立てるところだろうが。しかも、それでは私に死ねと言ってるぞ。実に海賊らしいが、海賊女王だけではなく私の友人らしさを出す事を忘れるなよ。歴史再現に引っ掛かるぞ」

 

「そんな事を言って面白がっている女の言う事を聞くほど、素直じゃなくてね」

 

ククク、と楽しげに笑っている姿を見てこりゃ、かなりの上機嫌だね、と思う。

はてさて何がこの女王の笑いのツボになったのかと思うが、最近で変わったことは起きてもいないし、してもいないはずなので無いと思うのだがもしかして、女王の所のシルバー一郎が女王の膝の上にでも乗って甘えたのだろうか。

どうでもいいが、そのネーミングセンスは英語弁か極東弁かどちらを主軸にしたのだろうか。

だがやはり、このご機嫌……というよりは楽しんでいる雰囲気には心当たりはない。最近何かあったとしたらそれこそ武蔵か、もしくはさっきの剣神の話題くらいである。

考えても結論は出ないかと思い、素直に口を開く。

 

「何か楽しみでもあるのかい?」

 

「Tes.───知ってみたい……いや、ご教授してもらいたい事柄が一つあってな」

 

一歩、女王が歩き出し二歩、三歩と進み、そしてそのまま歩みは連続する。

その歩みの迷わさに、何時も通りという単語を思い浮かべつつ何を、と問う。

その問いを歩くことで頷く代わりとし話すために空気を肺に入れる。

 

「疾走……その言葉がただの現実逃避なだけではないのかということだ。後ろを振り返らずに前だけを見る……言葉面だけを見れば素晴らしいが、それは今を見ていないということではないか、と」

 

そして

 

「それは過去から逃げているだけではないのか、とな」

 

グレイスは女王の言葉に一瞬停止した。

ただ、自分が彼女のどの言葉に反応して止まったのか理解出来ずに、思わず停止した体を振り切って視線だけ女王の方に目を向けるが既に背は小さい。

既にこちらから問う権利を失ってしまったと思った。

故に声を放つのは妖精女王のみであった。

 

「ああ、楽しみだ……どんな事でも知るというのは実に面白い。不謹慎だが、武蔵は私への良いサプライズだ」

 

その小さな背中に何となしに何かを言った方がいいと思ったが

 

「───」

 

止めた。

それは海賊女王の役割ではないだろう。

だからまぁ、余計な一言のみで十分だろうと思い、聞こえるかどうかは無視して口を開く。

 

「まぁ、がんばんな」

 

そして女王とは逆の方向に背を向ける。

背の方から微笑の気配がしたので最後に溜息をつけるサーヴィスをして、そのまま去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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