不可能男との約束   作:悪役

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巫女巨乳

真理を表す四字は神の元へ……!?

配点(乳査定)


留まる美しさ

 

武蔵は戦闘による補修を朝から晩まで行い、補修の音が止むことはほぼ無かった。

止むことは無かったが、作業の間にふと、違う場所を見る者が、必ず、どこかにいる。誰も、それについては何も言わない。

見るだけ見せて、そしておい、と声をかけて再び作業を始めさせることの繰り返し。

誰もが見る方向が同じで、何を見ているのかを理解しているからである。

視線の先に映るのは英国───ではなく輸送艦。この間の戦闘によって、武蔵から切り離された輸送艦の一隻。

連絡すら取りあえないが、とりあえず、無事であるということは情報と知っているが、やはり、思いを停止させるのは不可能に近いだろう。

情報を聞くことと、無事であるという本人からの報告を聞くのでは効果が倍近く違う。

あそこにいるのは、自分達の子供達であり、友であり、仲間であり、知り合いであるのだ。心配の二文字はそう簡単に取り外せない。

誰だってそうだ。

故に

 

「……浅間。視線」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

突然言われた言葉に浅間は、眠りから覚めたというような感覚を得て声をかけた喜美の方に反射で振り返る。

そこには呆れた様な苦笑を浮かべている喜美。

というか、周りにいるメンバーも全員苦笑やら何やらをこちらに向けてきている。一人、全裸の格好をこっちにアピールしている馬鹿がいたが、ウルキアガ君が黙って蹴り転がしてうひゃーって叫んでいるから問題無しと判断する。

 

「えーーと……」

 

自分は確か、今までの情勢、つまり、武蔵の補修やら不安に思っている武蔵の人達や輸送艦にいるメンバーの帰還とかについて話し合っていてという思い出さなければいけない思考に気付き、自分が今までどこに視線を向けていたかに気付く。

 

「す、すいません。ぼーっとしちゃって……」

 

「ボーーン! と!? ボーーンね!? いいわ浅間! 自分のナイス乳を見せつける事を態度だけじゃなくて、言葉でもするのね!? 正しく、言葉攻め! ドSのような単語をまさか、自分の乳を見せつける単語に改造するなんていやらしいわね!」

 

「姉ちゃん姉ちゃん! 流石の俺もそこからそんな思考に至る経路が理解できねえぜ!? 姉ちゃん相手だから優しく言うけど脳味噌どうなってるんだよ!?」

 

「フフフ、だから、あんたは愚弟なのよ……いい? 賢姉の脳味噌がどうなっているかですって? 馬鹿ね。見たことないから知らないに決まってるじゃない! ただ、知っているのは賢姉の脳味噌に詰まっているのはエロと賢さよ! 後は知らない」

 

「賢さがあるなら、そんな馬鹿な答えを言うな!」

 

全員で声を合わせて叫ぶが、喜美は耳を塞いで無視するだけ。

全員でこの野郎という意思が生まれたことを悟るが、無駄になる未来は見えているので、拳の力を霧散させる。

この兄妹は、本当にどうして無駄なところで体力をここまで使わせるのやら。

 

「ええと……どこまで話しましたっけ?」

 

「確か、商工会に今回の被害について色々と文句を言われている中、そこの馬鹿をシロジロが全裸砲弾させて、混乱している中、話を無理矢理纏めたところで浅間が視線を逸らしたのであるな」

 

「この馬鹿は何も役に立たないくせに、場を混乱させるのには便利だからな。無料全裸砲弾を受けた時の商工会は凄い顔だったぞ。金になる顔だ」

 

「小西さんとか、直撃してとっても筆舌し難い顔になっていたよねシロ君。ちゃんとエリマキが録画したから、次回の交渉の時に使おうね」

 

「次回は回転も加えたほうがアグレッシブさが増すよな! なぁ……浅間!」

 

ご要望に応えて、回転を加えた矢を彼の鳩尾に放つとイヒィン! などという謎の叫びと共に吹っ飛んで行った。

まぁ、急にこちらに振ったのは理解できる。

今の振りの本当の向きはシュウ君に向けるものだったのだろう。大体、馬鹿をするのも何時も一緒な二人である。時々、兄弟みたいに仲がいいんですから。

性格や好きなものとかは似ているようで違うくせに、知人とはいえ血が繋がっていない他人とよくまぁ、あそこまで仲が良くなるものです。

 

……ですが、どうしてそこで私に振るのかが理解できません……

 

振るのに適した人材は大量にいるではないか。

ここには、キチガイ姉に、姉好き半竜やおかしな金好き商人夫妻という多岐にわたる変態共がいるのである。まともである自分に振るのはおかしい。

 

「纏め役の正純やネシンバラ君がいないのが、こうも話がごちゃごちゃになるとは……」

 

「ククク、一番、話をごちゃごちゃにしている人間が言うと説得力があるわねえ……で、そのネシンバラの呪いの方はやっぱり禊げなかったの?」

 

その言葉でああ、そういうえば伝えていなかったと思い、一息吐いてから答える。

 

「やれるだけのことはしましたが───結論から言ったら、無理でしたとしか言えません」

 

「浅間の通常禊では駄目だったのか……では、もうズドンするしかないではないか」

 

この半竜も言う事が違うと思う。

思わず、本当にズドンしてやろうかと思うが、気配を察したのか、いそいそと離れていくので仕方がない。次の機会にするしかない。

 

「マクベスの呪いは王殺しの呪いですが、マクベスという話を考えればおかしな事ではなくむしろ、真っ当な終わりです……舞台の話を変えられるのは作家か、役者くらいです」

 

それに

 

「舞台演劇は元々が神に捧げるものですから、神道と相性が悪すぎるんです……」

 

「それは、浅間神社以外の禊でもか?」

 

シロジロ君の疑問にうーーん、と流石に悩む。

 

「……難しいと思います。自惚れるつもりはありませんが、浅間神社が武蔵内だけではなく、上位に入る能力と知名度と言える位には思っています。だから、武蔵の他の神社では……それに大きいのは後は」

 

熱田神社くらいしかないと言おうとして

 

「───はい。こちらの方でも難しくて浅間さんと同じで追い払うくらいしか出来なかったです」

 

聞き覚えのない女性の声が鼓膜に直撃した。

 

 

 

 

「───」

 

一瞬、全員が動揺で止まるなどということは悪手は誰もしない。

最初に動いたのは、全身体能力が人間よりも遥かに上のクラスであるウルキアガ君が声が聞こえた方角……出口の方に一歩近寄る。

それとは逆にシロジロ君とハイディが一歩、下がり窓際でさっきまでぐわんぐわんしていたトーリ君の方に近寄り、そして、喜美はトーリ君の直ぐ傍によって前だけではなく、外からの攻撃にも警戒しているようである。

各自、それぞれ術式や武器を構えて待ち構えているのに対し、自分も何か用意しなければと思い、条件反射で弓を組み立てて、矢を……シュウ君用に爆砕術式が付いていますけど……大丈夫ですかね?

相手が敵だったら不味いかもしれない。当たったら、トーリ君やシュウ君以外なら間違いなくグッチャグチャレベルである。

ぬぅ……! と思わぬ戦力外通知を自分から発信してしまう。

これは、色々と不味い。さっきから色物兄妹がどうして弓を構えているのに、矢も構えないのかという疑問が顔に出まくっている。

 

バれたら、武蔵の浅間神社の巫女は敵を最初から殺る気満々であると誤解される……!

 

何時でも、あの幼馴染に対して落ち着けという反射をしているのが痛恨のミスであった。

神よ……! と思わず膝をつきたくなるが、考えてみたら、この状況を生み出したのが神である。

どっちにしても敵であった。巫女なのに。

そう思っていたら

 

「あ……すいませんっ。敵じゃないので武器を下してくれませんか……?」

 

またもや知らない声が響いたと思ったとたんに声が響いてきていた扉の前からいきなり姿が現れた。

前知識がなければ、かなりの驚きの事実ではあったが、逆に考えてみれば成程という事であった。

 

歩法……

 

シュウ君の十八番の技……というには滅茶苦茶の難易度の技らしい。

体術とかは基本、余り解らないのだが、点蔵君や二代が言うには人間止めていると言われても文句が言えないくらいおかしいレベルの技術らしい。

誰でも努力すればできる技術ではあるらしいが、一対一でも難しく、それが初見の相手なら倍以上に難易度が跳ね上がり、それが、シュウ君クラスの集団に対してならば、正しく神技らしい。

そして、それを使ってきたということは

 

「熱田神社の縁の者ですか!?」

 

「Jud.」

 

審判の受け答えを持って、その通りと答えられる。

 

「失礼しました───私、熱田神社の方で巫女をさせてもらったいます。神納・留美と申します」

 

 

 

 

 

いきなりの来訪に、とりあえず、お茶でもと思い、ばたばとと色々、用意をして動き回り、そこをハイディは浅間に小声で問いかける。

 

「シュウ君の所の巫女さんって話だけど……アサマチは知らなかったの?」

 

「いやー……実は、昔からの幼馴染ですけど、あんまりシュウ君、熱田神社について語りませんし……知っているのはシュウ君のお父さんとお母さんと妹さんだけですからねー……」

 

「えっ。あのヤンキーに妹いたの……?」

 

それってかなり性格が歪んでいるか、菩薩のような心を持っている妹なのではないのだろうかという考えをアイコンタクトで送るとうーーん、と考える仕種をアサマチはしながら

 

「……というか、シュウ君がヤンキーになったのは武蔵に来てからですから、妹……ミヤちゃんは変になっていないとは思いますよ……多分」

 

最後は断言しないのか、と皆で半目で睨みながら、ふーーん、と頷く。

 

妹ねー……

 

そういえば、彼の過去については全く知らない組の人間であった。

武蔵はそういう人間が集まる場だから、過去については話そうとしないなら、気にしないという不文律みたいなものが生み出されている。

だから、そういう意味ならばおかしくないか、と思う。それに、今の話を聞いてみたところ、どうやら今は全然会わずに、話もしていないみたいである。

考えているところから、それは読み取れる。

だから、余り考えないようにしようと思う。考えすぎたら、変な路線に行ってしまいそうだから。

 

「それで? 要件の方は?」

 

そして、今、ようやくお茶用意を終えて、シロ君と留美さんでいいかな? 二人の話し合いの場が作られた。

シロ君が聞くのは、この中で、そういったのを出来るのがシロ君だけしかいなくて、トーリ君は論外なので、仕方がない。

今は邪魔にならないように縛って、その辺にウルキアガ君が転がしてくれている。時折、ぐわーとかいう叫びが聞こえてくるが無視である。

そして、改めて相手の方を見る。

はっきり言って外見は凄い整っている。髪型は長髪をポニーテールに纏め上げており、顔立ちは整っている。そして、話し方からか、雰囲気のせいでか、物凄いお姉さんというか年上みたいな感じがしており、喜美ちゃんとは違う意味での年上っぽい雰囲気である。

そして何よりも

 

大きいねー!

 

胸のことである。

別に、アデーレや正純みたいに現実逃避するほど絶望していないし、素直に思う。

アサマチと同じか、ちょっと小っちゃいかなと思うレベルである。背丈の方は、普通レベルなので、尚のこと目立つ。

 

『神社の巫女査定にオパーイ査定とかあるんじゃないかな?』

 

『フフ、それって、つまり、巫女になるには巨乳検査があって、条件を満たしていない貧乳とか中乳じゃ駄目ってこと? つまり、それって至高の巨乳は全部神社に集まるってこと!? エクセレント! 乳は神の元に集まるのね……!?』

 

『うわっほーーい! くっそぅ……どうして、俺は全国神社巫女乳査定があるという噂を親友から聞いていなかったんだ……だったら、その査定のアルバイトで俺自身が揉んでいたのに!』

 

『ね、根も葉もない馬鹿話をしないでください! 信じる人間が出たらどうするんですか!?』

 

そこで、思わず、場にいる全員で周りを見回す。

ここで、本来ならシュウ君やナルゼ辺りが乱入してくるのが、大体の流れなのだが、二人ともここにはいないので調子が狂ってしまう。

 

『いても、いなくても迷惑をかける連中だな……拙僧、思わず嘆きたくなってきたぞ』

 

『あんまり、知りたくない事実を知っちゃったね……』

 

全員で思わず俯きそうになるが、耐えなくてはいけない。

耐えなければ現実は生きていけないのである。悲しい事実である。

 

「いえ。シュウさんが輸送艦に行って、流石に熱田神社として、神様の様子を知りたくて、藁に縋る思いで、立ち寄らせてもらったんです」

 

成程と思う。

そういえば、あの副長も剣神などという大層な存在だから、熱田神社側からしたら、いないのはかなり問題なのだろう。

普段、自由人過ぎて、法からもある意味で束縛を受けていないので忘れていた。

あれでも、現人神みたいな存在なのである。

 

「残念だが、こっちも連絡を取れない───個人的な考えを述べるなら、あの馬鹿は海に捨ててきても、一日くらいで無事に戻ってきそうな馬鹿だから問題ないとは思うが」

 

「やだ、シロ君! 素直すぎて素敵……!」

 

「金以外でも狂うんですか……」

 

非常に不名誉なことを呟かれた気がするが無視する。

ともあれ、お話はそうなるとこれで終了となるが、問題が何も起きないことを祈りたいという思考が生まれる前に耳にくすくすと笑う声が聞こえる。

目の前の少女が心底愉快と笑っているのである。

 

「……あ、失礼。つい……シュウさんが言ってた通りな人達だなぁと思いまして……」

 

悪い意味で笑っているわけではない、という事は、まぁ、いい事かなと思い

 

「ええと……確か、貴方達は……お金の亡者商人であるシロジロさんとハイディさんですよね?」

 

「何て失礼な乳剣神……!」

 

一瞬にしてその思いが吹っ飛ばされた事で、素直な自分の叫びが吐き出される。

 

「ククク、その例で行くと私とかはどうなるのかしら?」

 

「確か……乳ブラコンとか言ってましたよ?」

 

「……ふっ。何それ? まるで、ブラと結婚しそうな名前……私、まさかブラと結婚するの!? ねぇ、浅間! ブラと結婚するだなんてそんなの私達には縁がないわよね! 何せ、ブラとは大きくなる度に離婚しまくりなんだから! 私達、プレイガール!?」

 

「何でそこで私を巻き込むんですか! 巻き込むんなら、直政辺りを巻き込んでくださいよ! 私はそういうのは会話はあんまり───」

 

「あら? そういう会話って何かしら? 浅間はどういう会話って思ったのかしら? 別に女の子同士なら変な話じゃないわよねぇ……? ヨゴレ巫女は何を思ったのかしら? ちょっと賢姉に教えてくれないかしら?」

 

「くっ……!」

 

相変わらず、アサマチだなぁ、と思う会話である。

付き合いがいいのだろうと思う。そして、その光景をクスクスと笑うお姉さん系巫女さん。同性である自分が見ても、かなり綺麗な人だなぁと思ってしまう。

と、そこでふと思った事がある。

 

「あ、少しいいかなぁ?」

 

「Jud.何でしょうか?」

 

「熱田神社の巫女っていうのは解ったんだけど……それって、つまり……アサマチみたいに住み込んでいるの?」

 

ぴたっ、と全員の動きが一瞬止まり、沈黙を示す。

特に、確かアサマチがいたはずの方向からは鬼のような殺気みたいなものを感じる。本人不在なのが悔やまれる状況であった。

そして、それを全く気にせずに留美ちゃんはニコニコ笑顔のまま

 

「はい───生活のお世話などは私が全部やっております」

 

ざわりと空間が振動した。

 

 

 

 

「……あれ?」

 

「どうしたんさね、アデーレ」

 

機関部の一部であり、今、現在、己の武装である地摺朱雀と奔獣の整備をしていた直政とアデーレの間でアデーレがいきなり疑問の声を上げた。

そもそも、別にここで見てなくても、訓練や馬鹿共と行動を共にすればいいのにとは思うが、まぁ、人それぞれと思い、何かを問う直政。

 

「いや……これ……」

 

「……あ?」

 

アデーレが恐る恐るといった感じで差し出されたのは表示枠。

どうやら、通神帯(ネット)で何やら情報などを見ていたのであろうと思い、何か変な情報を入手したのかと思い、覗き込んでみると

 

「……何さね? この"あの乳ストーカー不倫なんて許せねえ……!" という(スレ)は……」

 

「しかも、これ、さっき作ったばっかりなのに既に10を突破してますよ……うわぁ……半分以上が梅組メンバーと浅間さんのコメントですねー……」

 

「……特にアサマチのコメントの"馬鹿・即・去勢"については殺意しか込められてないし、巫女としてその発言は大丈夫かい……?」

 

とりあえず、あの馬鹿共が何かをしたのだろうと思う。

結論はそれしかないし、何時も通りなので直政はそのまま、また作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

全員が何故かこっちを見ながら汗を垂れ流している姿を見ながら、浅間は自己を落ち着けせるための言い訳作りの作業中であった。

 

落ち着くんです、浅間・智。そう、相手は巫女として神の割には馬鹿なシュウ君の代わりに家事の手伝いをしているだけで、別に何のおかしいことでもないです。

そう、だから、同棲しているとか、何やらは別に私には関係なく、巫女巨乳を嫁にしているということはすなわち処刑しても何の問題も、罪悪感も感じなくてもいいということで、すなわち神殺しを達成しても、相手は悪神であり、邪神であるので、全く無問題ということでありますよね?

 

神道言い訳は完璧です、と笑顔すら浮かべる余裕を獲れた。

何故か、その笑顔に全員が震えた目でこちらを見てくるのだが、そこは無視しようとして、一ついらん気づいた。

この留美さんという人も、私と同じで巫女。

それ、つまり、全部の神社が一緒であるというわけではないのだが、基本、巫女は神様第一。

そして、熱田神社ではスサノオを意味する現人神であるシュウ君が神様であるから

 

「あ、あの……」

 

「はい? 何でしょうか、浅間さん」

 

ニコニコ笑顔をそのまま維持している留美さんにぬぅ……! と謎の敗北感を感じながら、恐る恐る余り聞きたくないことを問い質す。

 

「そ、その……シュウ君とはどういう関係で……?」

 

「まぁ」

 

すると、気のせいか、顔を少しだけ赤くして、手を頬にあてる。

その仕草に、周りの皆がばたばた暑さを出張するが、今は気にしていられない。

そして

 

「私とシュウさんとの関係ですか……お恥ずかしいながら一言で説明すれば」

 

それは

 

「私が一方的にお慕いしている関係です」

 

轟っと、まるで重力が倍近く増えたかのような感じで仰け反る馬鹿達が、何故かこっちを見ていた。

 

 

 

 

「ぬぁ……! な、直政さん! 何故か、さっきの(スレ)が止まるどころか一気にえげつない勢いで怒りコメントが……! しかも、今度は大半が浅間さんだけです!」

 

「末世と遭遇する気分ってのが一足先に体験できる気分だね……しかも、珍しく葵姉も戦々恐々しているじゃないか……何が起こってるんさね……」

 

 

 

 

フフフ、と笑う留美さんを見て、思わず、はっ、と色々な情念を堰き止める。

 

だ、駄目ですよ! 相手は別に悪いことなんてしてないんですから───やるならシュウ君です。

 

そう、彼女は本当に何も悪くないし、思っててなんだがシュウ君も悪くない。

別に、ただの幼馴染程度がそんな事を言えるわけではないのに……何をしているんでしょうかと溜息を吐きそうになる。

それでも、彼女はただこちらに笑いかけてきてくれて、そして

 

「ご心配なく。先も言ったように一方的なだけであって……シュウさんが慕っている人物は他にいます」

 

「……え!? そ、それは……?」

 

「それは秘密です」

 

本当に楽しそうに唇の前に人差し指を立てて内緒という風に首を傾げられたら一撃必殺の凶悪さを作りますね、と思う。

 

「そ、そうなんですか……ほ、他にもいるんですか……へぇ……?」

 

「ククク、まぁ、あの馬鹿、昔の草子に出てきそうな一人に恋している主人公っぽい感じがあるものねぇ……ハーレムとか目指す程鈍感でもなければ器用でもないんじゃない?」

 

「はい……出来れば、もう少し脇目に視線を向けてくれたら嬉しかったんですけどね」

 

おお……! とこの場にいる女子衆で思わずドキドキする。

何というか凄い。

恐らく、恋愛系でここまでドシドシ行くキャラは梅組にはいなかった。

強いて言うなら、ナルゼやナイトにハイディなのだろうけど、三人とはまた違った積極性である。

凄いなぁ、ともう一度思う。

すると、彼女は視線をこちらではなくウルキアガ君に転がされているトーリ君の方に視線を向けた。

 

「あ……ええと、確か、貴方が……ええと……な、ナチュラルですね……」

 

「ほ、ほら、トーリ君! 初対面相手に全裸なんてかますから、気を遣わされているじゃないですか! 留美さんが汚染されるんですから、ちゃんと掃除されてください!」

 

「時々、浅間が何を言っているか微妙に解んねえことがあんなぁ……その乳に詰まってんのは頭に届くはずだった栄養か! そうなのか!? そうなんだろ!」

 

矢を向けたら逃げ出したので無視した。

やれやれ、と首を傾げて、ふと、留美さんの方に視線を向けると変わらない笑顔で、しかし、彼を見る目にはさっきまでの慈しみが失せ、真剣な感情を映している。

どうしたのだろうか、と一瞬身構えるが、相対しているのは私ではなくトーリ君の方なのだろう。彼女はこちらを見ずに

 

「シュウさんがよく語ってましたし、注目はしてたんです───私達の神様を十年間縛り付けていたのは誰だったのか、と」

 

温度が数度くらい下がったような感覚を得た気がする。

喜美が笑みではない目の細め方をし、トーリ君は気付いているのか、気付いていないのか、頭をポリポリ掻いている。

その顔は

 

困惑……というよりあー、しまったなーって顔ですね……

 

つまり、彼も十年もの間、彼を禁欲させたことについては悪いと思っているのだろう。

それについては、自分達では知らない約束とか友情の問題であると思い、誰も聞いたりはしていないが、気にならないかと言われれば嘘になる。

とは言っても、ここではそんな事を問える状況と雰囲気ではないので黙っていると

 

「あの馬鹿が禁欲かましたのは確かに、ちょっと俺としても想定外だったんだけどよぉ……熱田神社で何か、それ、問題になったの?」

 

「Jud.───いえ、別に」

 

ただ

 

「私達は、何れ私達の暴風神が疾走する時を待ち望んでいただけです。愛するものを守るために壊す、その生き方を信仰したのが私達ですので」

 

故に

 

「私達、熱田神社は不可能を背負う王の刃の一欠けらである事をご理解して頂ければと思います」

 

 

 

 

 

 

「おや、隆包に誾ってぇのは、珍しい組み合わせじゃねえか……何かあったのか?」

 

アルカラ・デ・エナレス教導院の校庭での一角に、三征西班牙での主力が揃っているのを見てベラスケスが素直に思った事を吐き出す。

 

「そういうベラのおっさんこそ、一人歩きして何してんだよ……言っとくが俺に絵心なんか求めんなよ」

 

「お前に絵心なんか求めるくらいなら、まだペンに対して喋りかけた方が痛々しくないわ」

 

放っとけと吐きながら、隆包は手に持っているバットを素振りし、誾の方は双剣を点検している。

その様子から、二人が何で揃っているのかを理解した。

 

「武器の点検かぁ? まぁ、隆包の方は砕けてしまったから理解出来るとして、誾の方はどうしたんだよ?」

 

誾のような武士の鏡が、もう武蔵襲撃からかなりの時間がかかっているのに武器の点検をこんな遅くにするとは思えないと言外に告げると、誾はTes.と前置きをし

 

「実は、副長と一緒に武器の点検……というよりは武器の強化に勤しんでいたのです。一人でも出来たかといえば出来たのですが、意見が欲しいというのもあったので」

 

「意見つーと……」

 

二人に共通するこれからの事で、尚、強化しなければいけない事情と言えば一つしかない。

 

「武蔵の剣神対策か?」

 

Tes.と二人揃って、返事をし、そして、思い出したかのように呆れたかのような表情を浮かび上げる。

 

「実は、あの時は大丈夫だったんですが……私の方の双剣もあれだけしか打ち合っていないのに、既にぼろぼろになっていたので……一応、流体強化でそこらの武器よりは頑強にしていたはずなんですが……」

 

「あんま、落ち込むなよ。対峙してわかったが、ありゃあ、化物だ。人間の形をしているのが余計に性質が悪い類のだ。世界から恐れられているなんて言われる様な能力を当たり前のように実現させているキチガイだ───不足を嘆いているだけじゃあ、止まらねえよ」

 

副長らしい意見といえば意見だというのは、理解できるのだが

 

「……の割には、笑ってんぞ?」

 

表情が言葉の割には緩んでいる。

例で言うならば、今から友達と遊ぶ約束をしていて、それを楽しみにしているという感じの。

指摘されてから気付いたのが、直ぐに仏頂面に戻そうとするが、指摘されている時点で遅い。

その殊に、罰が悪い顔になり

 

「あーー……いや、こりゃ、悪いとは思ってんだが……つい……」

 

「……いえ、共感できるので、大丈夫です」

 

……共感?

 

誾がそういう事を宗茂以外に言うとは珍しいと思う。

昔はあんな刃のような嬢ちゃんだったのに、宗茂はどうやって口説き落としたのやらというのは毎回の疑問である、と苦笑しつつ続きを待った。

 

 

 

 

 

 

そう、共感できる。

ある一定のレベルに達してしまうとそれを理解してしまうのである。

事実、副長程ではないだろうが、私や宗茂様も得た思いである。

それは

 

競える相手が……いなくなるんですよね……

 

スタート地点は多少の差があっても、ほぼ同じであった力は、術式、技術、経験、才能によって一気に差が開いてしまう。

宗茂様でも、最初は自分にただ、叩かれて斬られる、ただの一学生であった。

そして、遂に私の両腕を断ち切れる頃には、既に総長連合を除けば、誰も彼についていけなかった。

無論、特務がいるから相手がいないというわけでもないし、誾と宗茂もお互いで訓練をし合っていたので文句などは一切なかったが───新鮮さを欲していたことだけは否めない。

そして、副長となるとその思いは別格だろう。

国の武力を示す立ち位置の人間は、はっきり言って別格である。勝てないとは思えないが、十回中一回勝ちを狙えるというのは自惚れ判断であると思うくらいである。

防御型とはいえ副長。武蔵の副長を人外扱いしているが、自分からしたらこの人も十分人外であると思う。

国の武力となるために人間性を疑われるレベルにまで能力を昇華させたのが副長だと、立花・誾は思っている。

感服しかしない。

そこに種族の差と言う物は存在しないほどの領域。

相手が、異属であろうと長寿族であろうと霊体であろうと神であろうと関係しないという世界最高峰の存在へと昇華される高み。

戦闘系副長というのは大体それである。その領域にいると知っているのは、誾が知っている限りだけで言うなら、鬼柴田くらいだろう。別に、副長といっても、その領域に至っているとは限らないのだから。

そこに、あの剣神を入れてもいいのかはまだ解らない。

ただ、やはり、自分が知っている副長というカテゴリーに入れるというだけなら、英国のロバート・ダッドリーも目の前の隆包副長も、剣神も入れていいだろう。

つまり、勝利のみを渇望する魂というのは。

 

……だからこそ、ですね……

 

勝利のみを渇望している。

その事だけで言うなら、歴史再現も無視するのが副長であり、彼ら個人であろう。

理由はそれこそ、利他、利己と変わるのだろうけど、要は負けず嫌いを狂っているレベルにまで上げているというだけだろう。

そんな自分みたいな馬鹿を相手に戦って、勝ちたいというのは副長の望みという事なのだろう。

ですが

 

「ああ───わぁってるよ、誾。武蔵とやりあう時は奴さんの相手はお前に任せるわ」

 

「……Tes.そんなに私は解り易いのでしょうか?」

 

大人二人の苦笑を見てしまったので無視した。

どうやら、この話題では多数決の方が強そうなので、他の話題に変えることを決断する。

 

「武蔵も強敵ですが……我々の一応の敵は英国です。そちらの方の戦力は」

 

「何回シミュレートやってる思ってんだよ……まぁ、とりあえず、負ける気はないが」

 

「三征西班牙の衰退は、やはり、避けられねえだろうなぁ……"俺達は金があれば使ってしまう。ただ、情熱に任せて祭りをやって、嫌なことは忘れてしまう"って言いたい所だがなぁ……」

 

言いたいことは解る。

その言葉通りにいくには、人間にはきつ過ぎる。人間は確かに、忘れて生きていける種族だが、如何せん、不確定の未来の不安ならまだしも、決定された未来の不幸を忘れるほどではない。

他の種族からしたら難儀なものだと思われるのかもしれない。

異属や長寿族みたいに、自分達は長命ではないので、百年の短いスパンで測ることしかできないのだから。

 

「ま、そこら辺は暗くなっても仕方がないだろう。大将や娘っ子に期待するしかあるめぇよ、俺達は」

 

「他力本願ですか? まるで、武蔵総長みたいな言い方ですね」

 

「その本人が言っているセリフを借りるなら、出来る奴に任せるってやつだ。俺は絵を描くことしか能がないただのおっさんだぜ? 情熱に任せるような年齢でもないしな」

 

「というか、ぶっちゃけ何歳ですか」

 

「おっさんの年齢を聞いても面白い事ねえだろ」

 

本当に何歳かどうか好奇心はあるが、まぁ、確かに別に無理に聞きたいことではなかったので、そうですね、と答えるだけにとどまった。

そして、時間を見て、気付く。そろそろ、宗茂様に会いに行く時間と、自分が決めていた時間であるということを。

 

「すみませんが……」

 

「おう、片付けはこっちに任せとけ。遠慮なく、旦那の見舞いに行って来い」

 

旦那と言われて、多少、頬が赤くなるのを自覚するが否定なんてする気もないし、恥ずかしがったりもしない。

だから、黙って手の重荷を自覚しながら、保健室に向かおうとして

 

「……おい、誾」

 

書記に急に止められたので、アイコンタクトで何でしょうかと問うと

 

「……どうして、お前はさっきまで研いでいたであろう二枚刃を両腕に握りしめているんだ?」

 

「Tes.───そろそろ宗茂様の髭が伸び始めているころでしょうからと思い───何でしょうか、その嫌そうな顔は」

 

おかしなものです、と思い、今度こそ保健室に向かう。

ああ、本当に

 

「何時になったら、また宗重様と元通りに一緒にいる事が出来るでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

 




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