不可能男との約束   作:悪役

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過去からの追求

否定することも、拒絶することも出来はしない。

何故なら、それはお前が成して来た事だからだ

配点(再会)



再開の語り合い

 

視界の端にネシンバラが光る文字によって圧倒されている光景をウルキアガは見る。

ほんの少ししか、見れなかったので、凡そという言葉が付くが、押されているようだ。

だが、何だかんだ言ってネシンバラもキチガイ集団の一員であるから、恐らく死にはしないだろうと思われる。

死んだら死んだで、どうせ馬鹿共がネタにするだろう。

拙僧はそんな事をしない。

精々、ネシンバラが好んでいるキチガイ小説の最後の方だけを見て、恐らくそれにより霊体になったネシンバラに聞かせ、成仏させるくらいである。

うむ、拙僧、優しいであるな。

ともあれ、残り時間は僅か。

拮抗状態のままでいても、大丈夫とは思われるが、だからといって、そこに甘んじるのも半竜としてどうかと思われる。

人よりも強い種族として、課せられた目的よりも上を狙うのは当然の事だと、ウルキアガは思っている。

それには、この重さが邪魔だと思い

 

「拙僧、発進……!」

 

飛翔する。

 

 

 

 

 

 

 

目の前で荷重に抗っていた半竜が、その抗いを極限にまで抵抗する形でこちらに向かってきたのをダッドリーは視認した。

竜息を使っての飛翔。

だが、余りにも鈍いし、低い。

荷重には抗えている所だけは流石は半竜だと言ってもいいだろうが、これでは殴り易い的だ。

狙いはセシルみたいだが、まだセシルの浮いている所にも届かない。

だからと言って看過する事は出来ない。

こっちから見ると、やや右側を飛んでいる、

その動きも荷重による重みのせいで乱れている。飛行するので限界、という事なのだろう。

 

「は、蠅叩きならぬ竜叩きが、でで出来るなんて」

 

素敵だわ、と素直に思う。

だから、素直に迎撃の為に前に出た。

そのまま遠慮なく右手で外側に払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輸送艦の上。

そこに熱田がぴんと閃いたかのようにトーリに耳打ちをした。

 

「なぁ、馬鹿。」

 

「あ? 何だよ親友。唐突に俺の耳に近寄って……仕方ねえなぁ……特別に俺の耳を舐めてもいいんだぜ!!」

 

躊躇いなく耳を削ぐためにメスを振るった。

慌ててトーリは首を逸らしてメスを回避する。髪の毛が数本くらい斬れたが、肝心の耳が千切れてない事に舌打ちをする。

この馬鹿、最近反応が良くなってきやがる……

 

「お、おいこの馬鹿野郎! 何の容赦もなく首を繋がれた俺に対して耳を斬ろうとしやがったな!? 親友に対しての態度がこんな物騒なモンでいいと思ってんのか!?」

 

「え」

 

周りに視線を向ける。

すると、周りの連中も全員驚いた顔で馬鹿を見ている。

だから、代表してもう一度トーリの方に視線を向け

 

「え?」

 

「く、くそっ……! 本気で思ってやがる……」

 

馬鹿の言う事は無視するに限る。

それよりもだ。

 

「トーリ。見ろ、あのホライゾンを」

 

「あん? 何時も通りのホライゾンだな。寝てるけど、あ! ホライゾンの乳は揉ませねえぞ!?」

 

「巨乳じゃないから、興味はないから、安心しやがれ。だが、論点はずれてないぜ」

 

「論点?」

 

ああ、と前置きを置く熱田。

この会話を聞いている女性陣は全員、冷たい眼で彼らを見ているのだが、二人はそんな事は気にしせずに話を進める。

 

「今、あの毒舌女は寝てる───この意味、解るか?」

 

「ご、ごくり……!」

 

「即座に喉を鳴らすお前を見て、変態だと思ったが、利害の一致があるから今回だけは見逃してやる……」

 

言いながらに良い笑顔で気絶しているホライゾンに近付く。トーリの首の輪は密かに斬って外して、変態の行動を今だけ許す。

そして俺達は懐から取り出したペンやら何やら、つまり、遊ぶ気満々の装備をしながら、気絶しているホライゾンに近付いていく。

それを見たネイトが止めなくてはっ、と義憤に駆られるのだが、面白そうというナイトの魂胆によって、背後から膝を入れられて、地面に膝を着いている。

最後の止めるメンバーである正純は真面目に武蔵で起こっている光景の方を注視している。

有体に言えば、最早止めるメンバーはいない。

周りにいる学生では、変態に近寄る気もなければ、剣神を相手にする実力もないのである。

そろりそろりと気絶しているホライゾンに近付く。

ごくり、と熱田までもが唾を飲み込む。

その内心は

 

……これで、この毒舌女にやり返すことが出来る……!

 

ホライゾンを取り返した後もだが、十年前の死ぬ前もこの女にはあらゆる意味で勝てなかった。

だが、今は違う。

今は、ホライゾンは無防備。

それ、すなわち、何をしても相手は反撃する事も、喋る事も出来ない。

 

ビバ世界……!

 

ハハハハ! と二人で思いっきり笑い

 

「もらったーーーー!!」

 

突撃をかます事にした。

その大声を聞いて、ようやくこっちの状況に目を向けようとしたのか、正純が驚いた顔でこっちを見て

 

「な、何だ!? また、熱田と葵か!」

 

またっていうのはどういうことだとツッコミたくなったが、今はどうでもいい。

目的まで、もう目の前なのだから。

そうすると、いきなり目の前にいる一応、整った顔の目が開き

 

「何ですか、騒々しい」

 

何事もなかったかのように、トーリは股間を殴られ、俺は両目に指を入れられた。

 

「あーーーーーーーーーー!!」

 

トーリは内股になり、俺は両目を抑え転げまわる結果になった。

そうして、ホライゾンはこちらに来た正純の制服で手を拭い、悲鳴を出させた後に、再び、何事もなかったかのように寝始めた。

暫く、唖然という空気が充満したが、あーー、という前置きを置いたナイトがポリポリと頬を書きながら、笑顔でこちらに顔を向けてきた。

 

「……シュウやん、加護があるから、普通の攻撃は痛くないんじゃないの?」

 

「くっ……! 残念ながら、無効化じゃなくて、頑丈になってるだけなんだよ……! 両目は潰されないが痛みはあるし、この眼球がぷにっ、と押された感覚が新感覚……!」

 

「え、えーと、ホ、ホライゾンもそれを分かって、眼球を突くという、ちょっと常人には危ない事をしたのでしょうか……?」

 

すると、再び、かっ、と目を開けたホライゾンが少しだけ、起き上り、涙を流しそうな俺を見ていると

 

「……? おや? どうして、熱田様は両目が潰れていないんでしょうか? おかしいですね……生態が違う生物にはこの程度では潰れないという事なのでしょうか。ホライゾン、ちょっと失敗です」

 

意味不明の反省をした後に再び、何事もなかったかのように眠るホライゾンを見て、笑顔を氷付けさせているネイト。

その様子に苦笑しつつ、ネイトの頭に手を置いているナイトがよしよし、と呟きながら

 

「……ホライゾン、何だかレベルアップしてない? まだ、悲嘆の感情だけの筈なんだけど」

 

「……外道の感情って何に当て嵌まんだ?」

 

「さ、流石はホライゾン……! 俺が唯一勝利を確信することが出来なかった女だぜ……! だが、俺は負けねえからな!? 俺の象さんはこの程度ではくじけね、あ、駄目駄目駄目駄目! そんな、まだホライゾンの手によってビンビンなそこを刺激しちゃ駄目ーーーーーーー!!」

 

ナイトが連続でコインを馬鹿の股間に連射している光景を無視して、両目をごしごし腕ですりながら、ぼやけた視界を取り戻す。

すると、その視界に呆れた顔をしている正純を見て、真面目な奴だなぁと感想を得る。

 

「全く、この馬鹿共は……一応、ウルキアガとかがピンチなんだから、もう少し応援してやるとかしてやれよ……」

 

「は?」

 

「いや、は? ってお前……」

 

そこまで言われて、ようやく正純の勘違いとこっちの誤解が繋がったので、ああ、と頷いた。

そういえば、正純は智と同レベルで戦闘に関しては問題外……なのか?

あんまり深く考えると、ズドンが来るので、考えを捨てて、とりあえず、正純の懸念を失くすために一言一と言っとく。

 

「どこが?」

 

「は?」

 

疑問顔の正純に顎の動きで、表示枠をもう一度見ろと伝える。

疑問は解けなかったようだが、とりあえず、俺の要求に素直に答えて、彼女が再びウルキアガ達が映っている表示枠を見始める。

そこには、やはり、ウルキアガが吹っ飛ばされている光景である。

その行く先は───ノリキとベン・ジョンソン達の中心近くだが。

そして、後ろでは浅間の矢が顔面にめり込んで吹っ飛んでいる熱田の姿があったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そそそれが狙い!?」

 

武蔵の半竜は吹っ飛びながら、ジャストにガリレオ教授を倒した一般生徒とジョンソンの間に割り込もうとしている。

狙いは元からセシルではなく、ジョンソンであったという事か。

右側に飛ばされるようにわざと右側に寄っていたという事。

下や上に殴る事も出来たが、そうなるとセシルに近いし、左に張り飛ばすには半竜が飛んでくる場所が絶妙に右手を振ってストライク出来る位置だったので、何も考えずに条件反射で右に殴り飛ばしてしまった。

失敗だ。

他の副長達と違って、戦闘系でないことを言い訳にしたくはないが、完璧に自分の失敗だ。

故に失敗は何とかしなければいけない。

 

「ジョジョジョンソン! ───死んでも無視するからね!」

 

「Mate! 君は普段から何故! 私だけに辛く当たるのかね!? 流行のTUNDEREかね!?」

 

「ししし死ねーーーーー!!」

 

余りにも戯けた事を言うので、ついでに矢もぶち込んだら、流石のジョンソンも慌てたのか、術式を使って後方に十五メートルくらい跳躍した。

あれだけ逃げていたら、追撃も何とかなるだろうと判断する。

そこで声が響く。

 

「ノリキ……!」

 

「解ったことは言わなくていい」

 

瞬間、三打撃分の音が響き、何をと思考しようとする前に、氷が割れるような空間を伝った後に、理解を得た。

 

「セ、セシルの荷重術式を砕いた!?」

 

その結果は良くわかる。

まず、第一に相手の動きを制限していた力はなくなり、行動の自由度がぐんと上がる。

第二に後ろで控えていた武蔵野学生たちがいつでも動けるようになるという事。武器はこちらが奪っているが、いざという時に動けるかもしれないというのはかなり大きい。

そして、一番最後は

 

「セセセセシルゥゥゥーーーーーーー!!?」

 

自分の重量を振り分けることによって浮いていたセシルは、術式が砕かれたことにより、振り分けていた重量は自分に戻り、そして当然───落ちる。

 

「あうーーーーーー」

 

落ちていくセシルを見て、慌てる。

普通の総長連合ならば、あの高さからでも傷などは負わないのだが、セシルの場合、その体重と体型から上手いこと体を動かすことはできないし、自分の重量分、ダメージはそのまま帰ってくる。

下手したら死ぬ。

何とかしなければ、という思考に声が入り込む。

 

「拙僧! 再跳躍……!」

 

荷重を振り払った半竜は崩れた体制を強引に戻し、再びこちらに向かってきた。

迎撃するしかない。

自分は元々、戦闘に関しては精々、特務級くらいの実力である。

武蔵の剣神や、副長補佐、三征西班牙(トレス・エスパニア)の戦闘系みたいな人外とは違うのだ、人外とは。

だから、半竜の突撃を身体能力で躱せる様な力はないので、迎撃が自分にとってベストなのである。

だが、そうすれば

 

……セシルは誰が助けるのよ!?

 

「Mate! セシルの方は任せたまえ!」

 

振り向きたくなるが、前から敵が来ているから自制。

何やら、さっ、と取り出すような音が聞こえたから、恐らくジョンソン得意のドーピングをするのだろう。

 

何という不健康な……!

 

だが、セシルが助かるので文句は言わない。

ジョンソンの体は知らない。

なら、何とかなると思い、迎撃に右手を構え、左手の聖譜顕装(テスタメント・アルマ)の指を軽く、開いたり、閉じたりしながらタイミングを判断する。

竜砲による加速などで、何時、加速力が爆発するかなども、予想しながら打たなければいけない。

力強さなどは、この場合、無意味。

 

「ささささぁ! き、来なさい!」

 

ざっ、と改めて地面を踏み直し、半歩進めることにより、こちらから距離を合わせる。

さっきの払いで大体のタイミングは掴めている。

払うのは自分の仕事なのだ。

それが、敵であろうがゴミであろうがジョンソンとかであろうが。

別にジョンソン一人だけに悪意を向けているわけではない。何となくである。何となく。

殴りやすいキャラをしているのがいけない。

そうしていると

 

「……は?」

 

武蔵の半竜は自分の攻撃範囲から離れた。

自分の攻撃範囲から離れたという事は、相手も自分から離れたということになり、どういう事だと思考するまでもない。

 

「……! こっちが狙いかね、You!?」

 

狙いは理解できる。

ジョンソンを妨害することによって、セシルを救うのを妨害し、そして、こちらには

 

「……」

 

ノリキという少年が迫っている。

 

「……っ!」

 

不覚にも舌打ちする。

連携の練度が異様に高い。こんな状況になることを読めるとは思えない。

ならば、これはアドリブだ。即席でここまでの連携が取れるというのはいったいどういうことだと思うが、それら纏めて

 

「ここ小細工ねぇ!」

 

言葉と同時に打撃が飛んでくる。

打撃の型は、基本の右正拳。正し、拳に当たれば、術式の奉納が溜まる。それが、こちらの聖術であろうと大罪武装であろうと肉体であろうと厄介なことには変わりない。

だが、しかし

 

「あ、当たればでしょう!?」

 

そのまま右手で無愛想な少年の手首を下に払った。

 

「……!?」

 

確かに目の前の少年の術式は厄介を超えて剣呑な術式ではあるが、奉納するには拳での打撃が必要である。

ならば、拳以外に触れれば全く問題無し。

それにより、聖術によって払われた右腕は勢いよく下に体勢を崩され、顔を下に下げてしまう。

その顔がちょうどいいところに来たことに笑い

 

「たたた大罪パンチ……!」

 

そのまま左腕で思いっきり殴った。

顔面にめり込むような感触が、仕事をこなしたみたいな感じを獲れたので、絶好調である。

吹っ飛ばされた少年の顔を見ると、鼻血は出ていたが、骨まではいっていないと思われる。

だが、鼻血を流すことによって多少、呼吸し辛くなって息を吸う事になり、動くので数秒時間がかかる。

数秒あれば永遠と同じだ。

そのまま後ろ歩きで数歩下がる。

そこで、セシルの落下地点の真下である。だが、自分ではセシルの体を受け止めるような膂力はないし、右手の力は打ち払いの術式であるが故に弾くしかできない。

ならば

 

「セセセシルーーーー! が、我慢してね……!」

 

「こんじょうなのーー!」

 

というわけで右手で上に打ち払った。

受け止めるのが不可能なら、自分は弾くしかない。とは言っても横や下に打ち払ったらセシルは死んでしまう。

ならば、もう一度セシルには上空に戻ってもらうしかない。

当然、弾いた衝撃が体に響き、落ちていた体が勢いよく空に飛ぶことによってブラックアウトするだろう。

だけど

 

セ、セシルも女王の盾府よ!

 

そのくらいの覚悟はお互い言わなくても当然の如く持っているはずだし、わざわざ確認しない。

そして、この程度で死ぬとは思っていないからである。

 

「セセセシルゥゥゥーー! あ、あああれが見える……!?」

 

ダッドリーはそのまま手鏡を放り投げる。

その鏡に映っているのは───従士の機動殻。それには、セシルの荷重術式が復活していなければいけないのだが

 

「ひとりならだいじょうぶなのーーー」

 

流石は親友と思わず、抱き着きたくなるようなセリフを言ったセシルに惜しげなく笑顔を浮かべ

 

「レッツ、振り分け……!」

 

瞬間、品川という武蔵を支える竜の一つが激震した。

 

 

 

 

 

 

 

 

アデーレはその瞬間、一体何があったのか理解できなかった。

ただ、いきなりペルソナ君に支えられて動いていて視界は前を見ていたはずなのに、何故か今では視線は空を見ている。

だが、その視界もぐわんぐわん揺れていて定まっていない。

視界というより頭が揺れているという感じだ。軽い脳震盪みたいな感じであると思い、そこまで他人事のように考えてようやく自分が倒れているということを理解した。

 

「い、いったい何が……」

 

あったんですか? と問いたいところだが、周りに誰もいないので問いようがない。

そこに視界に移る光景に変化が起きた。

空へと至るまでの階層から、こちらを覗く顔があったからである。

相手は

 

「ややっ! アデーレ君! 大丈夫かい!? 頭ぶつけておかしな方向に目覚めようとしていないかい!?」

 

『何を言う! 例え、アデーレがどんな方向に目覚めようとも、それを気にせずに付き合うというのが友としての在り方であろうが。だから、吾輩。アデーレがどんな方向性に目覚めようとも引きはせぬとも……!』

 

「……」

 

一気に色々と目が覚める言葉と、頭が冷える言葉だったので即座に冷静になれた。

というか、ネンジさんは台詞とかは格好いいのに、スライムだから、あんまり心に響きませんねー……と思うのは失礼だろうか。

ペルソナ君さんは心配そうにこちらを見ているようなので不問とする。

鈴さんとペルソナ君さんは我がクラスに残された最後の良心です。副会長は期待していたんですけど、あっという間に染まってしまったので、具体的表現をしないためにノーコメントです。

何ていうかあれですね。人間が変化していく過程がすっ飛ばされて異常識人が生まれましたね。あの人も立派な武蔵の人ですねーと思いつつ、彼らの場所を確認する。

 

ええと……一……二、三……? 地下三層まで一気に突き落されたっていう事ですか?

 

となると、もう一度あの攻撃をやられたらどうなると思考すると

 

「やばいじゃないですか!?」

 

ようやく働き始めた思考に慌てて体を動かそうとするのだが

 

「あれれ?」

 

全く動けない。

どうしてかと思い、周りを見回したら体の一部を動かしてみるとどうやら貨物のフレームが噛み込んで動けないようだ。

つまり、動けない狙い易い的兼砲弾。

 

「ぜ、絶対絶命多いですねっ!? じ、自分! 今までそんな酷いことしていないというのにこの扱いはどういう事ですか!!?」

 

思わず叫ぶと周りに表示枠が浮かび上がってきた。

嫌な予感はぷんぷんとしたのだが、どうせ後から同じ状況が起きそうなので、今の内に消費しておこうと思い、中身を見る。

 

『アデーレが今、マッハの勢いで現実逃避しているんですけど、どうすればいいと思います?』

 

『フフフ、馬鹿ね。そういう時は自分の女としての魅力を確認すれば現実を確認することが出来るわ! さぁ、アデーレ! そんな暗い中で嵌っていないでこっちに来なさい! この私、直々に揉んであげるわ!! たとえ無くてもね!』

 

『お、おいおいおい姉ちゃん! そんな事を言ったらアデーレ。また傷ついておかしくなっちまうだろ? だから、こういう時は嬉しい事じゃなくて悔しい事を頭に刻み込んだ方が目覚めんだよ! だから、姉ちゃんか、浅間がその乳を揉ませてやればいいんだよ!!』

 

『いけねえな……そりゃいけねえ……俺がいないところでそんな乳天国をするだなんて、そりゃいけねえぜ……! だから、待ってろ……俺が今すぐそこに行く……! そう、全ては乳の為に!!』

 

『ミトッツァン、ミトッツァン。格好いい風にいっているけど、これって犯罪予告かな?』

 

『どうして、そこで私に振るのかわからないんですけど……とりあえず、間三人は控えめに言って処刑ですわね……後、アデーレ……えっと、その……お、お互い頑張りましょうね!?』

 

狂言が続いたかと思うと、最後は同情と応援。

絶対にストレスで脳細胞が幾らか消し飛んだ気がするが、狂人の言葉を真に受けていたら禿げるので無視する。

というか、非常に不味い事を今、気づいた。

 

───この状況で、もう一度荷重術式を受けたら……

 

さーーっと頭から血の気が引いていくのが理解できるが、体が動かないのではどうにもならない。間違いなく、次は品川のフレームを喰ってしまいそうである。

生き残るには、やはり、ウィリアム・セシルを倒すしかないのだが、ダッドリーとジョンソンがウルキアガとノリキと争っているので、恐らく、短時間での攻略は不可能と見た方が良い。

残りは

 

書記の方は……!?

 

そう思い、視界の倍率を変えて、書記がいるであろう場所のほうに視線を向けてみると───そこは光が満ちている空間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

状況の最悪度に思わず、荒い溜息でも履きたくなるネシンバラであるが、そんな事をやったら間違いなく落とされるので我慢するしかない。

最悪の状況が連続して起こるこの武蔵の現場を笑って迎えればいいのか、呆れて笑えばいいのか、解ったものではない。

とりあえず、人生の難易度だけは、どう軽く見積もってもVery Hardだ。Normalが良いとは流石に言わないが、ずっと同じ難易度というのも新鮮味がないものだ。

その感想を抱くと同時に文字という名の呪いが迫ってくる。

 

「……しつこい!」

 

《吐き出す言葉と同時に迫る呪いを叩きのめす。》

 

狙ってきているのはシェイクスピアの術式。

宮内大臣一座(ロード・チェンバレンズ・メン)と確か、そんな感じの術式であったはず。

簡単に言えば、演劇脚本の内容を現実化させるというような夢術式であり。

人類はとうとう、そんな所まで行ったかと感慨深くなるが、別にどうでもいいことである。

喜ぶのは、うちのエロゲ四天王くらいだろう。とりあえず、地獄に落ちるべきだと思う。

そして、その術式によって開かれたのは

 

……第二悲劇(マクベス)

 

ハムレット、オセロー、リア王に続く四代悲劇の作品の一つ。

端折って言えば、王殺しの物語であり、最終的に主人公であるマクベスも悲劇的に終わるという作品であったはず。

物語自体はいい。

悲劇云々はともかく、本としては面白いと素直に言っていい内容であるし、読んだ時に凄いなぁと思ったこともある。

だが、問題はシェイクスピアの術式によって

 

言葉による呪いが配役と同じ運命を僕に課そうとする……!

 

そうなれば、僕は王殺しの物語を意思とは関係なしに、なぞってしまう。

僕の場合は、葵君を害なす運命を作ってしまうということになる。

他の国の総長とかならば、自前の能力や何やらで対処をしてくれるのであろうけど、うちの馬鹿は無能が売りの馬鹿なので当てにすることなど全然できない。

まぁ、もう一人(・・・・)の馬鹿は大丈夫だろうけど。

とりあえず、軍師としてその状況は不味い。

それを解決する策は至って単純で

 

……僕が確実に勝利して呪いを振り払ったと確信すればいい!

 

〈愚かなるマクベス夫人。夫に連れ添い、しかし、その野心に共鳴して燃えた女よ。王の暗殺を手伝い、成功させ、されど───王たちの亡霊に怯え、やがて闇に落ちて死ぬ〉

 

《関係ない。知った事ではない。だが、立ち塞がるのならば、それは自分の敵だ。一撃で済ますつもりはない。ゆるみない連の打撃だ》

 

と言いたいところだがシェイクスピアに合わせて戦っている暇はない。

連続描写を書き入れ、背後と前のマクベス夫妻を打撃し続け、足止めさせ、自分はこの戦闘の鍵であるダッドリーの方に向かおうとする。

だが、向かおうとしておかしなものが見えてしまい、急がなければいけないという意思に反して足が止まる。

光だ。

文字を血肉として作られているのは人影である。

十や二十そこらの数ではない。どう軽く見積もっても、三桁は越えている人数であり、それらはまるで木々にも似ており、しかし、剣と盾を握っている。

森が自分を狙っている、と錯覚ではなく、事実としてそれを認める。

文字の障壁で、こちらの打撃を防御していたシェイクスピアは、やはり、何事もなかったかのような表情でこちらを見ている。

 

「どうしたんだい、マクベス?バーナムの軍勢が君を睨んでいるよ?」

 

「マクベス? 馬鹿な。僕はまだ」

 

呪われていないはずだ、と言おうとしたときに自分の足元からも光が見えることに気付く。

自分の足元に文字列が渦を巻くように広がっていた。

その光景が、少し気持ち悪く、一歩下がりたくなったが、気合で耐える。

そこで、シェイクスピアが、この乱戦の中では小さい音なのに、不思議なほど響く声で囁いてくる。

 

「役そのものが取り憑くのに失敗しても、役をする配役が潰されたら、別の誰かが代わりにするよね? 本来する役者が風邪で来れなくなったから、舞台は中止、なんていうのは小学生でもやらない。プロなら尚更だ───だから、スポットライトが次の演者を選ぶのさ」

 

この光の輪によって照らされている状況を言うのならば、皮肉が効いている。

良い性格している、と舌打ちをしつつ、疑問に思ったことを吐き出した。

 

「それだけの文字列を排出する術式を、どうやって賄ってる!? 個人レベルで補える排気じゃないはずだ!」

 

「気になるかい?」

 

当然だ、と頷こうとした所で、頭の中で何かを閃いた。

戦術とかではない。

知識として、お前は知っているであろうという無意識の警告である。

何がだ……と思考したところで、思い出した。

 

確か、英国に渡された大罪武装は強欲(フィラルジア)を司る大罪武装で、その所有者は……!

 

その答えに政界を示すように、シェイクスピアは横に置いてある紙袋から無造作に何かを取り出した。

腕甲のようにも思えるが、恐らく盾として使われる白と黒色の立体によって構成されたもの。

 

「大罪武装か!」

 

 

 

 

 

「Tes.英国の大罪武装"拒絶の強欲"。八大竜王なんて大仰な名前を名乗る気はないけど、使い勝手はいい武装だ。通常駆動は、頑丈なただの防盾だけど、その超過駆動は単純だけどいい効果だ。強欲なだけはあるよね。能力は"自分が受けたあらゆる痛みや傷を持ち主に流体として与える"という、まぁ、盾なのにダメージを受けるのが前提というのが、面白い矛盾だけどね」

 

まぁ、盾自身が受けたダメージも流体には変えてくれるんだけどね、と呟きながら、無造作に突きつけてくる。

 

「君が放つ衝撃……つまり、攻撃とか勿論、吸収するけど、僕はこれとは比にならないくらい莫大な攻撃を現在進行形で受けている。昔、君もそれを僕にぶつけてきたよね?」

 

自分とシェイクスピアに接点はない筈である。

あるとすれば、それは同じと言っていいのか知らないが、作家同士であり───

 

「……まさか」

 

「Tes.批評だよ」

 

持っている八大竜王と大罪武装の相性の良さに思わず呻いてしまう。

批評。

小説を書いていると、否、ありとあらゆる行動に付き纏ってくる言葉の羅列。批評というのは、悪いことばかりではないはずだが、当然、酷評もあるのだろう。

そんな文字の攻撃ですら、大罪武装は攻撃と見做して、流体を蓄積するということだ。

チート武装過ぎるだろう、と叫びたくなったが、よく考えればうちもそこまで言える立場ではないということに気づいてしまったので沈黙することにした。

そこで、シェイクスピアはふと顔をあげ、何かを思い出すかのような表情を浮かべながら、口を動かし始めた。

 

「ネシンバラ・トゥーサン。元々、三征西班牙(トレス・エスパニア)出身であり、両親は六護式仏蘭西(エグザゴンフランセーズ)との戦闘で失い、諸事情で小等部入学前に武蔵に移住。そして、中等部二年次に、聖連が執り行っている学生小説賞に応募して、見事に優秀賞を受賞。最年少受賞記録を作って、注目を浴びる。だけど───」

 

一息

 

「以後、注目に関わらず、本を出すこともなければ、小編を雑誌に載せることもなくなる。やっていることは、同人誌の政策と批評活動のみ───何故書かないんだい?」

 

その問いかけに答える理由なら幾つかある。

学業が忙しいからだとか、同人製作も立派な創作活動だとか、葵君が世界征服する宣言をしたせいで、生徒会活動が忙しくなったからとか、インスピレーションが湧かないからとか色々言えることは出来る。

だが、どうしてか。どれも、彼女が納得するような理由には思えなかったし、何よりも、どう言っても言い訳にしか聞こえないな、と自覚できたからである。

 

「どうして?」

 

こちらを攻めているのか、と思うが、何故そこまで接点もない、たかが、一度の受賞者に大物である彼女が責める理由があるというのだろうか。

背後にバーナムの軍勢を置き、無表情でこちらに語りかけてくる彼女は

 

「"作品世界の設定が薄い"、"最貧に矛盾がある・問題点がある"───僕の作業と、準備設定を知らずにいい、指摘しながら、その具体的な理由も箇所も言わない。まるで、こちらからの成否の追及を避けるように批評を行っている」

 

そして

 

「"この人のやり方は間違っている"と───僕の生き方を全否定した……僕が生きるために必要な、やり方を」

 

待て、と思う。

おかしいだろ、とも思う。

ここで、どうして、批評論になる。別に関係ないだろう。そんな事は、僕じゃなくても似たようなことを書いている人はいるはずなんだから。

 

「まぁ、別に君が僕の本にどう思うかなんて君の自由だ。批評云々もそうだけど、どんな物を書いても、絶対にこれは違う、あれは違う。こうした方がいい。ああした方がいいという意見は必ず出るものだ。人間の感性は人一人違うものなんだから、出る答えも千差万別。一つの本に、読んでくれた人達全ての答えは違うに決まっている。僕が書いた一行を何人かに見せたら、絶対に感想がばらばらな答えは返ってくる。だから、僕は別に君の批評についてどうこう言うつもりはない───でも、君は己の批評も正解の一つにすぎないとは思っていないようだけど」

 

まぁ、それも僕には関係ないことだ。

でも、だからこそ

 

「僕は君に対してこう言いたいんだよ」

 

君の文は

 

「僕には届かない」

 

 

 

 

 

 

 

〈おお、マクベス。マクベスよ。遂に、覚悟を決める時が来たのだ!〉

 

 

……くっ!

 

揺らしに来たのか、と今の状況を試みて思った。

さっきの批評論については罠だ。それを用いることによって、マクベスの敵わぬと知って、尚覚悟を決めて討ち死にするマクベスと同化させたのだ。そうする事によって、自分を彼女が演じる舞台に、更に深いところに巻き込まれたのだ。

だが、ここで終えるわけにはいかない。

 

ここで負けるわけにはいかないんだ……!

 

『ここで、眼鏡が負けたらどうなるんだ、テメェら』

 

『とりあえず、バラやんに呪いがかかって、総長に命の危険が生まれるよね?』

 

『え!? や、やっべぇ! 俺、何時、ネシンバラのヤンデレフラグなんか立てちまったんだろ……ちょっと、ロード! ロードさせて!』

 

『無視しますけど、そうなると、ネシンバラ君かトーリ君……どっちかを立てるって事ですよねぇ……』

 

『フフフ、皆、避けそうな話題だけど、でも、私は言っちゃう! うちの愚弟と眼鏡! どっちが不要でしょうか! はい!』

 

『そんな……全裸とおかしな軍師じゃあ比べる事ができませんですのよ!?』

 

『既に比べてるじゃねーか!!』

 

『そうだよ皆! 葵君もネシンバラ君も、同じクラスメイトだけど人としては違う人なんだから比べることなんてしてはいけないよ!』

 

『そうだとも……我々は全員、違うからこそ協力して力を発揮することができるのだ。なのに、人を比べるなどということはしてはいけないぞ!』

 

『はい……』

 

落ち着け僕……!

一瞬、負けてこいつらに汚名を着せてもいいんじゃないかと思ったが、結局、負けても汚名を着るのは自分だけになるので、あんまり意味がないし、既に汚名ばかりのメンバーだから一つや二つ増えても動じないキチガイ共だ───やるなら豪快にだ。

 

そう納得し、動こうとするネシンバラに待ったをするかのように、シェイクスピアが声を上げる。

 

「ああ……一つだけ。純粋に聞いておきたいことがあったんだ」

 

これ以上、何を言うつもりだ。

 

三征西班牙(トレス・エスパニア)には、密かに、前総長兼生徒会長であるカルロス一世が残した、小等部以前の子供を育てる機密教会施設があったんだ。エナレスの特待部にも、繋がり、内部では運動部、文化部、教譜部に……まぁ、要はこれからの三征西班牙の衰退と経済危機に備えた人材作成所だったんだろうね」

 

落ち着けと思う。

冷静にならないと、とも思う。

 

「でも、十三年前にその施設は内部崩壊が起きてね。原因としては過酷な修練をさせている事によって放火が起きたということにされているけど───実は、一部の子供たちが仕組んだことでね」

 

「……その子供たちは?」

 

「Tes.逃げ出しらしいけど、ほとんどは捕まり、悪魔憑きとかもっともらしい事を言われて処刑されたよ。逃げ延びた子供たちは、他国に移住したりして生き延びた」

 

その問題の施設の名が

 

「第十三無津乞令教導院───知っているかい? いや」

 

知っているだろう? と今まで表情を全く動かしていなかった少女は、ここで初めて動かした。

口を歪めることによって。

 

「ネシンバラ・トゥーサン。姓のネシンバラの方は松平四天王の榊原康政から木を取った姓らしいけど、名のほうのトゥーサンは極東所属を示すために漢字が当てられているよね」

 

その漢字は

 

「───十三(トゥーサン)

 

 

 

 

 

 

「───」

 

ぞぞっと嫌な予感が背中から頭まで這い寄ってくる感じがする。

あんまり思い出そうともしない過去の事を、まさか、こんな時に、こんな場所で言われることになるだなど誰が思うか。

思考しようとすると、真っ先に言われた過去の内容を思い出してしまい、表情を歪めてしまう。

直後

 

〈決着の時だ、マクベス。君を守る全ての加護は今、失われた〉

 

シェイクスピアによる文字列の波が、こちらの連撃を打ち砕いた。

余りにも呆気ない快音と同時にミチザネが扱っていた表示枠も破片となって飛び散り、ミチザネがわたわたしているが気にすることなど出来ない。

視線を彼女から離すことができない。正面にいる少女の笑みを

 

「やっとだ……ようやく見つけたよ。思い出してくれたかいNO.13。君はあの頃も───」

 

表情は一転し……ではなく、ぐちゃぐちゃになった。

笑いと怒りと悲しみとかが、混ざり、溶け合い、最終的にどれを浮かべればいいのか解らないというような表情になり

 

「君は───君は僕を傷つけた!」

 

これが最大の攻撃だと勝手に頭が思考を作る。

でも、そうだろうとも思う。

前や後ろからマクベスだったものや、マクベス夫人やバーナムの軍勢が迫ってきているが、そんなものはこの叫びに比べたら力にはなりはしないと。

 

「セシルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

「もういちどいくのーー」

 

「ちょ、ちょっと待ったぁ! じ、自分なんかに荷重をかけても、その、ホラ! そこまで、重くないですからダメージになんかならないですよーーーー!!」

 

ダッドリーが狙いをつけたのを察知する。

それを恐らく、冷静に判断し、彼女に何かを言おうとしたのか、口が勝手に動こうとして、それを無理矢理飲み込んで違う言葉を放つ。

ここに来る直前に伝えておいて正解だと思い

 

「"品川"! やってくれ!」

 

《衝撃を己の左半身へと放ち躱す》

 

右腕に絡んでいたマクベスであったものごと、無理矢理振り払い、吹き飛んでいく。

衝撃に追って左半身が軋み、肩の関節や爪などが割れた感じがしたが

 

『Jud.!!』

 

返答が来てくれたことへの安心が買った。

 

『再加速して、左へと旋回します───以上!』

 

言葉通りに武蔵は動いた。

強烈な横Gが身を抑え、全員が倒れそうになる体勢を必死に、自力で支える。

品川を先頭とし、重力加速を用いてのかなり急な左へのターンをすることによって英国との距離を無理に詰め、旋回を予定よりも早い動作でする。

チェスや将棋などを引っ繰り返すようなものだ。

 

「つまり、敵に決着の時を与えない───勝負の無効化だ!」

 

 

 

 

 

「やってくれたなYou! こんな強引な手段を……!」

 

ジョンソンはドーピングによって得れた感覚強化で、緩衝術式を使っても、軋んでいる武蔵の音を聞きながら、高速思考をする。

武蔵は今も無事とは言い難いが動いている。

それは、つまり、武蔵を止めるだけのダメージを与えられなかったことということになる。

個々の勝負では負けてはない。むしろ、このまま勝負を続けていたら勝利となっていただろうという自信はある。

だが、勝負に勝っても試合に勝てなかったということだ。

悔しいという思いはあるが、このまま残っているのは危険だ。

このまま自分達が残れば、捕虜になってしまい英国の恥と化す。離脱手段はグレイスの船があるが、このままでは振り切られる可能性がある。

故に

 

「Mate! 撤退するぞ! 英国の恥となっては妖精女王に申し訳が立たないからな!」

 

全員、それぞれの形で首肯し、グレイスの船に向かうが、一人だけ何の返事もせずに立っている人物がいた。

シェイクスピアである。

 

「……」

 

彼女は何も言おうとはしていないし、何かをしようとはしていなかった。

ただ、見ていた。

彼女が見ているものを、敢えて無視し、こちらの呼びかけを無視したという風に捉え、再度、声を上げる。

 

「シェイクスピア! Youも早く離脱したまえ!」

 

二度目の叫びに、今度こそ反応し、シェイクスピアは離脱の動きを取り、自分も離脱する。

だが、武蔵も、問題が解決したわけではない。

英国には近付いて来ている。それも、激突の形で。

その事に、武蔵艦上にいる全員で、艦の傾きを変えるために左舷後部へと移動する。

武蔵八艦による凶悪なドリフトは、そのまま英国の空へと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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