不可能男との約束   作:悪役

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振り向け 振り向いて欲しい

こっちが貴方の敵だ

配点(登場)


貴方は私の敵

 

こいつはやべぇ……!

 

素直に隆包は思った。

恐らくだが、これを喰らったガリレオ副長や宗茂も同じことを思ったに違いない。

完璧に知覚から外されている。

視界には映っているのに、それを熱田・シュウであると理解できていないのである。

これならば、いっそ見えない敵とかの方がマシだ。

見えていないだけならば、視覚以外で反応すればいいことなのだからである。聴覚、嗅覚、何でもいい。視覚で見えなくても、それくらい出来る能力は持っている。

しかし、これは見えないだけではない。

これは知覚から外れているのだ。どの感覚からもずれている故に五感は全く使いようがない。

なら

 

勘でやるしかねーじゃねぇか……!

 

初撃から勘に頼らざるを得ない技なんてえげつないという言葉しか思いつかない。

つまりは、この剣神と相対する資格を得るには、この技を乗り越えてからではないと掴めないという事だ。

神と相対する資格を得るのだから、これくらいはもしかしたら当たり前なのかもしれない。

となると、何を持って己の勘を発生させるか。

既に。剣神が消えて、三、四秒たっている。

自分と剣神は、最初に相対場所から目測で、大体、三、四十メートルくらいは離れてはいたが、それだけあれば、副長クラスには十分な時間である。

既に、相手は自分を倒す必殺距離に入っていると思うと、汗がたらりと流れてくる。

霊体の体なのに、冗談のような寒気を感じてしまう。

 

だが、それはまだ俺が動けているという証だ……

 

そう思い、体の全ての感覚が鋭敏化した瞬間───耳に風切り音が聞こえた。

その刹那にか、体を動かす。

バント体勢で持っていたバットを全力で上に捧げる様に持ち上げる。

勘だ。

だが、そこに信じる理由がある。

風だ。

風は俺達野球選手にとって、救いの女神ともなるものであり、同時に最悪を作るかもしれないものだが

 

この場合は、俺に最悪を知らせる救いの女神になってくれた!

 

答えは超のレベルと言ってもいい衝撃だった。

 

「く……ぅ……!」

 

両腕が一瞬で痙攣しそうな勢いが腕を伝わって、全身に伝わるが問題はない。

 

これで、資格は獲れた!

 

だからか、視覚にはさっきまでは知覚外にいた剣神の姿がちゃんと映っていた。

その表情は、まだまだ全然足りないとでも言いたげな顔だ。

その顔を見て

 

「そりゃ、悪かったな……!」

 

故意に右腕の力だけを消す。

すると、バットは力関係から、斜めに横たわる様になり、そこに縦に斬ろうとしていた剣神は、その刃に滑る。

黒板を嫌な風に掻いた様な音が響き渡ってしまうが、構いやしねえ。

そうすると、相手の体は空中から、地面に下されていき……ほら、どんぴしゃに顔面の前にバットが置かれるような体勢になった。

そこで、右腕を瞬間で放し、そしてバットを叩く。

その衝撃はバットに勢いをつけて、剣神の頭蓋を破壊しようとするが、ガチャリと物々しい音が聞こえると同時に刃が開いた。

 

これは……

 

思案と同時に閃いたことを口から吐く。

 

「八俣ノ鉞のブースト……峰からだけじゃなく、刃の方からも出来んのかよ!」

 

答えを聞く前に、右足を地面に叩くかのように打ち付けて、後ろに引く。

流体光が煌めいた。

轟っという音が目の前で炸裂するのに、相手に何の躊躇もない事が解ったし、あのままいれば噴射の爆発に視界を奪われていたという勘が当たっていたことを理解。

これで、自分達よりは経験が少ないというのだから、武蔵はこの副長を除いても、魔窟であると言っても過言ではない。

しかし、剣神の怒涛は続いて、今度こそ峰側から流体光が爆ぜ、こちらの方に文字通り、爆走してくる。

地を這う流星という洒落た言葉が浮かび上がるが、キャラじゃないから、即座に忘れる。

大剣にカテゴリされている八俣ノ鉞を突きの形で攻撃してくる相手に合わせた方で、こっちも対応するしかない。

自分はまだ浮いているが、元々霊体故に両足はない。

感覚としては感じるだけで、実際には触る事も出来ないし、地に足が着く事もない。

故に空中であろうとなかろうと同じである。

バットの腹のあたりに、一度話した右手をあてて、剣先を見極めつつ、バットで防御する。

しかし、注意して触らなければいけない。

当てるのではなく、バットに触らせる。

キィンっと甲高い音が集中力を削ろうとするが、これくらいで集中力を切らしているようでは、副長なんて務まらないし、務めさせていてはストレスで倒れてしまうだろう。

大剣の先がバットを通過したところで、両腕に力を上に向ける。

それにより、剣を宙に上げることにより、自分から攻撃を逸らすと同時に隙を作ろうとしたのが、本人がそのまま剣ごと宙に浮いている。

こっちはそんな気はなかったし、あっちがそんな非力なはずがない。

つまりは、自分でこっちの攻撃に乗ったという事。

後ろに弾け飛んでいく剣神。

だが、その行為自体に冷や汗が流れる。

剣神は猫のように空中を飛んでいるが、忘れる筈がない。

ついさっきされた戦法の焼き直しだ。またもや剣神の剣から流体光が弾ける。

 

「くぅ……!」

 

即座に地面に足が着いたばかりの感覚だけの足で、後ろに振り向き、同じ方法で弾くが、それはつまり、同じ結末を迎えるという事で

 

こいつ……!

 

「攻撃しか考えていないのかよ……!」

 

突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃。

それ以外を全く考えていないように思える猪のような単純さ。

まるで、獣のようだと考えている思考は間違えてはいない筈。こいつは今、獣のようにこちらをぶった斬るという単一思考しか考えていないだろう。

だが

 

「そんな相手だからこそ、俺が相手だ……!」

 

自分が相手のエースを押し止め、その間に周りがケリを着ける。

正しく、俺の信念が発揮される場だ、と自覚して、バットを振るう。

その視界の端に、道征き白虎が武蔵の地摺朱雀に激突している姿が一瞬捉えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

武神同士の激突の轟音のせいで直政の聴覚は一瞬だが、間違いなく使えなくなってしまっていた。

 

くぅ……!

 

二、三秒くらいで聴覚が復帰して、聞こえてきたのはパーツが砕き散らされる音と、潤滑油が沸騰している音である。

聖譜顕装を潰されたお蔭で、この場におけるハンデは失せたが、武神の出力でのハンデが抜けていないし、あっちはこっちに駆けてきた分、その速度が威力に変化されている。

加速プラス自重だけで十分な凶器である。

それに加え、警告として現れた表示枠を見てみると

 

出力比五倍何て笑えない冗談だね……!

 

ギギッと嫌な音が地摺朱雀の内部から響いている。

圧力によって、内部の冷却チューブなどが押し潰されようとしている音だ。

接近戦は不利という判断を頭が下すが、残念ながら地摺朱雀には、内蔵武器もなければ、遠距離用の武器類も持っていない。

それに、自分が離れれば、どうなるかという事も理解しているので、離れる事も出来ない。

故に

 

「御免」

 

攻撃は地摺朱雀の肩を足場にして左腕を伝って駆ける二代に任せた。

翔翼は既に展開されており、駆ける後ろ姿は既に視界に映す事も難しい。その事に、内心で口笛を吹いてしまう。

この少女もやはり、能力的には桁違いだ。

もしも、熱田がいなければ間違いなく、この少女は武蔵の副長を任せられていたはずである。

そして、相手も当然、二人相手だと気付き、間合いから逃げようとするのだが

 

「ぶち当たれ! 地摺朱雀!」

 

させまいと朱雀を突撃させる。

狙うは、後ろに下げる時に突出させた右腕。あれを握るだけで出力が五倍の差があるとはいえ、時間を稼げる。

そう思っていたが、不審なものを見てしまい、疑問を抱く。

この状況で、相手が笑っていたのである。

そして声が

 

「右肩───”一重咆哮"」

 

声と共に白虎の右肩にダース単位の表示枠が発生し、装甲が展開される。

背部側と連結アームによって形造られた物は獣の顔。

 

「虎だと!」

 

「Tes.新大陸ではあんまりいない機獣だけど───その本質は変わっていないよ? 獣として相手を震え、恐れさせる道征き白虎の基本装備」

 

嫌な予感が極限まで高められたので、腕を引き戻せるか思案するが、間に合わない事を即座に決断し

 

「地摺朱雀! 左腕をパージしろ!」

 

二代ごと腕をパージさせることによって、躱した。

結果は不発。

二代は慌てて、何とか体勢を整えようとするが、いきなりだったので軸線が通らずに、加速術式が暴発して空中に飛んでいるのを見たが、あれならば大丈夫だろうと思い、無視した。

この距離で不発。

となると

 

「接触型の破砕兵器かい!?」

 

「Tes.」

 

返答を答えとし、しかし、そのまま白虎の足が膝蹴りの形に整えられ、朱雀の鳩尾に当て嵌まる部分に激突した。

内部からアクチュエーターなどが破砕される音を聞きながら、至近距離となった三征西班牙の第二特務、江良・房栄の顔を見ることになる。

さっきまで浮かべていた微笑は消え、しかし、代わりに声が口から洩れる。

 

「これまでの様子を察すると、やっぱり外れかな、と。貴方も知っているよね? この世には神代から引き継がれたり、歴史再現として作られた神格級の武神が幾つもあるけど───」

 

そんな事は知っていると思い、後ろに下がろうとした地摺朱雀の足を、道征き白虎の足で縫いとめられ、引くことが出来なくなり

 

「五十年前に起きた三征西班牙の極東歴史再現での旧派の反乱で、反乱軍が何を作ったか知ってる?」

 

問う理由も中身も知ったし、理解できている。

だからこそ、この話を続けて時間を少しでも稼ぐことが出来ると思い、直政は口を開ける。

 

「Jud.守護としての武神を四聖に肖って作り、しかし、今でもその内の二機は行方不明って事だろう? ───その内の一機の朱雀の名を冠している事が、そんなに気になるのかい?」

 

返答はTes.という答えであった。

だが、その声の口調には明らかな落胆が混じっている事に気付いてしまったので、思わず眉を顰める。

だが、その落胆の感情がどこに向けられているのかも、理解してしまったので、再びこっちから言う。

 

「……四聖武神としての神格術式の山川道澤が出ないから、その表情かい」

 

「Tes.それぞれ、の四聖武神に備わっている神格術式。本来朱雀はその内の澤が出る筈なんだけど……その様子だとフェイクかな、と……」

 

その言葉と同時に、縫い付けられている足から光が溢れた。

これは……などとは思わない。

さっきから、話されている言葉から容易に察せられる光である。

道征き白虎は四聖武神。そして、四聖武神にはそれぞれのOSに対応されている神格術式が備えられている。

そして、総長連合の知識として知っている道征き白虎の神格術式は

 

「山川道澤の内の一つの"道"いかなる状況でも場所でも大道として絶対の足場と回避能力。それが道征き白虎の真骨頂」

 

道征き白虎の両足の左右に術式表示枠が浮かび上がるのを見て、汗がどっと沸いてしまう。

道の説明が正しいのならば、逃げる事も避ける事もほぼ不可能と思った方がいい。

防御に徹するにも出力差があり過ぎて、耐えるのが難しい。

打つ手なしの言葉が脳に浮かび上がるが

 

引けないなら、その情報は貰おうか……!

 

要は、最後に勝った者が勝ちという事である。

ここでの敗北を、ただの敗北にさせるのは、それこそ敗北どころか惨敗になってしまう。

壊れることくらいは許容範囲である。それくらいで、膝を着いてもう駄目だなんて思う奴は、少なくとも梅組メンバーにはいない。

そう思考し、道征き白虎の表示枠が割れた瞬間、世界が変質した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───」

 

その光景に一瞬ではあったが、直政は本気で感嘆の吐息を吐いた。

世界はさっきまでのような物騒な空間から剥がされたかのように麦穂の世界に変わっている。

余りにも、幻想的な世界。幻想と断ずるのは、それが美し過ぎるだけではなく、半透明で出来上がっていて、本物ではないという事が明かされているからである。

しかし、これは幻想的な世界ではない。

虎が大道として、駆ける為の大地だ。

瞬間、目の前の虎が吠えた。

刹那のタイミングによる肩を用いた零距離タックル。意識をそちらに向け、残った右腕によって、ガードをする。

しかし、衝撃総てを逃がす距離も暇もなかったので、後ろにたたらを踏む。ピキリという、右腕から嫌な音が聞こえてきたが、考えるといらん事を考えてしまいそうになるので、思考を削除。

そして、目の前の虎の顔が急速に近づいてくる。

虎が疾走したのだ。

元々が巨大な武神。たかが、たたらを踏んで、離れた距離など無いに等しい。僅か一歩で、追いつめられる、体勢が直っていないこっちは迎え撃つという選択肢しか存在しない。

更には、長い事触れていたら、道征き白虎の一重咆哮にやられてしまうという地摺朱雀からしたら、相性が悪いことこの上ない展開ばかりだ。

まるで、飛びかかるかのように襲ってくると思い、上体を張りつめさせたら、即座に白虎は体を小さく丸め加速。

 

「……何!?」

 

至近距離から、狙いを外して、脇を抜けられる。

自然と追いかけようとする視線の端に、道征き白虎が膝を着けている所を見て、視界を下に下げる。

すると、白虎の左足が鎌のようにこちらの両足をとろうとしているのが見えてしまい、急ぎ、一歩前進させるが間に合わない。

ギャッっと嫌な音と共に踵が抉られる。

途端に体の体勢を制御できなくなる。

倒れる、と思う時点でもう遅い。既に、背後には体勢を立て直して、獣よろしくこちらの方に今度こそ、飛びかかろうとしている道征き白虎がいる。

飛びつかれ、組む伏せられたら最後、一重咆哮による連鎖破壊によって、こっちはゲームオーバーという事になる。

なら

 

「裏拳ぶちかませ!」

 

その通りに動かした。

背後に倒れようとしている地摺朱雀は見事に言葉通りの無茶を実現してくれた。

倒れようとしている右足を無理に引き、丁度尻の後ろくらいの位置に足を持っていかせ、右半身を捻らせる。

右の脇腹のケーブルやシリンダーが千切れていく音が断続的に聞こえるがそんなのは全部無視一択である。

問題は生き残るか、生き残らないかであり、この一撃が届くかである。

いった。

狙いは右肩に乗っている江良・房栄。

こちらの右腕に込められている力は無茶の行動な故に手加減なんぞ何一つ籠っていない。

だから、相手は防御しなければいけないし、事実そうした。

こちらの裏拳は何の技術も無しに、相手の右手によって捕まえられ、そして連撃で一重咆哮が発動しようとする。

そこで

 

「右腕もパージしろ!」

 

そうした。

音と共に右腕は外されていく。その動きが聖譜顕装で減衰されていないのに、秒刻みにされているような錯覚を得てしまう。

冷や汗をかきながら、ようやく現実が動き出したと馬鹿の事を考えている最中に目の前で地摺朱雀の右腕が割れ砕かれた。

目の前の光景が、ありえた未来だと内心で受け取りながら、腕を失った事により体重が変わった動きに付いていけずに、体勢を崩し、道征き白虎の蹴りを真正面から受けることになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらの蹴りにより胴体を陥没させながら、遂にそのまま武蔵上に落ちていく地摺朱雀を見ながら、思う。

 

……まぁ、並の武神よりは良かったな、と。

 

武神使いの第六特務の判断も良かった。

特務に付いているだけのことはあるっていうのは、ちょっと上から目線みたいで嫌だけど、素直に上手いと言える実力者であった。

武神の差がなかったら、どうなっただろうと考えるくらいではあった。

しかし、意味もない仮定であったので、全部無視することにした。意味もない仮定の話など、それこそ仮定の世界でやっていればいい。

問題は、落ちていく武蔵の第六特務の顔。

その顔に張り付いている表情が笑みの形であることだ。

ただの負け惜しみかと思うが、楽観的な判断は全部捨てる。思考は全て何か意味があるものと今は考える。勿論、罠の可能性もあったが、そんな感情(イロ)には思えない。

となると本人ではなく……

 

「時間稼ぎだったって言うの!?」

 

「Jud.何もあたし一人だけで、何でも出来るだなんて自惚れは持っていないさね。なら、他の部分は他の馬鹿に任せるに限る」

 

苦笑と共に落ちていく第六特務を見ながら、即座に頭の中で周りの情報を取り入れる。

だが、取り入れるまでもなかった。

艦首側の方角から、武蔵の輸送艦がこちらに目がけて突進してくる光景であったからである。

ふぅーという溜息を吐くような音を聞き、意志とは関係無しに聞こえてきた方角、武蔵の第六特務が落ちて言っている姿の方を見る。

何時の間にか、彼女は懐に入れてあったのであろう煙管を口にくわえており、紫煙が漂っている。

そしてこちらの視線に気づいたのか、最後に煙を吸い、煙管を口から外し、煙を口から出した後に一言。

 

「そら、ズドーン」

 

言葉通りの結果になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激震という言葉が空中に発生する。

輸送艦、指揮官の両方の装甲版はあっという間にめくれ、爆発と衝撃を生み、人工物によって空中で地震が起きる。

余りの震動にさっきまで競り合いをしていたメンバーはこけそうになるのが大半であった。

 

『おわおぅ! お、おいネシンバラ! 俺はこんな事をするとか全然聞いてねえぞ! 少しは他人の迷惑っていうのを考えやがれ!』

 

『勝手に女風呂に突っ込もうとするシュウ君がそれを言いますか……』

 

『大体、君は人が作戦を話そうとした時に勝手に突っ走っただけじゃないか。まぁ、それは槍本多君もそうだけど』

 

『ふぅむ。拙者、今は人間がどこまで空中遊泳を出来るかという限界にチャレンジをしていたので、運良く巻き込まれなかったので御座るよ。日頃の行いと言うのは、やはりこういう時に出るので御座るな。拙者、これからもじゃんじゃん日頃の割断をするで御座るよ』

 

『あれ? さっきまで一般論を話していたのに、何故か最後にストレートが、フックになりましたよ?』

 

同感だと正純は輸送艦の今も揺れる足場の中で手すりに捕まりながら、前を見る。

何だかんだ言いつつ、熱田も二代も、この揺れる足場の中で、揺れに負けずに立っている。

その体勢調整に本当に同じ人間かと結構本気で思いつつ、この数秒で、自分に課せられた役目を果たそうと息を吸い、発する。

 

「───武蔵アリアダスト教導院副会長、本多・正純が休戦を提言させてもらう!」

 

「───貧乳は断る!!」

 

斬新な向こうからの挨拶に一瞬、顔が無表情になってしまった気がするが、ここで負けてはいけない。

しかも、何だか断ると言った連中に敵味方関係なく攻撃をしているのはある種の戦術的な行程なのだろうか。

理解しても、絶対に得てはいけない物を得てしまうだけだと思ったから、見なかったことにした。

 

『セージュン! 気にすんなよ! 貧乳って言うのは、つまり、まだ成長を残している可能性があるって事なんだぜ!? オメェも努力次第で巨乳の仲間になるのも不可能じゃねーよ! 俺も協力すんゼ!?」

 

『ククク、愚弟? よく言ったわ! って言ってあげたいけど、貧乳政治家の場合成長した胸を削って、ああなったのよ? つまり、成長期はもう終わってしまってるのよ……でも、諦めるのは早いわ! 大丈夫よ貧乳政治家! 一人で駄目なら皆でコネ回せばきっと発芽の因子が発生するわ! 皆は一人の為! 素敵な言葉ね! ビューティフゥゥゥゥゥルゥーーーーーーーー!!』

 

『その論で行くと、一人は皆の為理論が働いて、ナイちゃん達がセージュンに揉まれる気がするんだけど?』

 

『いいわ! じゃあ、まずは巨乳見本の浅間から揉むのよ!? きっと、乳の精霊が手からあんたに乗り移って、あんたの貧乳の成長を促してくれるわ! 浅乳間……!』

 

『喜美? 後で説教しますからね? それもトーリ君と喜美のお母さんも含めての三者面談で!』

 

しかも、どうやら外道達にも餌を与えてしまったようだ。

色々と気をつけなければと、内心で冷静に考えて、今度こそ目的を成就させようと考える。

 

……今回の三征西班牙の闘争の目的は英国への援助物資を運んでいるからという建前を使った襲撃だ。

 

確かに、武蔵はそういった貿易の能がかなり高いので、建前じゃなくても、それは当たり前に疑う戦であるし、ただでさえ三征西班牙と英国はアルマダ海戦の歴史再現を控えているのである。

虚と実を混ぜているので、攻撃理由としては十分だ。

だが、逆にそれは、援助物資など持っていないと証明できたら、あっという間に崩される理由だ。

だからか、自分の停戦宣言に相手の副長、及び第二特務の弘中・隆包と江良・房栄は一旦、後ろに下がった。

その事に、熱田の表情が物凄く残念そうな表情に変わったのが、印象に残ったがバトルジャンキーに付き合ってはいられないので、無視した。

私は周りの外道達とは違い、平和主義なのである。

暴力反対、戦争反対は政治家志望として当然のことであると、自分を理論武装してうんうんと頷く。

とりあえず、襲撃はこの膠着を持って終えたと見做してもいいだろうと思う。

そう思い、言葉を吐こうとした瞬間に後ろに気配が現れた事を悟る。

相手が誰だかは解る。

 

「正純様───ホライゾン・アリアダスト。悲嘆の怠惰を出前でお持ちして、到着しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、実はホライゾン。余り、アドリブが得意ではないので、いきなりのこの羞恥プレイに何をすればいいのか、と思うのですが……」

 

とりあえず、後半は聞かなかったことにしたい正純なのだが、彼女は気にせずに、きょろきょろと周りを見回し、そして自分の手の中にある悲嘆の怠惰を最後に見て、ポツリと

 

「解りました───撃てばいいのですね?」

 

「早まるんじゃない、ホライゾン……!」

 

まだ味方がいる……! と叫びたかったが、内心であれらが味方? という疑問が浮かび上がってしまったので、言葉にするのが難しかった。

いや、うん。仲間だよね? うん……仲間の筈……。

少し、葛藤していたら、ホライゾンが言葉を続ける。

その視線は熱田の方に向いており

 

「おや───丁度いい的が」

 

『撃つ気か! 撃つ気なんだな!? この毒舌女! 流石に俺でも大罪武装級は無理だってわかってその所業を行うつもりか!? く、くそ……あ、アデーレ! ちょっと、こっち来いやぁ!』

 

『嫌ですよ! どうせ、盾にするつもりですよね!? 幾ら、奔獣でも悲嘆の怠惰の上位駆動を防ぐ何て無茶この上ないですよ!!』

 

『余はあんまり戦いの事は解らないんだけど、熱田君とバルフェット君の防御力って凄いの? それとも、大罪武装が凄いの?』

 

『難しい議題ね……片や、ヤンキー馬鹿と貧乳による根性防壁で、もう一つは悲嘆の怠惰なんていうぶっちゃけ悲しみ砲撃……つまり、ある意味ホライゾンの感情によるんじゃない?』

 

『ぶっちゃけ返ししますけど、ホライゾンが負ける姿が想像できないんですけど……ああ、シュウ君とアデーレがゲログチャアに……!』

 

『想像早いわ!!』

 

駄目だ、ツッコミに入れる反射神経が足りない。

別にいらないとは思うのだが、逆に目立た無すぎると、クラス内カーストが結局落ちてしまう事になってしまう事にクロスユナイトを見ていて理解したから、中くらいが丁度いいという真実に辿り着いたのである。

そして、ホライゾンはこっちの携帯社務を見て、うんうんと頷いたかと思うと

 

「どうでしょうか皆様。アドリブで、この人気……ホライゾンの基本性能がレベルが高いという事が理解できたでしょうか?」

 

「いや、ちょっと待ってくれホライゾン……私にも色々と言わせてくれないか」

 

「───Jud.では、皆様。こちらの正純様が今から、ホライゾン以上に面白い事をしてくれます。静かに聞きましょう」

 

「───え」

 

いきなりの理解不能展開に子供みたいに首を傾げて、純粋に何を言っているのか解らないという感情を口から出す。

そう、解らない。

何故そんな状況が今、私の身に降りかかっているのかが解らない。

だが、そこで周りは何かを察したというのか

 

「……」

 

とりあえず、拍手が来た。

 

ぎゃ、逆に嫌なリアクションだぞ……!

 

どうする?

というか、しなければいけないのか。

というか、そういうのはそれこそ、葵とか葵姉達、芸人の仕事だろうが。

他の馬鹿どもでもいいけど、目で映る熱田と二代は色々と期待してこっちを見ているし、ナイトはこっちに録音用の魔法陣を向けて、笑って見ている。

どちらにしても、こちらを助けるつもりがないらしい。

進退窮まったというのはこういう事なのかと、愕然するが、最早、沈黙のレベルは取り返しの無い所まで来ている。

ここで、実は無しと言ったら、最悪またバトルが勃発するかもしれない。

 

……くっ。

 

なら、やるしかない。

原因となったホライゾンを思わず、睨んでしまうが彼女は無表情で右手の親指をぐっと上げるだけであった。

 

駄目だ……格が違った。

 

そうなるとどうする。

やはり、ここは極東風のボケで攻めた方が良いかもしれないと思い、ようやく顔を上げる。

 

「あー、突然だが、うちの馬鹿副長は何と剣神とかいう大層な奴でな」

 

お? と周りがいきなりの切り出しにどうでるかな……と考えている。

例にされた熱田は、ほほうとか言って余裕ぶってる。

とりあえず、話を続ける。

 

「その癖、この馬鹿は影で密かに訓練していてな」

 

「……で?」

 

オチはという促しにああ、と前置きをして

 

「───感心するだろ?」

 

熱田が目に映らないスピードで膝を着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『がっ……ゴフッ』

 

『酷い! 酷いわ! この貧乳政治家! まさか、個人攻撃で心臓破りの一撃を放つなんて……! 鬼畜よ鬼畜! 鬼畜生ってこういうのを言うのね!』

 

『だ、大丈夫ですかシュウ君!? やはり、シュウ君の加護には滑るギャグ抗菌はなかったんですね……!』

 

『ちょっと、正純。幾らなんでも、それは酷いわ。あんた、副長に対して何か恨みでも抱いてんの?』

 

『そうだよ本多君! 幾らなんでも酷いよ!』

 

『そうだぞ正純。シュウもあれはあれで精神は硝子のハートで出来ているのだぞ。それなのに、そのような暴言は吾輩はクラスメートとしてどうかと思うぞ』

 

いらん表示枠は断ち割りながら、しかし、周りからの半目に思わずたじろぐ。

 

……しまった!

 

やるなら、個人ではなく、全体を絡めて、共有できるようなギャグを言った方が良かったか。

アドリブは苦手なのである。

しかも、最後にまたまばらな拍手をして、心底同情するという表情が熱田の方に向けられている。

出来れば、こちらにも同情して欲しいとも思うが、逆にそれの方が辛いかとも思い、考え直す。

というか、とっとと本題に入ろうかと思い、周りの空気は意図的に無視した。

その行為に熱田の凶悪なものを見る様な視線でこちらを見て来たが、隣のホライゾンを見て思ったのだろうと思い、無視した。

 

「ええと……話を戻すが、この場の戦闘理由は既に」

 

消失していると、続けようとした時に五つの動きが連続した。

最初に動きが発生したのは、道征き白虎の右腕化碗のスナップである。

その動きから、武神の手で隠せる程度の物が投じられたのかと一瞬の思考が発生しようという思考の時に熱田が動こうとした。

剣は右の両手持ち。切っ先は地面に掠るくらいになるくらいで、体は自分の膝くらいまで落としての疾走。

私からしたら、無理な姿勢に見えるのに、熱田はそれが当たり前かのように駆ける。

そこに割り込むのは向こうの副長である弘中・隆包である。

速度に置いては熱田よりも遅い。

霊体ではあるが、能力自体はやはり、生きていた頃の動きに縛られる。

しかし、仮にも副長クラスである。

並の学生よりは速い。あの速さなら、道征き白虎の前に立って陣取ることくらいは余裕である。

だから、彼はそうした。

そこに熱田が激突する。

技も何もない力だけの上段からの斬撃であった。

ここまでに距離でも実は零距離の音ではないかと思うくらいの錯覚を得てしまう大きな音であった。しかし、二人はそんな事は気にせずに、ただ隆包は手に伝わる衝撃に顔を少し歪めている。

そこに二代が熱田の背中を蹴って、空を滑空するかのように前に進む。

そして、最後に激突音が響く。

ここまでに秒間でおよそ三、四秒。

実はほとんど見えていなかったのだが、何故かそこは表示枠に書き込まれた情報で解っただけである。というか、仕事しろ、とツッコミを内心でしながら、投げられたものが何かを判断できるようになった。

 

「三征西班牙アルカラ・デ・エナレス第三特務の立花・誾……!」

 

そして、その名の意味は

 

「立花・宗茂の妻か!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくです、と内心で呟きながら、視線を前に向ける。

目の前にいるのは本多・忠勝の娘であり、現、武蔵の副長補佐に付いている本多・二代である。

彼女にも因縁がある。

そもそも、最初に西国無双の名に傷をつけたのは彼女の父だ。

八つ当たりなどはする気などは一切ないが、やはり、気になるかならないかと言われれば気になる。

しかし、今の自分の目的に比べれば些末事である。

本当に見るのは、本多・二代の向こう。

剣神・熱田・シュウ。

私の夫である宗茂さまを傷つけた張本人。

その本人はこっちを見ていない。

理由は当然、目の前にいる隆包副長から目を話す事は危険だというのは戦いをするにあたって当たり前のこと。

誰が、理由無しに敵から目を離すようなことをするというのだ。

だが、その当たり前のことが

 

「武蔵副長……」

 

こっちに色々と思いを燃やさせた。

 

「返してもらいます……私達の今までとこれからを……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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