授業中に居眠りしたら、違う世界で知らない姫を取り戻すことになりました。   作:偽帝

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一日目

カッカッカッ・・・・・。

 

 

教室にはチョークの音が静かに響いている。

 

 

「・・・・・」

 

 

窓側の席でぼんやりと黒板を眺めていた、加賀誠(かがまこと)は視線を外に向けた。

 

 

外はピュウと音を立てながら、庭に植えられた木が揺れていた。

 

 

「寒そ・・・」

 

 

誠は持っていたシャーペンを机に置くと、体を前に倒して居眠りの体勢を作った。

 

 

(どうせ今日も授業は進まないだろ・・・)

 

 

顔を下にすると、誠はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・すけて・・・・・」

 

 

少女の言葉が頭に響く。

 

 

「・・・たす・・・・けて・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

頭の中に響いた謎の声で誠は目を覚ました。

 

 

しかし目を開けたそこは教室ではなかった。

 

 

紫色をした淀んだ蜃気楼みたいなのが空間全体に広がっている。

 

 

「ここは・・・!?」

 

 

状況がわからないまま誠は立ち上がると、机と椅子が風のようにフワッと消えた。

 

 

「!?」

 

 

「ここは現実とのハザマ・・・みたいな場所よ」

 

 

突然女の子の声がして、誠は振り返った。

 

 

誰もいないはずのこの空間に、一人の少女がいた。

 

 

腰くらいまである亜麻色の髪をポニーテールにしていて、大きいな瞳が特徴的な子だ。

 

 

「私は千斗いすず。貴方が加賀誠君ね?」

 

 

「あ、ああ・・・」

 

 

咄嗟で何がなんだかわからないが、取りあえず頷く。

 

 

(なんで俺の名前を・・・) 

 

 

誠がそう思っていると、いすずが言った。

 

 

「良かった。早速だけど私の手を握ってもらえる?」

 

 

無表情でいすずはそう言うと、さっと手を差し出してきた。

 

 

「え・・・?」

 

 

何かわからないが取りあえず誠は手を伸ばすが、途中で止める。

 

 

「・・・・・」

 

 

それを見たいすずは片方の手で誠の腕を掴むと、無理矢理自分の手を握らせようとする。

 

 

「ちょっ、やめろって・・・!」

 

 

力を入れていすずの引っ張る手を離すと、誠は言おうと口を開いた、が・・・。

 

 

口を動かすことが出来ない。

 

 

殺気を感じた誠は視線をゆっくりと下に向けた。

 

 

すると、いすずがどこから出したのかマスケット銃を誠の口の中に突きつけていた。

 

 

「ふぇ・・・?」

 

 

また状況が良くわからないが、誠は取りあえず両手を上げる。

 

 

「素直に手を握らないと・・・、この引き金を引くことになるけど・・・」

 

 

いすずは人差し指でトントン、と引き金を触った。

 

 

流石にヤバいと感じた誠はそっと手を伸ばしていすずの手を握った。

 

 

手を握るとお互いの手の中が光り、やがてこの空間を眩しく覆っていく。

 

 

「ッ!?」

 

 

誠は眩しさに目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くたって眩しくなくなったことを確認すると、誠は目を開けた。

 

 

「ここは・・・?」

 

 

視界に広がるそこは先ほどの空間とは違う、どこかの公園のような場所だった。

 

 

周りに人は歩いていないが、何となく住んでいた場所とは違う感じがした。

 

 

誠は足の力が抜けてその場に座りこむと、いすずが見下しながら言った。

 

 

「ここはトッカルという町よ。まあ、私にはそれしかわからないけど・・・」

 

 

そう言って伸ばしてきた手に掴まり誠は立ち上がる。

 

 

「トッカル・・・?」

 

 

「ええ。ここは加賀君の住んでいた世界とは別の世界・・・、アークワールドのトッカルという町よ」

 

 

「アークワールド?」

 

 

「そう。この世界のどこかに私、いや私達の姫が閉じ込められているの・・・」

 

 

「姫・・・?」

 

 

「加賀君、あの空間に来る前に女の子の声が聞こえなかった?」

 

 

誠は顔を少し上げて思い出す。

 

 

「確かに、『助けて』みたいな声が聞こえたような・・・」

 

 

「それよ。それが私達の姫、ラティファ様の声よ。声が聞こえた加賀君は、選ばれたの」

 

 

「選ばれた?」

 

 

誠は首を傾げる。

 

 

「そう。私達と一緒に、ラティファ様を取り戻す一人として」

 

 

「な、何で俺が知らない人を・・・」

 

 

そう言うと今度は腹部に銃口をあてられた。

 

 

「すいません・・・」

 

 

苦笑いで誠がそう言うと、いすずは銃を離し、ポケットから四枚のカードを取り出した。

 

 

四枚のカードはそれぞれ違う模様と色だった。

 

 

「これは?」

 

 

「これからラティファ様を取り返すまで戦闘があるわ。でも、加賀君は武器持ってないから、この精霊達を使って」

 

 

「戦闘・・・・。って、精霊?」

 

 

ますます現実から離れていくが誠は話を聞く。

 

 

「ええ。カードの中にはそれぞれ精霊が入っているの。そのカードの模様が精霊が何を司っているかを表しているわ」

 

 

「へえ・・・」

 

 

誠は一枚一枚カードを眺めた後、四枚を持って手を伸ばした。

 

 

「なあ、どうやったら召還?できるんだ?」

 

 

「そのまま、『出でよ、エレメンタリオ』と言えば出てくるわ」

 

 

(案外簡単なんだな・・・)

 

 

誠は手を伸ばしたまま、カードに向かって言った。

 

 

「出でよ、エレメンタリオ!」

 

 

すると青、赤、緑、白、四枚のカードそれぞれが光りだした。

 

 

カードから出るように光が四つ、公園の草原の上に現れる。

 

 

そしてそれぞれが人の形になると、光が消えた。

 

 

現れたのは女の子の精霊四人で、それぞれ服装と髪が違った。

 

 

その中の一人、青のカードから出てきた精霊が礼をしてから誠に言った。

 

 

「あ、あの私達エレメンタリオです、よろしくお願いします!」

 

 

誠に向かってそう言うと青の精霊は残りの三人を紹介した。

 

 

「この子はサーラマ。火を司っています」

 

 

「よろしくー」

 

 

紹介されたサーラマという赤い服装の精霊は携帯をいじりながら口だけの軽い挨拶をした。

 

 

(妖精なのに携帯・・・)

 

 

誠はそう思ったが言わずに説明を聞いた。

 

 

「こちらはコボリー。土を司っています」

 

 

「よろしくおねがいします」

 

 

コボリーはあまり表情に感情を出さないで素っ気無く言った。

 

 

「隣の子はシルフィー。風を司っています」

 

 

「くるくるくるー♪回る回るー♪」

 

 

シルフィーという精霊は笑顔でくるくると回っている。

 

 

「すいません、空気読めない子で・・・」

 

 

青の精霊が申し訳なく言った。

 

 

その後、自分の胸に手を置いて誠を見た。

 

 

「私はミュース、です。水を司っています」

 

 

「紹介ありがとう。よろしく、ミュース・・・ちゃん?」

 

 

「はい、よろしくお願いします!加賀さん!」

 

 

ミュースは笑顔で誠の握手に答えてくれた。

 

 

(やっぱり俺の名前を知ってるのか・・・)

 

 

握手し終えると、いすずが後ろから言った。

 

 

「紹介は終わった?」

 

 

「え?あ、まあ・・・」

 

 

「そう・・・」

 

 

いすずはスタスタと歩いて誠とエレメンタリオの間に立つと、ジッと誠の目を見た。

 

 

「早速だけど、加賀君にはやってもらわなければいけないことがあるわ」

 

 

「何だ?」

 

 

「このエレメンタリオの魔力を開放してほしいの」

 

 

「え!?そんなの、俺にどうやれって・・・」

 

 

誠が言うと、いすずはエレメンタリオに向かって指を差した。

 

 

その瞬間、四人それぞれ頬が少し赤くなる。

 

 

いすずは、淡々と言った。

 

 

 

 

「エレメンタリオの四人に、キスするのよ」


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