「うヴぉえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛……ぷぐっ……お゛ろろろろろろろろ」
訳分からん奇声から始まってわりーな。今、どんな状況かというと部屋で盛大にゲロってんのよ。原因は言わずもがな先ほどまでやってた高町さんとの酒宴。
いんや~、まいったね。ちょい飲みすぎたわ。
俺はさながら便器が恋人かのように両手で抱きつき、両膝を折って縋り付いていた。
「主、大丈夫ですか?」
そう言って俺の身を安じてくれているのはやっぱり優しい夜天。ちょっと前から俺の背中をさすってくれている。その優しい手つきは秘め事中の愛撫にも似て(経験はないが何となく)、艶かしささえ漂っているようだ。
そんな手つきで撫でられれば、いつもの俺なら狂喜乱舞でもしているだろうが、生憎と状態が状態。立つ事も起つ事も出来ず、ただただ胃の中身をプレゼント・フォー・便器。
あーー、気持ち悪さで死ねる。
「ああ、私が代わってあげられたら……」
「夜、天……、お前は……本当に……、優し───う゛ッ!?」
言い終わらないうちにまたリバース。もう胃液しか出ない。
辛すぎる。二日酔いした時の朝に比べればまだ幾分マシだが、それでもこりゃ地獄だ。ホント、飲みすぎたわ。
仮家族での初めての旅行、高町さんとの語らい、可愛いなのはたちとの出会い……羽目外すのには十分な要因だ。一番の要因は、ただ単純にお酒が大好きだからだけどな。
「ハァ、ハァ、ハァ……ふぅ~。少し落ち着いた」
「主、お水飲みますか?」
「いい。……今はなにを胃に入れても吐く自信がある」
俺はガンガンする頭やヒリヒリする喉を無視し、背中を夜天にさすられながら洗面所を出た。が、すぐまた洗面所に戻りたくなった。洗面所の扉を開けたら部屋に充満している食い物の匂い。
テーブルにはいつの間にか運ばれていた料理がずらりと並んでいた。
「大丈夫ですか、主隼」
そう言って近寄ってきた心配顔のシグナムに、しかし俺は笑みを持って答えられなかった。
いつもならフローラルな体臭を放つシグナムに満面の笑みを返すところだが、今はもうその余裕さえない。むしろ、料理の移り香によってかなりアウト。
「ったく。だから飲みすぎんなっていったじゃねーかよ。しかも魔法まで使いやがって」
「主はもう少し加減というものを覚えるべきかと」
耳が痛いヴィータとザフィーラの言葉。夜天とシグナムからの「おいたわしい」という視線もなかなか堪える。ただそんな騎士たちの中で唯一、こちらに声を掛けることはおろか視線も寄こさない者がいる。
「……よォ、シャマル、生きてっか?」
「ハヤちゃんのばかぁ~~……」
そんな唯一の者……シャマルは今現在うつ伏せでぶっ倒れている。声に元気がなく、ここからじゃ覗えないが、たぶん顔を見れば俺のように血の気もないことだろう。
シャマルがなぜそんな状態なのか……それは最初、夜天ではなく彼女が俺の背中をさすってくれていたから。……いや、その言い方は正確じゃない。正しくは俺の背中をさすりながら俺の嘔吐する様を見ていたから。
簡単に言おう、彼女は所謂『もらいゲロ』をしたのだ。数分前まで仲良く並んでゲロってたぜ!
「いや~、なんつうか悪ぃな。でも主のゲロ見て気持ち悪くなる騎士もどうかと思うぞ。あれだ、俺のゲロは聖水だと思え」
「いくらハヤちゃんのでも絶対無理ですっ!」
「ンじゃ、もんじゃ焼きあたりで」
「ゲロももんじゃ焼きも一緒です!」
「いや、ちげーよ」
もんじゃ焼きマニアに謝れ。まあ、確かに見た目は似てっけどよ。
それは兎も角、守護騎士がゲロ如きでいつまでもダウンしてんじゃねーよ。
「おら、全員席に着け。飯食うぞ」
「……あの、ハヤちゃん、私は今はあまりいらない───」
「うるせえ。多少気分が悪かろうが食え。こちとら相応の金払ってんだよ」
俺だってまだ気分は最悪だ。頭痛いし咽喉はヒリヒリするしな。しかし食う!残すなんて言語道断だ!吐くにしても一度は味わう!味わったあと吐く!使った金無駄にはせん。
「いいか、全部平らげろよ。米粒一つ残すな。特にヴィータ、野菜残すんじゃねーぞ!」
「……わかってんよ」
「ザフィーラにあげるのも無しだかんな。テメェの分はテメェで食えよ」
「う゛っ……」
やはりいらない物はザフィーラにあげる心算だったようだ。ったく、これだからお子ちゃまは。そんなんじゃシグナムみたいになれねーぞ?………果たして人間のように成長すんのかは知んねーけど。
「そんじゃ手ぇ合わせて────いただきます!」
「「「「「いただきます」」」」」
人とは学習する生き物なんだが、それ以上に欲求にはかなり忠実。特に俺は。
例えばパチンコ。いくら負けても「次こそは」といって次の日にまた勝負に行く。
例えば競馬。3連複にしときゃいいものを夢見て3連単で挑み玉砕するが、次もまた同じ夢を見る。
例えばタバコ。体に悪いと知っているがどうしても止められない。禁煙なんて1日続かない。
で、あるからして。
夕食に付いてきた酒を俺が飲まないはずがない。いくらさっきまでゲロっていて気分最悪の身でも「飲まない」という選択肢はなかった。
で、飲んだ結果が──
「気持ち悪ぃぃぃ、頭痛ぇぇぇ……」
「馬鹿だろ、お前。それも極上の」
頭を押さえ、だるい体を畳の上に横たえてる俺。ヴィータの言葉に反論する気力も起きん。
飯食ったらもう1回温泉入りたかったんだが、今はあまり動きたくない。
「なあ、シャマルよぉ。お前回復魔法って得意だったよな?この頭痛、胃のもたれ、吐き気って治せねぇ?」
「ええっと、体の負傷とか体力回復なら出来るけど内面はちょっと難しいです。ていうか、それが出来れば自分に使ってます」
「そうか……まあ、魔法も万能じゃ───うっ!?」
─────ごくん。
あ、あぶねぇ…もう少しでブチ撒けるところだった。……ハァ、だりー。
「主隼、もう寝たほうが良いのでは?」
「んあ?ああ、そうだなぁ……」
シグナムの言う通りにするか……いや、でも温泉にも入りてーしな。気分も良くなりそうだし。
「シャマル、旅の鏡とかいうやつで俺を温泉まで転送出来ね?」
「それもちょっと………。腕一本くらいなら兎も角、体全部は多分無理です。それにあれは元々対象を『取り寄せる』魔法ですから」
そうかよ。ハァ、儘ならないねーな。しゃあねぇ、テメーの足で行くか。
俺はゆっくりと起き上がりタオルなどを手に取る。その際シグナムが体を支えてくれ、さらにその際メロンが体に密着したのでちょっと気分が楽になった。
「ンじゃ、ちょい行って来るわ。お前らはどうする?」
そう聞いた俺にまずはシグナムと夜天が「お供します」と反応、次にヴィータとシャマルは「ここでゆっくりテレビを見ている」と言い、最後にザフィーラは「タブレットで愛してるぜベイベ✩✩を見ながら自慢の艦隊で5-5のゲージ削りをしています」と。
まあせっかくの旅行だ。一緒に過ごすのも重要だけど、それぞれの意思で過ごす事も大事だ。
取り合えず1時間後にはこの部屋に戻っているように皆に言い、俺達はそれぞれの行動を開始した。
俺はシグナム、夜天を連れ立って大浴場へ。その道中、2人から簡単な魔法講座のような物を聞かされたのだが、俺はそれを右から左だった。だって興味ねーし。
しかし、ただ1点。とてもとても良いことを聞いた。
「ユニゾンは主である者の肉体が表に出るのが通常ですが、反対に融合騎である私が表に出る事も可能です。ただ主の負担は通常のそれに比べて大きくなってしまいますが」
との事。
これ、使えね?夜天の体に入る、つまり極論すれば俺は女の体になるってことだろ?……女風呂、覗き放題じゃね?女の身体、触り放題じゃね?
流石にそんな考えは言えないのでまだ実行できないが、これはきちんと覚えておく必要があんな。
と、そんな不埒な考えをしながらつつがなく大浴場に到着。
「では主、私たちはこちらですので」
「多分長居すると思うので、主は先に戻っておいてください」
そう言って女風呂の方へと姿を消した2人。いつかあの先を見てみたいもんだ。つうかシグナムの奴は相当温泉が気に入ったらしいな。あの目の輝きを見るに多分1時間たっぷり入浴するつもりだ。
「ンじゃ俺もむさ苦しい男だらけの風呂に入るとしますかね」
そういやヴィータくらいの見かけの歳って男湯OKだっけ?チッ、あいつ連れてくるんだったな。あいつのロリ体系に興味は微塵もないが、一緒に入れば話し相手になって暇潰せただろうし。
そんな事を考えながら男と書かれた暖簾を潜ろうとした時、視界の隅にちっこい影が映った。まさかヴィータかと思ってそちらを向いて見れば、そこにいたのはつい先ほど知り合ったばかりのガキがいた。そのガキは俺を見ると驚き顔で立ち止まり、少ししてこちらに歩いて来た。その顔は何故か緊張気味。
「……ど、どうも、ハヤさん」
「よぉ、お前も今から風呂か?なのは」
そのガキ、高町なのはは、しかし俺の質問には答えず何か戸惑っている様子。
おいおい、何よそのどう接していいか分からないって感じは?俺ぁ結構コイツの事は気に入ってんのに、そんな奴からそういう反応されんのは寂しいぞ?
「んだよ?どうした、なんか言いたい事でもあんのか?ガキならはっきしびしっとハキハキ物申せ」
「うりゅ!?」
俺は片手でなのはの頬を挟み込むように鷲掴む。
アッチョンブリケ顔になったなのはは唸りながらペシペシと俺の手を叩いて離させ、少しして意を決したように身を乗り出して口を開いた。
「あ、あのね、ハヤさんっ、あの手品って言って見せた本や杖だけど───」
「ああ?何かと思えば手品の事かよ。教えて欲しいんか?」
こんな神妙な顔つきして出てきた言葉がそれとは……拍子抜けというか何というか。
まっ、なのはくらいの歳ならあんな魔法みないな手品(事実、魔法なんだが)には興味が湧くんだろうな。すっげぇ驚いてたし。可愛いやつだ。
「けどな、俺の手品は生憎と教えられるモンじゃねーんだわ。選ばれた者にしか出来ねぇ技法だかんな」
「え?あ、えっと手品を教えて欲しいんじゃなくて───」
「まっ、でもなのはの頼みだかんなぁ……よし、代わりと言っちゃなんだがまた今から違う手品見せてやんよ」
そう言って俺はなのはの肩を押して歩みを促す。進む先は男湯。
「いやぁ、ちょうど風呂入ってる間の暇つぶしの相手が欲しかった所だ。行こうぜ」
「にゃ!?い、一緒に入るの!?男湯の方に!!?」
先ほどの神妙な顔つきはどこへやら、あわあわと狼狽し赤くなるなのは。ヴィータにゃ期待出来ない反応だ。
「なーにガキが一丁前に恥ずかしがってんだよ。なのはくらいの歳の奴なら男湯でも普通に入れんだから」
今日知り合ったばかりの男が半強制で入れていいのかはまた別の話だが、ここはスルーorノールックの方向で。
俺の性格や女の好みを知ってる士郎さんなら許してくれるだろう。
「まっぱの付き合いってのは仲良しになるための秘訣だぜ?大丈夫、お前のケツに蒙古斑がまだあろうとも、俺は笑わねーから。せいぜい数年後、お前に彼氏が出来た時にそいつとの会話のネタにする程度だ」
「それ、すごくタチ悪いよね!?まだその場限りの笑いの方がマシだよ!?そもそも蒙古斑ないもん!」
「ぐちぐちうっせーなあ。超絶手品も見せてやっから、オラ行くぞー」
「いや、わ、私、もうさっき入って───にゃあああ!?」
引きずって男湯の暖簾をくぐろうとした直前、しかしなのははそれを振り切り逃走してしまった。今度会った時少しイジメてやろうと心に決めつつ、俺はヴィータを念話で呼び出したのだった。理由は言わずもがな。
もちろんヴィータも嫌がったが主権限を発動して無理やり入れた。
家族で来た旅行の夜というのは中々やる事がないモンだ。テレビ見るか、ただ駄弁るかくらいしかない。これが友達と来た場合だったなら温泉街に繰り出したりして遊んだろするだろう。そして、それは俺たちも例に洩れず暇を持て余していた。先ほど1度だけヴィータとど突き合ったくらいで他には何もイベントなし。
まあこの旅行は騎士たち、おもにシャマルの『俺とゆったりした時間を過ごしたい』っつうのが目的なので、こんなダラダラでも全然いいんだけどな。
ただ、結局最後はここに行き着く。
「寝るか」
これしかない。
今日は色々あって疲れたので俺はすぐにでも寝られる。そしてそれは皆も同じだったのか、俺の提案に特に異を唱えず就寝の準備に取り掛かった。
「明日の朝飯は8時だかんな。7時には起きろよ」
そう言いながら俺は部屋の電気を消した。そして布団に潜り込みさっさと眠りに就く………わけねーだろ。
先ほども言ったように確かに家族での旅行の夜というのはやる事がない。駄弁って過ごすくらいのもんだ。その考えは間違っていない。間違っているのは『家族』の部分。
俺たちは本当の意味で家族ではない。血のつながりのない、ぶっちゃけ他人だ。だが、だからこそなのだ!つまり………他人=欲情OK!
(夜天とシグナムとシャマルの寝顔がついに拝めんぞ!しかも運が良ければ浴衣が捲くれ上がったあられもない姿も!?)
家では当たり前に別室で男女別れて寝ているが今日は違う。皆同じ部屋に雑魚寝。
このまま俺は静かに起き続け、皆が寝静まった頃合を見計らって行動。寝顔覗きみたり、写メ撮ったり、その他いろいろ見たり!もしかしたら何かの拍子に触っちゃたりなんかりしちゃったりして!?
(さらに寝息や寝言も聞き放題!今夜はフィーバーだッッ!!)
……待て待て、落ち着け俺。夜は長いんだ。1時間、いや30分の辛抱だ。30分もすれば皆寝るだろう。そうなれば後はずっと俺のターン!思う存分視姦してやんぜ!
──────しかし、そんな俺のささやかな夢の叶う時は訪れなかった。
「「「「「ッ!!」」」」」
それは突然だった。
皆が布団に入って10分くらい経った頃、突然なんの前触れもなく5人が布団から上半身を起こしたのだ。その視線は5人ともが同じ方角を見つめている。
対して俺はただただ驚いていた。何せ俺は来る眼福の時を夢見て興奮していたのだ。その対象がいきなりこんな反応を見せたので、そんな訳ないのにまさか俺の思惑がバレたんじゃないかとドキドキ。
「どどどーしたよお前ら。俺ぁまだ何もしてねーぞ!ほら、早くおやすみしろ。ね~んね~んころ~り~よ~」
「この反応は……」
「魔力?いや、しかし…」
「魔導師、って感じじゃない……」
「なんだよ、これ?」
「………」
俺の言葉をガン無視で何か思案している5人。
一体なんなんだよ?何でそんな険しい表情してるわけ?ンな事より早くオネムしろよ。そんで俺にあられもない姿を見せてくれ!
「お~い、お前らマジでどした?」
「……主はお気づきになりませんか?」
シグナムがとても険しい表情で見てくる。しかし俺の方はそんな彼女に付いていけない。
は?気づくって何によ?そんな重大な事あった?
「詳しい位置は分かりませんが、ここからそんなに離れていない所に魔力反応があります」
「あん?魔力反応?………魔導師でもいんのか?」
俺ら以外の魔導師で思い浮かぶのはあの金髪のガキ。あいつが近くにいんのか?それともまた別の奴?
てか、俺魔力反応なんて感じねぇんだけど?アルコールがちっと入ってっからそういう感覚が鈍ってんのか?……いや、そもそもこいつらにも感じたことなかったな。まあ魔導師としての才能ないみたいだしな俺。
「いえ、多分魔導師ではありません。何というか、もっと純粋で無機質な感じがします」
いや、意味分かんねーよ。つまりどういう事だよ?
頭を捻る俺に今度はいつの間にかクラールヴィントを出しているシャマルが険しい顔で言葉を発した。
「小さいけどまた魔力反応、……こっちは魔導師だわ」
マジで一体全体どうなってんだよ?展開が急過ぎて付いていけねーんだけど。つうかさ、ンな事より俺の視姦タイムは?お前ら早く寝ろや。魔力反応なんてどうでもいいから。
一人今の状況に付いていけず呆然と布団の中で寝そべっている俺。そんな俺を他所に5人はこれまた突然立ち上がり、それぞれが部屋にある窓の方へ。
「って、オイオイ待て待て!どこ行く気よ!?」
「主隼は先にお休みになられて下さい。我らは少し様子を見てきます。──ザフィーラはここに残って主の守護を」
「ああ、了解した」
そういうとシグナムを先頭に今にも窓から飛び出さん勢いだ。もちろん俺はこいつ等を行かす気はない。折角の視姦タイムが無くなっちまうからな!
「ストップストップ、行かなくていいって!ンな反応ほっといてもう寝ようぜ!」
「いえ、そういう訳にもいきません。魔法関係は無視する主の意向には賛成ですが、情報収集や事態の把握はしておいて損はありません。後々危機回避の役に立つかもしれませんから」
そうかも知んねーけどよぉ!………俺の視姦タイムがああああぁぁぁぁぁ!!
「マジで行くの?」
「はい」
………ガッデム!!俺の夜のお楽しみがぁぁぁ!!
あああっ、もうどこのクソッタレだ!俺のお楽しみを邪魔してくれやがってよぉぉ!!あの金髪のクソガキか!?それとも管理局員とかいう奴らか!?……許せねぇ。
「───ろして来い」
「はい?」
「行くならきっちりぶち殺して来い!中に金髪のガキが居たらそいつは5分の1殺し、後の奴らは証拠も残さず全殺しだ!ついでに蒐集とかいうのもしろ!容赦するな!慈悲を見せるな!見敵必殺ッ!!」
「ハ、ハヤちゃん、いきなりどうしたの!?」
「あと数十分で訪れたであろう、俺の至福の時間を奪った奴らなど生かすべからず!」
豹変した俺の態度に戸惑い気味の5人。そんな5人に俺は夜天の写本を渡して布団に潜り込んだ。
不貞寝だ不貞寝!やってられっかよクソ!
「あ、あの主、時空管理局の事を考えると様子見だけで済ませ、戦闘行為は避けるべきかと……」
「管理局?ハッ!管理局だァ!?ンなの知るか!なんなら魔法使わずその辺の鉄パイプで撲殺しろ!なら管理局もチャチャ入れねぇだろうからよぉ!?なんせ魔法使ってねーんだからなあ!」
「……お前、なんでンな怒ってんだよ?」
怒る?俺が?たかが至福の時間を邪魔されたくらいで?ハハハ───ぶちギレだよ!!
確かに「殺すなんてやり過ぎなんじゃ?」なんて思われても仕方ないかもしれない。だが今一度よく考えろ。夜天、シグナム、シャマルの寝顔だぞ?その辺の女優なんて鼻クソに見えるくらいの美女の寝顔、それを見れる機会を失ったんだぞ?いち男として、こんな大事はねぇぞ!
想像してみ?彼女たちの寝顔を、───想像したか?それが見れなくなったんだ!だから邪魔した奴は死んで当然!!否、死ぬ義務がある!!!例え神が許そうと俺が許さん!むしろ許した神を殺した後殺す!
「いいから、行くんならさっさと行って来いや!おらザフィーラ寝るぞ、枕になれ」
俺は無理やりザフィーラに獣形態を取らせ、彼の腹を枕に不貞寝を決め込んだ。……主である俺は行かねぇのかって?行かねぇよ、めんどくせぇ。直々にオトシマつけさせたい気持ちもあるが、もう今はなんかどーでもいい。
騎士たちはそんな主を見てどうしようか少し悩んだようだが、結局窓から出て空の彼方へと消えていった。
「あ~あ……ザフィーラ、せめてお前が女性体だったらなぁ」
「無理を言わないで頂きたいです」
「ハァ……俺の計画が」
本当にどこのどいつだ?やっぱ管理局って所か?うざってぇ。シグナムたちには殺せと言ったが、俺も流石に本気でそう言った訳じゃない。そんな事すれば普通にサツに捕まっちまうしな。そもそも『殺す』なんて言葉、今のご時世冗談で誰でも言うし。ただそんくらい怒ってるっつうのを口に出しただけ。
───ああ、でもやっぱ死んでくんねーかなぁ。
そんな事を考え、さらにそれからも思考の紆余曲折があり、最後は「せめてエロい夢が見れますように」と考えながら眠りに就いた。