世の中に平等なんてものは存在しえない。
国、人種、地位、収入、門地、それによって生まれる社会の格差や世界の飢饉。それは大きいものから小さなものまで、気になるものから歯牙にもかけない程度のものまで。
千差万別………差別。
まあだからといってそれが悪いのかと言うとそうでもない。むしろ、個人的意見としては不平等万歳だったりするわけ。
だってな、全員が全員平等だったらつまらんだろ?例えば、この世にいる女が全員平等に『美人』だったとしよう。それは一見素晴らしい事だが実際はそんな事はない。美人を美人と思えるのは、前提にブサイクがいるからだ。ブサイクがいるからこそ美人が引き立つ。醜いものの基準があるから、美しいものの基準も分かるんだ。逆もまた然り。
な、こう考えれば不平等万歳だろ?
……………………ンなわけあるか!!!
な~にが不平等万歳だ。そんなムカつく境界線があるから人は戦争するんだ。ああ、いや別に戦争は勝手にやってくれて結構。俺に火の粉が降りかからない限りは関係ない。勝手に戦争して、勝手に死に合ってろ。
問題は戦争じゃない。もっと根本的な事だ。
勝ち組と負け組み。
はいコレ。
コレなんだよ。
不平等万歳なんて言える奴はな、大抵勝ち組の奴が上から目線で見下しながら言う台詞なんだよ。
勝ち組の奴は今の幸運に不満を言い、負け組みは不幸に不満を言う。
どっちがまだ筋の通った言い分だ?後者だろ?
そして勿論のこと俺は後者の言い分を主張する立場だ。
確かに大敗はしていない。家も無い浮浪者でもなければ、金の無い極貧男でもない。だから、浮浪者や金無しからみたら俺は勝ち組に見えるかも知れない。事実、そんな奴らと比べたら勝ち組だろう。
だが、勝ち組か負け組みかとハッキリ組み分けしたら、俺は負け組みだ。
家もある、家族もある、金もある、体も健康。
だが、負け組みだ。
何故かって?
童貞だからだ!素人童貞ですらない、純粋清廉な童貞だからだ!
確かに家はある。だが童貞だ!
家族もいる。だが童貞だ!
金もたんまりある。だが童貞だ!
体も元気ハツラツ。だが童貞だ!
童貞だ!
20余年前に男として生を受けたにも関わらず、俺は男となっていない。これはハッキリ言って存在の死活問題だ。
男として生まれたのに、男として死んでるんだ!
それを思えば家だの金だのは霞んで見える。
ああ、なんて俺は不甲斐無く、薄っぺらく、そして何より滑稽なんだ。いつもはあれだけ強気で自分勝手に振舞っていても俺は男じゃない。まるで道化のようじゃないか。
『う、うそ、鈴木君ってその年で童貞なの………ぷっ、その性格で童貞って逆にウケる』
もし女からそんな事を言われたあかつきにゃあ、俺は軽く死ねる。想像しただけで涙が溢れてくる。男から言われたら殴り殺すけど。
だから、俺は早く男になりたい。
しかし早まってはいけない。金があるからといって店にいってはいけない。
何故ならば、そこには『愛』がないからだ!
なんだか俺らしくない発言だと思うだろ?でも、本心なんだよ。そんな俺の心を形作ったのは俺のババア──母親だ。
うちの母親は何度も結婚と離婚を繰り返し、その性格も相まって一見して浮気性のようにも映るが、その実かなり乙女だ。結婚した男には実の息子以上につくすし、今までの離婚も原因は全部男側。まあ基本男好きなんで、その原因の原因はババアが作り出してんのかも知れねーが、ババア自身は決して意中の男以外には心も身体も委ねない。『好き』という言葉の意味をきっちりと区別して接している。
そんなババアの下で育ったからだろう、俺にもそういう概念が自然と植えつけられた。ああ、いや強制的にか?なにせババアは俺がちょっとでも反抗したり反対意見を出しゃあすぐ殴って来たからな。俺の一番古い記憶は『言う事聞けや、このクソボケ息子が』という言葉と共に拳が飛んでくるものだし。………今考えりゃ確実に幼児虐待だ。
まあそんな訳で、俺には『好きな人だけ愛せ』的な固定概念が邪魔し、今まで何度かあった一晩限りの女をフイにしてきたわけ。
だが、だ。だが、しかし、だ。
それのせいで未だ童貞なのは事実なのだ。
確かにこのような今時流行らない硬派な心根は貴ぶべきものなんだろう。俺自身も何とも自分らしくない、偽善のようなこの心根は嫌いじゃない。
だが、童貞なのだ。
だからこそ、童貞のままなのだ。
そこで自問しよう………果たして、俺はこのままでいいのだろうか?
勿論、自問するまでもなく答えは出ている。
否だ。このままじゃいけない。
だったらどうすればいい?
なんちゃって硬派な俺にとって、今更店で筆降ろしなんてのはプライドが許さん。だったら、その辺の二束三文な安い女を適当に見繕って脱童貞を目指すか?出来ない事は無い。これまでだって、ダチに紹介されたどうでもいい女とそういう雰囲気には何度かなった事がある。だが、ヤらなかった。それは、俺にはいづれもっといい女が巡って来るはずだと思っていたからだ。
そうやって、チャンスをフイにし次があると思い続けて早数年、その結果がこのザマだ。
だが、俺もそろそろ限界だ。不平等な世の中を嘆き、負け犬組みに身を浸すのは飽き飽きだ。
だから、『だったらどうすればいい?』という自問にこう自答しよう。
─────取り合えず、どんなチャンスでも掴み取っとこう!
場の雰囲気に流されるのもいい、傷心の相手に付け込むのもいい、酒の勢いに任せるのもいい。
状況、状態、手段問わず、取りあえずチャンスっぽい感じになったら掴みにいこう。
脱負け犬、脱童貞だ!
お誂え向きに今日はその絶好のチャンスである鍋パーティ。聞けばメイドさんも来るというじゃあーりませんか。メイド=美女。鉄板だろ。
すでに舞台は整っている。ならば後はそこでガンガンとチャンスを作り出し、逃さなければいいだけだ。
…………やれる。いや、ヤるんだ!そして晴れて彼女持ちという称号を得ようじゃないか!
だが、勘違いしてはいけないが、何も相手が誰でもいいというわけではない。ブサイクな女なんてマジで御免だ。しかし、そこは安心。仮にメイドさんがハズレでも俺の周りには美人が多いのだから!
そんな中でも大本命はリニスちゃんや夜天なんだが……………この際もう高望みはしない。それにリニスちゃん以外はどうでもいいという訳じゃないんだ。皆が皆、相当なレベルのいい女なのは誰が見ても明らか。なのに選り好みなんてしちまってたら、それじゃいつまで経っても彼女なんて出来ねえ。
皆が皆美人で、性格良しないい女なので、あの中からならぶっちゃけもう誰が彼女でもいい!誰であろうと心底から愛せる自信がある!チャンスが巡ってきた順に早い者勝ちの要領でアタックをかけ、見事キまった女を彼女にしよう!
こんな俺の考えを最低だと思うか?下卑た男だと思うか?母親のくだりはなんだったのかと思うか?
まあ、そりゃ思うだろうな。
ならば反論しよう…………知った事か!彼女さえ出来ればもうどうでもいいもんね~。
俺は今日、ここに宣言する!
今年中に最高の彼女を作ってやんよォ!!!!
14
シャマルと仮面ちゃんの手を引き、あの場を撤収した俺が次に向かった場所はもちろん鍋パーティが行われる八神家…………ではない。
遅れて撤退してきたシグナムやヴィータと合流した俺は、仮面ちゃんを逃がさないよう厳命した後、皆には先に八神家に帰ってもらい一人別の場所へと向かったのだ。
と言っても別にそこは秘密の場所でも隠すような場所でもない。
ただの酒屋。無論、酒を買うためだ。鍋=日本酒という公式がこの日本には存在するのだ。
ビールと焼酎は買い置きしてあったのであるが、ちょっと値が張る日本酒は買っていなかった。はやてには今晩俺たちが蒐集してる間に買っとけっつってたが、よく考えれば未成年が買える訳も無い。よしんばザフィーラあたりを連れて行って買えたとしても、どうせ安酒しか買ってねーだろうからな。
そんな訳で酒屋へと寄り道した後、次は一路八神家へと向かった。その道中(空中?)、日本酒とは別に買っておいたビールの蓋を開けてゴクゴク。
これから始まるハーレムな宴への前祝代わりだ。
「ウイスキ~はお好きでしょ、ウィ~デュ~♪っとくらぁ。おーい、帰ったぞーい!隼ちゃんの登場だよ~」
飲み会帰りの親父のように、気分揚々と八神家の玄関を開け放つ俺。テンションが高いのは、これから始まるであろう俺の彼女持ちライフへの期待感から。
(メイドさんだぜメイドさん!絶対美人だろ!)
玄関に腰と酒の入った袋を下ろし、靴を脱ぎながら妄想は膨らむ。
(まず第一印象が肝心だな。爽やかに、かつ物腰柔らかくだ。下心は見せず、ジェントルマンでいくのだ俺よ。そして今夜はフィーバーだ!)
──────と、まあ。こんな感じでテンション上げ上げだったんだが。
(おっ、お出迎えかな?)
靴を脱ごうと座り込んでる俺の後ろからパタパタと廊下を歩く足音が響いた。少しだけ振り返ればふわりとしたヒラヒラのスカートと綺麗なお足が4つ。
メイドさんだ!
そう思った瞬間、俺は靴を乱暴に脱ぎ捨てて勢いよく振り返った。
(……え?)
─────うん。
俺ね、思ったよ。彼女云々とか言う前にまず自分を変えたほうがいいんじゃないかって。というか、もうね、自分が嫌になってきた。
何が嫌って、この出来の悪い頭。察しの悪さ。
前々から我ながらバカだとは思ってたし、他人からもよく言われる事ではあるが、今回身に沁みて分かったよ。いや、今回ってか前回のアルフの件でも分かってたんだが、今回はそれ以上。
何がかというと───鍋パーティをする為に呼んだというはやてのダチの家族、そのメイドさん2名について。
「お帰りなさいませ、お邪魔しております。今夜は私共もお招きくださりありがとうござ……え?」
「あ、お酒買って来られたのですね、こちらでお預かり……え?」
メイドさん……ああ、確かにメイドさんだ。思ってた通り美人であり、可愛かった。
一人は20ちょっとの綺麗なお姉さん系。セミロングの髪と優しい顔立ち、ヒラヒラのメイド服に包まれている身体はボン・キュ・ボンで素晴らしい。
もう一人は美人系お姉さんの妹。15、6の可愛い系。長い髪と無垢さを感じる顔立ちで、身体付きはちょっと残念だがそこに幼さのような物は感じないような均等さがある。
総じて、二人とも平均を軽く上回る美女・美少女だ。
大当たりだ。チャンス到来だ。どっちでもいいから絶対彼女にするぜ。───普通ならこうなる。こうなるはずだった。こうしようと思ってた。
「「隼さん?」」
脈なしと既に分かっている知り合いでなければ。
「…………こんばんは、ノエルちゃん、ファリンちゃん」
……………………俺のバカ!ホントにバカ!分かれよ!思考回路使えよ!
メイドがいる家がこのへんに一体どれだけある?ないじゃん!すずかんトコしかないじゃん!しかも前回自分でご丁寧にそのすずかのメイドを例に挙げてるじゃん!そこで察しろよ!バカかよ!ふざけんなよちくしょうが!俺の期待返せよ!いや、いいんだけど!確かに二人は美人で可愛いからそこに文句はないからいいんだけど!そうじゃないでしょ!帰宅10秒でもう今晩彼女作るとか無理ゲーだって分かっちゃったよ!
「驚きました、まさか隼さんがこちらにいらっしゃるとは」
「すずかお嬢様から、隼さんが魔法関係の諍いに巻き込まれて行方をくらました、とお聞きしていたので」
いつだったか、すずかとアリサが魔導師になったその日、俺はその報告の為、二人に伴ってそれぞれの家に行って両親に全てを話した。隠す事でもないし、俺が魔導師にしちまったようなもんだから。
結果はこの通り、月村家だけじゃなくバニングス家も魔法というものを受け入れてくれた。その上で両夫妻とも『子供の意思を最大限尊重させる』というスタンスを取り、娘の魔導師としての活動を認めたのだ。
高町家といい、何とも出来た人たちだよ。
「まっ、いろいろあってこの家に居候してんだ。あ、もしかして心配してくれてた?」
そうなら俺にもまだワンチャンが!
「「いえ、まったく。隼さんですから」」
ですよね~。
「あ、でもすずかお嬢様はすっごく心配してましたよ。習い事を休んで管理局の方に顔を出してまで隼さんの事を探してたみたいですし」
すずか付きのメイドであるファリンちゃんが難しい顔で苦言を漏らす。
まっ、そうだよな。すずかも優しい奴だからな、俺のような奴でも知り合いがいきなり行方不明になりゃ心配してるわな。
「そりゃ悪ぃことしちまったな。今日はすずかも来てんのか?」
「もちろんです。ご友人であるはやてさんからのお誘いですから」
ああ、そうかと思い出す。
そういや今日ははやてのダチを呼んで鍋するっつう話だったしな。そのダチってのがすずかだったわけだ。……ん?でも、それにしちゃあ玄関にある靴の数が多いな。
「二人とすずかと、あと誰が来てんの?」
「隼さんは知らなかったようですね。旦那様と奥様、それにバニングス家の方々もはやてさんからお招き貰ってるんですよ」
え、デビットさんやジョディさんも来てんの?てことははやての奴、アリサともダチになってたわけ?それともすずかからの間接的な誘い?
まあ、なんにしろ。
「こりゃ今晩は楽しくなりそうだな」
メイドさんを彼女に!という計画は霧散したが、両夫妻が来てるならそれはそれでOK。いろいろ話たいこともあったし、何より久しぶりの宴会だ。いつまでもダウナーなテンションは勿体無い。
酒がある、美女もいる。これを楽しまなきゃ損だ。
「そういやイレインは来てねーの?」
脳裏に金髪サイドテールのツリ目アマが思い浮かぶ。
月村家のメイドの一人で、見てくれは最高だが中身がサドで最低という、どこかプレシアを髣髴とさせる奴だ。そしてそんな奴だから例に漏れず、俺とはソリが合わない。
「あの子は今別件で家を離れているのでここには。残念でしたね」
「何言ってんだよノエルちゃん。あいつが来てたら今頃鍋の前菜で喧嘩盛りを食わせられるところだったぜ」
イレインと知り合ってそんなに時間は経ってないが、会う毎に喧嘩の回数と密度が増していってる。この前なんてあいつ、腕にデッカイ刃物生やして切りかかってきやがったからな。戦闘メイドか。パンピーな俺をどんだけ殺したいんだよ。……まあ、今じゃ刃物や、それが腕から生えるってくらいじゃビビらなくなった自分を一般人とカテゴライズしていいのかどうかは定かじゃないが。
「まっ、いねーならいねーに越した事ぁねえわ。よし、取り合えず部屋に入ろうぜ。ここじゃ寒くてかなわん」
俺は買ってきた酒をノエルちゃんに渡し、二人を連れ立って奥へと行く。
「ただいま~、俺。はい、おかえり~、俺」
小粋な一人芝居と共にリビングへと続くドアを開け放つと、俺の鼻孔に料理の匂いと女性特有の匂いの混合香気が飛び込んできた。そして目に映る光景は桃源郷と見紛うほどの女・女・女!
「ハ、ハラショー………」
まず目に付いたのは何よりもまずメロン(シグナム)!なんですか、あの白エプロンを押し上げている胸部装甲は?しかも髪型がね、いつものポニーじゃなくて、もう少し低い所をシュシュで纏めててさ、それが『女!』って感じで………抱きついていいですか?
そしてその隣に立つのは桃(シャマル)!料理なんて出来ねえクセに一生懸命なあの顔見てみろよ。もうね、全部許しちゃうって感じ?………マミって(齧り付いて)いいですか?
そんな二人の後ろで忙しなく動いているのは太もも(仮面ちゃん)!いきなり連れて来られて戸惑ってたり怒ってたりしてるのかと思いきや、意外や意外、騎士に指示されながら超手伝ってんの。彼女はスレンダーだがまたそこが健康的でかなりそそる………後でプロレスごっこしない?
「おっ、隼くんじゃないか。こんばんは」
「あら、本当。こんばんは、お久しぶりね」
不意に呼びかけられたその声に、桃源郷から目を外して声の方に目をやる。そこにいたのはソファに寄り添って座っている一組の男女。
男の方は眼鏡を掛け、人の良さそうな穏やかな笑みを浮かべている。もう一方の女性も男性と同じ種の笑みを浮かべて、しかし目を見張る程の美女。
「おっ、俊さんに春菜さん!こんばんはっす」
すずかの両親である俊さんと春菜さんだ。
「俺たちもいるぞー、隼くん」
「ヤッホー」
そしてもう一組。月村夫妻と向かい合って座っている男女。それも日本家屋には不釣合いな美男美女の外国人。
「こっちもお久っすね、デビットさん、ジョディさん」
アリサの両親であるデビットさんとジョディさん。
「いやぁ、まさか4人がいるとは思いもしなかったっすよ」
「それはこちらの台詞だって」
「ホントね。はやてちゃんから聞いてはいたけど、まさかホントに君だったとはねー」
「僕もだよ。すずかからいなくなったっていうのは軽くは聞いてたけど、うん、怪我もないようで何よりだね」
「隼くん、今度すずかを心配させたら怒っちゃうわよ?」
両夫妻から口々に文句とも安堵ともとれる調子で言われる。それに俺は頭を掻いて苦笑いで返す。
「いや~、マジすんませんねー。心配させちゃいまして。あ、もう開けてんすか?じゃあ俺も失礼して。って、まあもう俺もやっちゃってんですけどね。それでもまあ失礼して……ごくごく、くぁ~!あー、最高!あ、いや、それでっすね、こっちも大変なんすよ。実はですね───」
ジョディさんと春菜さん、どっちの隣に座ろうか迷いながら話始めたとき、俺の耳にドタドタと階段を駆け降りる音が聞こえた。と思ったら次の瞬間、リビングのドアがドカンと乱暴に開く音。
「隼!!」
名を呼ばれ、何だと思いそちらに目を向ければ扉を開けた状態で固まっている幼女が一人。
「おっ、ユーリか。いい子に留守番してたかよ?」
手にもった缶を掲げながらニヘラと笑う俺に対し、ユーリは大きく目を見開いただけ。……かと思いきや、ほどなくそのくりくりとした瞳からぽろぽろと涙が零れ落ち、最終的に滝のような様相を見せた。
(あ、これ何か覚えある)
いつぞやフェイトやアリシアに同じような顔をさせた記憶がある。あの時は確かその後……。
「ストップ、ユーリ!せめてビールを置かせてく────ぶっふぉう!?!?」
俺の過去からの経験に伴う予測は外れることはなく、しかし残念ながら手に持った缶を置くには間に合わず。
棒立ちの俺はユーリのダッシュからのボディアタックをその身に受けて倒れた。あ~あ、ビール零れちまったよ。
「は、はやぶさぁ!よ、よかったです、無事でー!帰ってきた皆から聞いて、管理局と戦ったって、それで隼も怪我したんじゃないかって!!わ、わたし心配で心配で、だから……ふぇ、うわ~ん!!」
視線を下に降ろせば身体の上で号泣する幼女。そしてそれを俊さんたちが微笑ましそうに見ているのも目に入る。
恥ずかしいやら、嬉しいやら。
取り合えずこのままの状態もあれなんで、フッと腹筋に力を込めて上体を起こす。
「あー、なんだ、ほれ、見た通り無事だろ?だからそんな泣くなや。てかお前、そんな泣き虫だったっけ?」
「ぐすっ……隼のせいです!は、隼、弱いけど強いからすぐ無茶して、だから私が護らなくちゃって、でも大丈夫って言って行っちゃって、なのに大丈夫じゃなくて……ふぇええ!!」
意味分からん。が、まー心配を掛けちまったのは分かる。俺を護る為に外に出たのに、初っ端これだからな。
「今度外出るときは連れてくから、今回は勘弁しろや」
「ぜ、絶対ですからね!というか今度から絶対ついてきます!もう離れません!!」
泣きながら怒るユーリにはいはいと軽く相槌を打ちながら髪を梳くように撫でてやる。そうすると漸く溜飲が下がったのか、強く羽交い絞めにされていた力がふわりとした物に変わった。
俺は苦笑しながらため息を一つ。
面倒臭ぇ……けど、まあ悪かぁない。
「対面座位とは何事か!!」
あ、正真正銘面倒臭い奴来た。誰とは言わなくても分かるだろう。
「我より先に主とのラブシーンを作らせるものか!少しばかり説教が必要なようだな!来いユーリ!!」
「うわ~、隼~!?」
憤怒の表情でユーリの襟首を掴み俺から引き剥がし、奥へと連れて行くフラン。
良かった、どうやら今回は全面的に矛先は俺へではなくユーリの方に向かったようだ。
「いや~、相変わらずモテるね~、隼くんは」
「あれを『モテる』という分類にカテゴライズせんでくださいよ」
茶化してくるデビットさんにジト目を向ける。
ガキにモテてもしょうがない。そりゃ嫌な気しねーけど、だからってまるまる良しとはならない。つうか『相変わらず』ってどういう事よ?俺、今までモテ期すらまだ一度も───。
「……隼さん?」
いつの間にかドアの前に立っていたのは久しぶりに顔を見たすずか。ただしその表情は久しぶりではなく、先ほどの誰かさんと同じような感じで……。
(あれ?デジャヴ?つうか何よ、この怒涛の展開は?)
─────俺は再度、床に倒れふすことになるのだった。
「あー、えっらい目にあった……」
少しばかり痛む背中のせいでしかめっ面になりながら、俺はタバコを吸うために庭へと出た。閉められた窓から中の様子を見ればユーリとフランが何事か言い合っていたり、すずかが春菜さんに何か言われ顔を真っ赤にしていたり、それを遠巻きにはやてとアリサが苦笑いしながら眺めていたりと中々に騒がしい。
「モテる……ねぇ」
先ほどデビットさんに言われた言葉を煙と共に苦々しく吐き出す。
まあ、確かに好かれちゃいるだろう。ただユーリ、フランは分かっていたがまさかすずかにまであーも過剰に反応されるとは思ってなかったから驚いた。俺、すずかにそこまで好かれるような事してきたっけ?と首を傾げるばかりだ。理由もなく好かれるのは、何か怖ぇーわ。逆にアリサから「心配?あんたの心配するほど人生の時間の無駄遣いはないわよ」と冷めた目で言われた時はちょっと安心しちまったよ。
なんにしろ、ガキにモテてもしょうがねえ。というかガキからモテるってあれだろ?カッコイイお兄さんは皆の人気者、的な?
そういうの、いらねーの。少なくとも今はいらねーの。俺が欲しいのはそういうんじゃなくて、きちんとした好意なわけ。可愛いくて美人な姉ちゃんからのラブが欲しいわけ。ノット、ガキ。ノット、ライク。
(期待してたメイドさんもノエルちゃんとファリンちゃんだったし……あ~あ、どっかに可愛い女の子落ちてないかな~)
例え彼女に出来そうな女の子がいなくても、今晩は鍋が食える、月村夫妻やバニングス夫妻と酒が飲める、それで良しとしよう……そう思っていたはずが、改めて考え出すとまた気持ちはダウナーに。
──そんな時だった。
「ちょっと………」
「んあ?」
不意にくいくいと袖の引かれる感触を感じた。そして同時に隣には人の気配。どうやら考え込んでいたせいで周りが見えていなかったらしい。
果たして、そこにいたのは猫耳尻尾を生やした見慣れぬ美人さん。
(って、この子がまだいたああああ!!)
あの喧嘩場から無理やり連れて帰った女性がそこにはいた。
「希望の星よ!」
「は?」
俺は目を輝かせながら肩をがっしりと掴む。そして改めて目の前の女性を観察。
顔──良し!
身体つき──良し!
匂い──良し!
性格──きっと良し!
彼女にしたいですか?──したいです!!
「ちょっ、肩痛いんだけど!ていうか目が怖い!鼻息荒い!」
これは失敬。
しかしここに来て一発逆転のチャンス到来なんだ。興奮せずにいられない!
「あんたは!あんただけは信じてる!」
「は?」
「まっ、まっ。立ち話もなんだし、取り合えず座りなさいな。ほら、そこ。じゃ、俺もお邪魔します」
庭の中ごろから縁側まで移動し、そこに美女を腰掛けさせる。そしてそのすぐ隣に俺も着席。
ああ、なんかフローラルな香りが!……あ、ちょっと、微妙に距離開けようとしないで。
しかし、さて。
何から聞くか。というか聞き出すか。ぱっと見、かなり警戒してるっぽいし。まあ、当然と言えば当然か。なにせこの美女からしたら敵陣のど真ん中、とまでは言わないかもしれないけど、それでも無警戒でいられるような状況じゃないはずだし。
よし、取り合えず焦らず行こう。
「いやぁ、あんたがいてくれて良かった。もしかしたら隙をついて逃げられるんじゃないかって思ってたし。いや、騎士共に囲まれちゃあ無理な話か。ともかく、さて、まずはあんたの名前だ。いい加減教えろ。教えてくんなきゃいろいろ酷いぞ?」
「………リーゼロッテ」
リーゼロッテ?ん?その名前、なんか覚えがあんなぁ…………まっ、いいか。
名前の響きにどうこう言うのは今更だ。そんな事より聞かなければならない事は山ほどあるんだ。
「リーゼロッテね。オッケー。改めて、俺は鈴木隼な。好意を込めて『隼』と呼び捨てにしてくれ。んじゃ、こっから本題に移りますか。そっちも聞きたい事あんだろ?」
「……ああ」
「だろうな。でも、まあ取り合えず俺から質問させて貰うぜ」
何故、俺たちの蒐集を援護するような事をするのか。
闇の書について何か知っているのか。
アルフと同じ半人半獣みたいなナリだが、誰かの使い魔なのか。
単独で動いているのか、それとも複数犯か。
挙げればきりがないが、さりとて、聞くことはもう決まっている。それは一番重要な事。
「彼氏いる?」
「は?」
何故か阿呆のような顔をされた。
「ンだよ、とぼけるつもり?そういうの、良くないと思うなあボキは」
「いや、え?あ、あのさ、もうちょっとこうさ、なんか違くない?普通、『お前は誰だ、何を企んでるんだ』とか、そういう事聞くんじゃないの?」
は?おいおい、勘弁してくれよ。これだからニャンコちゃんは。
「ハッ!ンなどうでもいい事ぁ後回しだろ普通。というか後にも聞かん」
「ど、どうでもいいって……」
「例えるなら『油揚げが入ってるうどんはキツネうどんって言うのに、酢飯を包んだのは稲荷寿司って言うのはなんで?キツネ寿司じゃ駄目なわけ?もしくは稲荷うどん』くらいどうでもいい事だ」
「そ、それは確かにどうでも……いや、なんか一周回って気になるんだけど!?え、確かになんで!?」
いや、そこは流せよ。気になるポイントにしないでくんない?
というかさ。
「やっぱ何か企んでるわけ?自分でそんな事言う奴って大体そうだって相場が決まってんだけど」
「…………」
あからさまにリーゼロッテが『しまった』という顔になった。どうやらこいつはあまり駆け引きみたいなモンは上手くないらしい。顔にも出やすい。俺と同じ、魂で行動するタイプと判断。
まあしかし、俺も彼女の失言に突っ込んどいて何だが、そういう顔はしてほしくない。美人は渋面より笑顔の方が映えるんだよ。
「別にさ、あんたが何企んでようと構わねーよ。俺ははやてを助けてやるって決めてんだ。あの笑顔で天寿を全うさせる以外のナニカで潰させやしねえ。だから、それを邪魔する奴ぁ、どんな企みでどんな事情があろうと無条件で殺すだけだし」
タバコを吹かしながらキッチンのほうに視線を向ける。そこにはすずかやアリサ、騎士の面々に囲まれて笑っているはやての姿が。
そんな光景を見てるだけでタバコが美味く感じる。
「…………いい子だよねえ、はやてって」
ふとリーゼロッテを見れば、彼女もその光景を見て微笑んでいた。その顔を見て思わずキスしたくなったが、流石にそれは今後の展開を考えれば自重せざるを得ない行動だろう。
「はやてとは話したのか?」
そういえば俺が帰ってきた時、一緒に料理の支度してたっけ。
「少しだけね。ホント、優しくていい子だ。知ってはいたはずなんだけど………あ~あ、なんでよりによってあんな子が主なのかな」
微笑みから一転、遣る瀬無い表情になるリーゼロッテ。その言葉から少なくとも闇の書がどういうもので、はやてが今どういう状態なのか知っているんだろう。
「むしろ良かったんじゃね?主にならなかったらあいつ、今でもこの広い家で一人で暮らしてたんだからよ。だったら後は残った憂いを断つだけだ」
体の麻痺を止めて、騎士達と家族を続けさせてやればいいだけの話。
言葉にすれば容易くて、それに対して俺が根性キメて行動を起こしてるんだから、その現実はもうすでに実ったようなもんだ。
「出来んの?───もう一人の夜天の主、鈴木隼」
「なんだ、やっぱ知ってたのか」
「はやてから聞いたよ。で、ホントにそんな事出来るのか?あんたの言ってる事は、つまり闇の書の闇だけを取り除くって事だ。そんな理想が実現出来るとホントに思ってるのか?闇じゃない夜天の主であるあんたなら、それは可能なのか?」
責めているような、期待しているような、複雑な声色でまくし立てるリーゼロッテ。
それに対して俺は胸を張って答える。
「夜天の主とか関係ねえ、"俺"がやるんだよ」
「……これは気持ちだけでどうにか出来ることじゃない」
「だから、気持ちじゃなくて"俺"がどうにか出来るんだよ。使えるモンは何でも使うし、邪魔する奴は家族だろうと容赦しねえ。俺が俺自身に誓った、誰の為でもない、俺の為に。闇の書の闇だァ?ンな厨二的なモンが俺に上等こくなんて100年早……………」
ん?あれ?
ちょっと思ったんだけどさ、今こいつが言った『闇の書の闇』って何よ?麻痺の事?………そういや俺、闇の書について何も知らなくね?
ええと、確か過去の主に改悪されて魔力蒐集を強制されるようになって、蒐集しなけりゃ主が死んじまって………うん、それだけしか知らねぇな。
そういや闇の書が完成したらどうなるんだ?完成しなけりゃ主が死んで、完成すれば麻痺が治るだけって思ってたけど、考えてみりゃあだったら過去主だった奴は闇の書が完成しなくて全員死んだって事か?……それはねーだろ。いくら何でも長い歴史の中で完成させたのが一人もいないなんてあり得るわけがない。でも、だったら何で闇の書はここにある?
ん~………分からん!分からんから、まっいいや。これぞ後回しにするべき事項だ。
「まあアレだ、ようはリーゼロッテも結局は闇の書が元の夜天の書に戻ればオールOKって話なんだろ?だったら変な企みなんて持たず大人しくしてろや。なんか事情があるんだろうが、知ったこっちゃねー。俺に任せときな」
「……………」
肯定の沈黙じゃないが、何かを考えている様子のリーゼロッテ。少しして意を決したように口を開きかけた彼女だが、それはエプロン装備の若奥様風シグナムとはやての登場によって閉ざされた。
「隼、準備が整った、席に着け。それとリーゼロッテ、だったか。お前もだ。………私個人としては得体の知れない者と食をするのはあまり気は進まんが…………」
「シグナム、そういう事言ったらあかんよ。ほら、ロッテさん、行こ。ぐずぐずしとったらヴィータに全部食べられてまうよ?」
そしてリーゼロッテは複雑そうな顔ではやてに引っ張られていった。その去り際に小さな声で『父様、クライド君、あたしは………』と聞こえたが……ふむ。……ふむん?
(クライド、君?)
男の名前だよな。君だし。しかもなんかすっげー切なそうに呟いてたし。……彼氏?
「それが答えか!希望は潰えた!!」
「お、おい、急にどうした?」
結局!結局これか!そうかよ!そうかよ!ンだよ!ふざけんな!
期待してたのに!メイドさんと美人猫娘に期待してたのに!もうすべてパーだよ!これで本当にもう今晩の楽しみは酒飲むしかなくなっちまったじゃねーか!!
……ああ、そう。そうですか。分かりましたよ。つまり、さ。
「とことん派手にかませってこったな?」
「お、おい、隼?どうした、目が虚ろだぞ?……お、お~い」
シグナムの呼びかけを無視し、俺は幽鬼のような足取りで家の中へと入る。皆はもうそれぞれ席についていて、いつでも「いただきます」の合図が出来る状態のようだ。
そんな中で俺はテーブルに置いてあった酒瓶を掻っ攫い、一気呵成に呷る。ゴクゴクと半分ほど一気し、ダンと叩きつけるようにテーブルに置いた。
皆が呆然とする中、一言。
「タイム。1時間延期」
両手でTの字を作って宣言。
は?という皆の反応を無視し、俺は今一度酒瓶を手にし脚を進める。目指す場所は───八神家の備え付け家庭電話。
(つまりはさ、これは挑戦ってこった。どう足掻いてもお前には女なんて出来ねーよ、というフザケた運命を打破してみろって事だろ?……ああ、やってやんよ)
根本的な問題を見落としていた。───足りない。足りないんだ。女性が。そのせいでチャンスの数と希望も減っているんだ。
(ならばどうするか!足りないなら足せばいい!溢れんばかりによぉお!!)
酔いが回ってきた頭の思考回路はすでにショート。
(そもそも今のこれはハンパなんだよ)
バニングス家は揃ってるとして、しかし月村家は全員じゃない。忍ちゃんとイレインという華が足りない。この時点でパーティとして1ランク落ちてる。除け者を作るなどよくない。
(この俺が、そんなハンパするっつうのは有り得ない)
女の子が一杯いて、お酒も一杯あって、適度にバカ出来るダチもいる。
それこそがパーティ。
それこそが酒宴。
(いいだろう、今日の俺は阿修羅をも凌駕する求道者だ!)
事の成り行きを他の皆は呆然と眺める中、俺は酒瓶片手にある携帯の番号をプッシュする。この相手の番号はもう完璧に覚えている。なにせ毎日のように電話して来てやがったからな。
「ちょ、隼さん、一体どうしたん?」
「あ、あの、隼さん?どこに電話しようとしてるんですか?」
「誰かこの酔いどれ止めなさいよ。きっとバカするわよ」
「だ~まれ、トリプルキュートロリーズ。…………お、もしもし、なのはか?」
「「なのは(ちゃん)!?!?」」
除け者は良くない。
その思いの通りに、俺はまずなのはの携帯に電話をした。
《ハ、ハヤさん?え?あれ?》
電話の向こうでかなり戸惑っている様子がありありと分かる。まあそりゃそうだろう。ついちょっと前まで俺たちドンパチやってて、そのすぐ後に見知らぬ番号から掛かってきた電話が俺なんだ。
「今、もう家か?それとも局でさっきの喧嘩の事後処理的な事でもやってんのか?」
《も、もう家だけど……ハヤさんこそ今どこから……そ、それよりハヤさんが滅茶苦茶したおかげであの後大変だったんだよ!?プレシアさんや夜天さんは局から詰問されたみたいだし、フェイトちゃんや理ちゃんも。私だって──────》
「うるさい黙れ。そっちの事なんてどうでもいい」
《相変わらず酷いね!?》
今はそんな事よりもやらなきゃなんねー事があんだよ。それにプレシアたちなら何とか上手くやってくれんだろ。
《プレシアさん、すごい表情で頭抱えてたよ?あの男はどこまで身勝手なんだって》
「だから知ったこっちゃねーんだよ。それよりお前、今すぐ俺んトコ来い」
《はい??》
「場所は、そうだな………後でアリサかすずかに住所を書かせたメールを送らせるから」
《え?え?アリサちゃんやすずかちゃんって………も、もしかして一緒にいるの?なんで?》
「鍋パーティしてる。だからお前も来い」
《あのね、本当にもうわけが分からないんだけど……》
「お前に理解は求めてない!」
《だから酷いよね!?》
相変わらずにゃあにゃあうるせえ奴だ。いつもは可愛いが今はウザい。
「いいから来い。勿論、家族全員でだからな」
《いや、だから急にそんな事言われても……それに今美沙斗叔母さんも来てて……》
なんと!それはナイスタイミング!ここに来て風向きが変わった!やはり天は俺に味方したか!
「美沙斗さんも勿論招待だ!むしろ美沙斗さんがいるならお前はいらん!」
《……そろそろ私泣くよ?》
「嘘嘘。可愛いくて大好きななのはにももちろん来て欲しいっつうの」
《……にゃは、にゃはは、そ、そう?しょ、しょうがないな~》
「あ、1時間しか待たないから。遅れたらお前のケツにまだ蒙古斑がある事みんなにバラす」
《うわぁぁあん!!》
そこで俺はガチャンと受話器を置いて電話を切った。
「よしよし、これでまず美由希ちゃんと美沙斗さんは確保だな。さて、それじゃあアリサかすずかにここの住所をメールで………………って、どうしたお前ら?」
振り返ってみればはやてと騎士共が皆こんな感じ(orz)になっていた。
「分かってたはずやろ自分……隼さんがパーティでテンション上がってるって……いつもすでに飲んでるって……いつも以上に自分勝手やって……」
「この男は……どこまで滅茶苦茶なんだ……」
「なのはって、さっきあたしがやり合ったあのなのはだろ……局の魔導師を呼ぶかよフツー……馬鹿だとは知ってた……それはあたしの過小評価だった……」
「無理……無理です……もう一人の私はどうしてこの人に付いていけるの?」
「……もう何も言葉が思い浮かばん」
はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラが何故か打ちひしがれている。
「どうしたよ、もっとテンション上げて行こうぜ。これからドキドキワクワクな鍋パーティすんだからよ?」
「そやね。なんか別の意味でドキドキやし、ワクワクやなくてハラハラや」
「何を言う、まだまだこれから……ああ、なんだ、なるほど」
「な、何が『なるほど』なん?」
何かしらの予感でも感じたのか、はやては恐々と俺の様子を窺ってくる。その顔は『もうこれ以上この場をカオスにせんといて』と懇願しているようにも見えるが、きっと気のせいだろう。
「もっともっとドキドキハラハラとしたパーティを催せと、そう言ってるんだな?」
「一言も言っとらんよ!?」
いや~、はやても中々言うじゃねーか。この程度の騒ぎじゃまだまだ足りないと?確かに確かに。
もっとも俺自身もこんなちっぽけで物足りないパーチーで終わらす気はさらさらなかったんだ。それに、はやても同意見ならば話が早い。
よしきた!ここいらで一つ、俺の本気を見せてやろうじゃねーか!この程度の鍋パーティなど霞むような騒乱を!!
「その挑戦、しかと受け取った!!」
「受け取らんで!?というかそもそも渡してへんよ!?取り合えず返して!?」
「そうだよなあ、お前ってこれまで一人寂しく暮らしてたんだから、こうやって皆で騒ぐって事なかったんだよな。ああ、八神っつう立派な代紋ぶら下げてんのに独り身なんて……うぅ、可哀想に。よしよし、ここは俺に任せときな!今までの寂しさがぶっ飛ぶほどの"騒ぎ"ってやつを見せてやんよォ!!」
「……………優しさ半分、身勝手半分な隼さんが好きやけど憎い!」
るーるーと涙を流すはやてを余所に俺は今一度電話へと向かった。そして俺は記憶を頼りに番号をプッシュした。
騒ぐっていやあ、やっぱ頭数揃えねーと話になんねえからな。たったこれだけの人数じゃあ"騒ぐ"とは言えんだろうよ!
───────────まずは一組目。あの姉妹だったら飲みと分かればすぐ来てくれるだろう。
「お、もしも~し、俺俺!………いや、詐欺じゃねーよ。突然だけどよ、一緒に飲まねえ?そんでフィっつぁんも連れて来………もう飲んでるから無理?誰と………さざなみ寮の皆?誰だよ、そいつら。あっ、ンじゃさ、そいつらも全員連れて来ていいから………あそう、残念だな~、ダダで飲み放題食い放題出来るんだけどな~………流石リっつぁん!じゃ、30分後くらいに海鳴臨海公園の入口で待ってて。獣耳生やした色黒ガチムチ男を迎えに寄越すから~」
………ふむ、銀髪姉妹の二人だけ誘うつもりで電話したのに、どうしてか結構な人数が来る事になっちまった。まあでもしゃーねえべ。あっちもあっちで何か集まってパーティしてたらしいし、そんな中で二人だけ抜けさせて呼ぶのもな。それに結果的にはこれは行幸だ。人数多いほうが飲みも楽しいし、ワンチャンもあるんだからな!
さて、次だ!
───────────二組目。
「おうイレイン、俺だ。隼だ。今お前どこいんだよ………綺堂さんち?え、忍ちゃんも一緒?そりゃちょうどいい……あ?恭也もだぁ?あんにゃろう……よし、だったらそいつら全員連れて八神家来い。パーティすっから。住所はすずかの携帯から送らせ……はぁ?来れないじゃねーよ来るんだよ。……ああ、じゃいっその事その綺堂さんも呼んでいいから。……あー、これ以上ぐだぐだ言うならこの前仕事サボってゲーセン行った事俊さんにチクるから。んじゃ、1時間以内に来いよ~」
耳から離した受話器からキーキーと喧しいイレインの声が聞こえてくるが、俺は華麗にスルーして電話を切る。
イレインの奴も見た目はいいんだが性格がちょっとアレで、しかもなんか腕から刃生えるびっくり人間なのが玉に瑕なんだが、この際贅沢は言わん。呼べる美人は呼ぶ。
てか恭也の奴、相変わらず忍ちゃんとペアだな。可愛い彼女がいて妬ましい限りだ。あいつ、今晩は酔い潰してやる。
さてと、次は電話じゃなく専用の端末を取り出してっと………ああ、でも流石にこいつと話すのに人目は不味いな。トイレに移動してっと…………。
───────────三組目。
「ばんわんこ~、今日もマッドしてっか~?………いや、実はよ、今からちょっと宴会やんだけどジェイルも来ねえ?もちろん機械姉妹共連れてよぉ………ああ、そういや腕が千切れ飛ぶ程の大喧嘩したんだっけ?じゃあ動けそうな奴だけでいいから連れて来いよ…………今回は遠慮する?てめぇ、俺の誘いを断ろうたあいい度胸………………あれ?お~い、ジェイル~……………あれ、ドゥーエ?珍しいじゃん、お前が穴倉にいるなんて…………そうそう、パーティすんの。だから来ねえ?……よし、じゃあ場所は……は?これ発信機も付いてんの?んじゃいいか。待ってっからはよ来いよ~」
これでさらに女を確保!ドゥーエは確実に来るとして、他は誰か来るか知らねーがみんな可愛いし、華は多いほうがいいだろ。それにしてもジェイルの奴、最近より一層ギャグキャラ化してねーか?さっきも途中からトーレが画面の中にいて、ジェイルは遙か後方の壁に突き刺さってたし。
「まっ、とりあえずここいらにしとくか」
ともあれ、まあ呼ぶ奴らはこんなもんでいいだろう。ホントは俺んちの騎士とかテスタロッサ家族も呼びたい所だが、流石にこのメンツじゃ呼ぶ訳にもいかない。いくらバカな頭であれど、あいつらまで呼んじまうのは最高にダメだってのは分かってるつもりだ。
さて、あと残ってる懸念事項は会場だ。
最終的にどれだけの人数が集まるのかは不明だが、まず間違いなくこの八神家には収まりきらないだろう。だったらどうすればいい?近くの公園でやる?どこかの体育館か公民館でも借りる?
ノン!
そんな事しなくてももっと簡単で便利なモンが俺にはある!
(こういう時に魔法を使わなくて何時使う!)
俺はトイレから出てすぐにリビングに戻り、何の説明もせずにただ一言だけ言い放つ。
「シャマ~~ルッ、結界展開よろしくゥ!!」
「何でそうなるの!?」
何でも何も場所の確保だっつうの。あれ展開すりゃあさ、周り全部無人になるじゃん?それを利用して道路とか人の家の庭とか使うって寸法よ。
俺、あったま良い~。
「よっしゃ、テメぇら皆々様!人数マシマシで今日は最ッ高に盛り上がっていくぜ!」
「……隼さん、一体何人くらい来るん?」
「知らん。が、10人は下らんだろうなあ!!」
「……もう、好きなようにして」
はやての大きな大きな大きな溜息が部屋に響いたのだった。
どうだ─────"騒ぎ"ってのはな、こうやって起こすんだよ!!
さて、それじゃ次は────
「こんばんわ~」
おっと、早速誰か来たみたいだ。
ンじゃ、おっ始めるとしますかね。
最後の晩餐───開宴。
遅くなりまして申しわけありません。
次回は新規の宴編(番外編)……と考えてますが、我ながら更新速度が遅くて話が進まないのでもしかしたら飛ばしてストーリーを進めるかもしれません。