フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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人はしばしば、運命を避けようとした道で、その運命と出会う。



07

ん?

と、首を傾げる。ほどなくそれを直し、今度は左右をキョロキョロ。

 

扉が、ない?

 

そう、扉がないのだ。毎晩ご登場する、と言っても最近では過言にはなってなかったあの扉がないのだ。

 

まあ、ここ最近は毎晩だったが前まで週に2~3回とかだったしな。だから、不自然と言うほどの事でもない。……ないのだが。

なんか味気ないな。

どうも俺は思いのほかあのガキとの戯れを楽しんでたみたいだな。確かに可愛いガキだし、ここ半年は寝てる間だけとはいえサシでずっと一緒だったからなあ。

 

しゃあねえ、出直す……もとい寝直すか。

 

俺は目を閉じる。

 

明日からはもう師走である12月。……そういやあのガキ、クリスマスのプレゼントが欲しいとか何とか言ってやがったな。たぶん、フェイトやアリシアにも買ってやらなきゃならんだろうし……まっ、一考くらいはしといてやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

07

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうにかなると思ってた。どうにか出来ると思ってた。やろうと決めた事は絶対に出来て、最上の結果を叩き出せると思っていた。

 

実際に半年前の事件でも、テスタロッサ家の奴らを救ってやり、笑顔が戻り、俺の気に入る状態へと至った。それ以前の生活でも、俺は俺のやりたいようにやって、全てにおいてそうじゃないにせよ概ね良い結果を生んできた。

今までの積み重ねによる自信、そして何よりも俺の自分自身に対する自信があった。

自信過剰、自惚れ、驕りはあった。いや、あってこその俺。そんな自身に後悔はないし、これからも胸張ってこれが俺だと生き続けるだけだ。

どれだけ他者を巻き込もうとも、傷つけようとも、最後に俺さえ笑ってりゃいい。俺の成す過程や結果で、他者までもが幸せになるのは、それはそいつらの勝手だ。俺の与り知らぬ所だ。よかったね、くらいの気持ちだ。

 

俺は今回、はやての命を救ってやると決めた。あいつの未来を俺が作ってやると決めた。その行いを他人にどう思われようとも、俺がやると決めたならやる。その為なら家族だって敵に回したし、可愛いフェイトにだって拳握って殴れる。

だから前回思いついた案だって、他者を巻き込み、俺が得をするものだった。機械姉妹を使って俺の願望を叶え、かつ俺への被害を最小に抑える素晴らしい案。

我ながら天才的閃きだと思った。多少の穴はあろうとも、現状のブラックホール級の大穴から脱出するためには致し方ない。

ジェイルの奴も大丈夫だみたいに言ってたから、もうこの件の解決は時間の問題だと思ってた。

 

……………思ってたのに。

 

『すまない、隼君。君の頼み、聞けなくなった』

 

そんな通信が来たのは、まだジェイルに依頼を頼んで半日、俺の作った炒飯を皆で食べ終わった所でだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飯を食い終わり、一緒に遊ぼうというはやての駄々を一蹴し、俺は食後の一服として庭でタバコを吸っていた。空を見上げたり、庭を見渡したり、塀の上にいた猫をボゥと眺めたりして、昨晩の大喧嘩の騒がしさと今の緩やかな現実の対比を楽しんでいた。

 

そんな折にジェイルから通信が来たのだ。

 

「は?なに冗談ぶっこいてんだよ。いいから、さっさと助っ人寄越せ。もうトーレのやつでもいいから。それとドゥーエはもう俺んち行ったか?」

 

勿論、俺はジェイルの冗談だと思った。いつも何かと俺に冗談を言ってこちらの反応を楽しむこいつの事だ、今回も例に漏れずそうだと決め付けた。

だが通信機の向こう側にいるジェイルの顔は真剣で、そして何故か生傷だらけだった。

 

『それが今回は冗談ではないのだよ。クアットロの情報収集は滞りなく行ってるよ。でも残念な事に助っ人はそっちに送れないし、ドゥーエも君の家にやれない……いや、やる意味がなくなったと言った方が正しいかな?』

「お、おい、そりゃどういう事だよ?」

『それは……そうだね、情報収集の結果も併せて、ここはクアットロから説明させるよ』

 

そう言ってジェイルが画面アウトすると、代わって現れたのは眼鏡をかけた三つ編みの女性。ジェイルに負けず劣らずの性格ひん曲がり腹黒女クアットロ。

 

『こんちには、隼さん。ご機嫌いかがですか?』

 

丁寧で柔らかい言葉を使うクアットロは、一見すればあどけなくて可愛い女に見えるだろう。俺も最初の一週間くらいは、姉妹思いの優しい人だなと思ってた。

 

「おい、てめぇコラ、なにまた猫被ってんだよ。自分を装うなっつっただろうが、またブン殴られたいか。その三つ編み、引き千切るぞ」

『相変わらず隼さんは野蛮ですね』

 

言っておもむろにクアットロはかけていた眼鏡を取り、結わいていた髪を乱暴に振り解いた。そして現れたのは、釣り目で嫌味ったらしい笑みを貼り付けているクアットロだった。

 

『そぉんな事だからいつまでたっても童貞なんですよ。あー、やだやだ、惨めな男』

「いつもいっつも童貞言うんじゃねーよ!お前、そこ動くな!今すぐブチ殺しに行ってやる!」

『あっるぇ~?管理局の情報、欲しくないんですか~?かなり良いネタがあるんですけどねぇ?』

 

こ、殺してやる!絶対殺してやる!ヤって殺して鋳潰してリサイクルしてやる!

 

『その悔しそうな顔、ゾクゾクしちゃいますね。うふふ、これ以上虐めるのはあまりに可哀想だから、教えて差し上げますよ。せいぜい私を敬い、感謝し、媚び諂って下さいね~』

 

あー、ムカつくな~。ここまでストレートにムカつく女も珍しいな~…………いや、俺の周りには結構いるか。

 

『まずは局の情報から。今現在、その管理外世界に駐屯してるのはリンディ・ハラオウンという女性提督が率いる部隊ですね。次元空間に次元空間航行艦船・巡航L級8番艦【アースラ】を置き、そこには武装局員が一個中隊控えてます。ただ、この一個中隊は常駐部隊ではなく、ギル・グレアム提督という人物からの借り物ですね。昨晩の隼さんの大喧嘩で、アースラチームが要請したらしいですよ。それと、アースラ主要スタッフはどうやら地球に司令室を設け、そこに留まるようですね。これがその場所で、ついでにアースラスタッフやその関係者の個人情報も送ってあげるわ。あとはそうね────』

 

手元の端末に次々と送られてくる、絶対部外秘であろう情報の数々。それを嬉々として語るクアットロ。

正直、俺は侮ってた。情報なんてあってもなくても同じ、拳だけありゃあやっていけると思ってた。そもそも、クアットロがいくら情報戦に強かろうとも世界下権力である管理局を出し抜けるなんて思っていなかった。それほど期待してなかったんだよ。

だが実際はどうだ…………

 

『監視の目は主にその世界だけど、他の管理世界にも少なからず及んでるようです。シフトを見るに、朝から夕方にかけて別世界を巡回、夜はその世界を巡回してるみたい。今は………巡回じゃなく、モニター監視をしてますね~。はい、これがそのモニターの映像』

 

……………怖い。マジで引くくらい。

 

「あ、ああ、もういいクアットロ、分かった」

『あら、そうですか?まだまだ面白い情報あるんですけどねぇ』

「も、もう十分。いや~、すっげえなクアットロは。まさかたった半日でここまで調べるとは。う、うん、ホントすげえよ。めっちゃ頼りになるわ!お前が居てくれて助かったぜ!クアットロ、マジ大好き!」

『あっそ』

 

言いながら、ふわ~っと大きな欠伸をするクアットロ。寝不足か?そう言えば目の下にクマっぽいのもあるし、瞳も充血してんな。

 

「管理局の事は、まあもういいからよ、今度は別の事教えてくれ。助っ人却下の件とドゥーエの事を」

『ああ、その事』

 

クアットロは呆れたように溜息をつきながら、馬鹿馬鹿しそうに事の真相を喋り出した。

 

『隼さんが「なんでも言うこと聞いてやる」なんて涎物の報酬を提示したのが、そもそもの発端なんですよねぇ』

「は?」

『揉めたんですよ、誰があなたを助けに行くかで。最初はただの口論だったんですけどね、武力行使による取り合いがすぐ始まっちゃって。結果、全員仲良く共倒れ。魔力は使い果たしたし、腕とか脚も千切れ飛んでたから、その交換とかで向こう1ヶ月はまともに動けない感じ』

 

おいおいおいいいいいいいいいい!?!?

なんで!?なんでそんな必死こいてんの!?そこで頑張ってどうすんの!?なんで姉妹でスプラッタしてんの!?こっち来てその熱血を発揮しろよ!?半分機械ならもう少し冷静になれよ!どんだけ俺に願い事聞いて欲しいんだよ!てか、それならいっそ全員来いよ!そこまで欲しいもの独り占めしてーか!欲に塗れた愚物姉妹め!!

 

「じ、じゃあドゥーエが俺んちに行けない理由もそれなんか?」

『ああ、いえ、ドゥーエお姉さまは違いますよ』

 

そして、クアットロは愉快そうに唇を歪めながらこう言った。

 

『確かドゥーエお姉さまをあなたの家に行かせる理由は、あなたの家族と隣人の足止めに向かわせる為ですよね?…………実はですね、局の情報を調べてる時、今回の件の外部協力者の中にある名前があったんですよね~。ええと、その協力者の名前が局のリストに載ったのは、掲載時間から考えて昨晩の大喧嘩のすぐ後ですね』

 

昨晩の喧嘩か………あの場には俺たち八神一派の他に鈴木・テスタロッサ一派と管理局がいたよね?で、俺たちは無事管理局を振り切って逃げられたが、じゃあ残る鈴木・テストロッサ一派はどうだったんだろう?

 

………あ、なんだろう、とんでもなく嫌な予感がするな~。

 

「そ、その外部協力者の名前って一体なんなのかな~………」

『ふふふ、じゃ読み上げま~す。一人目………鈴木夜天───』

「ダウトォォォォオオオ!!!」

 

さ、さささささ最悪だ!最悪の事態だ!!

 

(うちの奴らと局が手ェ組みやがった!!!)

 

マジかよ、なんでだ!?叩けばホコリがたんまり出てくる身だろうが。半年前だってジュエルシードを巡って喧嘩を…………………ん?あれ?

 

(……考えて見りゃ半年前ン時って、そんなに重罪犯したっけ?)

 

フェイトは何度かなのはや局員とヤリ合ったと聞いたが、俺んトコはなんもしてねーよな。ジュエルシードも結局なのはを介して返したし。

夜天の写本の事も、別にそこまで後ろめたい事じゃない。管理局に隠れて生活してたのは関心しないだろうけど、それだって許されるんじゃないかってレベルだ。

罪かと言われたら罪だろうよ?けど、取り返しは十分につくだろう。…………例えば、管理局に協力、もしくは入局するとか。

 

(あいつら、強さとしたたかさと性格の悪さは一級品だからな)

 

今までの罪を償う為に、局へと協力or入局する。普通ならそう簡単には入局なんて出来ないだろうけど、フェイトがなのはとメル友だから、その繋がりでどうとでも信用は勝ち取れる。プレシアの性格を考えれば、局を手玉に取り、丸め込むのは容易いだろうよ。さらに、その局の情報を使って俺の居場所を探る。

局の方だって、強い魔導師が大量に手に入り、さらに闇の書の情報の参考になる写本の守護騎士は喉から手が出るほど欲しいだろう。この世界の警察では到底通らない要望も、人不足の実力主義と聞く管理局なら多少の融通は効くんだろう。それほどまでに、あいつらの魔導師としての実力は飛び抜けてるから。

 

(プレシアと夜天の奴、やってくれやがる!形振り構わず俺を探して殺し始めやがった!)

 

自分の身のホコリを落とし、かつ目的達成の為、あいつらは管理局を良い様に使いやがるつもりだ。

あいつらの良心部分を考えるなら、家族の将来の為にそろそろ地盤を固めたかったという考えもある。いつまでも日陰で暮らすより、安定した将来の為に管理局という環境もいいかも、と。

 

(真実はどうであれ、確固たる現実は『管理局と鈴木・テスタロッサ家は手を組んだ』、この一点だ)

 

こりゃどうしたもんか。

邪魔者が一箇所に固まったと喜べばいいのか、それともさらに厄介な事態になったと嘆けばいいのか。

ともあれ、一応はカオスと化していた現状が纏まったか。

 

八神家(+俺)vs管理局っていうシンプルなモンによ?

 

………タバコが苦ぇや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クアットロからの報告が終わり、通信を切ってから暫く経つが、俺は未だに庭でタバコをふかしていた。傍らに置いた灰皿代わりの普通の皿にある吸殻から計るに、大よそ俺は一時間この場にいるのだろう。

その間、俺が何をしていたのかというと、別にこれといって何もしていない。強いて言うならタバコを吸ってたくれぇだ。

最初は一人で考える為ここに居続けてたはずなんだけどさ…………気づいた、考えようにも何をどう考えろっての?

だってもう考えた所で無駄じゃね?俺の空前絶後の策も無駄に終わったんよ?あとはなるように任せるしかなくね?自分らで頑張ってカタつけるしかなくね?

 

(なんかないかね~、戦力アップな良案は)

 

考えても無駄だとは分かってるが、それでもチラつく現状の惨状に対する打開。

こちらの戦力アップとして大まかに上げられるのは要素は二つ。

 

数と質。

 

しかし、前者はすでに絶対に無理だ。管理局が出張ってきてるなら、その数は何十人規模。それに対抗するためだけの数を用意するなんてアテもツテもない。

 

ならば質は?

 

こちらも難しい。ウチのやつらとテスタロッサ家がいるんだ。正直、この質を上回るのは無理に等しい。テスタロッサ家だけならまだしも、シグナムたちはまずい。なにせ『数の暴力を意図も容易く蹂躙出来うる絶望的な質』なのだ。これレベルの奴なんてそうそういない。むしろいて欲しくない。

 

「今の状態でやるっきゃねーよなぁ。何とかあいつらに鉢合わせないよう慎重にせにゃな」

 

胡坐を掻き、頬杖を突きながらタバコの煙を吐き出すと一緒に溜息も一つ。タバコの吸い過ぎで頭痛と倦怠感が伴うも、それが逆に心地いい。

考えても詮無いし、久々にパチに行くかなぁと思いながらふと塀の方に目を向ければ、そこにはジェイルが通信してくる前からいた猫が変わらずにまだいた。いや、むしろ一匹増えて二匹になっていた。

毛色からして親子か兄弟だろうか?

 

「お前らは気楽そうでいいな。こちとら、今ならお前らの手でもいいから貸して欲しいくらだっつうのに」

 

俺は周りに人の目がないのを確認し、出来るだけ優しい声色で猫に『おいでおいで』した。

きっと、この場面を誰かに見られたら俺は殺人者になるだろう。見た奴は殺すって意味で。

リニスちゃんじゃあるまいし、まさか普通の猫が人語を解すわけもねーけど、その猫二匹は数度の呼びかけの後、ゆっくりとした足取りで俺の傍までやって来た。ただ、片方の猫は警戒心アリアリで、むしろ今すぐにでも飛び掛ってきそうなほど怒っているようだった。

 

「おいおい、何怒ってんだよ?ほら、よしよし………痛っ。噛むなよ、ボケ」

 

とは言うものの、俺の口調は穏やかだった。相手が理なら兎も角、ただの猫に噛まれたからってマジギレする俺じゃあない。そこまで馬鹿じゃあない。

てか、なんかすっげえ嫌われてねーか、俺?

 

叱っても一向に噛み付きを止めない猫にどうしたモンかと頭を悩ませたが、もう一匹の猫が噛んでいる猫を窘めるように鳴くと、それで漸く俺の手から口を離してくれた。

 

「はは、まあそう怒ってやるなよ。お前、俺に噛み付くなんていい度胸してるぜ?人間だったら間違いなく根性ある男になってんな」

 

そういうと、噛み付いてきた猫は何かを否定するように一度鳴いた。………猫の鳴き方にそんな鳴き方があるのかは知らんが、少なくとも今俺にはそう聞こえた。

 

「ンだよ、何が違うってんだ?あ、もしかしてお前メスか………つっても通じ────」

「にゃあ」

 

………………。

 

「──────メス?」

「にゃう」

 

…………人語が分かってる?い、いやいやまさか。いくら何でもそんなファンタジーな事…………。

 

「ちなみにお前はメス?それともオス?メスだったら二回鳴いてその場で左回り、オスだったら三回鳴いてその場で右回りして」

 

自分でも馬鹿な事してるなとは思ったが、興味本位でもう一匹の猫にそう言ってみた。

果たして………。

 

「にゃあ、にゃあ」

 

そして反時計回りで一回転。

 

「う、嘘…………」

 

マジで通じてる!?おお!

 

「お前らすげえじゃん!俺の言ってる事が分かんの!?」

「「にゃう」」

「頷いたあああああ!?!?」

 

返事をするように鳴き、コクリと頷く猫の姿ってのはちょっとだけ気持ち悪いモンがあったが、それ以上に驚いた。

 

「ほへ~。いやいや、世の中まだまだ面白ェことは一杯あんなぁ。でも、そうだよな、犬だってある程度人の言葉は分かるって言うし」

 

俺は二匹の猫の頭を撫で、咽や耳の裏や首回りを掻いてやった。それに対して気持ち良さそうに目を細める二匹。

猫の扱いはリニスちゃんですでにマスターしてるんだよ。

 

「よし、ちっとばかし待ってな。いいモン持って来てやっからよ」

 

俺は一度家の中に入り、タオルケットと魚肉ソーセージを持って戻った。はやて達が訝しんでいたが、庭には来るなと厳命しておいた。だって、一人で猫に癒されたかったし。それに猫を可愛がってる姿なんて見られたくねーし。

 

庭に戻れば、そこには変わらずそのままの姿勢で二匹がいた。

 

「おお、やっぱマジで俺の言葉分かんだな。ほれ、寒ぃからよ」

 

俺はタオルケットで二匹を包み、抱えあげて胡坐を掻いた脚の上に乗せた。片方は激しく抵抗したが、ンなモン知ったこっちゃないとばかりに無理やり乗せた。そして、俺が持ってきた魚肉ソーセージを千切って渡した。

 

別に俺は動物が取り分け好きという訳じゃあねぇ。けど、今のこの疲れて荒んだ心を潤すには少しでも癒しが欲しいんだよ。

それに猫という動物が俺は嫌いじゃない。何か『猫=自由、気まま』ってイメージあるからよ、そんな生き方してる奴は嫌いじゃないんだ。そういうの、憧れんだよな。例えそれが猫だとしても、俺にゃあそんな区別はねぇし。

 

「ホント、お前らが羨ましいぜ。なんも柵がなさそうでよ?それに引き換え俺なんて、もう何がなんだか………マジで泣きたくなるっつうの。分かる?」

「「にゃう?」」

 

はは、人語は分かっても、流石に心中までは察せねーか。まあそれが当然なんだけどな。

 

それでも、俺の口から出てくる愚痴は止まりそうにもなかった。

ここにいる人は俺だけで、聞いてくれるのは人語は解すが喋ることはない猫が二匹…………どうしても溜まってたモンが少なからず出ちまうってのが人情だろ?壁にでも話しかけてりゃいいんだろうけど、そりゃちっとばかし暗過ぎるってもんだ。

 

「別によ、俺は大きな事ァ望んだ心算はねーんだよ。ただガキを大人にさせてやりてぇだけなんだ………それがもう大人になってるモンの務めだろ?そして、今ガキを謳歌してるガキは笑ってなくちゃいけねぇ。可愛いガキは特によ?だってぇのにさ、俺の知ってるあるガキはそのどっちも出来ねぇ状態なんだよな。ンなの、俺ァ気に入らねーんだよ」

 

これは愚痴か………それとも弱音だろうか?

 

「分かるか?気に入らねー………つまり独善だ。一般的にゃあ独善ってのは良い言葉じゃねーけど、ソレを成せば俺の知ってる可愛いガキが笑えるなら、俺ァいくらでも独善を振りまいてやんのよ。そのせいで他に被害が及ぼうとも、ンなの知った事かっての」

 

まあ、仮に相手が知りもしない、可愛さの欠片もないガキだった場合は、一概にはそれに当て嵌まらないけどな。

 

「あいつは……はやてはもちっと幸せであるべきなんだよな。過去が幸せだったろうと、未来が幸せなんだろうと、今が幸せじゃなきゃ、ンなの馬鹿だろ。俺はイヤだね。だってよ、俺たちは、この今を、生きてんだから」

「「………………………」」

 

滔々と語っていて、はたと気づいたが…………これって結構痛くて恥ずくね?猫になに言っちゃってんの的な?誰もいないとは言え……いや、だからこそ生々しくて余計恥ずいな。酒も飲んでねぇ素面の状態で、ホント俺は一体なに言ってんだろうな。

 

「い、いや~、まあそんな事よりもだ、お前らは可愛いな~。うん、ホント可愛い」

 

急に恥ずかしくなってあからさまな話題転換をする俺。てか、猫相手にそもそも話題転換をする必要性があるのか疑問だが。

 

「俺んちの隣にもさ、猫が一匹(一人?)いるんだけどな、その子にも負けず劣らず……………いや、やっぱリニスちゃんの方が断然可愛いか」

 

俺がそういい終わるや否や、片方のあの噛み付き猫の方が包まっていたタオルケットを跳ね除け、その鋭い爪で俺の顔を引っ掻いて来やがった。さらにもう片方の方からも腿の内側を甘噛みされた。

 

「ぐおっ!目がっ、目があああああ!?」

 

何で怒るんだよ!?もしかしてリニスちゃんと比較したからか?そうだとしたら、人語を解する所か反応まで人間臭ェじゃねぇか。お前ら、ホントはリニスちゃんやアルフみたく使い魔なんじゃねーの?………………そういや、使い魔で思い出した。

 

「おー、イテ。そういや昨晩、お前らの毛色と同じ髪色した使い魔らしき奴にあったなぁ」

「!?」

 

俺のポツリと呟いた独白に、噛み付き引っ掻き猫の方がギクリと反応したように見えたのは気のせいか。

しかし、あの子は一体なんだったんだろう?

 

「今でもハッキリと思い出せるあの顔とあの感触…………ぐふふっ」

「フシャー!」

「ぬおあっ!?またしても目がああああああああ!?」

 

だからなんでさ!しかも全く同じ箇所をピンポイントに!

 

「イテェっつってんだろ、いい加減ぶっ殺すぞ!………ったく。あー、でもしかし、あの子可愛かったなぁ。髪の毛はロングの方が俺の好みだが、それを外してもあの顔は可愛かった。ハァ、あんな子を彼女にしてーもんだぜ。クソ、せめて名前だけでも聞いとくんだった!むしろ告白しとくんだった!」

「「……………」」

 

いや、無理だけど。告白とか無理だけど。てか、した事ねーし。だってほら、そのぅ……アレじゃん?……チキンじゃねーぞ?そう……俺は硬派だかんよ!……ホントだよ?

 

俺が胸中で誰ともなく言い訳していると、またも例の凶暴猫の方から攻撃された。ただ、今回は噛み付きでも引っ掻きでもなく、撫でるような猫パンチだった。残るもう一匹の方からは頬を舐められた。

そして、二匹は俺の上から飛び降り、塀の方へと向かって走っていった。

どうやらもう帰るようだ、そう思った時、ふいに二匹が止まり、俺に一瞥くれた後、地面に何かを書くような仕草で前足を動かし始めた。

 

(ん?なんだぁ?ウンコって訳でもなさそうだし………なにしてんだ?)

 

近寄ろうとしたら、その前にその何かは終わったのか、二匹は走って今度こそ塀の向こうへと消えていった。

 

一体全体なんなんだと思い、取りあえず俺は二匹が立ち止まっていた場所へと移動し、そこで俺の顔は驚愕の形を作った。

地面に文字が書かれていたのだ。

 

────────綺麗な字で『リーゼアリア』

────────汚い字で『リーゼロッテ』

 

「……………は?」

 

ちょ、ちょっと待て。これってまさかあの二匹が?う、うう嘘だろ?だって猫だぜ?いくら人語を解すからって、流石に字まで書けるか?しかも、ちゃんと読める字を………。

 

この文字が何を意味してるのかは分からん。が、取りあえず分かる事は…………

 

「こ、怖っ!?てか、気持ち悪!?」

 

流石の俺もここまでくるとドン引きだった。ファンタジーじゃなく、もう完璧ホラーの域だぞコレ。

俺は身震いを一度して、足早に家の中に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪猫との遭遇の後、俺は八神家を一人で出た。別にどこに向かうわけでもなく、ただぶらりと歩きたかっただけ。先ほどまで買い物に行くというはやてとシャマルと一緒に行動していたが、俺はパチンコに行くと言って途中で二人と別れた。買い物に付き合うなんて、面倒臭ぇし。まあだからと言ってパチンコにも今は行く気は起きないんだけどな。

 

(ホント、面倒臭ぇ………)

 

周りの迷惑も考えず歩道のど真ん中を我が物顔でのそのそと進む。白ジャージ姿に金髪も相まって、もうどこをどう見ても立派なチンピラだった。寒くないと言えば嘘になるが、生憎と服はコレしか持ち合わせがなかったので仕方無ぇ。

 

(そうだな、いい機会だし服でも買いに行くか)

 

まだしばらくは八神家に世話ンなるだろうからな。ついでにシグナムとシャマルにもお土産買って、好感度アップでも図るとするかね。

そうと決まれば話は早い、もうちっとばかし大人しめの服を買って──────────

 

「………ん?」

 

ふと道路の向こう側に大きな看板を掲げているある一つのお店を見つけた。

俺はその店を知っていた。俺の家族の一人のバイト先でもある店。俺自身も何度もと言えるレベルで来た事がある店。

喫茶翠屋が、そこにはあった。

 

「あれ、いつの間にかこんなとこまで来てたのか」

 

遠目から見ても繁盛しているのが分かり、冬だというのに外のテラスもほぼ満席状態。ためしに近寄って店内も眺めて見ると、ちらほらと空きはあるものの満員と言っていい入りだ。

 

「………シャマルもなのはも居ねぇみてーだな」

 

なんでそんな確認するのかって?入るからさ。

もうビビッててもしゃあねーかんな。管理局やうちの奴らが居ないかくらいの安全確認はするが、後は知ったこっちゃねーし。

はやてや騎士共だって今も変わらず外出てんだし、大丈夫だろ。案ずるより生むが易し、てよ?

 

つう訳で、俺は早速翠屋へと入店した。カウンターには店主である士郎さんと桃子さんがいた。

まずは士郎さんが俺に気づき柔らかい笑みを浮かべ、桃子さんの方が鈴を鳴らしたような声で「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。

 

「お久しぶりッス、士郎さん、桃子さん。ご無沙汰してます」

「ああ、やっぱり隼君か!久しぶりだね。また随分と髪型が変わってたから、一瞬気配を読み違えたかと思ったよ」

「本当ね、誰かと思ったわ」

 

ですよね~。前会ったのって結構前だし。

てか士郎さん、さり気無くすごい事言ってない?まあこの人に関しては、年不相応の見た目含めて何でもありだから気にしねぇけど。それにしても「気配」って……やっぱすげ。

 

「今日はどうしたの隼くん?シャマルさんは休みだけど」

 

柔らかい笑みを浮かべながら首を傾げる桃子さん。相変わらず綺麗だな。なんつうか、大人の色気と子供のあどけなさが同居してるような人だ。一言で言えば超美人!

こんな人を奥さんに出来る士郎さんが羨ましい。やっぱ顔か?顔なんか?………いや、士郎さんは顔を含めた全部が良い、いわゆるイケメンだからな。美男美女、イケメンアゲマン夫婦だな。

 

……ちくしょう。

 

「いえ、今日はぶらっと散歩してただけっす。近くまで来たんで、久々なんて顔見せとこうと。ついでにお店の売り上げにも貢献させていただきますよ」

「うふふ、ありがとう」

 

そういってあどけなくも上品に笑う桃子さん。

マジ、女神だな。こんな人を射止めるとか、士郎さん尊敬するわ。恭也はイケメンだし美由希ちゃんも可愛いし、なのはも桃子さん似だから将来絶対美人になるだろうし、なんだこの勝ち組家族は。一体前世でどれだけの徳を積んだらこんな人生送れるんだ?

 

(……俺も今のうちに徳積どくか?)

 

そんなしもしない事を思いながら、俺はサンドウィッチとパフェとコーヒーを頼んだ後、ザラを一つ貰うと空いていた喫煙席へ向かう。

 

今日は適当な時間までここで時間潰すか。喫煙スペースは客もそれほどいないので、回転率を気にしないでも大丈夫だろうし。美由希ちゃんか忍ちゃんがウレイトレスしてたら話し相手でもしてもらうんだが、生憎と今日は入ってないみたいだ。まあ考え事するには丁度いい。

 

(つっても、何をどう考えるかも分からねぇんだけどな)

 

うちとお隣さんが局に加入した件は、全員まとめて始末すりゃあいい。俺に立ってるデッドフラグは依然としておっ起ったまま、むしろ補強工事された感じで、考えてどうこうなる事じゃない。はやての命は、俺が助けてやると決めた時点でもう助かってるようなもんなので、そこはもう考えん。乱入してきたあの猫娘は何なのかという疑問はあるが、情報皆無なあれこそ考えるだけ無駄。

だとすると、後残ってるのは騎士共だが、あいつらの何を考えろっての?あいつらははやての救命の為にただ愚直に魔力蒐集するだけで、そこに一考も挟む余地は無い。

 

(結局出たとこ勝負かよ。まっ、そっちの方が面白ェからいいけどさ。同時に恐怖もばっちしあるのが笑えねーけど)

 

あ、でも2つだけ気になる事があんだよな。

一つはあれだよ、夜天……オリジナルの夜天の存在だ。

あいつさ、何で居ねぇわけ?あの夜叉がいりゃあかなりの戦力になると思うんだけどなぁ。何で出てないんだろ?確かあいつって騎士だけじゃなく、管制人格って役割も担ってるんだったよな………管制ってどういう意味だっけ?管理と制御か?

 

(ちっ、分からん。あの引き篭もり娘め、さっさと出てこいよな)

 

そしてもう一つの気がかり。それは……いや、まあこっちはどうも判断がつかん。今回の件に関係しているのか、それとも無関係なのか。

無関係なら無関係でいいんだが、それだと少々腑に落ちない部分がある。

 

(いや、無関係だろうとアレの現状はちょっと……気に入らねえな)

 

そうやって一人考え事しながら過ごす事どれくらい経ったろう。取りあえず頼んでいた物は全部食って、食後のタバコをぷかぷかと味わっていたそんな時、ふとレジの方を見ると、そこには我が目を疑う光景があった。

 

「そんなわけで、これからしばらくご近所になります。よろしくお願いします」

「私の方はここから少し離れてますが、お宅のなのはちゃんと家の次女が友達のようで、何かとお世話になると思います」

「ああ、いえいえ。こちらこそ」

「どうぞ、翠屋をご贔屓に」

 

その口上から考えて引越しの挨拶だろうか、二人の女性が士郎さんと桃子さんに頭を下げていたのだ。

 

片方の女性は見た目20代半ばか後半くらいで、肩にショールをかけた何とも綺麗な女性だった。桃子さんに引けを取らないその美貌は、見てる方を和ませるような落ち着きが覗える。

二人目の女性もこれまた涎物の美人だった。歳は見た目俺くらいで綺麗系な顔立ちをしており、しかしどこか大人びた風な装いをしている。

 

普段の俺ならそんな美女が二人並んでいれば、生唾を飲み込みながら思う存分視姦してるだろうけど、生憎と今の俺は脇汗垂れ流し状態だ。そして出来る限り身を伏せ、席と席の間にある仕切りで己の身を隠している。冷や汗が止まらない。

 

(んな、な、な………っ!?)

 

なんで……なんで……なんでッ!

 

(なんでプレシアの奴がここにいんだああああああああ!?!?)

 

ちょいちょいちょおおおい!?どういう事だよ!?マジなんでいるんだよ!?まさかのニアミスって奴ですか!?

 

「なのはの友達のお母さんでしたか。そう言えば前々からメールで遠くにいる友達とやり取りしてたみたいでしたが、もしかしてそれがそちらのお子さんですかね?」

「ええ、多分それはフェイトの事だと思います。なのはちゃんと同い年です」

「そうですか。それでそのフェイトちゃん、学校はどちらに?」

「はい、実は────────」

 

胸中で焦りながら、しかし出て行くわけにもいかず、亀のように首を縮めて聞き耳を立てていた俺。そんな俺の耳に、来店を知らせるドアベルが鳴る音が聞こえたかと思うと、そっちからまたもよく知った声が聞こえてきた。

 

「あの、母さん、リンディさん」

「あら、丁度いいわ。皆、こっちに来て自己紹介なさい」

 

店のドアの方に目を向ければそこにはフェイトがおり、その後ろにはなのはとすずかとアリサの仲良し3人組、それに抱えられてる子犬フォームのアルフとフェレットフォームのユーノの二匹。さらに極め付けが………

 

(理とライトの奴も居やがってるじゃあーりませんかあああああ!?!?)

 

どうしてそうなってるの!?

俺の混乱と焦りを余所に、向こうさんは何とも団欒とした雰囲気を醸し出している。

 

「えっと、フェイト・テスタロッサです」

「鈴木理です」

「ライト!ライトニング・テスタロッサ!いや、ライトニング・鈴木?どっちでもいっか!ライトって呼んでくれたら大丈夫だ!」

 

高町夫妻に自己紹介する3人。そんな3人を見て、特に理を見て、高町夫妻は驚きの声を上げた。

 

「「な、なのはにそっくり……」」

「そうですか?まぁ世の中には似た顔の人間が3人はいるという事ですから不思議はないでしょう。それに、私の方がなのはよりも可愛いですから」

「ボクもフェイトそっくりだけど、ボクの方が100万兆億倍強いんだぞー!」

 

なのはの両親を前に、そ知らぬ顔でいけしゃあしゃあとのたまう理は流石だ。お前はホントに厚かましいよな。

そしてライト、お前はホントにアホだな。和むわ。

 

「……ねぇ、フェイトちゃん。断章の子って最初からこんな感じなの?」

「……ええっと、むしろ理の方は普段はもっと凄いよ?5割増しくらいで」

「……にゃはは」

 

理とライトの後ろでこっそりと溜息を吐くフェイトとなのは。

うんうん、その気持ちはよく分かる。俺も何度溜息を吐き、ストレス性の胃痛を感じた事か。てか、なのはの奴、理とライトがどういう存在かもう知ってんのな。

ガキはホント仲良くなるの早いよな。

 

「あの、それで母さん、これは……」

 

そう言ってフェイトはおずおずと前に出た。見れば手には白い箱を持っており、それについて何か困惑しているようだ。また、理とライトの手にも同じ形の箱がある。

 

「何なんですか、これは?」

「プレゼントか?あれ、でもボクの誕生日って今日じゃないぞ?それにボクは服なんかより玩具が欲しい!」

 

3人の持っていた箱の中身、取り出した物は服だった。それも3者とも全く同じ服。遠目からなので詳しい装飾までは分からんが、俺の記憶が正しければ聖祥の制服に近いような?

 

「転校手続き取っといたから。フェイトさんも理さんもライトさんも、週明けからなのはさんのクラスメイトね」

(転校だあ?!)

 

プレシアの隣にいる女性がニコリとそんな爆弾発言をかました。

 

「あら、素敵!」

「聖祥小学校ですか、あそこは良い学校ですよ。な?なのは」

「うん!」

「良かったわね、フェイトちゃん、理ちゃん、ライトちゃん」

 

ま、マジっすか……あいつら、小学校に通うんかよ。そりゃ確かに前々から学校に通わせてやりてぇとは思ってたがよぉ、手続きとか諸々の事情で断念してたんが………プレシアの奴、早速管理局を使いやがったな。

クアットロからの情報通りなら、まだ入局は昨日の今日だってのに何とも手際と手回しの良い奴だ。ホント、あいつはガキに甘くなったよな。

という事はだ、やっぱりと言うか何と言うか、あのプレシアの隣にいる女性は管理局員なんだろうな。それも、結構偉い奴と見た。でなけりゃ、いくらプレシアの手回しが良いとは言え、入局したてでそう易々と外に出れるわけねーし、融通も効かないだろうよ。

 

「あの、えと………ありがとう、ございます」

「学校は面倒臭そうですが、まあ今回は素直に礼を言っておきましょう」

「ガッコーか~、面白そうだな!…………ところでガッコーってなに?強いの?」

 

────それからプレシア達はさらに少しばかり雑談した後、俺に気づく事なく翠屋から出て行った。もしかしたら高町夫妻が俺の事を喋るかもと懸念していたが、それも杞憂に終わったので一安心。

 

ちなみに、その雑談なんだが以下のような会話が繰り広げられていた。

 

「リンディ、無理させて悪かったわね」

「気にしないで、プレシア。これも子供たちの為ですもの」

「そう言って貰えると助かるわ。貴女の様な人がいるなら、やっぱり局も捨てたもんじゃないわね」

「ふふ、ありがと」

 

……………プレシア、それにリンディとかいう局員、お前ら一晩で一体何があった?何でもうそんな仲良さげなんだよ?

美女二人が和気藹々とする光景は自然と顔がニヤけちまうが、その連帯感のせいで被る俺の先々の被害を思うと泣けてくる。

 

「それにしても、理ってなのはとそっくりよね。髪伸ばしたらまんま一緒じゃない?」

「あなたの目は節穴ですか、アリサ。全く一緒じゃありませんよ。私はなのは程ガキではありません。なにせ恋のこの字も知らぬなのはと違い、私は鈴木隼にLOVE注入中なのですから」

「にゃ!?こ、理ちゃんってハヤさんの事が好きなの!?」

「あ?『ハヤさん』?親しそうに渾名呼びとは…………なのは、ちょっと表出ましょうか。大丈夫、一撃で済ませますから」

「なにを!?」

 

理となのはとアリサもまた仲良しそうだなぁ。てか、まさか理となのはが肩並べて談笑する光景が拝めるとはな。理の奴、なのはの事嫌ってたのに、中々どうして楽しそうじゃんよ。

 

「フェイトちゃんもライトちゃんも学校行った事ないんだ。じゃあ、学校でしか出来ない楽しい事いっぱいしようね!」

「うん!よろしくね、すずか」

「よろしく頼む、すずか!それにしてもこの制服っていうの、可愛いね~。よし、ちょっと着てみよ!」

「ラ、ライトちゃん、ここで着替えちゃ駄目だよ!?きゃあ、スカート脱いじゃダメー!?」

 

フェイトもライトも早速新しいダチが出来たみたいだった。うんうん、やっぱダチってのは大切なんだよな。ただ、すずかよ、早速ライトが迷惑掛けてて本当にすまん。そして、これから先もきっとすまん。

 

(なんか、こう見ると悩むのが馬鹿らしくなってきたな…………)

 

俺は必死になって考えて悩んで頑張ってんのに、こいつらは余裕ぶっこいてんだもんなぁ。なんか俺一人が必死こいて頑張ってんのに、それが空回りしてるみてぇで空しい。

アレかね、結局はなるようになうし、なるようにしかならんって感じなんかね?

だったらもう、本当に出たとこ勝負で行くか。その場その場で臨機応変に対処ってのが、もしかしたら一番正しいんかもな。

 

「帰ろう………」

 

士郎さんと奥さんに一言挨拶した後、お土産のシュークリームを片手に帰路についた。

 

……………。

 

……………ん?

 

「って、待て待て待て。なぜにすずかとアリサもあの場にいた?管理局とウチの奴らと一緒に?」

 

……………戦力差、また開いたっぽい。

 

 




前書きの格言は某ドラマから。

ところで来月公開の劇場版、アミタがバイク乗ってますね。同じバイク乗りとしてはちょっと嬉しい。モデルがVmax1700だったらもっとよかった。

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